戸山家長男?   作:0やK

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はじめてのおつかい

 明日香の本音を聞いてから1ヶ月近くが経ち、ゴールデンウィークに入った。以前よりも明日香が甘えてくるようになり、最近では姉妹喧嘩をチラホラと見掛ける。姉妹喧嘩とは言ってもそれはカワイイレベルで「おねえちゃんのばか!」や「あっちゃんのばか!」など「ばか」「きらい」「だめ」「やだ」「ずるい」「~なんてしらない」の言葉ばかり。

 

 なので、安心して姉妹喧嘩を見ていられる。最初のうちは姉妹喧嘩を止めていたが、途中から「あれ?別に止める必要ないよね?むしろ、成長に繋がるのでは?」という考えに至り、よっぽど「○ね」「消えろ」みたいに酷くならない限りは止めない事にした。そんなこと言ったら、親に代わって俺が叱るけどね。

 

 

 姉妹喧嘩はいつも大体こんな感じだ。

 

 

「あっちゃん、ずるい!かすみも!」

「おねえちゃんはだめー」

「なーんーで!」

「だめ」

「やっ」

「だめ」

「やっ」

 

 

「おねえちゃんばっかり、ずるい!」

「あっちゃんはきのう、おにいちゃんにしてもらってた!」

「ずるい!」

「あっちゃんはだめ」

「おねえちゃんのばか」

「だめ」

「おねえちゃんなんてしらない!」

 

 

 まあ、姉妹喧嘩の原因のほぼ7割は俺である。残りの3割はおやつやおもちゃ、ぬいぐるみの取り合いだ。

 特に酷いのは俺が胡座をかいている時でその中に香澄か明日香、どちらが入るかでよく揉めている。最終的に俺の膝の上に座ることで収まるのだが、長時間1人ならず2人となると膝の上、太腿が痺れてツラい。

 

 

 

 それはさておき、ゴールデンウィーク初日。母さんは香澄と明日香にとある事を頼んだ。

 

「香澄、明日香。ちょっといいかしら?2人に頼みたいことがあるの」

「なにー?」

「うん」

「2人におつかいを頼みたいの」

「「おつかい?」」

「ええ、いつも行くスーパーで牛乳1本と卵1パック買ってきて欲しいの」

「うん、わかった」

「うん」

 

 おつかい。

 

 買い物などのためにちょっと外出すること。はじめてとなるとそれは特別になる。香澄と明日香のどちらかではなく、2人に頼んだのには何か理由がありそうだ。おおよそ理由は分かるがな。

 

「それじゃ、牛乳1本と卵1パックよろしくね。お菓子とか買ってきちゃダメよ?お金なくさないようにね」

「「うん」」

 

 姉妹揃って頷くと、母さんは500円玉の入ったネックポーチを香澄の首にかけた。

 

「じゃあ、気をつけて行くのよ」

「うん!おにいちゃん行ってきます」

「行ってきます」

「ああ、気をつけてな」

 

 玄関で2人を見送るとドアが閉まった瞬間、母さんは俺を見た。

 

「さて、光夜……」

「うん、分かってる」

「お願いね、特に香澄」

「了解」

 

 香澄に関しては皆まで言われなくても分かる。俺が母さんから頼まれた事は2つ。

 

 1つ、見守ること。

 

 2つ、もし香澄と明日香に何かあったら対処すること。

 

 この2つが昨日、母さんから頼まれた事だ。2人で行かせたのは香澄が心配だという理由が大きく占めそうだがそうではなく、危険だからだ。戸山家は東京都の北区に居を構えており、中心部に近いため交通が激しい。東京都は乳幼児が日常生活の中で事故に遭うことが多い。

 

 だから、はじめてのおつかいと言えども2人だけで行かせるわけには行かない。そこで俺の出番というわけだ。

 

「香澄と明日香を見失う前に行くわ」

「待って、はい」

「お金ならあるよ?」

「小学生が持ってるお金なんて微々たるもんでしょ?自分のお小遣いは取っておきなさい。あげた500円は好きに使っていいから」

「ありがとう」

 

 これで香澄と明日香のご褒美に何か買ってやれということだろう。だから敢えて、お菓子を買ってきちゃダメと言ったのかもな。母さんから500円玉を受け取ると、俺は香澄たちのあとを付けるべく急いで家を出た。

 

 

「さてと、香澄と明日香は……」

 

 ウチから近いスーパーは家から約1kmほど離れ場所にある。徒歩で約10分ぐらいだ。

 

「あ、いたいた」

 

 香澄と明日香を見つけ、尾行を開始する。5mくらい空けて尾行しても気づかれる気配がなかったので3mくらいまで近づくことにした。近づくとこんな会話が聞こえた。

 

「あっちゃん、てをはなしちゃだめだよ?」

「うん、おねえちゃんも」

 

 香澄が先導する形で手を繋いで歩いている。スマホがあったら、きっと俺は後ろ姿であってもカメラモードで連写していたに違いないだろう。2人が手を繋いで歩いてる後ろ姿は、なんとも言えない可愛さがある。

 

 そういえば、香澄と明日香が2人で手を繋いでいる様子を見るのはあまりなかった気がする。香澄と明日香が手を繋ぐのは俺か父さん、母さんしかいない。手を繋ぐとなるといつも俺が真ん中で左右に香澄、明日香が来るから姉妹で手を繋いでいるのは見たことがない。まあ、実際は俺がいない時に手を繋いでいて、俺が見てないだけかもな。今度、母さんに聞いてみるか。そう思うとこの光景が俺にとって、すごくレアなものに見えてくる。

 

「おねえちゃん、このみちであってるの?」

「うん、あってるよ」

「だ、だいじょうぶだよね?」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ!」

 

 自信ありげな様子の香澄に対して、明日香は不安そうだ。

 

 それもそのはず。

 

 香澄はじっとしていられず、よく外で遊びたがるが明日香は家にいて、おままごとをしたり絵を描いたりする方が好きだ。だから、明日香が自分の知らない外の世界に恐怖や不安を抱くのは仕方ないことだ。学年と共に成長するにつれ、行動範囲、即ち自分の世界が広がって行く。香澄は香澄。明日香は明日香。2人の成長はそれぞれ違うのだから、特に明日香はゆっくりと焦らず成長して欲しいと思う。

 

 2人の成長と言えば、自転車。そう、自転車!香澄の時は「ばびゅーん」する歴史的瞬間に立ち会えなくて、明日香の時こそは!と意気込んでいたのに立ち会えなかった。俺がいない時に乗れるようになるって……泣きそう。

 

 あとは水泳かな。2人同時にスイミングスクールに体験して、明日香が習うことになった。香澄が体験開始数分で「やだ」って言ったのを母さんから聞いた時は笑ったなぁ。香澄が泳げないことを改めて知った。ちなみに俺はピアノを習っているのでパス。

 

「ついた!」

「うん、ついた!」

 

 いろいろ考えている間に目的地のスーパーに着いたようだ。バレないようにしないと。気づかれないように香澄と明日香がいる反対の陳列棚の列に入り、体を顔を隠す。

 

「あれ?なにかうんだっけ?」

「ぎゅうにゅーとたまごだよ。おかしはだめ」

「あ!そうだった、えへへ」

 

 スーパーに入ってから姉妹の立場が逆転しておる。今度は明日香が香澄を先導するように手を引いている。

 

「こっちだよ」

「あっちゃん、あるばしょわかるの?」

「うん」

 

 さすがとしか言いようがない。

 

「ぎゅーにゅー」

「うー、ちょっとおもい」

「つぎ、たまご」

 

 場所を把握してる明日香は卵1パックを手に取り、レジへ向かう。

 

「おねえちゃん、おかね」

「うん、はいこれ」

 

 あっという間にレジで、明日香の賢さにびっくりだ。スーパーに向かう時の不安げな顔はどこへ行ったのか。

 

「おねえちゃんはぎゅーにゅーもって」

「うん、はやくかえろ。おにいちゃんたちがまってる」

 

 いえ、ここにいます。ってやべ、香澄と明日香帰っちゃうじゃん!何にも買ってないわ。急いでお菓子コーナーへ行き、香澄と明日香のご褒美に同じお菓子とジュースを2つずつ持ち、レジへ向かう。

 

「ありがとうございました」

 

 会計が終わり、あとは帰るだけだ。レジ袋だと同じお店で買ったのだとバレてしまうため家からエコバッグを持ってきている。

 

「「ただいま!」」

 

 何事もなく無事に帰ることができ、家に到着。2人が家に入ったのを確認すると俺も家に入る。

 

「おかえり」

「あれ?おにいちゃんは?」

「もうすぐ帰ってくると思うわよ」

「「……?」」

 

「ただいま」

「あっ!おにいちゃん!」

「光夜、おかえり」

 

 すぐさま俺に飛びつこうとした香澄だが、俺が何かを持ってることに気づきエコバッグに視線向けた。

 

「なにそれ?」

「ん?これか、香澄と明日香のご褒美」

「「ごほーび?」」

「ああ、おつかいのご褒美だ。でも、その前におつかいの報告しないとな」

 

 このまま玄関にいても仕方ないので、リビングへ移動する。

 

「おかーさん!かってきたよ!あと、おつり!」

「ん、たまご」

 

 香澄が牛乳1本とおつりの入ったネックポーチ、明日香が卵1パックを母さんに差し出した。

 

「はい、よくできました」

「えへへ」

「うん、がんばった」

「じゃあ、手洗いうがいしてきなさい」

「「はーい」」

 

 2人が洗面所へ駆けて行くのを確認すると母さんは俺に感想を聞いてきた。

 

「どうだった?」

「うん、まあ。香澄が外で先導して、明日香が中で先導してたよ」

「なにそれ?」

「あ、あと俺もおつり」

「はい、あとで詳しく聞かせて」

「りょーかい」

 

 俺も洗面所へ向かい、手洗いうがいを済ます。

 

「じゃーん!ご褒美」

 

 エコバッグからお菓子とジュースを取り出し、香澄と明日香に渡す。

 

「やったー!」

「おにいちゃんのは?」

 

 喜ぶ香澄と俺の分はどうした?と聞く明日香。明日香は優しいな。

 

「俺は……コレだ」

 

 取り出したのはミルクコーヒーだ。ちゃっかり自分の分も買ってきたりしてる。母さんから好きに使っていいって言われたし。

 

「だから、明日香。安心して食べていいぞ」

「うん」

「ねぇ、かすみは?かすみは?」

 

 はいはい。

 

「ふにゃあ〜」

「……ッ!?あすかも!」

 

 はいはい。

 

「にゃあ〜」

 

 今日も今日とて2人の頭を撫でる。

 

 

 2人のはじめてのおつかいは斯くして無事に終了した。

話の内容と展開速度

  • とても良い
  • 良い
  • まあまあ
  • 何とも言えない、分からん

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