ジリリリリリリ
昨夜、セットしておいたアラームが鳴る。目が覚めた俺はアラームを止めようと手を動かそうとするのだが、両腕が動かないことに気づく。両腕に確かな温もりを感じる。右腕、次に左腕に目をやると右に香澄、左に明日香がおり、俺の腕をぎゅっと抱きしめていた。
うん、
場所が和室から俺の部屋になっただけで、香澄と明日香とはいち…にー…さん…しー…5年間も一緒に寝ていることになるな。俺たちが一緒に寝ることになったので、必然的に両親は下にある両親専用の寝室で共に寝るようになった。これが何を意味するかは敢えて触れないでおく。
再びジリリとアラームが鳴り続ける。
「光夜!いい加減アラーム止めなさい〜」
「はーい!」
既に起きてるらしい母さんの怒鳴り声が下から聞こえる。俺はそれに返事を返した。うん、このアラームうるさいもんね。アラームを止めたいのは山々なのだが、両腕を香澄と明日香に拘束されていて起き上がれない。
「香澄、起きて。朝だよ」
ゆさゆさと強く体を揺らして香澄を起こす。
「うーん、おにいちゃん……」
意識がぼやけているのか香澄の目は半開きだ。香澄はすぐ起きてくれるから助かる。香澄が上体を起こすと同時に右腕がフリーになると、俺はすぐにアラームを止めた。
「おにいちゃん、おはよ」
「うん、おはよう」
まだ眠いのか香澄は目元をこすっている。
「今日は香澄の入学式だから、早く下に降りて着替えるんだよ?」
「うん!」
自分の入学式と聞いて、香澄は目を見開いた後、ダッと下へ降りていった。ふふ、楽しみにしてたんだな小学校。さて、もう1人の姫を起こすとしますか。俺が明日香ではなく、香澄を先に起こした理由……それは明日香は朝に弱いからだ。香澄が今日、小学校の入学式で早く起こす必要があったのも理由の一つではあるが、それとは関係なしに明日香は起こしてもなかなか起きてくれない。すぐ起きる香澄に対して、明日香は全然起きない。起きたかと思うと、また目を閉じて寝てしまうことが多々ある。
「明日香、起きて朝だよ」
香澄の時と同様に強く揺らして起こす。
「ぅ〜ん」
これである。
休みの日であれば、あと2時間くらい寝ていても問題はないが今日は香澄の入学式だ。家族全員で小学校の入学式に行くので、そろそろ起きてもらわないと困る。小学校は今日、新入生である1年生はもちろん、高学年の5、6年生は入学式に出席だから俺は行く必要がある。例え今日が休みで香澄が来てくれと言われずとも行く自信がある。
だから当然、明日香を家に1人にしてはいけないため、必然的に明日香も入学式に来ることになったのだ。
「ほら、起きて明日香。お兄ちゃん、そろそろ起きてくれないと困るんだけど……」
「やっ」
「」
まったく、仕方ない子だなぁ。
「よいっしょっと」
明日香を抱っこすると、俺は階段を降りてリビングに向かう。
「おはよう」
「おう、光夜。おはよう……ふっ」
「おはよう、光夜……あら?」
「あー!あっちゃんずるい!」
リビングに入り、母さんと父さんに挨拶する。香澄は既に着替え終わっていて、テーブルに座っていた。抱っこしている明日香をみると三者三様の反応をした。はいはい、香澄はいつも抱っこしてるでしょ。
「寝坊助さん、連れてきた」
「この
何?どれどれ、確かになんか幸せそうな顔してるわ。俺の胸の中で穏やかな顔をして微かな寝息を立てている。
「むぅ〜。あっちゃん!おきて!」
「んっ、いたい」
俺に抱っこされたまま寝ている明日香が気に食わないのか、香澄の手によって俺の両手が振りほどかされ、明日香が床に落ちた。
「だ、大丈夫か明日香?」
「だいじょうぶ。おねえちゃんいたいよ」
「かすみ、あっちゃんがおきてるのしってたよ」
「ぶー」
「あっちゃんもだけど、おにいちゃんもおにいちゃんだよ!」
アッハイ、すみません。少し膨れっ面な明日香と私、怒ってますよと仁王立ちする香澄。香澄の言うことが本当なら、明日香は狸寝入りしてたってこと?全然気がつかなかった。
「はいはい、2人ともそれくらいにして頂戴。明日香と光夜はさっさと着替えて来なさい」
「「はーい」」
着替えて家族全員で朝食を済ませた後、小学校へと移動する。
「どう?おにいちゃん!」
新品の赤いランドセルを背負った香澄が俺の前に来て、その場でくるんと1回転した。可愛い。
「うん、似合ってるよ」
香澄のランドセル姿を見るのは今日で2回目だ。1回目はランドセル買う前の試着の時だ。
「えへへ」
天使かな?天使と言えば、「天使の羽」のCMだよな。ランドセルを試着した時に香澄、そのCMソング歌ってたな。そのランドセルを背負って歌っている様子は、ただただ可愛かったと言っておこう。
「いいなぁ〜、おねえちゃん」
「来年は明日香の番だから……ね?」
「うん!」
1年後に明日香のランドセル姿が見れるとは俺得ですわ。まあ、1年待たずとも香澄のランドセルを背負えば、見れるんですけどね。だが、香澄のランドセルでは意味がない。明日香のランドセルだからこそ意味があるのだ。だからこそ、明日香は羨ましいとは思えど香澄のランドセルを背負いたいとは言わない。自分のランドセルが欲しいから。
「はい、撮りますよ。ハイ、チーズ」
小学校に着いた俺たちは校門横に掛けてある『入学式』と書いてある看板と香澄を中心に写真を撮った。当然、家族全員なので後ろの人に撮ってもらった。早めに来たので人はそこまで多くなかった。あと30分もしないうちに息子、娘の入学式の写真を撮ろうと
俺は5年前に
「香澄は何組だった?」
「3組よ」
3組か。おっと、俺もそろそろ教室に行かないとな。
「それじゃあ俺、そろそろ行かないとまずいから行くね。後片付けがあるから帰りは昼過ぎになると思う」
「ええ」
「おう、行ってこい」
「「おにいちゃん!」」
「香澄、大丈夫だ。不安になるかもしれないけど、それは他の子も同じだ。胸を張って行くんだぞ?」
「うん!」
「明日香、入学式中は静かにしていい子でいるんだぞ?」
「うん」
2人の頭を軽く撫でた後、俺は5年1組の教室へ向かう。今日は4月8日で入学式だ。俺たち在校生のクラス発表は明日の始業式になる。だから、今日までは旧クラスとなる5年生時の教室となる。5年1組の教室へ入ると、クラスメイトたちがみな揃っていた。
「おはよう、光夜」
「遅かったな、光夜」
「「おはよう、戸山くん」」
「「「おはよー、戸山くん」」」
「みんな、おはよう」
挨拶を返すと俺は教室を見回した。教室内は机と椅子以外何もなく、物寂しい。
「そういや、光夜は妹が今日、入学するって言ってたよな」
言ったなあ。
「ああ、だから少し遅れた。さっき校門で一緒に写真を撮ってきたところだ」
「「「「え、戸山くん。妹(ちゃん)がいるの!?」」」」
女子が会話にさり気なく参加してるし……。必要以上に俺と話そうとしてるのには薄々感じてはいたが、こうグイッといきなり来られると困る。男子もちょっと引いてるぞ。女子の年齢があと4〜5歳高くなればWelcomeなんだけどな。この様子じゃ女子たちが色恋沙汰に興味を持ち始めるのも時間の問題だな。
「あ、ああ」
「どんな子なの?」
「やっぱり戸山くんの妹さんだから可愛いんだろうね」
「違いないわ」
女子たちが勝手にワイワイ騒ぎ出す。もう勝手にしてくれ。
「お前ら、席につけ」
そこにタイミングよく先生が来た。ふう、助かった。危うく質問攻めにあうところだったわ。
「出欠席確認したら、すぐ体育館に移動するからな。あと、入学式終わったら後片付けな」
「「「「「え〜〜」」」」」
「文句言うな。これも高学年としての務めだぞ」
そして体育館に移動し、椅子に座る。20分が経ち、9時に入学式は開始した。
『新入生、入場』
アナウンスとともに新1年生が体育館に入場する。香澄は3組だからまだだな。数分後、3組と思しき新1年生が入場してきた。香澄、香澄は……いた!他の子が緊張して入場しているのに対し、香澄はニコッと笑っている。とても分かりやすい。それにしても、いい笑顔するじゃないの香澄。そんなに小学校、楽しみにしてたのか。新1年生が座ってまた立つ、その繰り返しだ。新1年生は歌えないので新5・6年生と先生で国家・校歌斉唱をする。次に校長先生から
名前が呼ばれて返事しないと延々と名前を呼ばれることになる。2回目で返事しないと担任が起こす手筈になっている。そうしないと入学式が終わらない。香澄、寝ていなければいいんだが。かく言う俺も校長先生の話で舟を漕ぎそうになった。
『3組』
お、ようやくか。待ってました!3組男子が終わり、女子の点呼が始まる。俺は香澄が呼ばれるのを今か今かと待っていた。
「戸山香澄」
「はいっ!」
キタッ!香澄の幼いながらもしっかりとした大きな声が体育館に響き渡る。おお、新入生で1番大きい声なんじゃないか?そして、10時半前に入学式は終了した。退場する新入生を拍手で送り出した後、保護者が退場する。この場には在校生だけが残った。
「いやー、終わった。終わった」
「そういや、1人だけめちゃデカい声の女の子いたよな?」
「あー、いたな」
「いたいた!私、その声で眠気が吹き飛んだもん」
「元気そうな子だったよね」
それ、ウチの妹です。褒められてるのかよく分からないがとにかく、おにいちゃんは鼻が高いです。
「で、光夜の妹はいたんか?」
「いたぞ」
「何組だったんだ?」
「3組。新入生で1番大きい声を出してた女の子だよ」
「え、まじ?」
「マジ」
この会話を聞いてた周りのクラスメイトたちは
「お前の妹、めちゃ元気なんだな」
「すげー声だったぞ、良い意味で」
「可愛い声だったな」
「今度、私に紹介してよ」
「戸山くんの妹かぁ〜。見たかったな。私、寝てたし」
などと好評だった。後片付けを終わらせ、下校した俺は家路を急いだ。
「ただいま」
「おにいちゃん!」
家に入るとドタドタと香澄が駆け寄ってくる。次の瞬間には俺に抱きついてきた。おっと、よしよし。
「どうだった?」
「……ん?」
どうだったとは?点呼時の香澄の返事のことか?それとも入学式全体?
「かすみのへんじ、どうだった?」
「よかったぞ。新入生の中で一番大きかったぞ」
「えへへ、ほめて」
褒めろ褒めろと言わんばかりに頭を差し出す香澄。よしよーし、よくできました。俺は香澄の頭をぽんぽんと軽く叩いた後、何度も撫でた。
「ふにゃあ〜」
5分後
えっと、いつまで撫でればよろしいので?
「えっと、もういいかな?」
「だーめー」
10分後
「ね、ねぇ。おにいちゃん、腕が疲れてきたんだけど」
「もっとー」
「」
そろそろ腕が疲れてきた。限界が近い。
すると母さんが出てきた。
「あんたたち、いつまで玄関にいるの?」
「今、行くよ」
「あっ……」
よしよし、また今度な。
「ところで明日香は?」
「明日香?先にお昼食べた後、光夜の部屋に行ったわよ。お昼できてるから光夜も食べちゃいなさい」
「わかったよ。とりあえず、明日香の様子見てくる」
香澄を見ると
「うへへ、おにいちゃん……」
なんかトリップしてたので放置することにした。 そのうち、母さんが何かしらアクション起こすでしょう。2階に上がり、俺の部屋を覗くとそこには俺のベッドの中央で猫のように丸くなり、気持ちよさそうに寝息を立てて寝ている明日香がいた。
「すぅ、すぅ」
明日香ェ...
こうして香澄の小学校入学式は無事(?)に終わった。