【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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冷静に考えれば分かることだろうに

 『偽りの勇者』としての役割を終え、『救世主』としての道を歩み出した俺こと、アヤメ。

 現在兵士が詰め寄る詰所で事情聴取を受けていた。

 

「それで、お前はこの村に入って何をしようと企んでいたんだ? 」

「いや、待ってくれ。何でもう何かする前提なのかな? 本当に怪しいものじゃないんだ」

「何を言うか、怪しい仮面を被ってこんな辺境…自分で言うのも何だが、そんな村に冒険者でもないお前が入って来ようだなんて不審人物以外の何者でもないじゃないか」

 

 目の前の真面目そうな青年…いや、少年か? とりあえず俺よりは年下の男の子を前に、俺は弁解を続ける。

 

「本当に俺は怪しい者じゃないんだ。俺は旅人でね、身元もあのエルフ…アイリスちゃんが保障してくれる。それに俺はこれでも腕に自信がある。魔獣なら何匹も倒した事もあるんだ」

「ほー、ならその魔獣殺しさんは丸腰なのにどうするつもりだったのだ?」

 

 ぐぅの音も出ない。

 『偽りの勇者』だった俺は元々聖剣しか所持していなかった。それを失えば丸腰なのはわかりきった事だった。

 何故なら勇者と言えば聖剣の所持が必須だ。そこに他の剣を持っても聖剣には劣る。だから、聖剣以外を持っても意味がないから嵩張るのを防ぐ為にその他の武器を持たなかった。

 小さいナイフくらいならあったが、それも戦いの最中に失われた。

 

 丸腰に仮面をつけた男。少し考えれば余りにも不審者過ぎると分かっただろうに。

 救世主になろうと浮かれていたのかもしれない。知能指数が著しく低下している気がする。もう20になったというのに恥ずかしいばかりだ。そう言えばメイちゃんにはよく勝手に突っ込む癖があるとも言われていたっけな。反省しよう。

 

「なぁ、お前は何者なんだ?」

「俺か? 俺は『救世主(ヒーロー)』だよ。といってもつい最近目指し始めたんだけどね」

「…やっぱお前怪しい奴だろ」

「ちょっ!? そんな目で俺を見ないでくれるかな!? いや確かに俺の言葉はすぐ信用出来るものじゃないと思うけどさ!」

 

 どうやら完全に疑われているらしい。このままでは本当に逮捕されかねない。

 とりあえず目の前にいる青年をどう説得しようか頭を悩ませていると、詰所の扉が開かれた。

 

「やれやれ。真面目過ぎるぜ、ラティ坊(・・・・)

ラティオ(・・・・)だ! いい加減その呼び方はやめてくれ! 俺はもう『兵士』なんだから」

「おーおー、一ヶ月前になったばかりの新人がもう一人前気取りか? だからお前はラティ坊なんだよ」

 

 かっかっと笑う男性の顔は赤い。それにこの臭い…もしかして酒を飲んでいるのか? 

 彼は散々目の前の青年(ラティオというらしい)をからかった後、俺に向き直る。

 

「それであんた、確かアヤメって言ったっけか? 釈放だ、村に入って構わねぇよ」

「えっ?」

「なっ、こんな不審者を村に入れるのか!?」

「まぁ、落ち着けや。どうやらこの青年は山で死にかけていた所をあの嬢ちゃんに拾われたって話だ。その後一緒にいるってな」

 

 死にかけてたのは本当だし、拾われたのも嘘ではない。ただしだいぶ内容が脚色されているけど。

 アイリスちゃんが俺の為に作り話を話したのだろう。

 

「エルフが信頼する人種なんてそれこそ数える程だ。なら、別に入れても良いだろ。エルフの不興を買う程、お前も頭が回らない訳ないだろ?」

「それは…そうだが」

「わかったなら鍵を渡せ、ほれ」

 

 渋々ラティオくんが鍵を渡すと、中年の兵士は俺の腕にかけられた手錠を外してくれた。

 

「ありがとう、正直中々に落ちつかなかったんだ」

「まぁ、お前は犯罪者かその疑いがありますって言われてるようなものだしな。ま、こうして村に入れるんだから気にすんなよ」

「うぐぐ…」

 

 話していると突然、ラティオくんが立ち上がって俺を指指してきた。

 

「…僕は認めた訳じゃないからな! 何か起こしたら真っ先にお前を捕まえてやる!」

「責任感が強いんだね。大丈夫だよ、俺はこの村に害を及ぼす気はない」

「その言葉信じるぞっと。ほれ、お前さんの荷物だ」

「あぁ、ありがとう。それじゃお世話になりました」

「絶対! 認めてないからな!」

 

 男性から荷物を受け取り、ラティオくんの言葉を背に受けながら俺は詰所から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、やっと来たのです」

「ごめん、待たせた」

 

 詰所から出た後、木の幹に背を預けていたアイリスちゃんが俺を見つけて近寄って来る。

 

「アヤメさん、災難でしたね」

「全くだよ。まぁ、今回のは俺の不注意から生じたことから彼らを恨むことはないんだけどね」

 

 彼らは自らの職務を(まっと)うしただけだ。そこを責めるつもりなんて毛頭ない。寧ろよく解放してくれたもんだと思う。

 

「そうだアイリスちゃん、あの男性が俺を解放してくれたんだけど何をしたんだい? 正直あの話だけで疑いが晴れるとは思えないんだけど」

「それでしたら素直に事情を話したのと、薬をあげたら釈放してくれたのです」

「薬? 袖の下を通したって事かい?」

「正当な取引なのです。彼は二日酔いに悩んでいたらしいので。決していかがわしいことではないのです」

 

 それを袖の下を通したっていうんだけだなぁ。だけどここでごちゃごちゃ言っても折角助けてくれたアイリスちゃんに悪いし、それに助かったのも事実だ。素直にありがとうと言っておく。

 

「しかし、武器かぁ」

「どうしたのですか?」

「いや詰所の兵士…ラティオくんだっけ? 彼に武器も無いのに何をするつもりだったんだって指摘されてね。確かに今の俺は丸腰なんだよ。元々は聖剣以外にも小さなナイフとかは持っていたけど、その殆どをユウが来るまでの戦いで消費してしまったんだ。だから何か武器になる物が欲しいんだけど、そもそもお金が無いんだよね」

「大丈夫です。この日の為に色んな街町村を渡り歩いて、薬草と交換でお金は稼いできたのです。剣の一本や二本くらい私が買ってあげるのです!」

 

 アイリスちゃんが自信満々に胸を張る。

 俺の傷もアイリスちゃんが塞いでくれたし、さっきの牢から解放されたのもアイリスちゃんのお陰だ。

 

 …あれ、これ俺アイリスちゃんのヒモじゃないか? 

 やめよう、考えたら悲しくなってきた。

 というか、逆にアイリスちゃんが逞しすぎる。どれだけ前から計画していたのだろうか。

 

「とりあえずあの酔っ払いのおじさんから聞き出したこの村の情報で、唯一の鍛冶屋に行くのです。そこでアヤメさんの武器を見繕いましょう」

「お手数かけるね…」

「えへへ、もっとわたしを頼って良いのですよ?」

「この借りは必ず返すよ」

「むぅ、そこはわたしに抱きついて甘える所ですよ」

 

 見た目少女の子に甘えるのは何というか気恥ずかしい。俺はあいまいに笑っておいた。

 

 

 

 村唯一の鍛冶屋は、鍛冶屋らしい無骨な感じの建物だった。何度か叩き立て付けの悪い扉を開ける。

 中は閑散としているけど様々な武具があった。何本かの剣が棚に飾らせているが、その剣も埃が被っている。中には乱雑に樽の中に入れられているのもあった。

 王都で見た武具に比べると大きく劣る。しかしそれは比べる対象が悪すぎるだろう。

「余り質が良さそうとは思えないのです」

「こらこら、そういうのは口に出してはいけないよ。それより店主が見当たらないな…何処にいるんだろう?」

 

 店内を見回すも、それらしき人物は見当たらない。

 大声で呼びかけると店内の奥からゴソゴソと物音がした。

 

「何だ? 客か? ったく、こっちは寝てたってのに」

 

 欠伸をし、腹をかきながら来たのは頭にタオルを巻いた髭の濃い男性だった。

 

「こんばんは、お邪魔させてもらっているよ」

「客か? こんな所にくるなんて珍しいな。ようこそ村一番の鍛冶屋へっと」

「村一番って此処しか鍛冶屋がないからじゃないですか」

「おうよ、だから俺が一番なのさ…って、ん? 耳が長い…まさか、エルフか!?」

「そうです! わかったら恐れおののき、わたしに剣を献上するのです!」

「こらこら。すまないね、連れがこんな事を言って」

「いや、子どもの戯言だ。かまわねぇよ。しかし、まさかこんな辺鄙な所でエルフにお目にかかれるとはなぁ。人生何があるかわからんもんだな」

 しげしげと男性はアイリスちゃんを観察する。

「やはり、わたしたちエルフを見るのは珍しいですか? 」

「そりゃそうさ、このオーロ村は辺境に位置する村だからな。訪れる人も少ないし、ましてやエルフなんぞに会えるとは思わねぇよ」

「辺境…だから余り質が良さそうじゃないのですね」

「こら、アイリスちゃん」

「いいってことよ。事実だしな。この村じゃ当然手に入る素材も限られる。その素材だって行商人も最近はあまり来ない(・・・・・・・・・)から手に入らん。お陰で、鍛冶屋とは名ばかりで村中の包丁を研いでるのが俺の現状だ」

「それはまた…失礼だとは思うけど研ぎ師に改名した方が良いんじゃないか?」

「全くだ。名乗ってなかったな。俺はファッブロだ。宜しく頼むぜ(あん)ちゃん」

「よろしく。俺はアヤメ。こっちはアイリスちゃんだ」

 

 差し出された手を握り返すとファッブロは頷く。

 ファッブロの手は職人らしいゴツゴツした手だった。

 

「さっき行商人しか来ないって言ってたけど、他に旅人とかも来ないのかい?」

「旅人もなぁ。こんな村に来るくらいなら他の町を通って国の方に向かうさ。国の役人も年に一度に税の回収くらいにしか来ないし、付近には俺たちの村しかないからなぁ。あ、でもこの間珍しく役人と兵士が来たな」

「それは?」

「あぁ、この前何でも『勇者』の名を騙る奴が現れたとかの手配で国からの使者が来た。まぁ、こんな所に来ないだろうとだれも深く見なかったけどな。どうやら捕まったらしいが、その後どうなったかは知らん」

 

 すいません、それ俺のことです。

 アイリスちゃんもじっと気まずそうに俺を見てくる。

 

「話が逸れたな。とりあえず客だって言うんなら見繕ってやる。それで何か希望はあるか?」

「そうだね…なら剣を見させてくれないか?」

「ん? 鎧とかはいらねぇのか。見た所兄ちゃんにはその手の防具がないように見えるが」

「手甲とかあれば欲しいけど、とりあえず今は武器が欲しいんだ。見ての通り丸腰でね。剣は持っていたけど諸事情で失ってしまったんだ」

「破損か紛失かは知らないが、まぁそう言うことなら仕方ないな。ちっと待ってな」

 

 ファッブロはガサガサと樽の中にあった剣をいくつか取り出して並べる。短剣から始まりバスタードソード、ロングソード、クレイモア、レイピア、中には大剣(グレートソード)もあった。

 

「剣を所望って事は兄ちゃんは『剣士』なんだろ? 兄ちゃんの体格で使えそうなもんを選んでみたがどうだ? 」

「そうだね…うん、これが良いかな」

 

 俺は無骨な、装飾品の無い剣を取る。

 大きさは1メートル40センチほどのロングソードだ。

 質という点ではもう少し良いのがあったが、これが一番形と重みが聖剣とほぼ同じだ。これなら違和感なく扱える。

 

「アヤメさんそれにするんですか?」

「うん、出来ればそうしたいんだけど…。一応切れ味を見たいんだけど、何か試し切りとかは出来るかな?」

「それならそこの机に乗ってる木なら切っても構わねぇよ。切れた木は(まき)にするからな」

「はははっ、次いでにこっちを働かせようとは(したた)かだね。というかそんな所に置いていいのか? もし机まで斬れてしまったらどうするんだ?」

「安心しろ。その剣は頑丈さに重きを置いてつくっていたから余程の腕前じゃなきゃ、薪斬る途中で途中で止まるからよ」

「む、アヤメさんは凄いんですよ! 今まで色んな魔獣を倒して来たんですから!」

「あー、わかったわかった。それじゃ、兄ちゃんよ。さっさと試してみてくれよ。あ、言っとくが技能(スキル)は使うなよ」

「あぁ、わかった」

 

 技能(スキル)を使うなって忠告にそもそも使えないんだけどね、と内心苦笑しながら俺は剣を両手に構えた。

 

 

 

 

 瞬間、アヤメの空気が変わる(・・・・・・・・・・)

 

(こいつ…雰囲気が)

 

 ファッブロも雰囲気の変化に気づく。ファッブロはアヤメが真っ直ぐ研ぎ澄まれた綺麗な刀のように思えた。

 

 

 

 

 俺は手の平にある柄の感覚を繊細に感じながら目を閉じた。

 

 勇者の象徴である聖剣。

 人の与えられる『職業』。

 誰しもが持つ技能(スキル)

 …そして『称号』。

 

 俺はそのいずれも失った。

 勇者専用の【聖剣顕現】【加速】から始まり『剣士』や『戦士』の技能(スキル)も一切使用できなくなった。

 

 これが俺が『偽りの勇者』でなくなったとき以来の初めて振るう剣だ。

 正真正銘の俺の実力を示す最初の一振り。技能(スキル)に頼らない俺自身の一振りだ。

 だから少しばかり本気で俺は剣を振るった。

 

 ーー瞬間薪どころか机まで真っ二つになり意図も容易く地面まで斬り込んだ。

 

「いっ!? 」

「すごいですアヤメさん! 」

「…おいおいマジか」

 

 ありえない結果に俺は思わず目を見開いた。

 

「馬鹿な、こんな風になったことなんて一度も」

 

 唖然と剣と握る手を見比べる。

 剣は変わらず鈍い光を発するだけだ。

 

 

 

 

 

 ーー確かにアヤメは『偽りの勇者』として女神より与えられた役割を果たした。

 それを終えた今、全ての技能(スキル)も使う事は出来なくなった。

 

 だが一つ思い出して貰いたい。

 彼は実力の低下した状態で八戦将の三人と戦い、敗北すれども生き残ったのだ。それ以前に魔物や魔族とも苦戦をすれど、全て討伐してきたのだ。

 それは謂わば『農民』が木の棒片手に魔獣に挑むなどに近い。そしていずれも討伐に成功しているのだ。

 そんな事を出来る人が果たして他にいるだろうか?

 

 アヤメは聖剣が鈍く重くなるにつれ、技術でそれをカバーするようになっていった。それはスキル(・・・)ではなく、アヤメ自らが生み出した()だ。勿論聖剣所持時の最盛期には劣るも、勇者としての強さの格を保つ程度には充分な強さだった。

 

 アヤメは確かに勇者足り得る力を持っていたのだ。

 しかしそれでも、それは聖剣という()を嵌められた状態での話だ。今のアヤメには聖剣がない。しかし聖剣があれば強くなるということでもない。

 

 アヤメは聖剣を喪った。

 結果、アヤメは呪縛(しゅくふく)から解き放たれ自身の力を遺憾なく発揮出来るようになった。

 

 幾多の強敵の死闘。

 ままならない身体に鞭を打ち、それでも勝利してきた技量。

 磨かれてきた卓越した技術。

 それらの経験は決して無くなることはなく、彼の身体に染み付いている。

 

 そう、既に(アヤメ)は技能のない剣士としての強さが最高峰と言って良いほどに成長していたのだ!

 

 

 

 

 余りにもアッサリと切れた事で唖然としていた俺だが、ハッとしてすぐさま頭を下げた。

 

「すまない! まさか薪どころか机も真っ二つにしてしまうなんて! 更には余波で店内にも被害が出てしまった」

「あぁ、いや。試し斬りして良いといったのはこっちだからな…」

「だとしてもだ。加減出来ずに店をめちゃくちゃにしたのは明らかにこちらの失態だ。弁償の金…は今はないが必ず返済する」

「アヤメさん、お金ならわたしが」

「アイリスちゃん、これは俺の過失(・・・・)だ。だから俺自身が償わなければならない。他の人の手を借りては駄目なんだ」

 

 自らの過失なのにアイリスちゃんがそれを払うのはお門違いだ。筋は通さねばならない。

 ファッブロは少し見直したように俺を見る。

 

「成る程な。初めは女に金をたかる怪しい奴だと思ったが、なかなかどうして怪しいがまともらしいな。怪しいが」

「あはは…二度も言わなくていいだろ? 」

 

 苦笑いで肩をすくめる。

 ファッブロは違いないと豪快に笑う。

 

「兄ちゃんよ、その剣も机の事も金はいらねぇ。その代わり、一つ頼まれごとを聞いちゃくれないか」

 

 不敵に悪うファッブロは、その人相に似合う悪人顔だった。

 

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