戸山家長男?   作:0やK

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確かなもの

 

 

俺たちはSPACEに入り、どうしたらいいか分からず入口付近でワタワタしていた。

 

 

「そこのあんたたち、ライブハウスは初めてかい?」

 

 

 親切な人が教えに来てくれたのかと思ったら……白髪の主張が強い白黒混じったグレイヘアの女性。

 

 まさかのいきなりご本人(オーナー)登場である。

 

 

 言い方が失礼だけど、自分が知ってるオーナー(原作)より少し若いな。ちょいと黒髪混ざっている。

 

「はい、初めてです」

 

 そう答えると、オーナーはフッと軽く微笑んだ。

 

 思っていたより優しそうだ。原作で香澄たちとのやり取りを見ていると厳しいように感じられた。

 

 しかし、その厳しさは音楽バンドに対してだと思う。音楽を愛するが故に厳しく、女性にも活躍の場を広げて欲しい思い故に厳しい。

 

 

 それほどまでに厳しいのだ。

 

 

 生半可な覚悟でオーディション(彼女)に臨むようものなら「ステージから降りな」と言わんばかりに即失格にされるだろう。彼女の目を誤魔化すことはできない。

 

 後々、そのことで香澄たちPoppin' Partyが関わるのだが、そう遠くない未来のうちにそれは訪れることになるだろう。

 

 

「高校生かい?」

「はい」

 

 まあ、俺も勇次も制服着てて明らかに中学生には見えない顔つきだもんな。同学年の友達よりは大人びているはずだ。

 

「そっちのあんたはさっきから落ち着かないね」

 

 入ってからオドオドしたり、キョロキョロして完全に挙動不審な勇次。ホント、お願いだから落ち着いてくれ、俺まで注目されるでしょ。ただでさえ男がいなくて俺たち、注目されてんだから。

 

 周りを軽く見たところ男が数人しかおらず、女性だらけだ。

 

「ねぇ、オーナーと話してる男の2人。めっちゃカッコよくない?」

「ん〜、どれどれ············ってめっさイケメンじゃん」

「そこでめっさ使うな!」

「私は爽やか系のイケメンくんの方かな?」

「私はなんかオドオドしてるけど大きいのに守ってあげたくなる方のイケメンくんかな?」

「あの2人、デキてるのかな?」

 

 

 デキてねぇよ。最後の人だけおかしいだろ!

 

 

 中学生になってからこういった男を品定めするようにジロジロと見て、ヒソヒソとされることが多くなった。正直、あまり気持ちいいものではない。女性が男から舐め回すように見られたり、胸に視線が行くのを嫌がる気持ちがよーく分かった。

 

 俺たちを見て、オープン的に会話するのある意味スゴイわ。声のボリューム落とそうね。

 

「彼、女性と会話するのが苦手ですから」

 

 若い女性限定ではあるが……。

 

「そうかい、高校生は600円だよ」

 

 受付で代金を払い、チケットを受け取る。

 

「なあ、光夜。バンド組んだらどうだ?歌上手いし、キーボードできるんだろ?軽音楽部入ろうぜ。俺も軽音部に入部するし」

 

 ちょっ!?オーナーの前で音楽関係、特にバンドとかの話はあかんって。

 

「へぇ、あんたピアノ弾くのかい?手を見せてみな」

 

 ほら、目つけられたじゃん。今一瞬、オーナーの目がギラッとしたぞ!?

 

「別に取って食いはしないよ。だから、そうビビるんじゃないよ」

「は、はい」

 

 恐る恐る両手をオーナーの前に出すと……。

 

「……いい手だ」

「へ?」

 

 触ることはなかったが俺の手を見てオーナーはそう呟いた。

 

「オーナー!そろそろ……」

「ああ、じゃあ」

 

 スタッフに声を掛けられ、詳しいことは何も言わずに去って行く。

 

「おい、光夜?行くぞ」

「………ああ」

 

 ライブ前に勇次からペンライトを渡された。ライブには必須だもんな。ちゃっかり持ってきてて俺の分まであるとは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 

 初めて見るSPACEのライブは何というか……凄かった。

 

 ステージに立つガールズバンドの皆、一人一人が生き生きとしていた。バンドの演奏の技術、完成度は違えど思いは同じ。身体(からだ)全体に音と共にその思いがひしひしと伝わってきた。

 

 

 一番感じたのは演奏(バンド)を……楽しんでいた(やりきっていた)こと。

 

 

 

 演奏を聞いてその時、俺は思ったんだ。

 

 

 

 俺もステージに立って歌いたい(やりきりたい)と。

 

 

 

 その後、俺は改めて考えさせられることになった。

 

 

 

 

 

 自分の将来(未来)について……。

 

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 

 SPACEでライブを見てからここ数日のことはあまり覚えていない。ずっと自分の将来について考えていた。ただ、母さんに異常なほど何回も「大丈夫?」と言われた事と明日香が常に近くにいたのは覚えている。香澄は近くにいたようないなかったような……どうだったかな?

 

 

 思えば、前世では夢や目標などなく、平々凡々と生きていた。

 それが今世ではどうだろう?過去に香澄と明日香、妹たちのために頑張ろうと決めたのはいい。では、自分は?自分のこれから将来はどうしたい?分からない。考えれば考えるほど未来という不安が俺の中で渦巻く。

 

 俺はそんな不安を抱えながら、SPACEに足繁く通っていた。気づけば5月下旬、高校最初の文化祭が近づいていた。

 

 

 ある日、オーナーは俺に話しかけてきた。

 

 

「あんた、最近よく来るね?」

「ええ、まあ……ちょっと悩んでて……」

 

 オーナーに悩んでいることをポロッと漏らしてしまったが、丁度いいのかもしれない。

 

「なんだい、あんた悩んでたのかい?」

「演奏を聴けば何か変わるかもしれないって……」

「ふっ、ずっと悩んでたって何も変わりやしないよ」

「…………」

「…………やりきったかい?」

「………っ!?」

ここ(SPACE)で演奏する人たちはみな、やりきってる。あんたはどうだい?」

 

 その言葉は俺の胸に響き、忘れてかけていたことを思い出す。はははっ、そうだ!そうだよ!悩むまでもなかったじゃんか!

 

「ま、次に来る時はもっとマシな顔をして来な」

 

 オーナーは背を向けると、軽く右手を挙げ去って行った。

 

「……なんだよ、こんなに悩んでたのが馬鹿馬鹿しいじゃないか」

 

 俺は独りごちる。もう悩む必要はない、迷わず前へ行くだけだ。

 

「そう決まれば、あとは………」

 

 

 次の日

 

 

俺に歌わせてくれ!」

「お、おう」

「戸山、どした?」

「誘ってくれた文化祭でバンドやる話、俺も入れて欲しい」

 

 頭を下げると……

 

「「うぉぉぉぉぉぉ!マジで!?」」

「ああ、マジだ」

「「うぉぉぉぉぉぉ!?」」

 

 

 教室に男2人の声が響き、みんなが何事?と視線が俺たちに集中した。

 

 

「どしたの?」

「めちゃ叫んでどうしたよ?」

「騒がしいぞ」

 

 クラスメイトが各々の反応をする中で、特に反応を示したのが勇次だ。

 

「え、ちょ、まままてよ」

「落ち着つくのはお前だ」

「戸山、なんでだよ!?歌うなら軽音部入ろうぜ」

「だって、人数多いし……、仮入部の時に雰囲気が合わなかった」

 一応、軽音部には仮入部したが、そこの雰囲気がなんか嫌だった。今思えば、あまりやる気のない人が多くて嫌だったんだと思う。

 

「すまんな、許せ」

「……………」

 

 

 あ、死んでる。

 

 

「塚山のことは放っておいて。これでメンバーは揃った!文化祭まであと3週間、放課後にあと2人を呼んで練習とかいろいろ話し合おう!」

 

 

 それからとんとん拍子で事は進んでいった。なぜ文化祭でバンドをするかという話をすると、後夜祭に出ようとバンドメンバーを探していたらしい。ボーカル以外のメンバーは見つかったが、既に生徒会に申請して後夜祭に出ることが決まった4人は焦る。

 

 そこで、どこからか俺の歌が上手いと話を聞き、勧誘されたのが昨日だ。昨日、まだ悩んでいた俺は断ってしまった。絶対、話の出処は勇次だと思う。

 

 ちなみにうちの後夜祭は半分くらいはバンドによる演奏らしい、もはやライブである。

 

 

 

 放課後、他の2人と顔合わせをし、これからの事を話し合い、3週間に渡る猛練習が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 

 

 そして、やって来る後夜祭。2日間に渡る文化祭が終わり、2日目の最終日、後夜祭。一般の人たちが帰ってから後夜祭は始まる。文化祭には1日目には父さんと母さん、香澄と明日香がうちの高校に来た。うちのクラスは外で屋台をやっていて、香澄と明日香が来た時は揶揄われたな。

 

 

「準備はいいか?」

「「「「おう!」」」」

「じゃあ、行くぞ」

 

 

 

 ギター兼リーダーの宮内に続き、俺たちは体育館ステージへと上がる。

 

 

「…………」

 

 

 

 ステージに上がると目の前には人、人、人、人、人、人。体育館は大勢の人で埋めつくされている。

 

 

 

 

 ヤバい、あまりの人の多さに緊張して体がこわばってきた。

 

 

 

 

 自分がボーカル、バンドの要ということも相まって、さらに体がこわばる。

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 

 すると、宮内が俺の肩をポンっと叩き、他のみなもコクリと頷ずいた。緊張する気持ちはみな同じということだ。

 

 

「落ち着け、戸山だけじゃない。俺たちがいる」

 

 

 それを聞いて、俺は落ち着きを取り戻す。そうだ、俺はひとりじゃない。

 

 

 演奏(バンド)はひとりではできない。ピースがハマるようにひとりひとりの音が重なって初めて音が出る。

 

 

 

 紹介を終わらせ、演奏に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

『聴いて下さい曲は……心絵』

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の形は人それぞれ、想い描いていた未来の夢は叶えられるのだろうか。

 

 

 

 今の自分を見ると違うかもしれない。

 

 

 

 

 だけど、夢に破れたわけではない。

 

 

 

 

  1年、春夏秋冬を通して色々な経験、成長をして考え方、夢も変わっていくんだ。

 

 

 

 何かを得たこともあっただろう。失ったものもあっただろう。気づけば1年なんてあっという間だ。

 

 

 

 

 いつも成功ばかりじゃない、挫折や失敗もたくさん繰り返す。

 

 

 

 

 走っているとどうしても迷ってしまうけど、声と心と共に夢を描いている今を刻んで、大きな心絵にしていけ!

 

 

 

 

 

 

我がゆくえ 迷いながらも 描きかけの今 刻む証 この手で

 

 

 

 

 

 観客は既に熱狂包まれており、ペンライトやサイリウムを持っている人がノリノリに振っている。最初は疎らだったのに、多くの人が振ってくれている。

 

 

 そして、最後の曲を演奏し、俺たちの後夜祭ライブは終わった。

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 後夜祭ライブから数日。俺は未だ、ライブの余韻に浸っている。忘れることなんてできない、忘れない。俺は、俺たちは多くの生徒や先生がいる中で、歌った(やりきった)んだ。決してひとりではできない演奏(ライブ)を。

 

 文化祭の振り替え休日、久しぶりにSPACEに行ったらオーナーと出くわした。

 

「いい顔になったじゃないか」

 

 開口一番にそう言われた。

 

「あの、ありがとうございました」

「あたしは何もしてないよ。それしてもあんた、もの好きだねぇ。男子高校生でここによく足を運ぶなんて」

「SPACEの演奏は勉強(タメ)になりますから」

「……そうかい」

 

 そのままオーナーはスタッフオンリーと書かれた部屋に入って行った。態々、言いに来たのだろうか?

 

 実際、SPACEで演奏する人たちはレベルが高い。近場で安い、音の感性を養うという意味ではうってつけだ。生演奏ほど臨場感のある演奏はない。

 

 

 

 

 さて、俺の中にもう迷いはない。これからのことは決めた。




タグにある(カバー曲)のとおり現実世界にある曲はすべて既出、カバーという扱いです。
光夜以外の4人は楽器経験者、後夜祭までに3週間、練習した設定です。

原作直前又は開始後に光夜と関わりのあるキャラの回想を入れる?

  • 入れて下さいお願いしますなんでもし(ry
  • 入れて
  • あったりめぇだ
  • 作者が決めて
  • いらない

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