【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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激闘

『また……! なんでよ、なんでみんなして此方(こなた)()()()()()()()! 潰れてしまえ! 【巨氷の天雹(ヘイル)】」

 

 苛立ちか、怒りからかスウェイは声を荒げる。

 だけど、何故だろうか。

 戦闘中だというのに、どうしてか俺には()()()()()()駄々(だだ)をこねているように見えた。

 

 スウェイが(とな)えると同時に上空に膨大な数の氷が形成される。【氷柱(アイスクル)】と違って一つ一つは鋭利に尖っていない。だが数が多い。

 局地的に俺たちに向かって降り注ぐボールほどの大きさの(ひょう)

 

「大丈夫です! それなら自分が撃ち落とせます、【必中一矢・連射】」

 

 弓矢を(たずさ)え、瞬く間に迎撃するランカくん。

 放たれた多数の矢は瞬く間に雹を砕く。一矢足りとも、ランカくんの弓矢は外れない。迎撃に漏れた雹によって、周囲に被害は出るも俺たちには一つも雹は当たらなかった。

 

『邪魔よ、【大氷塊(グラン・アイスブロック)】」

 

 しかし、次には雹が集まってまるで岩の如く巨大な氷の塊が形成された。

 

「あ、それは無理」

「来るぞ! 散開!」

 

 バディッシュの掛け声に全員その場から逃げ出す。

 彼らが元いた場所の付近にあった家を簡単に粉砕する。(とどろ)轟音(ごうおん)

 バディッシュは【動く氷巨像(ヨトゥム)】に近づきハンマーを振るう。

 

「オラオラァッ! 不恰好な銅像作りやがって! もっと精巧(せいこう)に作りやがれ!」

『うるさい、そっちこそその程度のハンマーで此方(こなた)の【動く氷巨像(ヨトゥム)】を破壊出来ると思っているの? そんなんじゃ『鍛冶屋』とすら名乗れないわ』

「うるせぇっ! 俺は『鍛冶屋』じゃねぇよ!」

「【圧縮された風よ、相手を切り裂け、鋭利に、深くに、速く! 風の鎌(カマイタチ)】」

『只の()()()、『爆風』に全く及ばない風で何が出来るというの?』

「やっぱり効いてないぃ!! もう嫌ぁぁ!!」

「俺もだ! あぁ、くそったれ! 攻撃が来るぞ、さっさと走れ走れ走れぇ!! 凍ったらどっかの貴族様に飾られる氷像になるぞ!!」

「それもいやぁぁ!!」

 

 逃げるバディッシュ達を追うスウェイ。

 その巨人の右手に強大な魔力を練っている隙を突く!

 

「彼らに気を取られ過ぎだ! "緋華(ひばな)"!」

 

 建物を登って背後から飛び出し、【動く氷巨像(ヨトゥム)】の背中を攻撃する。

 スウェイの隙を突いた、渾身(こんしん)の突きだ。だがーー

 

 ギィンッと、到底氷を斬ったとは思えない音が鳴った。

 

 魔法によって形成された属性は、術者によって差異が出ると言われている。只の氷なのに鋼鉄並みの硬度を誇るスウェイの技量は、やはり卓越(たくえつ)しているのだろう。

 

「うっ、ぐぅッ……!」

 

 固い氷に剣を叩きつけた反動で火傷した右手が痛む。皮膚も裂け、出血する。だが、諦めずにもう一度、剣を振るう。

 再び、硬質な音が鳴る。

 やはり手応えはない。

 

 だが、だからといって諦めてたまるか!!

 

 確かに【動く氷巨像(ヨトゥム)】は硬い。だが、巨像が人型(・・)である以上必ず構造的に(もろ)い部分がある。

 肘、膝、股、首、目ーー何処でも良い。それを探すだけだ。

 

 俺は【動く氷巨像(ヨトゥム)】の上を走って、出来うる限り連撃を至る箇所(かしょ)に加える。止まる事は出来ない。止まれば足元から凍っていく。

 ならば最小の動きで、最大の距離を稼ぎ攻撃を加える。

 

 背を駆け上がる俺に気付いたスウェイが上空に【氷柱(アイスクル)】を出現させて、【動く氷巨像(ヨトゥム)】に突き刺さしていく。

 

 俺は、何とかそれを躱す。

 更には水平方向に【突き穿つ氷の槍(ピアス・アイス・スピア)】が形成され、射出される。

 (おびただ)しい数の氷の槍を"沙水雨(さみだれ)"で迎撃する。

 常に走りながらの迎撃だ。時にはかわしきれずに、身体に当たってしまう箇所もあった。

 俺はそれを凍る前に、短剣で肉ごと削り落とす。

 痛さなど感じない。もしかしたら冷たさで痛覚が麻痺しているのかもしれないが、この時は好都合だった。

 

 次第にスウェイがいる氷の華の部分までに近付いた。

 

『【魂まで凍えよ天閃氷華(アンテノーラ)】』

 

 四方八方から氷の華が現れ、高速で回転し冷気を放ち、氷花弁で攻撃してくることで俺を凍らせようとする。

 左右前後に躱せる所は、ない。

 いや、一箇所だけある!

 

『これで……何!?』

 

 俺は思い切り上に跳躍する。

 避けて、氷の華を足蹴にして一気にスウェイのいる頭部の華へ近づいた。

 

「"月凛花"」

 

 上空からの着地と同時に横に一閃。何処でも良い、何処か俺の攻撃が通用する場所を探す為に使った絶技は。

 

 

ーーパキィン

 

 

 微かだが、氷が割れた。

 

「今のは、うぉ!?」

 

 小賢しいと思ったのか、スウェイは巨人の腕で俺を叩き落とそうとしてきた。間一髪避けるも、俺は体勢すらまともにとれておらず、しかも空中だ。もしこの状態で【突き穿つ氷の槍(ピアス・アイス・スピア)】を撃たれたら終わる。

 

 俺はその時、目くらましとして全ての煙玉を投げた。

 

『っ、煙?』

 

 氷に包まれたスウェイにダメージはないがそれでも目くらましにはなる。

 実際に相手はこちらを見失った。俺はその好きに体勢を整えて屋根に着地して、家々の陰に隠れる。

 

 わかっていたことだが。

 俺の攻撃は殆どがスウェイには通用しなかった。それどころか、俺は凍った箇所を短剣で肉ごと抉り取ったせいか至る所から出血している。このまま長期戦にもつれこめば俺のが不利になるだろう。

 

 だが無理をした収穫はあった。奴の【動く氷巨像(ヨトゥム)】について、ある程度の事は分かった。

 

 バディッシュの時と違い、俺の攻撃した箇所でほんの少し(ひび)が入った所がある。

 背後からだったが頭に当たる氷の華、そこだけが脆い。内部にいるスウェイ本人には届かなかったが、少なくとも氷が割れたのだ。

 

 ならその事を彼らに伝える必要がある。

 俺は路地裏へと身を(ひそ)めた。

 

『む、どこにいったの?』

 

 後には煙が晴れ、俺達を見失ったスウェイだけが取り残された。

 

 

 

 途中合流したバディッシュ達と路地裏で息を整えていた。その際に軽く出血した箇所を手持ちの包帯でぐるぐる巻きにしておく。

 

「はぁ……はぁ……よぉ、そっちはどうだ」

「無理よ無理……そろそろ魔力つきそう……」

「僕もこれ以上は余り矢がありません」

 

 バディッシュもかなり疲弊していた。

 無理もないだろう。あれだけの大物相手に今だ生きていることが幸運だ。

 

 

 状況は宜しくない。

 無理もなかった。こっちの攻撃は通じず、向こうばかりが一方的に攻撃出来るのだ。無駄と知りつつも攻撃しなければならないことは肉体的だけでなく、精神的にも疲労が出る。

 

 それに魔力の差も大きい。あれだけの力を行使しても、全くスウェイは疲れた様子を微塵(みじん)も見せなかった。同じ『魔法使い』のミリュスちゃんは疲弊しているのにも関わらずである。

 

「……やはりそう簡単にはいかないか」

 

 元より覚悟はしていたが、余りにも悪い状況に眉をひそめる。

 魔物と魔族はバディッシュの話だともういないが、スウェイがいる限りこの都市は陥落(かんらく)したも同然だ。

 だからこそ、スウェイを倒す必要があるのだがその手段が思い浮かばない。

 

「それでこれからどうするよ? やっこさん、俺らが何処にいるのかは気付いていねぇみたいだが」

「巨体ゆえに死角は多いですからね。しかし、氷のせいで隠れる場所も限定されますね……」

「あちこち凍って、まるで氷土(ひょうど)みたいよ」

「普通なら珍しい光景を見たって言いたいどころだが命の危険があるとなりゃ、呑気(のんき)に喜んでいないわな」

「それにあんまり隠れてもいられない。もし標的を俺たちから市民に変えたら大変だ」

「しかし無策では勝てませんよ」

 

 ランカくんの言葉は真実だ。

 だから俺は先程の戦闘で気付いた事を彼らに告げる。

 

「いや、一つだけ分かったことがあるんだ。【動く氷巨像(ヨトゥム)】の頭部である()。スウェイが内部にいるところだけど、彼処(あそこ)だけが他と比べて脆い」

「なに? 本当かよそれは?」

「あぁ、間違いない。攻撃した時、僅かだが氷が砕けたんだ。(ひび)もね。他の場所ではビクともしなかったのに」

 

 スウェイの慢心か、それとも魔法の弱点かわからないが少なくとも技能(スキル)ではない、俺の絶技でも()()()()には攻撃が通じたのだ。

 ならそこを攻撃すれば良い。

 理屈ではわかっているのだが……

 

「しかし、弱点がどうしようもありませんよ。僕らでは彼処に近付くのも困難ですし、唯一狙えそうな壁のバリスタは先程ので全滅。僕の矢も、貫けるとは思えない」

「あたしも、魔法をただのそよ風扱いされた……。多分、あたしの魔法じゃ何やっても通用しないと思う」

「俺の【一撃粉砕】なら、って言いたいところだがあんな所まで行けるとは思えねぇ」

 

 問題はそれであった。

 弱点らしきものは見つかった。だが、そこを攻撃する為の手段がない。スウェイも馬鹿ではない。今のままもう一度俺が攻撃しようとしたら全力で迎撃してくるのは目に見えていた。

 

 全くと言って良いほどあの【動く氷巨像(ヨトゥム)】の攻略法が思い浮かばない。

 

(こんな時、ユウがいれば……いや! 何を考えているんだ俺は!!)

 

 暗くなる雰囲気に、つい弱気になる。

 いない幼馴染を思い浮かべてしまうほどに。ユウならばこの状況を打破出来る策を考えられるのではないかと。

 ダウンバーストを倒した時みたいに。

 

 だがいない人を頼っては何も事態は好転しない。

 俺は自らを叱責(しっせき)する。

 その際、凍えるような寒さに身を震わせた。

 

「はぁっ……寒いね、ここは」

 

 俺たちは今、体温を奪われている。

 スウェイが攻撃した後の場所は凍りつき、冷気を放っている。お陰でこの場一帯の気温が下がっている。さながら冬のようだ。

 

 やはりスウェイを倒すには、【動く氷巨像(ヨトゥム)】の頭部を攻撃するしかない。

 だがそれを破壊するには俺の力と、剣の力が余りにも不足している。せめて『爆風』を倒した時ぐらいの聖剣の()()があれば……

 

「待てよ、火力(・・)?」

 

 火力、つまりは()

 頭の中で自分の位置ととある場所の位置を浮かび上がらせる。

 氷。冷たいもの。ならば奴の弱点は……!

 

「どうしたアヤメ?」

「何か妙案でも?」

「あぁ、いや。…そうだな、聞いてくれるか?」

 

 俺は自分の考えた作戦を打ち明けた。

 その時脳裏に浮かんでいたのはユウだった。

 あいつもこんな風に作戦を考えては、俺達に話していた。

 

 俺はユウみたいにはなれない。

 だけど、側で見続けてきた。その真似事なら出来るはずだ。

 俺は自らの考えた作戦を彼らに打ち明けた。

 

 俺の語った内容に彼らは驚きながらも、確信したように頷く。

 

「……いけるぞ、それ。幾ら俺の攻撃やバリスタが通じないあの巨人だが、元を辿(たど)れば氷だ。なら通じない訳がない」

「あぁ。俺もそう思ったんだ。だが……それだと彼らを危険に晒す。戦闘職でもない彼らを巻き込みたくない。それに、そもそも避難している可能性が」

「いや、いるだろう、あそこの頑固(がんこ)さは筋金入(すじがねい)りだ。危険と言われて、はいそうですかと退避する輩じゃねぇ」

「昔、あの工房を取り込もうとした他の都市の大商人の話も蹴ったくらいですよ」

「凄く頑固(がんこ)なんだよね。技も見て覚えろって全然教えてくれないってシンティラくんもよく言ってたよ」

「……だが少なからず危険はあるんだ。スウェイも馬鹿じゃない。きっと撃ってきたとわかったら(ほうむ)ろうとする。そうなれば、きっと彼らは」

「アヤメ。この街はな、俺もだがあそこの工房の連中にとっても故郷なんだ。ならその街を守る為には何だってしたいんだ。お前が思ってるのは杞憂(きゆう)だ。お前が思うほど()()()()()()()()()。それによ、他に手段はねぇんだろ?」

「それは」

 

 わかっている。

 今の俺一人じゃ、八戦将は倒せない。

 俺の力じゃ、スウェイに届かない。

 

 彼らの力を借りたら勝機はあるかもしれない。

 だが、彼らを命が()かった戦いに巻き込むというのが、俺はどうしても納得できなかった。

 でも同時にそれが最良だと、唯一の光明になるともわかっていた。

 

 酷いやつだ。

 自分で考えておきながら。彼らを巻き込もうとしているのは自分なのに。

 俺はまだ迷っている。

 

 そんな俺の気持ちを分かったのか、バディッシュが無事な俺の右肩を叩く。

 

「それに、あの爺さん達。お前が言わなくても、俺らがやられて工房を襲われそうになったら死なば諸共(もろとも)で撃ち出すぞ。なら、その前に今の作戦を告げた方が勝率が高い。そうすれば、全員生き残れる」

「彼らはあたし達が守ってあげたら良いしね」

「僕も。……やらずに後悔するよりもやって後悔する方が良いです」

 

 彼らは既に覚悟を決めていた。

 ……なら、俺も覚悟を決めよう。

 もし仮に、それでバディッシュ達と彼らが死んだらそれは全て俺の責任だ。その罪は俺が死ぬまで背負っていく。

 

 顔を上げる。

 決めたのなら時間が惜しい。

 今すぐにでも頼まないといけない。

 

「わかった。彼らに頼もう」

「おうよ。まぁ、ないとは思うが万が一断られたら俺らは終わるな。それで誰が伝えに行く?」

「あぁ、待ってくれ。俺は通信出来る魔法具を持っているんだ。それでまずアイリスちゃんに伝えるよ」

「通信出来る魔法具? よくそんなのを持っていましたね。国や軍でもなければ普通持っていませんよ」

「あはは……、ちょっとした掘り出し物でね」

 

 嘘は言ってない。

 実際オニュクスが持っていたのを拝借しただけだ。

 俺は腕輪のスイッチを押し、アイリスちゃんに繋がるのを待つ。一呼吸する暇もなく、アイリスちゃんは出た。

 

「アイリスちゃん聞こえるかい?」

『アヤメさん!? 大丈夫ですか!?』<カウカゥッ>

「あぁ、大丈夫だよ」

「そうですか……良かったです。それにしても、なんですかあれは! 頭だけ花なんてすっごくバランスの悪いのです』

「つっこむのそこなんだ……。それよりもお願いがあるんだ。君の近くにあるダルティス工房にいってダルティスさんに伝えてくれ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

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