2年後
明日香が幼稚園に入園して、1ヶ月経った。俺は現在小学3年生だ月は春の麗らかなる4月から初夏を感じさせる5月へ。毎週、日曜日になると母さんは香澄を連れて出かける。1年前に香澄が幼稚園に入園してから、家族全員で出掛ける時を除くと毎週である。香澄が毎週出掛ける理由は、容易に想像できよう。
それは香澄がはっちゃけるのだ。
俺の頭に引っついたり、足に引っついたり、抱っこしてもらおうと突進してきたり……っておい、俺ばっかりかよ!「おにいちゃん!おにいちゃん!」と何回も呼んでくる可愛い妹を拒めるか?俺は拒めなかった。
でもさ、腑に落ちないことが1つあるんだ。
何回か近くの公園や少し離れた公園に一緒に行ったんだが、香澄が毎回木登りしていた。最初、木に登ってるのを見て驚いたわ。流石に俺でも登らない。母さんに止めなくていいのか?と聞いた時は
「なんで止める必要があるの?大丈夫よ」
と、まるで俺がおかしな質問をしたかのような顔をされた。え?俺がおかしいの?
そう思わずにはいられなかった。転生前である前世の現代2010年代後半においては木登りなど言語道断!学校だったら怒られる又は注意されるのが一般的、木には登るものでないという事が現代社会で常識となった。昭和の時代なら登っても怒られないし男なら登るもんだと父親(前世)から聞いた。
最初こそ驚いたが、次からは当たり前の光景になっていた。改めて慣れって怖いことを知った。最近になって思うのが香澄が木登りしてるのは俺に引っ付くためなのではないか?ということ。うん、嘘と思いたいよ。
だけど、帰って風呂と夜ご飯を済ますと突っ込んでくるのだ。俺の足からよじ登って、「おにいちゃん!」と言いながら。もちろん、最後は頭だよ?当たり前だよなぁ。昔より頻度は減ったけど嬉しいような悲しいような。香澄も7月で5歳になるし、女の子とはいえ当然、体重が増える。このまま頭に引っ付かれたら俺の首が死ぬ。だから、誘導して肩車してる。幸い、肩車が気に入ったのか肩車をせがまれることが多い。頭の引っ付きとグッバイする日もそう遠くないだろう。
ここ数週間の日曜日は、家で明日香の面倒を見ている。香澄とは違い、大人しい。賢妹のオーラを感じるぜ。明日香はたまに頭に引っ付くけど、1カ月に何回かあるぐらいだ。頭に引っ付くより、明日香は抱っこと頭を撫でられる方が好きらしい。俺たちの見守り役である父さんは、いつも書類とにらめっこしてた。ファイト!
そして、今週は俺も付いて来いとのことだ。おねむな明日香は父さんに任せて、付いて行くことにした。昼下がりには家より少し離れた公園に着き、公園に入ると、だいだい色の髪をした活発そうな子がこちらに駆け寄って来た。
「あっ!かすみちゃん」
「はーちゃん!」
え?はーちゃん?ということは北沢はぐみだよね。記憶にある彼女の幼少期の姿と一致する。俺は今現在、目の前にいる幼いはぐみに驚きを隠せないでいた。
「あれ?かすみちゃん、そっちのにいちゃんだれ?」
「うん、わたしのおにいちゃん!」
「へぇ、はぐみもね、にいちゃんがいるよ」
北沢はぐみ
ハロハピのベース担当だ。実家は精肉屋を営んでおり、自分の店のコロッケが大好物ないつも明るい子だと記憶している。実は香澄とはぐみは幼馴染で、高校入学して同じクラスなのにお互いしばらく気がつかなかったとか。
当時、幼馴染に関するストーリーを知った時は結構驚いた。知っているからこそ今、目の前の光景が微笑ましい。こうやって出会ったのかとしみじみ思う。
「ねぇ、かすみちゃんのにいちゃんもあそんでくれる?」
「うん、いいよ」
「やったぁ、ありがとうかすみちゃんのにいちゃん!」
と抱きついてくるはぐみちゃん。
「わたしもだきつくぅ」
と香澄。お前は毎日やってるでしょ。その後、日が暮れるまで一緒に遊ぶのだった。何をしたかというとまずはかけっこ、次に隠れんぼ、ブランコ、シーソー、最後におままごとだ。本音を言えば、おままごとは割とマジできつかった。夫役は俺なんだが、お嫁さん役はわたしがやると香澄、はぐみがやるんだとはぐみちゃん。二人が俺を取り合ってると、はぐみちゃんが「なんか、これテレビでみたことある!」と言いだした。俺が「テレビで?」と聞くと「うん、ひるドラ!」と得意げに言うはぐみちゃん。はぐみママの方を向くと、その会話を聞いてたらしいはぐみちゃんの母は目を逸らした。はぐみママを軽く睨みつけたが、彼女はどこ吹く風であった。
それよりはぐみちゃん、意味は分かっているのだろうか?そんな中、我が妹である香澄が「ひるどら?」とキョトンとしていた。香澄はそのままでいてくれ、お兄ちゃんからのお願いだ。
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5月が過ぎて6月に入った。毎週ではないが2週間に1回は母さんと香澄について行く。そしてたった今、毎週ついて行かなかったことを激しく後悔した。香澄が自転車に補助輪なしぇ乗れるようになっていた。嘘でしょ!?俺とあんなに練習しても乗れなかったのに。はぐみちゃんと一緒だと乗れたのか!許すまじ。だって、香澄が自転車に乗れる歴史的瞬間だぞ?可愛い妹が自転車に乗って、「ばびゅーん」する瞬間に立ち会えなかったなんて……。母さんは大袈裟ねと言うが、俺にとったら大問題である。だから、明日香の時は絶対に立ち会うんだ。
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6月の第4週、最後の日曜日に、はぐみちゃんと香澄はベンチで七夕の短冊に願い事を書いていた。短冊を持っていたはぐみちゃんが……
「たなばたのねがいごとをかくかみなんだー!ここにねがいごとをかくと、かなっちゃうんだって!」
と言ったからだ。それを聞いて香澄は俺に
「ほんとにかなうの?」
と不安げな顔で聞いてきたから、俺が今できるとびっきりの笑顔で
「そうだね、香澄が願えばね」と答えておいた。
叶うか叶わないかは別として、子どもの夢を壊してはいけない。残酷なことを言ってしまえば、
『願えば叶う、祈れば通じる』
そんな夢物語など、どこにもありはしない。それが許されるのは物語だけだ。だが、ここは現実。転生前となんら変わりのない世界だ。いつかきっと事実を知る日が来るのだ。そう遠くない未来に。世界はそんな綺麗事だけでは済まされないということを。それでも、夢が叶わなくても夢を見続けることは素敵だと思う。だから、夢があって夢に向かって頑張る人は強い。
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ついに、はぐみちゃんと香澄が一緒に遊べる時間に、終わりを告げる時が来てしまった。端的に言うと公園が工事の為、閉鎖したのだ。俺は数週間前から公園の入り口付近に、看板が立っているのを知っていたから驚きはしない。だいたいは察していた。それはこの公園をなくして、新しく建物を建てるという旨の看板だった。
母さんとはぐみの母もこの事を知ってはいたのだが、はぐみちゃんと香澄が仲良く遊んでいるのを見て、言うにも言えなかったのだろう。母親たちがどうにかしようとあたふたしていると、とうとうはぐみちゃんと香澄が泣き出した。ヤダヤダと駄々をこね、泣き止まない。どうにかしなくていいのか?と意を込めて母親たちを見る。2人は俺に向かって強く頷いた。つまり、俺に任せるということなのだろう。ハイハイ、お兄ちゃんがどうにかしますよ。
「なぁ、はぐみちゃん、香澄。」
彼女たちの目線に合わせるようにしゃがみ込む。
「ゔゔ、グズン、おにいちゃん」
「ゔゔ、かすみちゃんのにいちゃん」
二人からダラダラと垂れ流している鼻水をかませ、ゆっくりと語りかける。
「二人は、お別れだから泣いてるの?」
「「うん」」
なるほど、じゃあ……
「もう一生、もうこれから会えないってわけじゃないんだよ?」
「え?そうなの?」
「ふぇえ?」
これで納得してもらうしかないよなぁ。
「ああ、しばらく会えないし、遊べない。でもね、はぐみちゃんと香澄が大きくなったらまた遊べるんだよ?」
会える保証なんてどこにもないのに、それでもきっと会えると信じて。
「だから、泣くことはないんだよ。また、会えるんだから」
「うん、わかった!おにいちゃんがそういうんだもん!」
「はぐみもわかったよ!」
うん、いい笑顔だ。余談だがその後、はぐみちゃんと香澄はゆびきりげんまんをした。なぜか、俺もゆびきりげんまんをさせられた。強制だった。ゆびきりした後、はぐみちゃんが
「やくそくやぶったら、はりせんぼんね」
と言ってきたときは、「ひぃ!?」と声が出てしまった。ちょっと怖かったのは内緒だ。はぐみちゃんの言う約束とは香澄とだけ再会するのではなく、俺とも再会するという事だ。最後は「またね」と言ってバイバイした。香澄とはぐみちゃんは原作でどんな感じで再会したんだろうな?
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とある日曜日。戸山家には父、悠夜と明日香がいた。朝食を食べてから再び眠ってしまった明日香は、光夜たちと共に公園に出掛けずに今週は父とお留守番というわけだ。お昼頃、明日香はお腹が空いたのかパチリと目を開けて起き上がる。キョロキョロと辺りを見回して確認した。
近くに悠夜がいるのを確認すると
「パパ、おなかすいた」
とお腹をなでて言う。
「おお、明日香。おそよう?もう眠くないのか?」
「うん、おなかすいた」
「そうか、もう12時過ぎだからお昼にしようか」
香織が作り置きしてくれた明日香と悠夜の昼食をレンジで温めて、食べる。昼食後、お腹が膨れて満足した明日香は母、兄、姉がいないことに気づく。
「パパ、おにいちゃんとおねぇちゃんは?」
「ママたちはお出掛けしたぞ?もうすぐ帰ってくるよ」
「うん、あすか。まってる!」
「よしよし、偉いぞ」
明日香の頭をわしゃわしゃと撫でる。悠夜は安心した。明日香はいつも光夜たちがいないと分かると大泣きする。しかし、最近はいないと分かっても泣くことはなくなった。4歳となり、成長している証であろう。3歳頃はこれが酷く、泣いている明日香を宥めるのに手を焼いた悠夜。だから、安心しているのだ。
ガチャッ
「お、帰ってきたみたいだぞ」
「おにいちゃん!?」
悠夜を置き去りにして、玄関に向かって行く明日香。
「……なんでや」
悠夜はボソッと呟いた。父親なのに香澄と明日香はあまり甘えてくれない。甘えてくれないよりかはいいのだが、父親としてはもっと甘えて欲しいと思う。娘たち(光夜含む)より妻である香織の方が甘えてくるのはなぜ?これ如何に?
「はぁ。ま、いっか」
悠夜も玄関に迎えに行くのであった。
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はぐみちゃんとの邂逅から特にこれといった事もなく、3年が経過した。時が経つのは早いもので、明日で俺は最高学年である小学6年生になる。小学5年生あたりから女子が男子を意識し始めたのか、男子とあまり話さなくなった。視線がよく俺に向けられていたのは、気のせいではないと思う。香澄と明日香の兄だからか眉目秀麗だ。 まあ、香澄と明日香は美少女だからな。小学校最高学年とはいえ、まだまだ男子はお子ちゃまな年頃だ。中学生あたりで落ち着くだろう。 俺もそうだったしな。あ!でもそれって中二病のせいかもしれんわ。
女子は精神面が男子より成熟が早いというだけあって、男子より落ち着いている。転生して精神年齢がちょっと?高いため、流石に純粋な子どものふりは精神的に無理があったので他人より少し大人びた子どもとして振る舞った。 5年生になれば、心身共に急成長したから少し助かった。小学の勉強は授業を聞いてるだけで十分だったので絵心をつけたり、ピアノを弾いたり、休みの日は香澄と歌ったりして小学校5年間を過ごした。
ピアノは弾けた方が後々ためになると思い、両親に習えるように小学3年生の頃、頼み込んだ。週1でピアノ教室に通っている。体が違うせいか頭では理解していても手がついていかなかった。前世ではそこそこ弾けるレベルだったが、これでは本当に基礎の基礎からやり直しだ。俺の学校生活なんてどうでもいいだろ。
それより、香澄だ。明日、香澄は小学校に入学するピッカピッカの1年生だ。ランドセルを背負って、登校班の班長(予定)である俺の後ろをついてくるのを想像するだけで軽く死ねるわ。残念なのは、明日香は来年入学するということだ。そう、来年!つまり、俺は卒業してしまう。一緒に通えないのは非常に残念だ。後1年、俺が遅れて生まれていればと何度思ったことか。ま、こればかりは仕方がない。
さて、明日は香澄の入学式だ。早く寝るとしますか。
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