真夏日、暑い日、夕暮れにそまるふたりきりの部屋
始まる、ふたりだけの秘密の出来事
それは、ふたり、お互いがお互いを確かめるためのひめ事

(2013年、Pixivさまにて初公開)

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真夏日、ふたりのひめ事

 夏、夕暮れ時、静かな部屋、灯りに照らされる私たち。

 顔を向い合わせてベッドの上に座っている。

 テーブルには広げたままの宿題とエースティが少し残るコップ。

 ふたつのコップはたくさんの汗をかいていて、中の氷はほとんど残っていない。

 その横には外された眼鏡、たたまれることなくそのままに。

 厳しい暑さ、強めの空調、涼しい部屋。それでも、頭の中は熱で浮かされているかのよう。

 

 ベッドの上をゆっくり動き始める手はやがて私の手に。軽く握られる。

 それは、キスしたい、のしるし。

 捕らわれていない私の手もベッドの上を動いて、空いた手を握る。

 それは、キスしてほしい、のあかし。

 私の指が絡めとられていく。大胆に、そして、確実に。

 私も指を絡めとっていく。静かに、でも、しっかりと。

 頬が紅く染まっていく。私の頬も熱を持つ。それは恥ずかしさ、そして、嬉しさから。

 

 最後の確認をするように、真面目な瞳が私の瞳をしっかりととらえる。

 今なら止められる。今ならやめられる。そう訴える真剣な瞳。

 でも、私の心はベッドに腰掛けたときから決まっている。私は微かな笑顔を浮かべる。

 真面目な瞳、緊張の面持ちはゆるやかに溶けて、笑顔が浮かぶ。

 お互いの手に力がこもる。絡める指に少し痛みを感じる。

 でも、もっと近づいた感じがして、その痛みすら嬉しい。

 

 私はゆっくり瞳を閉じる。

 まぶたの裏に残るのは、最後に見つめた唇。

 それは、ぷっくりして、瑞々しくて、やわらかそう。

 私が瞳を閉じたのを合図に近づく温度。

 微かに、聞こえるか聞こえないか、それくらいのささやきで呼ばれる私の名前。

 本当にいとおしそうにささやかれる名前を聞いて、私の体は嬉しさにふるえる。

 体の中心から外側へ、熱が伝わっていく感覚に包まれる。

 私も、愛おしさを込めて名前をささやく。指にかけられる力が少し強まる。

 それ以上強くされたら壊れてしまいそう。

 そう思っているうちに私の唇はふたをされる。ぷっくりと、瑞々しい、唇で。

 私の唇は、心は、嬉しさに震える。

 

 でも、時間にして3秒、感覚は一瞬。

 もっと長く感じていたい唇は、すぐに離れてしまう。

 ゆっくりと瞳を開くと、ことさらに紅くそまった頬。

 私の頬も多分もっと紅くなっているはず。熱をさっきよりも強く感じるから。

 

 再び重なりあう瞳。お互い、じっと見つめあう。

「六花…」

 今度は声に出して、いとおしそうに、やさしく、呼ぶ名前。

「マナ…」

 応える私の声も、愛をこめて、やさしく、いつくしむように。

「六花からも…」

 それだけを口にして、瞳を閉じ、唇を軽くとがらせるマナ。

 いつものマナのおねだり。でも、私は頑なに断る。

 私からキスをしたら、その先、自分がどういう行動に出てしまうか、想像できないから。

 理性を失くして、自分の想いのままに行動したら、物語のようにマナの心を壊してしまうかもしれない。

 そう考えると、怖くて、私からはキスすることがどうしてもできない。

 ごめんねのかわりにおでこに軽く唇をあてる。熱が私の唇に流れ込んでくる。

 それを合図にマナの瞳が開かる。一瞬、ちょっとだけ、残念そうな顔。

 絡み合う指がほどかれて、私の背中を抱きしめてくれる。

 その手は暖かくて、やわらかくて、私の背中はそれを感じたくて神経が集まってくる。

 そんな私の心を感じ取ってくれたかのように、もう片方の手も背中に回る。

 抱きしめられると私たちの距離はもっと近づいて、洋服越し、足が、体が、胸が、触れあう。

 流れ込んでくるマナの体温。

 私の心臓はその暖かさに反応するようにひときわ大きく音を打ち、マナで満たされてゆく。

 マナの事をもっと感じたくて、私も腕をその背中に回す。

 近づく距離。頬は触れあい、お互いの胸がお互いの胸を軽く押しあう。

 ぴったりくっつく太ももは、どちらもしっとりと汗をかいている。

 

「りっか……」

 かみしめるように、ゆっくりと、再び呼ぶ私の名前。

 近づく唇、私は瞳を閉じる。

 唇は重なって、とくとく、鼓動を伝えてくる。

 私の鼓動も唇を通して伝わってゆく。

 ありえないくらい速い、私の鼓動。それが伝わるのは少し恥ずかしい。

 でも、唇で感じるマナの鼓動も同じくらい速い。一緒だと思うと嬉しい。

 マナの唇、その鼓動が少し離れる。

 でも、二度目はいつもついばむようなキス。すぐにマナの鼓動が私の唇に降りてくる。

 響く鼓動、伝わるドキドキ、それはすぐに離れて、その直後、再び同じ鼓動を伝えてくれる。

 

 何度も、何度も、重なったり離れたりする鼓動。もう、どっちのかわからないくらい。

 私たちの合わさる胸も同じように鼓動を伝えあって、体がひとつになってしまったかのよう。

 私たちは、抱き合ったまま、ベッドの上に横になる。

 ふわり、浮かぶ、私のサマードレスの裾。蝶のように羽を広げ、ゆっくりと膝の上に舞い戻る。

 やわらかい布団の上、半身を重ねるやわらかいマナの体に包まれる。

 その柔らかさ、暖かさは、私の頭の中をくらくらさせる。

 私を抱く腕は頭へ、そして、やさしく髪をなで始める。

 髪がさらさらと、やさしく、柔らかい手を流れていく。

 

 しばらくするとその手は私の編んだ髪に。やさしく、軽く、握られる。

 私は少しだけ体を震わせる。

 見つめる瞳が少しだけ見開かれて、その手が髪から離れる。

 私は微笑を浮かべて、唇だけで「大丈夫」って伝える。

 見開かれた瞳は嬉しそうな顔に。おさげに手が添えられる。

 いつくしむように、いとおしく、おさげをなでる手。その手に力が込められて、結ぶリボンが外される。

 私の頭のそば、置かれるリボン。

 そして、やさしく、ていねいに、おさげが解かれていく。

 私も、マナの髪を止めるリボンを、痛くないように取り外す。

 ベッドに広がる髪は綺麗に流れを作る。

 お互いに、解かれた髪をなでたり、指で梳いたり。

 髪に神経なんてないはずなのに、触れられるたびに嬉しさとくすぐったさを感じる。

 

 ひとしきり髪をなでられると、再び抱きしめられる背中。私の頭は胸におさめられる。

 私も背中を抱きしめ、耳を胸に当てる。

 聞こえてくるやさしい鼓動、安心してくる。

 しばらく聞いていると髪に感じる柔らかい感触、唇が降り注がれている。

 つむじ、前髪、後ろ髪、おさげを解いて癖になっているところ。

 少し汗をかいたから。頭を動かして拒絶の意志を示す。

 でも断るかのように髪にさらに沢山のキスがふる。

 私は再び胸に静かにおさまり、静かに、やさしく、ふる唇を受け止めていた。

 

 しばらくして、満足したのか髪へのキスが終る。頬に手を添えられるのと同時に。

 顔を上げる。やさしい顔が私をとらえる。

 瞳を閉じて、少しだけ唇を突き出すと、熱く柔らかく、瑞々しい感触が唇の上をなぞる。

 それはマナの舌。リップクリームを塗られるように、唾液に覆われる私の唇。

 お礼に私も舌で唇をなぞっていく。

 私の唾液はマナのそれよりも濃い。熱く、厚く、唇を覆っていく。

 リップクリームを塗ったようなふたつの唇。どちらともなく重なる。水音を響かせて。

 混ざる唾液、開かれる口、再びなぞられる私の唇。

 その舌を直接感じたくて、私も舌を伸ばして触れる。

 それだけでは物足りなくて、舌を絡めるように動かしてゆく。

 口の中に響く水音、あふれる唾液、それは唇の隙間を流れていく。

 あごを垂れるのも気にせずに、洋服にこぼれてしまうのも気にせずに続ける。

 私の頭の中は溶けてしまったかのように、キスの事ばかり考えている。

 もっと、もっと、沢山。おねだりするように舌を動かし、絡めてゆく。

 私のおねだりに応えるようにマナの舌先は少しだけ激しさを増す。

 舌が絡み合うほど、響く水音を聞くほど、頭の中は熱がこもって、何も考えられなくなっていった。

 

 ため息ひとつ、マナの口から。

 どちらともなく解く舌。

 離れる唇、その間を渡る銀の絃、カーテンの隙間から差し込む夕陽に朱く煌めいて、きらきらと、そのままシーツに吸い込まれる。

 消える絃を見ていると、今までのことが頭の中によみがえる。

 普段の自分では考えられないほどの大胆さに、恥ずかしさが全身を襲う。

 顔を隠すように頭を再びマナの胸へ。

 マナは一瞬だけ驚くけど、私を受け入れて、再び髪を撫でてくれる。

 やさしく、やさしく、撫でてくれる手。

 でも、髪を撫でる際に触れられている耳は、少しずつ欲情をかきたてる。

 そして、封じた想いを少しずつこじ開けてゆく。

 あまりにもいやらしい願い、マナには知られたくない想い。

 でも、頭の中で勝手に膨らんでしまう。

 

 …もっと、色々な処にキスしてほしい。

 胸とか、背中とか、うなじとか、内股とか。

 キスだけじゃない、もっと全身に触れてほしい。

 私の全部を奪い取ってほしい。

 私も、マナの色々なところにキスしたい。

 髪に、首筋に、脇に、おへそに、足に、つま先に、そして、誰もまだ見たことがないはずの所にも。

 そして、お互い生まれたままの体で抱き合って、直接マナの暖かさを感じたい…

 

 でも…それはできない。

 マナはまだキスしか知らない。

 その先の行為は私しか知らない。

 私だけしか知らない、私の想いで、マナのすべてを奪ってしまったら、マナはマナではなくなってしまうのではないか。

 私が尊敬し、憧れる、マナの清らかな心と躰を、壊してしまうのではないか。

 そう思うと、私の想い、欲情を、マナに向って満たすことはできない。

 

 …でも、でも、もし、マナが「そういうこと」を知っていたら…?

 期待を少し、おねだりをたくさん含ませた、熱っぽい瞳でマナを見る。

 マナも、同じ瞳を返してくれるのを期待して。

 

 …でも、返ってくるのはいつもの瞳、そして、いつもの笑顔。

 決して欲情にまみれた瞳を返すことはない。

 私は、心の中でため息をひとつだけつく。残念さと、安心のため息。

 そして、再びマナの胸に顔を埋めて、少しだけ眠ることにする。

 あふれそうな欲情を、ゆっくり、ゆっくり、自分の心の奥底に沈めてゆくために。


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