ふと想い出す出逢いの時
それはとても最悪なもので…
(2014年、Pixivさまにて初公開)
かたり、と優しい音は貴女の心にあふれる優しさをあらわしているようですね。
青い薔薇模様のティーカップとソーサーはテーブルに置かれ、細く、綺麗な指が離れます。
その、ひとつひとつの優しくも美しい所作に私は釘づけになってしまいます。
「おいしかったわ。ありす、ありがとう」
「いえ、お口に合ったようで、よかったですわ」
じっと見つめていたことがわからないようにゆっくり視線を顔に移します。
かすかな笑みは本当にお茶を気に入っていただけたようで、私も嬉しいです。
ここまで素晴らしいお茶を作ってくださる素晴らしい農園、今度買収を検討してみましょうか。
初秋のやわらかな陽差しに六花ちゃんは輝いて、そのお姿を更に美しく見せてくれます。
私は悟られないようにそのお姿をしっかりと心の中に記憶します。
すると、ふと、心の中の記憶が呼びさまされます。六花ちゃんと初めて逢ったあの頃の。
初めて出逢ったのは小学校3年生の時です。
当時、公立の小学校に通っていた私は、財閥の社長の娘というだけで周りからは腫れ物をさわるような扱いを受けていました。
先生方からは、私に何も起こらないように常に監視している様子がありありと見えました。
私の家族は、私を特別扱いしないようにお願いしていたみたいですが、あまり守られていなかったようです。
クラスの皆さんも、親御さんからの言いつけなのでしょう。なるべくなら私に近づかないように。もしくは、私とどうしても接触する必要があるのなら、困らせないように、怪我させないように。そういった様子がありありと見えました。
たまに、私に接触してくる子がいたとしても、私の家がお金持ちだからお近づきになりたいという子か、もしくは、当時背が低かったですから、そのことでいじめてくる男の子だけでした。
そんな中、私の目の前に異質な存在として現れたのが、六花ちゃんとマナちゃんです。
あれは進級して最初の始業式の日でしたでしょうか。
教室に入ると、にわかに騒がしい中心にマナちゃんがいて「握手をすれば誰でも友達」それを早々に実践していました。
マナちゃんの名前は、友達がいなかった私でも知っているくらい有名でした。
隣のクラスに、頭がよくて、運動も得意で、困っている子がいればすぐに助けてくれて、みんなのお手伝いをなんでも引き受けてくれるすごい子がいる。2年の時、ふと耳に入ってきたお話です。
自分の席を確認して向かおうとしたそのとき、マナちゃんが近づいてきました。
「はじめまして! あたし、相田マナ! あなたのお名前は?」
マナちゃんとは別の意味で有名だった私は、まさか名前を尋ねられるとは思わず驚いてしまいました。
そして、この元気よさ。こういう子がクラスで人気になるのはよくわかります。
その時、思いがけず心に生まれたわずかな反発心がこんなことを言わせてしまいます。
「ご存じかと思いますけど…」
年相応ではない精一杯のいじわる。
すると、マナちゃんの後ろから冷たく厳しい視線が飛んできます。
それが六花ちゃんとの初めての出逢い。
私はその視線に少し恐ろしさを感じてしまいます。
「あなた、そんな!」
「大丈夫だよ、六花」
マナちゃんを押しよけてつかみかかってくるのではないかという勢いの六花ちゃん。それをマナちゃんは腕を横にのばしてやんわりとおさえます。
「直接教えてほしいんだ。教えてくれるよね?」
私は、変わらないその態度に、全く変わらないその笑顔に、なんて不思議な子なのでしょうか、そう思いながら答えました。
「四葉、ありす…です」
それまで、大人には自己紹介をしたことはいくらもあるのですが、同年代にはほとんどありませんでした。なので、どのように自己紹介したらよいのかわからなくて、おずおず、といった自己紹介になってしまいました。
「ありがとう! これからよろしくね」
「はい…」
マナちゃんからの握手がひとつ。それが終わるとマナちゃんはまた別の子へと向かってゆきました。
マナちゃんの後ろにいた六花ちゃんも、最後に少しだけ厳しい視線を私に向けて、マナちゃんについてゆきました。
思えば、六花ちゃんとの初対面は最悪なものでしたね。
次に六花ちゃんとお話をすることになったのはその2ヶ月くらい後でしょうか。梅雨の間の珍しく晴れの日でした。
そのころにはクラスの中も落ち着いてきて、クラスの皆さんの大体の役割が定まって…それは、小学生故に残酷なヒエラルキーができた頃…クラスの中心は予想通りマナちゃんが。そのお目付け役のようにそばにいるのは六花ちゃんでした。
私は相変わらず腫れ物にさわる、いえ、それよりも見ない方がいいという考えの人が多かったのでしょう。無視されるか、もしくは、いじめられるかのどっちかでした。
ただ、クラスの中心にいるマナちゃんをのぞいては。
マナちゃんはことあるごとに私に話しかけてくれました。
困っているときにはいつも手をさしのべてくれました。
その後ろからいつも困ったようは顔をしていたのは、六花ちゃん。
その、困った顔の理由はよくわかります。
六花ちゃんは親御さんのおっしゃることを素直に守りたい、けど、マナちゃんの行動は唐突なこともあって、いざとなればマナちゃんの前に立つ必要があるかもしれない。そんな両はさみの立場だったのでしょう。
いつもいつも、本当に困った顔をしていましたので、私は決して自分からマナちゃんには近づかないようにしていました。
でも、マナちゃんはそれでも私に近づいて話しかけてくるので、六花ちゃんの気づかれは相当なものだったでしょう。
その日はセバスチャンが家の用事で出かけていて、めずらしくお迎えが遅くなる日でした。
私はセバスチャンを待つ間、梅雨の合間の久しぶりの夕暮れに染まる学校を散歩してみることにしました。
こんなこと、普段では絶対にできませんし、したとわかればセバスチャンに怒られてしまいます。
廊下を歩いていると校庭からはクラブ活動をする声が響いてきます。でも、校舎の中は誰もいないのではないかというくらい、静まり返っています。
夕暮れの橙色に染まる教室は、初めて訪れた場所のようにも感じるくらい、いつもと違う様子を見せてくれます。
しん、と静まり返って、まるで別の世界にきてしまったのではないか、そんな錯覚まで覚えてしまいます。
陽が届かない理科室の廊下にある標本棚では、静かに、鉱石の標本が輝いています。
家庭科室の木の長い机は綺麗に並んで、やわらかに橙の色をたたえています。
音楽室からは小さくピアノの音が聞こえてきます。
音楽の先生でしょうか。廊下には優しく、そして、甘い音色が響いています。
その音をもっと聴いてみたくて、その音色に引き寄せられるように、音楽室まで来てしまいました。
ピアノの音は先ほどより大きくなって、胸の奥まで届くかのようです。
そのようなすてきな音色を響かせるのはどなたか、興味がわいてしまうともう止められません。相手に気づかれないように、そっと、音楽室の扉を開きます。
ひときわ大きく響くピアノの音。音楽室の中に視線をさまよわせると、思いがけない方がピアノを弾いていました。
それは、あの六花ちゃんでした。
六花ちゃんは真剣な表情で、ピアノを弾いています。
一生懸命、足を、腕をのばして、すてきな音色を奏でています。
そんな表情の六花ちゃんを見るのは初めてでしたから、珍しさにじっと見つめてしまいました。
音楽室の窓からさしこむ夕暮れに照らされるピアノを、そして、六花ちゃんの真剣な表情を見ながら、演奏に聴き入ってしまいました。
「だれ?」
いつの間にか曲は終わっていました。椅子に座ったままこちらを見つめる六花ちゃん。その口調はちょっと厳しめでしたが、私の顔を見るなり、困った表情になりました。
「よ、四葉さん…」
そう、声を出すだけでも精一杯だったでしょう。
私は、じっと見ていたことをとがめられるのではないか、そう思い、音楽室から逃げ出そうとしたそのときでした。
六花ちゃんは椅子を慌てて降りると、走ってきて私の腕を優しくつかみました。
「あっ…」
それは不意の行動だったのでしょう。私より先に六花ちゃんが驚きの声を上げます。
私も驚いてその顔を見つめます。
六花ちゃんも、私も、その先の言葉が続きません。
どうしてこんなことになっているのか。
頭の中で整理しようと思った、そのときです。校内にチャイムの音が響きます。
その音を合図に六花ちゃんの腕が離れます。優しく。
「あ、えっと…」
ごめんなさい。のぞくつもりは…。そう続けるつもりでしたが、先に六花ちゃんの言葉が重なります。
「ごめんなさい。腕、怪我なかった?」
本当に心配そうに言う六花ちゃんはおろおろとした表情で、こちらが申し訳なくなってしまいます。
「は、はい…大丈夫です…」
つられてこちらもおろおろとしてしまいます。
すると、
「え、えっと、ごめんね、四葉さん」
そう言って、六花ちゃんは楽譜をまとめ、そのまま音楽室を出ていってしまいました。
私は、つかまれた腕の暖かさと、よそよそしい態度の六花ちゃん、そして、おいて行かれた寂しさと、色々なことが突然に起きすぎて、ただ、ずっと、その場に立ち尽くすしかできませんでした。
校内を探しにきたセバスチャンに怒られるまで。
3日後、梅雨の激しい雨の日。
今度は大雨による渋滞に巻き込まれて、セバスチャンの到着が遅くなってしまうとの連絡が入りました。
放課後の校舎は灰色と雨音におおわれて、全部が沈んで見えて、私の心もちょっと沈んでしまいます。
セバスチャンを待つ間、私の足は勝手に音楽室へと向かいます。
音楽室への廊下には誰もおらず、ひんやりと、鈍く、床が光ります。
外から響く雨音にまじって、ピアノの音がかすかに聞こえてきます。それは、忘れもしません。六花ちゃんのピアノです。
私の足は少しだけ早くなります。
そして、同時に頭の中に先日のことがよみがえります。
とても楽しそうにピアノを弾いていた六花ちゃん。
でも、私の顔を認めるなり、よそよそしくなった六花ちゃん。
そして、つかまれた腕…
私の足が少しだけ遅くなり、行くか行かないか、迷います。
でも、それでも、私は六花ちゃんのピアノが聞きたいから、音楽室の扉をそっと開いてしまうのです。
あふれ出てくるピアノの音。これは『アマリリス』ですね。私の頭の中に楽譜が浮かびあがります。
やさしく、かわいく、音符が音楽室から躍り出ます。
けれども、初めて弾いてからそれほど経っていないのでしょう。所々つかえます。
そのたびに六花ちゃんは苦しそうな、悲しそうな、そんな表情をして、また同じところからやり直します。
私の心は、いつの間にかそんな六花ちゃんを応援していました。
がんばってください。そこはそうです。そう、とてもお上手ですよ。
六花ちゃんの応援に夢中になっていた私は、いつの間にか音がやんでいたことに気づきませんでした。
扉は開かれ、今まで見たことのない、恥ずかしそうな表情で六花ちゃんが現れた、その時まで。
「四葉さん…」
恥ずかしそうな顔のままの六花ちゃん。私はその表情が珍しくてまじまじと見つめてしまいます。
「のぞかれると…集中できないよ…」
たしなめるような口調、恥ずかしそうな声で、そう言います。
先日の態度から、またもやよそよそしい態度をとり、そのまま音楽室から出ていってしまうのかと思っていましたが、そんなことはなさそうです。
「のぞいていないで、部屋に入ればいいのに…」
そう言うと、六花ちゃんは私の手を取り、音楽室の中に導きます。
私は驚いてしまって、ただ、六花ちゃんに手を引かれるままに、音楽室のピアノから一番近い席に座らされました。
今までこんなことは一度もありませんでした。
同じクラスの方とふたりきりでひとつの部屋にいるなんて。
思いがけないことにドキドキしてしまいます。
どうしてこんなことになったのでしょう…私の頭の中はその言葉を繰り返します。
六花ちゃんはピアノを一生懸命弾いています。
先ほどと同じ、アマリリス。所々つかえながらも、なんとか、なんとか弾いてゆきます。
私も思わず手に力が入ってしまいます。
先ほどつかえたところが上手にゆけば、私も嬉しくなります。
さきほどつかえたところをまたつかえてしまうと、私もちょっと悲しくなります。
でも、それ以上に、がんばって、がんばって、そう心の中で応援してしまいます。
そうしているうちに、六花ちゃんもなれてきたのか、4度目の挑戦で最初から最後までつかえずに弾くことができました。
「やったっ!」
嬉しそうな声、椅子から飛び降りる六花ちゃん。
「おめでとうございます!」
私も思わず口にしてしまいます。思った以上の嬉しい声で。
六花ちゃんは私に駆け寄ってきて、私の手をぎゅっと握ります。
「四葉さんが応援してくれたおかげだよ!」
その、六花ちゃんの態度に私は驚いてしまいました。先日の六花ちゃんとは人が変わったようなその態度。
その驚きが顔にも出てしまったのでしょう。六花ちゃんは私の顔を一目見るなり、申し訳なさそうにゆっくりと私の手を離し、一歩離れます。
「ご、ごめんなさい。怪我はなかった?」
心配そうに言葉にします。
私は大丈夫、とお伝えしますが、まだ六花ちゃんは一歩引いたままです。
やがて、六花ちゃんは何かを考えているような表情になります。
そんな六花ちゃんの様子を見ていると、やがて、決意したような表情に変わります。
「この間はごめんなさい。四葉さんのこと、避けるみたいになっちゃって…」
ぽつりと六花ちゃんが言います。
私も大丈夫ですよ、と繰り返します。
もうなれっこですから…その言葉は飲み込んで。
「この間の四葉さんが、いつもと全然違うから、私びっくりしちゃって…」
六花ちゃんは私の瞳をじっと見つめると、どうしてこんなに態度が変わってしまったのか教えてくれました。
今までの私のイメージは、いつもつんと澄まして黙っているような子で、話しかけにくいイメージだったそうです。
でも、先日の六花ちゃんのピアノを覗いているとき…六花ちゃんは私が覗いていることに気づいていたそうですが…私が意外にも表情豊かにしているのを見て、少し驚いてしまったそうです。
「マナは、いつも四葉さんのことをいい子だよ、って言ってたんだけど、話しかけづらくて…でも、この間のピアノの時の四葉さんを見て、いつか話しかけてみようと思ったの」
六花ちゃんは再び私の手を握ります。
「マナの言うとおりだった。あの時は応援してくれてありがとう」
さらに、六花ちゃんは手を握る力をちょっと強めて、
「そして…今までごめんなさい。これから仲良くしてね、四葉さん」
「え、あ、は、はい……こ、こちらこそ…」
その時の六花ちゃんの表情がとても晴れやかで、そして、かわいくて、私はどぎまぎしてしまい、六花ちゃんに手を握られるにまかせていました。
その後、六花ちゃんと音楽室でピアノやマナちゃんのお話をしました。
お話をしていると六花ちゃんはころころと表情が変わります。
それまで私も、六花ちゃんは表情があまり変わらない方かと勝手に思い込んでいたものですから、その意外な所から六花ちゃんに興味を持ってしまいました。
やがて、響く下校のチャイム。それと同時にピアノ室の扉が開かれます。
六花ちゃんがびくっと体を震わせます。
そこに現れたのはセバスチャン。六花ちゃんはセバスチャンの姿を見るなり、机の後ろに隠れてしまいます。
「だ、だれ…?」
六花ちゃんは小さな声で尋ねます。
私は、大丈夫ですよ、と伝え、セバスチャンに話しかけます。
「セバスチャン、ごめんなさい。また勝手にいなくなって」
私とセバスチャンが知り合いとわかると六花ちゃんは机の後ろから出てきます。
「え、えっと…」
「初めまして。四葉家執事のセバスチャンと申します。どうぞお見知りおきを」
そう言って、頭を下げるセバスチャン。
「あ、はい…菱川六花です…よろしくお願いします…」
おずおずと、まだ恐怖感が消えないのでしょう。小さな声でぽつりと言います。
「お嬢様。もうお時間ですので。車でお待ちしております」
そう言うと、セバスチャンは音楽室から出てゆきます。すると、六花ちゃんは大きな息をはいて、
「はぁ…びっくりした…四葉さん、怖くないの?」
「ええ、セバスチャンは優しいですから」
怒ると怖いけど普段は優しい、私のご自慢のセバスチャン。初めて逢う方々は皆さん同じイメージを持たれるようですが…
「そ、そうなんだ…も、もう帰ろう?」
そう言うと、六花ちゃんは楽譜をまとめてピアノを閉じます。
そして、並んで音楽室から教室へと戻りました。
教室に戻るとひとつだけ、影がありました。
見間違えようがありません。マナちゃんです。六花ちゃんを待っていたのでしょうか。
「六花、おつかれさま…あ、四葉さんも一緒だったの?」
私たちの姿を認めると、マナちゃんは嬉しそうな顔を向けます。
「うん。音楽室で一緒だったの」
「そうなんだ。六花と四葉さん、いつの間に仲良くなったの? いいなぁ」
そう言うと、マナちゃんは私の手を取って、
「あたしとも仲良くしてね、四葉さん」
大きな笑顔でそう言います。
私もつられて笑顔になってしまいました。
この日から、私は六花ちゃんやマナちゃんと過ごすことが多くなりました。
最初は、私が人気者のマナちゃんのそばに近づくことをよく思わない人もいましたし、先生方も、いつも騒ぎの中心にいるマナちゃんのそばに私がいることで、私自身に何かあるのではないかと心配している様子でしたが、私は気にしませんでした。
私には、この、初めてできた大切なお友達とともに過ごす時間の方がとても大切だったのですから。
六花ちゃんのピアノの練習にも毎回顔を出すようになりました。
六花ちゃんの練習に私がお手伝いすることもありました。
時には連弾でひとつの曲を奏でることもありました。
六花ちゃんとの連弾は安心して奏でることができます。
自分よがりにならず、だからといって、私にたよりきったりしない。私の演奏にあわせてくれる、とても優しい六花ちゃん。
そんな六花ちゃんのことを私はますます好きになってしまいました。
六花ちゃんも私との連弾はとてもやりやすいといってくれました。
私はとても嬉しくて、今でもその言葉は宝物です。
やがて、私と六花ちゃんは…
「ありす? 考えごと?」
意識が戻されます。ちょっとだけ心配そうな顔の六花ちゃん。私は笑顔を向けます。
「少し、初めて出逢った時のことを思い出していただけですわ」
そう言って、紅茶を少し口に含みます。
口の中に広がるかすかな苦みは出逢った頃の私たちのようです。
でも、それは、お砂糖とミルクでほどけてゆきます。今の私たちみたいに。
「初めて逢ったときは、こんなに仲良くなるなんて思ってもみなかったわ」
六花ちゃんも思い出しているのでしょう。初めて逢ったあの日のことを。
「ええ、私も」
ゆっくりと、カップとソーサーをテーブルに置きます。
その手に優しく六花ちゃんの手が重なります。
かすかにひんやりとしたその手が気持ちいいです。
私はその手を握り返して、指を絡めます。
六花ちゃんの綺麗な指が私の指に絡みつきます。
ふと、視線を感じて瞳をあげると、椅子を立ち、上から私を見下ろすような体勢の六花ちゃん。その澄んだ瞳は情熱におおわれて、同じように熱情におおわれた私の瞳を映します。
「ありすと出逢えて、私、幸せよ」
ささやく言葉に私の胸は高まります。
六花ちゃんは瞳を閉じると、ゆっくりと、やさしく、私の唇の上にそのやわらかな唇を降らせます。
口の中に残る甘い紅茶の余韻はさらに甘く。
その甘さに私の頭の中はとろけてしまいそうに…
「出逢えてよかったです。六花ちゃんに…」
とろけきった頭の中でつぶやくその言葉は、私自身をとろかすように、身体の奥へとしみこんでゆきました。