2009年(10話現在)
→明日香(年長)、香澄(小1)、光夜(小6)
2018年(原作開始)
長かった夏休みも終盤に差し掛かり、2学期が始まるまであと1日。つまり、夏休み最終日だ。今年の夏はたくさんの思い出ができたと思う。特にキャンプで見た天の川の星々は一生忘れることがない。香澄に倣うと『星の鼓動】かな。
残念ながら俺には香澄の言う『星の鼓動』は聞こえなかった。『星の鼓動』は香澄にとって特別な何か──『キラキラドキドキ』なのだろう。それは俺だけではなく、明日香も聞こえなかったそうだ。
香澄が明日香に『星の鼓動』を聞いたのかどうか聞いた時、
「あっちゃん、きこえた?ほしのこどう?」
「しんぞーのおとならきこえたよ?」
「ふっ」
「あっ!おにいちゃん、いまわらったでしょ!」
明日香の心臓の音なら聞こえたよ?は笑ってしまった。
香澄が『星の鼓動』一一一キラキラドキドキに出会う日はそう遠くはない未来にやって来る。香澄と明日香、2人には焦らずゆっくりと成長していって欲しいというのが俺の願いだ。
兄として、2人に負けないようにいろいろと俺も頑張らなければな。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「キラキラドキドキしたい!」
「おねえちゃん、うるさい」
今日も今日とて香澄がキラキラドキドキしたいと叫ぶ。キャンプに行ってから、日時茶飯事となりつつある香澄の「キラキラドキドキしたい」発言。1日に最低2回は言ってる気がする。そんな香澄に嫌気が差した明日香がうるさいと言うのがお決まりとなっている。
「うーん、どうしようかしら?」
香澄の有り余る元気を見て、母さんは首を傾げる。そこで俺はある提案をした。
「カラオケはどう?香澄と明日香はまだカラオケに行ったことないだろうし、カラオケなら大声出しても大丈夫だから」
「……光夜、ナイスアイデア!香澄、明日香!」
「「ほぇ?」」
「出掛けるわよ、準備して」
「「はーい」」
何かをすると決めた戸山家は行動が早い。香澄と明日香に目的地を告げないまま数十分後、俺たちはカラオケの店の前にいた。
「ここどこ?」
「ママ、ここどこ?」
どこに行くか知らされずに来たのだ。香澄と明日香の反応は当然と言えよう。
「とりあえず、中に入るわよ」
「「はーい」」
母さんは俺を一瞥すると、右目を瞬かせてウインクをした。一見、息子にウインクする母(おばさん)にしか見えないのだが、これには意味がある。たぶん、香澄と明日香にカラオケについて説明よろしくということなのだろう。
それと母さんのウインクがちょっと気持ち悪いと思ったことは言わないでおこう。言ったら俺がどうなるかなんて、火を見るよりも明らかである。父さんという前例がある以上、何も言わない方がいい。母さんにO・HA・NA・SHIされるのは父さんだけで十分なのだ。
「わ〜あ、すごい!」
「……すごい」
個室に入ると香澄と明日香は、初めて見るカラオケルームに驚嘆の声を漏らした。俺からするとこのカラオケルーム・設備に違和感しかないのだが、あと10年もすれば俺がよく知るカラオケとなっているだろう。
「これがカラオケだよ」
「「からおけ?」」
カラオケとは伴奏だけを録音したもので、その伴奏に合わせて歌うことだ。「空(から)」と「オーケストラ」の略であり、元々はバンドマンの俗語だった。「空オケで練習しよう」などの歌手抜きの意味で使われていた。これらを香澄、明日香に説明してもまだ分からないだろうから簡潔に説明する。
「好きな曲を選んで好きに歌える場所だよ」
「うたっていいの!?」
「ああ」
「あすかもうたう」
「一緒に歌おっか」
「うん」
充電器に繋がっているカラオケリモコンとマイクを取り、マイクに被せてある除菌消臭済袋を取った。
「おにいちゃん、マイクかして!」
「あっ」
つい香澄にマイクを渡してしまった。何か嫌な予感がするぞ。香澄は大きく胸を広げて息を吸うと次の瞬間、
「わっ!」
と叫んだ。
俺はとっさに耳を塞いだが時すでに遅し、香澄の叫び声はマイクを通して大音量となって俺の耳へと届く。当然、俺だけでなく明日香と母さんの耳にも届いた。
「おねえちゃん、うるさい」
「マイク音量大きいわね」
明日香はまたかと呆れた様子でうるさいと言い、母さんに関してはほとんどスルーだ。2人とも耳塞いでない……マジか?我が家の香澄の反応は最初こそ驚いたりするが、次からは「またか」みたいなスルーに近い反応になる。
「なんでおにいちゃん、みみふさいでるの?」
俺がおかしいの?え?
毎回毎回、俺だけビクッと反応するのがおかしいみたいじゃん。慣れって怖いね、俺は慣れないけど。ちょっと明日香と母さんが怖くなってきたよ。
「なんでもないよ」
「そっか」
「そういえば、光夜はカラオケに父さんと何回ぐらい行ったの?」
なんでもないわけあるか!と思っていると、母さんが質問してきた。
「んー、初めて行ったのが香澄と同じ小1の時で、それから結構行ったけど覚えてないや」
「じゃあ、アバウトでいいからどれくらい?」
小1から小3の時はよくカラオケに行った覚えがある。香澄と明日香が今より幼かった頃、父さんに連れて行ってもらった。自分からカラオケに行きたいと言ったことはなく、気づけば父さんと出掛ける行き先はカラオケとなっていた。父さんと出掛けるのは、香澄と明日香が寝てる時か母さんが香澄たちから目が離せない時だった。小学5年生に進級してから、父さんと出掛けることは家族旅行以外では滅多になくなった。
「30回ぐらい?」
「結構行ってるわね」
まあ、今では出掛けるとなると常に香澄と明日香がいるからね。ゲームで例えるならその装備は外せません的な?いや、お兄ちゃん的には超嬉しいんだけどね。7~8年後ぐらいに香澄と明日香が「お兄ちゃん、臭い」とか「近寄らないで」って言われたら立ち直れない自信がある。そもそも、お兄ちゃんって呼んでくれるのか?
……うん、よし。このことは考えるのは止めよう。想像しただけで気分がブルーになる。先のことはなるようになるし、なるようにしかならない。できれば、後者は勘弁してほしいけど。
「とりあえず、私のことはいいから。3人で歌って」
ミュージック音量、マイク音量、エコーを調節して、カラオケリモコンを操作する。
「「なにこれ?」」
「うん?これでね、歌う曲を選ぶんだよ」
「すごーい!かすみもさわる!」
「……ほぇ」
「それで何歌う?」
「きらきらぼし!」
う ん 、 知 っ て た 。
香澄は予想通り、明日香は一一一
「明日香は何歌う?」
「……もりのくまさん」
あら、かわいいこと。さて、歌いますか。
〜1時間後〜
「……」
「……あきた」
「え〜、もっときらきらぼしうたおーよ!」
飽きたと呟いたのは明日香で、俺も明日香に同意見だ。まさか1時間近くもきらきら星を歌うとは思わないじゃないか?途中に何曲か明日香の選曲した「森のくまさん」「かえるのがっしょう」や「おもちゃのチャチャチャ」以外は全て「きらきら星」だ。当の本人は飽きるどころかますます歌いたいと盛り上がってる。俺が家でピアノの練習をしているときらきら星弾いてと言うし、きらきら星以外歌ってるのをあまり見たことがない。
なのに、当の本人は飽きるどころかますますきらきら星を歌いたいのだと言う。
香澄・・・おそろしい子!
さすがに時間もなくなってきたので変えることにする。
「おにいちゃん、なにうたうの?」
「……きらきら星よ」
そう、きらきら星はきらきら星の中でも世界中で愛唱されている「Twinkle, twinkle, little star」だ。
「Twinkle, twinkle, little star〜♪How I wonder what you are〜♪」
歌い終わると、
「すごいすごいすごい!おにいちゃん、すごい!」
「……うん、おにいちゃん、すごい」
「へぇ、光夜、歌上手じゃない。英語の発音、私全然分からなかったわ」
「ありがと」
やっぱり褒められると嬉しいものだ。他の曲も何か歌おうとすると、部屋に設置してある電話が鳴った。母さんが電話を取り、返事をする。どうやら、終わりのようだ。
「それじゃ、帰りましょうか。また今度来ましょう」
「えー、かすみもっとうたいたい!」
「おにいちゃんのうた、もっとききたかった」
香澄は歌い足りないらしく、不満の声をあげる。明日香は俺の歌を聞きたいと言ってくれた。歌うより聞く方が好きなのかな?
「香澄、お兄ちゃんが帰ったらピアノできらきら星弾いてあげる」
「わーい、かえってもうたうー」
「おにいちゃんもうたって」
「はいよ」
2時間という短い時間だったが、香澄と明日香の初めてのカラオケは夏の思い出の1つとなった。
下の話でどれが好き? ※参考にさせていただきます。
-
明日香の本音(6話)
-
はじめてのおつかい(7話)
-
始まりのキラキラドキドキ(8話)
-
戸山家の海水浴(9話)
-
はじめてのカラオケ(10話)