【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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魔王城のイメージbgmとしてはスーパーペーパーマ◯オの予言の執行人ノワール伯爵です。是非とも参聴してみて下さい。
敵側の幹部が一堂に集結するのって、めっちゃ好き。



番外編2 八戦将

 魔王軍。

 世界に於いて悲劇を撒き散らす悪の根源とも言われる人類の天敵。

 彼らの本拠地は"魔界"と呼ばれる魔物と環境に適応した魔物が跳梁跋扈し、瘴気とも呼ばれる非常に濃度の高い魔の素が蔓延る場所にある。常に過酷な環境は過去に魔王軍幹部を討ち取り、侵攻した人間軍が三日と持たずに潰走(かいそう)した所にある。

 そこに禍々しくも何処か荘厳な雰囲気を持ち、それでいて威圧するかの如く存在を放つ歴代より魔王城と呼ばれる場所がある。

 その魔王城の一室。中央の見事な円卓のテーブルを囲う八つの席があるこの部屋は幹部しか立ち入ることが出来ない会議室である。そこに五人の人影があった。

 

 

 

 

「失態ですね」

 

『水陣』の名を待つマーキュリー・チャングロォ・ハンツォンリーはそう判断を下す。

 彼の見た目は優美かつ雅びな着物を身にまとい、本人も優男と言って良いくらいに容姿も整っている。髪も調度品のようにきめ細かく水色に透き通っている。彼そのものが一つの芸術品のような美しさだ。

 しかしその目は何処までも厳しい。

 

「ベシュトレーベンさん、スウェイさん。勇者を仕留めずに勝手に退却するとは何事ですか。折角態々策を弄して人を騙し、あそこへ誘導し、誘き出したというのにそれをふいにするとは」

「…」

「だってぇ、気が乗らなかったのだもの」

「魔王様の意は人類の滅亡。その為には勇者を倒すのは必要不可欠。魔王様の意に逆らうこと、その重さを理解しておいでですか?」

「はっ、だからオレは言ったんだ。分かったら大人しく罰を受けるんだな」

「トルデォンさん。貴方もですよ。(なぶ)る事に夢中で貴方の相手をしていた剣士を取り逃がしているではないですか。獲物を嬲り、侮るのは貴方の悪い癖ですよ」

「あぁ!? なんでオレが責められなきゃならねぇんだよ!? 逃げたのはコイツらだぜ! 罰ならコイツらにしろよ、何ならその罰オレがやってやってもいいんだぜ!?」

 

 自らに飛び火したトルデォンが文句を言う。

 トルデォンの物言いに黙っていたベシュトレーベンが言葉を話す。

 

「罰ならば受けよう。だが、それは魔王(・・)より直々の時のみだ。貴様からの処罰など受けはせん。貴様のような弱者からはな」

「テメェ…なんなら此処で戦るか?」

 

 バチバチとトルデォンから静電気が発生しベシュトレーベンからは圧倒的な威圧が広がる。

 一触触発。それを止めたのは意外にも彼らを咎めていたマーキュリー自身だった。

 

「まぁ、よろしいでしょう。あの後情報を集めた所どうやら例の勇者…フォイル・オースティンは偽物だとわかりましたので」

「ふご、偽物じゃと?」

 

 これまで黙っていた者が反応する。その姿は黒い肌にでっぷりとした腹が特徴的な魔族のオークに似ていた。

 『獄炎』の名を持つブラチョーラ・玄・バルカンである。

 

「えぇ。神殿勢力によるとどうやら『真の勇者』と呼ばれるユウ・プロターゴニストこそ、今世代の勇者であり、フォイル・オースティンは勇者の名を驕った偽物であるらしいです。なので少々手の者にも(・・・・・)民衆を煽るようにし、彼を孤立させ『真の勇者』に渡る前に聖剣の回収もしようとしましたが全て撃退されました。その後、『真の勇者』に討ち取られたそうです」

「『真の勇者』ねぇ…。それって前の偽物勇者と比べてどうなんだよ?」

「不明です。ただ、遠くより観測させていた魔物から光を見たという情報を最後に連絡が途絶えたので、恐らく弱い魔物であれば余波だけで容易く蒸発させるだけの力がありますね。そう言えば『疾爪』の部隊も消息が知れません。ダウンバーストさんが敗れて以来好き勝手に動いていましたが連絡だけはまめにしていたので、それが途切れたとなると…。もしかすれば何処かでちょっかいを出し、敗れたのかもしれませんね」

「へー、アイツ速さだけなら光るものがあったのにな。まぁ、俺様の疾さにはついてこれねぇが」

「ブホホッ、それにしても『真の勇者』。遠く離れた魔物をも容易く蒸発させるとは一体どれほどの力なのか…ふご、豚豪、豚豪豪、豚業業業業業業業業!! 燃える…燃えるゾォォォオォォ!」

「あちぃっ! テメェ、勝手に燃えるなや! この焼き達磨!」

「ブホォッ! 雷を当てても我輩には効きませぬぞぉ! 焼ける感覚が心地いいぞぉ!」

「くそっ、このどM野郎が!!」

 

 悪態吐くトルディオに対し、ブラチョーラは豪快に笑う。その身体からは業火の如く炎が上がっていた。

 

「ブラチョーラさん今は少し抑えてください。…まぁ、『真の勇者』については今はまだ未知数なので観察を続けるしかないでしょう。手を出すのは危険です。今までとはあまりにも異質です。続いてですが、太陽国ソレイユとの事についてですーー」

 

 その後、話は魔王軍のこれからの方針へと移る。

 彼らにはもはや『偽りの勇者』であったフォイルの事は忘れ、これからの己が役割が何なのか聞いていた。

 

 

 しかし、この中で二人(・・)フォイルに興味を持った者がいた。

 

「ふぅ〜ん。『偽りの勇者』ねぇ。その名の通りなら彼は決して本物にはなれなかったということ。あぁ、そこに『真の勇者』に向けてどれほどの(ねた)み、(そね)み、(ひが)み、辛み、恨みがあったのかな。だったらあそこで帰ったの、早計だったかも」

 

 一人はスウェイ。彼女は偽りという役目を押し付けられたフォイルに対し少しばかり興味を抱いた。

 

「…あれが偽物だと?」

 

 もう一人は八戦将最強の『豪傑』のベシュトレーベン。彼はフォイルが偽物だったという事に反応する。

 

 確かにベシュトレーベンからすればあの時のフォイルは脆弱、軟弱としか言えないほどの実力であった。

 だがフォイルは真っ向勝負で自らの顔に一太刀入れた。侮り(・・)はすれどそこに自らの油断(・・)はなかったのに、だ。

 

(『水陣』の話が真であれば、奴は我にあの状態でこの傷を入れたということになる。自らの職業以外の力を使おうとすればその力は著しく低下する。奴が勇者ではないとすれば聖剣を扱うだけで多大な実力低下(ハンデ)を背負っていたはず。しかしそれでも奴は我に一矢報いた。それは(・・・))

 

 

 フォイルに傷つけられた頰の傷が疼く。

 今までにない高揚と闘争が身体を駆け巡るが同時に冷めた感覚がベシュトレーベンに広がった。

 

 何故なら奴は死んだ。つまり、もう再戦はない。

「つまらぬ…」

 

 もはや口癖となった言葉を吐いて、ベシュトレーベンは会議を続ける他の八戦将を意識の外に置いた。

 マーキュリーは話を続ける。

 

「ーー現状勇者を擁し、女神の加護を受ける彼の国との戦いは膠着(こうちゃく)していると『地蝕(ちばみ)』からも連絡がありました。ですがそれはある程度予想していた事です。寧ろ向こうの戦力が前線に集中してもらうことが好都合。色々と策を講じ易くなります。しかしその負担のせいか前線の方は少しばかり魔物と魔族の消耗が激しくなって来ました。別に戦線に支障があるわけでもないですが、向こうは「魔王軍恐るるに足らず」と人間側の士気を高めようとしています。少しばかり面白くないですよね?」

「全くだ。群れると強気になるのは奴らの常套句(じょうとうく)だな」

「別に此方(こちら)にとって替えのきく魔物がいくら死のうと痛手ではないのですが…余り魔王軍を舐められるのも不愉快です」

 

 マーキュリーはテーブルに置かれた地図の一箇所を指差した。

 

「そこで奴らに少しばかり痛手を与える事にしました。此処を見てください。名は商業都市リッコ、そこは物流の要衝(ようしょう)であり様々な国の商人がそこを通ります。そして太陽国ソレイユを始めとした魔界と隣接する国々と後方の国々を結ぶ重要な都市でもあります。しかも前線ではない事からかなり油断が生じています。同時にかなり裕福な都市でもあります。『大輪祭(たいりんさい)』と呼ばれる夜空に花火を打ち上げる多大な物資を消費する祭りを開くくらいに。そこで此処を落とし、街としての機能を奪いましょう。それでその役目ですが…」

此方(こなた)がやろうか?」

「よろしいので?」

「えぇ。だって今の戦況で祭りを開催するだなんてそれだけ立地と食料に恵まれているってことじゃない。あぁ、(ねた)ましくて(ねた)ましくて、妬いてしまうわ」

 

 ひんやりと会議室空気が冷たくなる。

 スウェイはくすくすと笑いながらも、その様子からは凄まじい嫉妬が感じられた。

 

「流石は嫉妬の魔女とも言われるだけはありますね。わかりました。貴方に委ねます」

「ふふ、それじゃ此方は失礼するわ。行くとしたら色々と準備することがあるもの」

 

 スウェイは席を立ち、部屋から出て行った。マーキュリーは見送る。

 

「後方に関してはスウェイさんに任せましょう。それではトルデォンさんとブラチョーラさん、貴方達にはソドォムとゴラァムと呼ばれる国を滅ぼして貰います。これらの国々は太陽国ソレイユに物資と兵士の派遣をし、援助を行っています。これが思いのほか少しばかり鬱陶しいので。彼らの前線に戦力を集中させたのはこの為です。今この国にはあまり戦力がない。更に例の(・・)私の配下で小国に取り入った者により、既に多くの魔族が手引きにより背後に回り、身を潜めています。この両国にも既に内部には魔族の手の者を入れているので彼らの手引きの下、包囲し存分に破壊、壊滅させてください」

「いいねぇ、そういうのを待っていたんだ」

「ぶごごごご! 全て燃やし、灰燼にしてくれようぞ」

「ただ、位置からしてどちらかに勇者が現れる可能性はありますが、その場合は退却して下さいね。我々の目的は国を陥とす事にあるのですが、最悪滅びずともある程度損害を与えるだけで結構です」

「あぁ? つまんねぇな」

 

 一転してやる気が衰えたトルデォンに「命令です」と強めに念を押す。

 トルデォンは舌打ちしながらも一応了承の返事をした。相変わらずにこやかなマーキュリー。次いで最後の一人に指示を出す。

 

「ベシュトレーベンさん、貴方は今回の作戦には関与する権限を与えませんので。偽物だったとは言え逃し、聖剣を回収するチャンスを逃したのは許されないことですので」

「好きにしろ」

「えぇ、好きにします」

 

 にこりと人好きのする笑みをマーキュリーは浮かべる。

 ベシュトレーベンは心底どうでも良さげに鼻を鳴らした。

 

「それでは各自、魔王様の為に己が武を示しましょう」

 

 その言葉で今回の会議は締めくくられた。

 

 

 

 八戦将が退出した会議室。

 そこにはマーキュリーだけがいた。その背後に新たに人影が現れる。

 否、それら(・・・)四人は初めから会議室にいた。だが全員がマーキュリーの背後にある柱の陰に佇みながらも一言も喋らなかったのだ。

 

 それらは異質だった。白髪の一見して少女にも少年にも見える中性的な顔立ち。それだけなら兎も角、四人誰一人として別ではなく同じ顔、同じ体格をしていたのだから。

 

「お疲れ様です、マーキュリー様」

「…誰も折角入れた茶を飲まなかった…不愉快」

「相変わらず濃い面子なの」

「そして誰もが自分勝手(じぶんかって)。本当にまとまりがない」

「えぇ、全く困ったものです。魔王軍と銘うつからにはそれなりに軍として機能してもらいたいのですがねあの人(・・・)も召集に応じませんでしたし」

 

 マーキュリーはふぅ、と態とらしくため息を吐く。それらも主の気持ちが分かっているからか態とらしく苦笑し、同じ目でそれらはマーキュリーを見つめる。

 

「国を落とすあの二人ちゃんと命令通り動きますでしょうか?」

「ブラチョーラさんは兎も角トルデォンさんは勝手に行動するでしょうね。恐らく勇者と戦おうとするでしょう」

「でしたら止めないなの?」

「無駄でしょう。あぁ言うのはこちらが言うと不満が溜まるタイプです。ならば思う存分戦ってもらいましょう。我々はそれを遠くから見させて貰います。『真の勇者』の実力がいかなるものなのかを…ね」

「…つまり生贄」

「ふふふ、言い方が悪いですよ。これでも同じ魔王軍の仲間なのですから、一応彼の勝利を願っていますよ」

「流石はマーキュリー様。腹黒い。奸智術数(かんちじゅっすう)

 

 それぞれが同じ声色で話すにも関わらず、マーキュリーは気にした様子なくそれぞれに言葉を返す。

 その際にふっとある考えがよぎる。

 

「スウェイさんが街を落とすのは別に心配していませんがどうせまた人を追い出すくらいですかね…。殺しはしないでしょう。まだ同族意識(・・・・)でも残っているのでしょうか。全く染まるなら染まるでこっち側(・・・)になってくれたら良いものの…」

 

 まぁ、今回は別に問題にはならないかとマーキュリーは本題の方に思考を巡らせる。

 

「『真の勇者』…文献を探した所そのような名は何処にも見受けられませんでした。ですがどれほど強くとも人である以上出来ることには限り(・・)がある。八戦将にとって脅威なのは勇者のみ。なら同時多発的に八戦将が国を襲えば勇者はどれか一つしか救えない。そうやって一つずつ、国を落としていけばいいのですから」

 

 勇者と魔王の歴史は長い。だがいずれも最後には魔王が敗北している。

 そのどれもが自らの力に奢り、一人一人幹部が討ち取られた所為だ。八戦将は魔王を守る要。人の厄介さは力で劣るからこそ知恵を絞り、協力することにある。

 ならば勝ちを狙うならば複数の幹部で包囲し、殲滅すればいい。

 フォイルの時は実力を慎重に測り、それで今ならば抹殺しえると決め、三人の八戦将を送り込んだのだ。実際フォイルは敗走しているのでマーキュリーの分析は正しかった事となる。唯一の計算外はベシュトレーベンが殺さずに戻った事か。

 マーキュリーは知っている。魔王軍は強い。だからこそ過去の魔王軍は敗れたのだと。

 強いからこそ、勇者と一対一で(・・・・・・・)戦わずにはいられないのだ。

 しかし、だ。マーキュリーは思う。

 

「勇者と正面切って戦う理由が何処にあるのでしょう? 例え最後には雌雄を決するとしても、我らの目的は人を滅する事であり、勇者は別に最後(・・)でも良いのですから」

 

 勇者一人が残った所で意味はない。

 だからこそ策を(こう)じ、緩やかな滅亡に人類を向かわせる。じっくりと、大地に水が染み渡るように。

 そうして彼らの基盤を侵し、脆くする。

 

 人類が気付いた時にはもう手遅れなのだ。

 

 置いていかれたコップの水面が、マーキュリーの歪んだ笑みを映していた。

 




八戦将
 水陣のマーキュリー・チャングロォ・ハンツォンリー
 氷霧のスウェイ・カ・センコ
 獄炎のブラチョーラ・玄・バルカン
 迅雷のトルデォン・ロイド
 爆風のダウンバースト(討伐済)
 地蝕の???
 豪傑のベシュトレーベン
 ???

因みに元ネタは中国の八仙になります。
その割には力が物騒ですが。
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