【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した 作:髭男爵
魔王軍の幹部は桁外れの力を持つ。それはたった一人に対し国の軍隊が敗北したという逸話があることから分かる通り、その力は圧倒的だ。
例えば『爆風』の名を持ったダウンバースト。奴は戦いの最中6つの竜巻を周囲に発生させた。その威力は凄まじく避難させた民には被害が出なかったが歴史ある建物は全て破壊された。『魔法使い』であっても精々竜巻を1つ作れるのが山だ。それほどまでに人と魔族には隔絶とした差がある。
だから氷を操るスウェイの事もそれに匹敵する程の実力者だとは思っていた。
思ってはいたが。
「さすがにこれは予想外だろ!?」
周りの家々より高い氷の巨人に俺は叫ぶ。
【
決して甘く見積もったつもりはなかった。
最大限の警戒もしていた。
だが、今の状況は俺の考えが浅かった事に他ならなかった。
「早くこの場から離れるんだ!」
「は。はい!」
「お、おにいちゃん!」
「こっちは大丈夫だ! 行け!」
走り出す親子。
それを見届けて前を向くとスウェイは俺に向かってパンチを繰り出した。
質量が増した事により、とても早く感じる。
俺はそれを躱す。
轟音。
地面は簡単に粉砕された。
更に陥没した元いた箇所が瞬く間に凍ったのを目にした。
「くっ、やっぱり攻撃した箇所も凍るのか!」
捕まれば、俺もさっきの魔族と同じ結末だ。
体の上を少し走るだけなら大丈夫そうだが長時間触れ合うのも危険だろう。
『【突き穿つ氷の槍】』
凄まじい数の氷の槍が巨人の腕の表面から発射される。
「ちぃっ!!」
俺はそれを走る事で躱すも当たった地面や家が凍りついた。
『やっぱり貴方、中々にやるわ。
頭上より出現した3メートルはあろう氷柱が降り注ぐ。その強度は高く、地面に突き刺さる程だ。
幸い攻撃の精度は高くない。だから躱すのは大丈夫だ。だが道を塞がれ、更には落ちた箇所から氷が広がり俺の行動範囲を狭めていく。
それはつまりスウェイの領域が広がると言うこと。
まずい。
本当にまずい!
この状態が続く限り、いずれ躱せないタイミングで攻撃をしてくる事は目に見えている。だが、こっちの攻撃も通じない。
一方的だ。
焦燥に駆られるも良い手が思い浮かばない。
聖剣さえあればと脳裏で叫ぶ自身がいる。
違うだろう! 聖剣に頼ってどうするというんだ!
しかし、現状は最悪だ。
手の打ちようもない。
理性が言う、一度退けと。
本能が言う、勝てるはずがないだろうと。
「また、見捨てるのかッ…!?」
俺は見てきた筈だ。
魔王軍によって蹂躙された人々を。俺が助けられなかった人々を。
あんな光景を見たくないと誓ったはずだ。
「諦めて…たまるかァッ!!」
『…ふ〜ん、あの兵士達と違って根性あるわね。でも、それもいつまで続くかしら? さぁ、このまま追い詰めて…っ』
突然『氷の巨人』に巨大な
「攻撃? 何処から…」
言って俺は気付いた。
恐らくは街を囲う防壁の上からだと。
元々商業都市リッコは、その好条件な立地からかつては色んな国が此処を落とそうと躍起になった。それを防ぐ為に厳重な城壁の上にかなりの数のバリスタが設置されていた。これにより、多くの侵攻する軍隊を撃退することが出来た。
城壁にいる兵士達は魔王軍に襲われていることに気づいていた。
初めこそ、街中にいる魔物に撃つべきとの声もあったがそれでは市民にも当たると却下された。
破壊されていく街を指を咥えて見ることしか出来なかった兵士達。
すると突然巨大な氷の巨人が現れた。巨人は街を蹂躙していた。
しかしこちらからすれば格好の的であった。あれだけの巨体なのだ。外す訳がないと許可された。
城塞都市を囲む壁に固定されたバリスタから矢が放たれる。確かにあれだけの巨体なら外さないだろう。だが、魔獣すら貫くそのバリスタも氷の巨人の前には余りにもちっぽけだった。
城壁から放たれる極太の矢の雨。
鉄で出来たバリスタは浅くではあるが【
いける、倒せるとバリスタを撃つ兵士達の士気があがる。
だが、裏腹にスウェイは全くと言って良いほどバリスタの攻撃を問題視していなかった。
『こんなただ少しばかり大きな矢で
【
バリスタの矢がスウェイに到達する前に凍っていく。そして氷の巨人にぶつかるといとも簡単に砕けた。無論、氷の巨人に傷はない。
それでも尚撃ってくるバリスタにスウェイは鬱陶しく感じた。
『小賢しい』
スウェイは巨人の腕をバリスタの方へ向ける。そして指先から放たれた【
そのまま薙ぎ払うように全てのバリスタを凍らせていく。
そして破壊されたバリスタは辛くも犠牲者は出ないも全て沈黙する。
「ッ! くそ!」
俺は自らの不甲斐なさに歯ぎしりする。
止めることが出来なかった。
【
スウェイは巨人から辺りを見渡し、逃げ惑う人々をその目に捉える。彼らは先程の攻防を見ており、バリスタが破壊された事でより一層混乱に拍車をかけていた。
『……馬鹿ね、愚かね。敵うはずもないというのに。さぁ、さぁ、さぁ。自らの無力を痛感して
何処までも
人々はその言葉に街を脱出しようと誰もが門を目指した。
そしてスウェイは俺の方に向き直る。
『さぁさぁ、戦いましょう? 貴方にはまだまだ付き合ってもらうわ』
ズズッと巨人の手を振りかぶる。
何を、と思ったらスウェイは近くにあった家々を薙ぎ払った。
倒壊した家々の煉瓦が雨あられの如く俺に襲いかかる。それはまるで石の散弾だ。
避け、駄目だ、数が多過ぎる!
「"
雨粒すら跳ね除ける絶技で迎撃する。
周囲に人がいないから、どこに弾いても良いので迎撃には集中出来た。
だが、態々スウェイがそんな隙を見逃す訳がなかった。
『【
ヒュンと魔族の身体を凍結させた魔法が放たれた。
俺は迎撃を中断して、その場から飛び跳ねる。その際に一際大きな石が頭を掠った。
どろりと流れでる血。
だがそんなのに構うよりも俺は先程のスウェイの攻撃の意図を図り損ねていた。
何故ならスウェイは巨人の五指から放たれた【
なら何が。
そう思った俺は、突然俺の左腕に衝撃が走り凍り始めたのを見た。
「しまった!?」
背後の【
当たった左腕が徐々に凍り始める。
『【
スウェイの言葉など聞こえない。
今はこの状況を脱する為の手段を探すのが先決だ。
俺は壁に凍りつく腕を叩きつける。意味がない。
凍っている箇所を剣で剥ぐか? いや、今も侵食しているのにそんな悠長な時間はない。
ならどうする!?
このままでは俺の身体が凍りつく。
何な、何か手段は。
そうして周りを見てふと此処に見覚えがあるのを思い出した。スウェイと戦闘している内にアイリスちゃんと祭りを歩いていた位置まで戻っていたのだ。
「なら、もしかして」
俺は辺りを見渡す。そして探していたものを見つけた。
あれなら……!
俺はそれを目指して走り出した。
『逃げるつもり? 逃がさないわ。いえ、一体何処を目指して……?』
見つけたのは《大輪祭》の時、林檎飴を売っていた店の隣にあった焼き芋屋。
そこには当然、焼き芋を作るために熱した石、
店主はいない。逃げたのだろう。
だけど好都合だ。俺は熱く熱された加熱石の前に立つ。
「ぬ、ぐぁぁあぁぁぁッ!!」
凍った腕を溶かすために俺は躊躇なく加熱石の中に左腕を突っ込んだ。
声が上がる。
痛い。痛い。焼ける。灼ける。焦げる。
十分に熱せられ、氷が溶けたと判断した俺は左手を取り出す。酷い有様だった。皮膚が爛れ、筋肉が焼かれている。指先の感覚も酷く鈍い。明らかに重度の火傷だ。
握るだけでも痛む。だが、痛むだけだ。まだ動く。まだ戦える。ならば大丈夫だ。
俺は笑みを浮かべた。
『……貴方馬鹿なの? いかれているの? あんな焼き石の中に手を突っ込むとかマトモじゃないわ』
「はっ! 八戦将と戦っているんだ。まともな方法で勝てるだなんて思っていないし、無傷で済むだなんても思っていない。それよりも残念だったね、俺を凍らせられなくて」
『ふんっ、次はそんな風に解凍する暇もなく瞬時に凍らせれば良いだけよ』
再び、【
俺はそれを見て、歯を食いしばりながらも次の攻撃を見逃すものかと覚悟を決めた。
『ん?』
不意に氷の巨人の肩に矢が刺さった。
【
「うぉぉおぉぉぉ! 【一撃粉砕】」
建物の影から現れたバディッシュがその身の丈と同じ大きさのハンマーを振るい、氷の巨人へ直撃した。
重量級、それも飛竜の頭を粉砕できた一撃を足に受けるも氷の巨人は倒れるどころか姿勢を崩しもしない。
「はぁっ! やっぱり膝を攻撃しても意味ないか!」
「そりゃ、生物じゃないしね! ゴーレムみたいなものよ!」
「あの様子では溶かしても壊してもすぐに再生します。正に打つ手なしとはこういうことですね」
「おいおい、感心している場合かい!」
騒がしくも現れたのは見覚えのある三人。間違いない。
「バディッシュ! それにランカくんにミリュスちゃん! どうしてここに」
「街にいた魔物と魔族なら全て倒した! 兵士と冒険者の協力もあったし、
「奴は八戦将のスウェイ・カ・センコだ!」
「八戦将!!? おいおい、やべー奴とは思っていたがなんでそんな魔王軍の大物がこんな街にいるんだよ!!」
「うそ!? そんなの敵うわけないじゃない! うわぁぁ、逃げよう! 今すぐ逃げようよ!」
「いや、無理ですよ。攻撃したせいか明らかにこっちに目が向いてます」
「へっ、ケツ叩いたのが随分とおかんむりのようだな。お前ら逃げても良いぞ」
「そうですね。…...逃げはしないですよ。此処、僕の故郷なんですよ?」
「うぅ…...バディッシュの無茶振りは今に始まったことじゃないものね。わかったわ、アタシも腹をくくるわ」
「お前ら…...へっ、良いか。絶対に死ぬんじゃねぇぞ! おうよ、アヤメ! こっから先は俺たちも付きあってやんよ!」
無謀だ、馬鹿な事を、なんて事を俺は言わなかった。
それは俺も同じだ。
彼らはそれを分かってなお此処に来た。死ぬかもしれない場所に。
街の人を、故郷を守る為に。
その心意気を感じ、無下にする事など出来るはずがない。
だからこそ俺が言うのは一言だけだった。
「ありがとう、助かるよ」
三人はにっと笑った。