戸山家長男?   作:0やK

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Sports Day

 

 

 夏休みが終わり、新学期が始まった9月の第3週の土曜日。秋になったとはいえ、まだまだ暑い日々が続いている。9月半ばを過ぎても終わらない残暑は、一向に秋の気配を感じさせない。

 しかし、今日は太陽が分厚い雲に隠れている。それに加えて涼しい。朝の天気予報では、今日一日中くもりと予報されていたので絶好の運動会日和となるはずだ。

 

 

 運動会日和?そう、今日は運動会だ。

 

 

 俺にとっては小学校最後の運動会(2回目)であり香澄にとっては小学校最初の運動会となる。まあ、1回目の運動会なんて記憶の彼方に消え去って全く覚えていないがな。

 

「光夜?」

「……はぁ」

「おい、俺の顔見てため息をつくなよ」

 

 別にタケチーの顔を見てため息をついたわけではない。

 

「違うから。いいよな、お気楽そうで」

「まあ、お前は応援団長様だもんな!」

 

 語尾に草を生やしていそうな勢いで言うタケチー。

 

「人事のように言いやがって」

「だって、関係ないし?」

 

 これから俺の予定は入場行進で色長が持つ旗を持って行進。応援合戦で青組の応援団長。他は各競技種目だ。途中、応援合戦とは別に色長としての仕事が幾つかある。

 

 俺の役割多くない?

 

 と思ったが赤組の応援団長の方が大変そうだ。

 

「ま、赤組の応援団長よりマシだ」

「確かに」

 

 入場行進に選手宣誓、応援団長兼体育委員長なのだから。同じ人が兼任してはいけないルールはないため、赤組の応援団長や俺みたいに兼任させられるのだ。俺の場合は去年、応援団長の代わりを務めたことが決め手となり、押し付けられたのだろう。

 

 ふぇぇ、数の暴力には勝てなかったよ...

 

 もし、仮に俺が休んだら副団長である5年生にその務めが降りかかるのだ。今年はそんなアホなことは起きないが去年、そんなアホなことが起きたのが俺です笑

 

 役割が多いと香澄の所へ行ったり、応援できないじゃないか。何の役もないやつが羨ましいぜ。本音を言うと、応援団長なんて目立つし、面倒でやりたくはなかった。

 けどさ、香澄と明日香に「今年もやるの?」と目をキラキラと輝かせて言われてはやるしかないでしょ!

 だって、兄としては香澄と明日香にかっこいいところ見せたいじゃない?

 

 何事も打算で動くのは当たり前や!

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

  1組のカラーである青ハチマキをし、教室から椅子を持って校庭に移動する。椅子を置くことでクラスの場所を確保し、少しでも疲労を抑えることだ。また、学年帽は被らずに各色のハチマキだけでは場所が分からなくなるからである。各クラスの場所の陣取りでもある。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

「おう」

「光夜、ファイト!」

 

 タケチーとクラスメイトたちに声をかけて俺は入場式の準備をしに行く。

 

 

「ふぅ、疲れたぜ。主に精神的に」

「おつかれさん」

「おつかれー」

「戸山くん、おつかれ」

 

 無事、運動会の入場が終わり、各競技種目に入っていく。旗など片付けをした後、6年1組の場所へ戻るとクラスメイトたちから(ねぎら)いの言葉をかけられる。

 

「徒競走の時間までどうするんだ?」

「ん、応援しに行く」

 

 クラスの競技が開始するのは9時10分開始の徒競走だ。1年生から6年生という順に進行し、学年によって走る距離が違う。順番は1学期に測定した50m走をもとに組まれており、なるべく公平にされている。

 

「んじゃ、俺は妹の応援行くんで」

「りょーかい」

「出た、光夜の妹バカ」

 

 妹バカもといシスコンですが何か?別に何も問題ないよね!

 

 学校の中央昇降口を正面から見て右側、東門付近が徒競走のスタート地点だ。既に1年生は徒競走の走順に並んでおり、香澄たち1年生は開始を待つのみだ。3組のカラー、赤色のハチマキをつけているはずの香澄を探すと、6レーンあるうちの1レーン目、校庭側にいたからすんなりと見つけることができた。俺が近づくと香澄はすぐ俺に気づき、緊張していたのか強ばっていた顔が破顔した。

 

「あ、おにいちゃん!」

「おう、お兄ちゃんだぞ」

「おにいちゃん、どーしたの?」

「ん?香澄の応援に来たんだよ」

「ほんと!かすみ、がんばる!」

「緊張してたでしょ?」

「し、してない!かすみ、きんちょーなんてしてないもん!」

「ほんとかなぁ?」

 

 香澄のあまりにも可愛い動揺姿にニヤっと頬が緩む。香澄が動揺している時は全部嘘だ。香澄は正直者ですぐ顔に出るから嘘はバレる。何よりお兄ちゃんに隠せると思うことなかれ。

 

「ほんとはちょ、ちょっとしてた」

「そっか、でも大丈夫だよ」

「だいじょーぶ?」

「そうだね。香澄は今、キラキラドキドキしてる?」

「キラキラしないけどドキドキしてる」

「うん、ドキドキはしてるね」

「ッ!?」

 

 ハッとなった香澄は目を大きく開いた。

 

「ほんとだ!」

「ドキドキはしているから後はキラキラするだけだね」

「うん!かすみ、キラキラする!」

「ん、頑張ってキラキラしておいで。そろそろ始まるみたいだから、お兄ちゃんは行くね。」

「おにいちゃん、見ててね!」

「うん、見てるよ」

 

 香澄にとってキラキラドキドキは特別だ。星見の丘から始まった香澄のキラキラドキドキするもの探し。キラキラやドキドキするものには片っ端から興味を示した。特に星に関しては強く興味を持つようになって、星型の物を見つけようものならキラキラを追求しようとそれ以外に目が行かなくなって暴走するのだ。

 今回はキラキラドキドキを利用して香澄の緊張を少しでもほぐそうとしたのだが、よくよく考えると不安しかねぇわ。

 

 大丈夫だよね?暴走しないよな?

 

 

どうにでもなれー(現実逃避)

 

 

 俺はそこで深く考えるのを止めた。

 

 香澄の頭にポンッと軽く手を置いた後、俺は明日香たちを見つけるべく、東門をあとにした。

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 探すこと5分。保護者と生徒の人混みの中を移動していると俺の腰に誰かが抱き着いてきた。

 

「おにいちゃん!」

「うおっ!?」

 

 明日香だった。

 

「いきなりでびっくりしたよ、この人混みの中でよく分かったね」

「えへへ」

「母さんたちは?」

「いなくなった」

「……え?」

「ママだとおもってね、だきついたらねママじゃなかったの」

 

 小さい頃によくある話だな。母だと思って声を掛けたり、抱きついたら全然違う人だった……というのは。後ろ姿が似てる人は多いから間違えるのも無理はない。

 

「それじゃあ、お兄ちゃんのことも間違えることが……」

「あすか、おにいちゃんはまちがえないもん!」

 

 嬉しいことを言ってくれるじゃないの。

 

「嬉しいねぇ。ってあと少しで香澄の番だから母さんたちを探さないと」

「おねえちゃん、おうえんするー!」

「そうだね、だから早く探さないとね」

 

 はぐれないように明日香の手を取り、母さんたちを探し始めようとしたその時……。

 

「あ、光夜!」

「よかった、明日香もいる。はぐれてどうしようかと思ってたわ」

 

 母さんと父さんが俺たちを見つけ、小走りでこちらに駆け寄ってきた。

 

「母さんたち、タイミングいいね。今から丁度2人を探しに行くところだったよ。」

「ほんと?よかったわ。明日香がお兄ちゃんのとこ行くと言って、手を離した途端に人混みの中に消えていったものだから大変だったわよ」

「こら、明日香ダメじゃないか。母さんたちを心配させたら」

「えへへ、だっておにいちゃんにあいたかったんだもん!」

「ほんとにこの()ったら、姉妹揃って変なところで似てるわね」

「まあまあ、光夜といたから。良しとしよう」

「母さんたち、今はそれより香澄の徒競走だよ!もう1年生の徒競走が始まってて香澄の順番が前の方でもうすぐなんだ」

「あら、それは大変ね。応援しに行きましょうか」

 

 

 

 ☆

 

 

『赤組速い。速いです。黄組、頑張って下さい』

 

 小学生が放送の実況をしているため、実況内容は基本的に同じだ。これが中学や高校になると面白おかしく実況する人がいたりして、盛り上がる。小学校でそれを求めるのは酷な話だ。

 

「あ、香澄は次みたいだぞ」

 

 香澄を応援できる場所、レーンのである学校の中央昇降口付近に俺たちはいる。気づけば香澄の番だ。

 

『いちについてーよーーーい……どんっ!』

 

 ついにレースがスタートした。香澄はスタートダッシュが遅れてしまい順位は4位となった。前に3人、後ろに2人。色にすると青、黄、黄、赤、青、赤だ。香澄は出だしは遅れてしまったがスタートして数秒後には2人抜かし、2位に順位を上げた。いいぞ、そのまま1位だ!

 

「香澄、がんばれー!

「香澄、ファイトー!」

「おねぇーちゃん!」

 

 

 香澄が中央昇降口付近を通った所で応援する、父さん、母さん、明日香。香澄は2位をキープしているが、1位の人をなかなか抜けずにいた。きっと今の香澄は心の中で焦りが生じているだろう。

 

 だから、俺は……

 

 

 「香澄っ!!」

 

 

 香澄に声が届くよう叫んだ。

 

 すると、どうだろうか。なかなか1位の人と距離を詰められずにいた香澄が、次の瞬間………

 

 1位に躍り出た。

 

 そのスピードは遅くなることなく、ばびゅーんと加速して行き……ゴールした。一等賞である。それも2位と距離の差をつけて。

 

 

「……ゑ?」

「「「……………」」」

 

 

 香澄が1位になると信じてはいたものの、後半のあまりの速さに俺は驚きが隠せず、変な声が出る。母さんたちの視線は俺に集中している。

 

「うそーん」

 

 俺の心情はこれに尽きる。香澄、速すぎいぃぃぃ。何アレ、え?めちゃばびゅーんしてたやん!もしかしなくても、キラキラドキドキしてる?って言ったせい?

 

「光夜……」

「光夜、おまえ……」

 

 やめて!そんな目で見ないで!

 

「おにいちゃん……」

 

 明日香までも……。

 

 「あすかがしょーがくせいになったら、おねえちゃんとおなじのやって!

「……ゑ?」

 

 本日2度目のゑが出たよ。

 

「だ〜か〜ら!あすかにもしてね!やくそくだよ?」

「アッハイ」

 

 応援(名前呼び)を所望する明日香。そういや先ほどから周りの視線が俺に向いてる気がする。少し視線が痛い。絶対に叫んだせいだよなぁ。

 

「お、俺、香澄のところに行ってくる」

「あすかもいく!」

 

 俺は明日香を連れて、逃げるように香澄の方へ向かったのだった。

 

 順位を示す等賞旗付近に着くと、そこに香澄はいなかった。あれ?どこだ?

 

 その時だった。

 

おにいちゃん!

「ごふっ!?」

 

 突然、お腹に衝撃が走り、体勢が崩れそうになる。

 

「おっと、いきなりは勘弁してくれ」

「えへへ〜、ごめんなさぁい〜」

 

 悪びれた様子もなくニコッと笑って謝る香澄。その笑顔はいつもながら眩しいが、今日は一段と眩しかった。

 

「いちいーになったよ!いちいー!ほめてほめて!」

「ん、頑張ったな」

「えへへ〜」

 

 褒めるだけではなく、香澄の頭に手を置いて撫でることも忘れない。

 

「……むぅ」

 

 これを面白くない様子で見つめているのは明日香だ。ムッとして眉をひそめた後、何かを訴えかけているように俺へ視線を飛ばす。だから当然、明日香も撫でる。

 

「ふにゃあ〜」

 

 お兄ちゃんスキル全開である。

 

 お兄ちゃんスキルとは、年下の子に発揮できるスキルだ。今現在、そのスキルは2つある。1つ目はスマイル、2つ目は頭を撫でる、ナデナデ。この2つは必須スキルではなろだろうか?今はまだ2つしかないが、今後増えていく予定?だ。

 

 ……って何説明してんだ俺、恥ずかしいわボケ!

 

「さて、父さんと母さんがいるところに行こう。2人とも待ってるよ」

「「うん!」

 

 香澄と明日香を連れて、父さんたちと合流する。

 

「香澄、1位なんて凄いじゃない!」

「父さんたち、ちゃんと見てたぞ〜」

「ほんと!」

 

「特に光夜が大声で香澄!って叫んでからがすごかったわよ」

「ああ、あっという間に1位になって後ろの人と距離をつけてのゴールだもんな」

「だって、おにいちゃんのこえがきこえたんだもん!」

 

 俺が応援すれば、ばびゅーんするの?そ、そうですか。

 

 明日香が俺の体操着の袖をちょんちょんと引いた。

 

「……ん?」

「あすかにもおねえちゃんとおなじことしてね」

「アッハイ」

 

  2度目の念押しをされた。言われずとも応援するぜ。まあ、なんだかんだでこれから毎年やることになりそうだけど……。

 

「来年は明日香も入学式するから楽しみね」

 

 そうだね、楽しみ。でも、一緒に学校通えないのは本当に残念だ。

 

「光夜の学年が走ったあとに1年生の種目ね」

 

 母さんは運動会プログラムに目を落とした。1年生の学年種目は玉入れだ。ただの玉入れではなく、踊りありの玉入れだ。

 

「ああ、毎年思うけど懐かしいよ」

「光夜、キレッキレッに踊っていたものね」

「え?おにいちゃんのときの?」

「そうよー、光夜ったらキレッキレッに踊っててすごく目立っていたのよ」

「そうだな、見てて微笑ましかっぞ。確か動画に撮っててまだあるはずだ」

「「みたい!」

 

 や、止めてくれ下さい!俺からしたらちょっとした黒歴史だ。

 

「ふふ、今度見せてあげるわ」

「お、俺なんかの見ても何も面白くないよ?」

「「みる!」」

 

 ……もう好きにしてくれ(白目)

 

 ただ、俺の前で見るのだけは止めてね!精神的ダメージがすんごいから。既に精神的ダメージが来てるよ、ハハハ。

 

「ハハハッ!光夜のは毎年、1年生の頃から父さんがしっかりと撮ってるぞ。香澄と明日香のもちゃんと撮るから安心してくれ」

 

 ……オーマイガー!

 

「「みる!」」

 

 やめてっ!お兄ちゃんのライフはもう0よ!

 

「……はぁ」

「ため息なんてついちゃって。まぁ、自分の過去を見るのはちょっと抵抗があるわよね」

「ちょっとどころじゃないわ!」

「お兄ちゃん大好き姉妹だから諦めなさい」

「香澄と明日香が俺のことを大好きなのは嬉しい。でもさ、諦める原因作ったのは映像見せてあげるって言ったのは母さんだよね?」

「な、なんのことかしら?」

 

 おい、視線が泳いでるぞ。俺はジト目で母さんを見る。白々しいにも程があるぜ。もう少し動揺を隠そうぜ、母さん……。

 

「ま、いいや」

 

 反抗するだけ無駄だな。俺自身が過去の自分を見るなら絶対に嫌だけど、俺の知らないところで見られる分には構わない。

 

「あら、意外と諦めが早いわね」

「俺も香澄と明日香の見るから問題ない!」

「……ダメだこりゃ、6年生の徒競走までまだまだ時間あるわね」

「ま、最後だしな。俺としては自分が走るよりその次、1年生の学年種目、玉入れが見どころですわ」

「あんたはまず、徒競走で走ることに集中しなさいよ」

 

 まずは自分の種目に集中しろ?いやいや、香澄の出る種目に集中するべきでしょ!当然だろ?

 

「俺のなんてどうでもいいでしょ」

「香澄と明日香があんたの活躍みたいに決まってるじゃん!もちろん、私も含めて家族全員がね」

「よっしゃぁぁぁぁぁ!」

「わっかりやす……」

 

 そういえばそうだった。俺が応援団長やるのも香澄と明日香にかっこいいところを見て欲しいからだった!いやー、香澄の1等の徒競走見て、あとは玉入れ応援したら、完全に満足するところでしたね。危ない、危ない。何のために応援団長になったんだよって話だよな。

 

「おにいちゃんはいつ走るの?」

「うーん、まだまだ先かな」

「はやく、はやく!」

 

 香澄がいつ走るのという質問に答えると明日香は早くしろと言う。早くするのは無理があるよ、明日香。

 

「次が2年生、2、3、4、5年生の順で6年生の徒競走は最後だから」

「「え~~」」

 

 そこ、文句言わない!

 

 そんなこんなで話をしているらうちに6年生の番になった。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

「おにいちゃん、がんばって〜」

「ふぁいと〜♪」

 

 その後、徒競走で俺は1等を取ることができた。香澄と明日香に応援された俺に敵はないぜ。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 1年生から6年生までの徒競走が終わり、時刻は10時半すぎ。次のプログラムは1年生の玉入れだ。そのタイトルの名は『チェッコリ玉入れ』である。

 

 たぶん、このチェッコリ玉入れは多くの人が知ってると思う。簡単に説明すると、ただカゴに向かって玉を入れるのではなくて、玉を入れる途中にダンスを取り入れた玉入れだ。

 

 チェッコリは『チェッチェッコリ』というアフリカのガーナ民謡にある子どもの遊び歌で、ある程度多い人数で輪を作り、中心に立つ人の後に続いてこだまのように歌う。そのアフリカの民謡はとある世界大会がきっかけで日本に知られるようになり、日本のCMで使われ全国的に知られた後、玉入れに『チェッコリ玉入れ』として始めたところ、急速に広がり浸透して行ったらしい。

 

 リズムがいいし、歌詞も覚えやすいくてノリノリになれるから急速に広がっていくのも納得だ。つい、口ずさんでしまう。香澄はチェッチェッコリがよほど気に入ったのか、カラオケでよく歌うようになった。当然、きらきら星を歌うことも忘れない。そこへ香澄を通じてチェッチェッコリを知った明日香まで歌い出すときた。これで来年はばっちりだね。

 

『………1年生のチェッコリ玉入れです』

 

 

 おっと、始まる。放送がされ、1年生が次々と入場して行く。玉入れのカゴを中心に引かれた円の外に各色並ぶ。

 

 

   チェッ   チェッ   コリ〜♪

 

 

 チェッチェッコリが流れ始め、それと同時に1年生が踊り出す。香澄が腰に手を当てフリフリ。あぁ〜可愛いんじゃぁ〜〜〜!

 

 

「……痛ったァァァァ!?」

「………」

 

 太ももに強い痛みを感じ、声が出てしまう。痛みがした原因は………あ、明日香さん!?

 

 ……明日香だった。

 

 明日香が俺の太ももを思いっきりつねっている。

 

「あ、明日香?」

「………」

「あのー、そろそろ太ももをつねるの止めて下さらない?」

「……したのばしてた」

「……え?」

「おにいちゃん、はなのしたのばしてた!」

「……誰に?」

「おねえちゃんに!」

「………」

「おねえちゃんに!」

 

 2回言われてしまった。

 

「鼻の下を伸ばしてたって?」

「うん」

「………」

「………」

 

 妹相手に鼻の下を伸ばしてたって?ハハハ、そんなまさか!……はい、嘘です。めちゃくちゃデレデレして鼻の下を伸ばしまくってました。あとお兄ちゃん、鼻の下を伸ばすって言葉を明日香が知ってて驚きだよ。こうやって妹たちはお兄ちゃんの知らないところで成長してるのね。

 

「えっと、ごめんなさい?」

 

 とりあえず、疑問形になっちゃったけど謝った。

 

「ゆるしてほしい?」

 

どうやら明日香は『おこだよ』みたいだ。

 

「うん、許して欲しいなぁ」

「じゃあ、こんどあすかのゆーことなんでもきいて」

「な、なんでも?」

「……うん」

 

 うーん、別に約束しなくてもなんでも言うことを聞いてる気がする。自分でも香澄と明日香にダダ甘な自覚はある。まぁ、ダダ甘なのはこれからも変わることはないだろう。

 

「わかった、いいよ」

「……んふぅ」

「あれ?おーい、明日香?」

 

 明日香は破顔させる。呼びかけても既に意識はここにはなく、どこかへトリップしてしまったようだ。もう俺に何をしてもらうか考えてるのか?

 

『……次は3年生による……』

 

 ……っておいーー!もう1年生のチェッコリ玉入れ終わっとるやないか!!半分くらいしか見てないよ!あぁ〜、香澄のプリティーでキュートなチェッコリダンスがぁぁぁぁ〜。

 

 

「父さん、帰ったら見して」

「ん?おお、明日香と話はついたのか」

 

 俺と明日香のやり取りを横で見ていた父さんにあとで見してもらうように頼む。香澄のチェッコリ玉入れをしっかり撮っているはずだ。

 

「香澄のチェッコリ玉入れ、ちゃんと撮れた?」

「おう、撮れたぞ」

「よし!」

 

 思わずガッツポーズしてしまったぜ。

 

「……って母さん」

 

 先ほどから母さんが静かだなと思えば……。

 

「何かしら?」

「………撮ってんじゃねーよ!?」

 

 カメラを俺に向けていた……つまり、今の今まで俺を撮っていたということ。ってことは……?

 

「ふふふ、カメラにばっちり明日香と光夜のやり取りを収めたわよ」

「オゥマィガァ〜!」

「これを香澄に見せたらどうなるのかしらね?」

「……っ!?」

 

 止めてくれ下さい。俺が死んでしまいます。

 

「な〜んて、冗談よ。香澄には見せないわ。だから、安心しなさい」

 

 安心できるかぁ!

 

「ホントに見せないから安心しなさい……今は……ね」

「ねぇ、最後なんか気になること言ったよね?ねぇ?」

「気のせいよ」

「絶対ウソだ!」

 

おにいちゃん!

「ごふっ!?」

 

 本日、2度目の衝撃がお腹に走る。

 

「いきなりは勘弁して欲しいなぁ〜」

「えへへ〜、ごめんなさい〜」

 

 母さんとああだこうだと言い合っているうちに香澄が帰ってきた。相変わらず悪びれた様子もなくニヘヘと笑う。まったく……。

 

 その後、色長などの役割を果たしつつ、戸山家にちょくちょく顔を出しているうちに午前中は終了した。

 

 昼が終わり、戸山家全員で昼食を取った。そして、午後ついに始まる。始まってしまう。

 

「……はぁぁぁ〜〜〜」

 

 大きなため息を吐く。

 

「どーした、少年」

「いや、お前も少年だろ」

「バレちゃあ、仕方がない」

「ええ………」

 

 タケチーが俺に声をかけてきた。タケチーと話しているとコイツ本当に小学6年生か?って思うことが度々ある。斯く言う俺も人のことは言えないけどな。

 

「頑張ってくれよ、我らが応援団長様」

「おう!」

 

 応援団長が着る法被を着て、ハチマキをギュッと結び直し、入場場所へ向かう。

 

 

『午後、最初のプログラムは各組による応援合戦です』

 

 

アナウンスで青組、黄組、赤組が入場し、各組の位置に着く。

 

 

『最初は青組です。青組お願いします』

 

 

 

 さて、頑張りますかね。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 無事に運動会が終わり、家に帰宅した。応援団長やリレー、組体操等々、午後は競技種目がたくさんあってどっと疲れたよ。

 

「「おにいちゃん、おかえり〜」」

 

 帰宅すると先に香澄と明日香が家に帰っていた。当然、後片付けをする高学年は1~4年生より後に帰宅するのだ。だいたい1時間半ぐらいの差だろうか。

 

「おう、光夜おかえり」

「おかえりなさい〜」

 

 父さんと母さんも出迎えてくれた。俺は何も言わず、そのままリビングのソファに頭からダイブした。

 

「あ''ぁ''〜、づがれ''だ〜」

 

ソファに頭をうずくめて、うつ伏せになる。うつ伏せのせいか疲れから来ているせいか声音が少々汚い。

 

「「おにいちゃん!」」

「……おえっ?!」

 

  2人が俺の背とお尻あたりにのしかかって変な声が出た。そうだ、香澄と明日香を放置したままだった。

 

「あはは、おにいちゃん、へんなの〜」

「……だいじょーぶ、おにいちゃん?」

 

 心配してくれるのは本当にお前だけだよ、明日香。でも、大丈夫って言うぐらいなら香澄と一緒に乗るのやめよーね?

 

「だいじょばない……」

「ほら、香澄と明日香!光夜から降りなさい」

「「はーい!」」

「おう、2人ともこっち来て今日の光夜の活躍見ないか?」

「「みる〜〜」」

 

 あ、ダメだ。自分が思っている以上に身体が疲労している。

 

「「おにいちゃんは?」

「----なさい」

 

 意識が遠くなって行く。すごく眠い……。

 

 その後、俺は眠ってしまい、数時間後に香澄と明日香によるヒップドロップで起こされたのだった。

下の話でどれが好き? ※参考にさせていただきます。

  • 明日香の本音(6話)
  • はじめてのおつかい(7話)
  • 始まりのキラキラドキドキ(8話)
  • 戸山家の海水浴(9話)
  • はじめてのカラオケ(10話)

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