【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した 作:髭男爵
スウェイは【
『何処に行ったの……』
睨みながら探すも見つからない。
巨人は大きいが、肝心の目となるのはスウェイ自身だ。ならば視界には限りがある。
商業都市リッコはその成り立ちから様々な形状の家々が乱立していて、裏路地も含めると一度逃げられたら再度見つけ出すのは例えこの都市の兵士でも難しかった。いかに高さというアドバンテージを得ても隠れた人間を探すのは難しい。
スウェイは思考する。
いっそのこともう一度コキュートスで炙り出すか。それか全方位に【
いや、とスウェイは首を振る。
そんな事をする気も起きない。
今の奴にそんな事をすれば死んでしまう可能性があった。
(だけど、だからといって足元を掬われる気はないわ)
スウェイは最早
理由はわからないが、最後に会った時より明らかに身体能力が増している。
正確には、ダウンバースト討伐時の時の時と同等に戻っているが正しいのだが、スウェイが知るフォイルはベシュトレーベンに敗れた時の姿のみなのでその事を知るよしはない。
スウェイは冷静に自らが生身であればその剣が届く可能性があることを把握していた。
しかし、それは
今のフォイルには聖剣がない。つまり、【
ならばこそ、今此処で奴を
此処で逃走を許せば後々厄介になるのが分かっているからこそ。
カンッと己の【
スウェイは矢の飛んで来た方向へ視線を向けると、フードの下の唇を左右にあげた。
こちらに向かって矢を撃って来たランカ
フォイルは不意打ちにも関わらず、避ける。そしてまたもこちらに剣を構えて向かって来た。
それで良い。逃げられなければ良いのだ。
『はっ! 逃げなかったのね、それだけは褒めてあげる!』
奴は自らの氷を破ることは出来ない。
必ず捕獲してやる。
そして真意を問いただすのだ。
そうすれば、
スウェイはある期待を胸に秘めながらも戦闘を継続するのだった。
戦いは激化を辿った。
アイリスがダルティス達から了承を得たと聞いた後、アヤメ達は再びスウェイの前に姿を現した。
最早殆どの場所が凍りつき、無事な所を探すのが難しい。
此方に対して向こうは攻撃すればするだけ此方に干渉できる場所が増えるのだ。
まだだ。
まだ、
だからこそ時間が必要だ。
その為には隠れていては、いつ周囲に向かって無差別に攻撃するかわからなかったアヤメ達は姿を現したのだ。
だが、スウェイはそんな時間を稼ぐ事も許さなかった。
「あぐぅっ、あ、足が」
戦いの最中、氷の槍を避けたミリュスだが躱した先にあった凍らされた地面に足を取られた。氷はパキパキと生き物のようにミリュスの足をつたり、動きを止める。
「ミリュスちゃん!」
『行かせるとお思いで?』
「なっ、くっ」
アヤメの進路先に巨大な【
周囲の建物も凍っていて迂回できず、これでは通ることができなかった
『他は雑魚だけど、貴方が一番厄介。だから
「ひっ!」
「ミリュスゥゥ!!」
「ダメだ、射線がッ。避けてください!!」
バディッシュが叫び、ランカが逃げるように吠える。
それがどれだけ無茶か、二人にもわかっていた。だけどそうせずにはいられなかった。
ミリュスは【
攻撃は通じない。
避けろという声も意味はない。
もはやミリュスが掴まれるという所で
その手がミリュスを掴む前に突如として
爆発した時の余波の熱でミリュスを捕らえていた氷も溶け、ミリュスは爆風で転がり回る。
「う、きゃうぅぅ!」
「ミリュス!」
「ミリュスさん!」
「わぁぁ! 生きてる!? 私生きてるよね!!?」
「生きてますよ」
「まぁ、格好は酷いがな」
「えっ? きゃあぁぁぁ!!」
ミリュスは転げ回った事でボロボロの衣服になったことに気付き、慌てて隠す。気心の知れた仲間とはいえ、下着類を見せるのは乙女として恥ずかしかったのだ。
「今のは……!」
アヤメは撃ってきたであろう方向に目を向ける。
そして捉えた、空中を
それがスウェイに辺り、再度複数の爆発音。
『くぅっ、一体なに!?』
氷の手は砕けはしなかったがスウェイは襲ってきた熱に驚いた声をあげた。
「親方、一発外れました!」
「馬鹿野郎、もっとちゃんとして狙え!」
「痛いっ!」
叩かれるシンティラ。ズバゴッとおおよそ人の頭を叩いたとは思えないほど重い音が鳴る。
ダルティスはその間も次の玉を用意するように声を張り上げる。
「ほら次の玉早くしろ! 玉遊びならガキの頃やったことあるだろうが! 今更母親の手を必要とする訳じゃねぇだろ!」
「わかってるわ!」
「うるせぇ、次はもっと正確に当ててやる!」
「さっさと点火しやがれ!」
「よーし、良い心意気だ! ほら急げ急げ!」
ダルティス工房は、街の中でも少し小高い位置にある。周りを防壁で囲まれているが、資材自体は外に持ち出す事も出来る。
こうして花火を打つ為の筒を並べた後、本来上に向かって打つ花火なので筒の角度の調整に難儀したが、設置した後は片っ端から打ち続けた。何せ目標はでかいのだ。外す訳が無い。
慌しく動く花火師達。
側にはアイリスとジャママもいた。
アイリスは繰り返し轟く音に、ビクッとしながらもそれに負けないくらいに声を張り上げる。
「あの! アヤメさん達には当てないでくださいよ!」
「分かっておるわ! 何年この仕事やってると思っている、そんなヘマなんぞするか!」
アイリスの言葉に吼えるように答えるダルティス。そこにシンティラの泣き言が入る。
「親方ぁ! なんでこんな頼み引き受けたんですかぁ! 逃げましょうよぉ! というか僕逃げる準備の最中だったんですよ!」
「馬鹿言うな! 此処は儂ら故郷だ! そして長い歴史のある大輪祭、それを担うワシら工房が真っ先に逃げ出すなんてありえん! そうだろ馬鹿野郎ども!」
「「「おうよ!!」」」
シンティラ以外の花火師達は誰一人として怯えていなかった。
ここにいる花火師たちは全てを見てきた。
街が凍るのを見た。魔族に襲われるのも見た。故郷が蹂躙されるのを見た。
だからこそ、この街が終わる時は自分らもと腹をくくっており誰一人として工房から逃げ出していなかったのだ。最も、今回はそれが幸いしてアイリスが伝えるとすぐに準備に取り掛かれたのだが。
バディッシュの言う通り、此処の職人達は頑固だったのだ。そして同時に郷土愛の
バリスタが破壊されたのも見たのに、彼らはそれにひるむ事なくアヤメからの頼みを引き受けた。
恐怖はない。
寧ろ
花火師達は全員笑っていた。
下手をすれば死ぬ可能性があるにも関わらず、彼らは兵士達以上に
「ふんっ、まさかこれを
そんな中一人だけ何処か複雑そうな表情を浮かべるも、ダルティスは直ぐにそれを振り払い砲撃を開始する。
大きな破裂音とともに次々と花火が咲いたーー
次々と打ち込まれる花火。破裂する衝撃と熱が『魔法使い』の炎を食らっても解けなかった氷を、僅かではあるが氷の巨人を溶かし始めた。
『煩わしい、素直に逃げ出せば良いものを……!』
スウェイは苛立ちを隠さない声色で睨む。
そのままズズズと氷の巨人が動き出す。
どうやら直接その手で工房を潰すつもりらしい。だがそれはさせない。
「どうした!? お前の狙いは俺じゃなかったのか!?」
『っ! この偽物め!』
巨大な氷の腕が振るわれる。
乱雑な動きの
「そんな雑な攻撃で俺を仕留める気か!? 八戦将ともあろう奴が聞いて呆れるね!」
『うっとおしいうるさいうざい! 邪魔ばかりして!』
スウェイはアヤメを仕留めようと躍起になっていた。だが、お陰でターゲットが向こうからこちらに移った。
これでいい。スウェイを誘導できている。
ならば懸念することは1つ。タイミングだけだ。それを成し遂げるにはーー
(頼んだよ、バディッシュ、ミリュスちゃん、ランカくん……!)
花火が止み、再び対峙する両者。
そんな中、スウェイも気付かずにいつのまにか三人は姿を消していた。
☆
アヤメが立てた、ダルティス工房の花火を使ってスウェイを砲撃する作戦。それには続きがあった。
それは花火を撃ち込んでも尚、スウェイが健在である可能性だ。
【
だからこそ、【
スウェイがアヤメに目標を定めたその隙に、バディッシュは物陰に潜みながらも対峙する両者を眺めていた。
「あの攻撃の中まだ生きてるとかどんな身体能力してんだアイツ……」
アヤメは建物を盾に、時には足場に、ロープを使って飛び移ったり、露店の天井を利用して大ジャンプしたりと縦横無尽に駆け回っている。
しかも自身に向かってくるスウェイの攻撃を迎撃もしている。左腕の火傷や全身負傷しているのに信じられない。
少なくともバディッシュにはあそこまでの動きは出来ない。
「まぁ良い。俺は俺の頼まれたことをするだけだ。だから、ランカ、ミリュスお前達も気張れよ」
バディッシュは同じく、スウェイを倒すために頑張っている仲間に激励の言葉をかけた。
アヤメを追って氷の巨人が動く。その動きは苛烈で、氷による攻撃が常に放たれ、時には家ごと粉砕されている。
「次は肩……!」
ランカは移動するスウェイを追いかけながらも、確実に狙った所に矢を放ち続けていた。
繰り返し放たれるその矢には、
『ランカくんにはこれを矢につけて撃ってほしい』
『これは?』
『
元々スウェイに対して矢は効果が薄かった。精々が気をそらす程度でしかない。
その度にランカは口を食いしばった。自らの弓の腕も何の意味がなかった。
そこで頼まれたアヤメからの頼みごと。
死の危険があるにも関わらず、少しでも勝率を上げるため、アヤメの策に乗った。
つまり、命をかけたのだ。
「どの道僕の弓では先ほどのバリスタにも及ばない、届かない。なら貴方の策にかけますよ!!」
ヒュンヒュンと突き刺さる矢。
始めの頃は気付いたスウェイも全く己に効いていない事、今やアヤメに注意を取られている事からその攻撃を放置した。
そう、彼女は
アヤメはスウェイからの猛攻を避け続けながらある場所を目指していた。
目指した場所は市場。商業都市リッコ最大のバザールが開かれる場所であった。様々な物が売られていた市場は、魔族襲来による人々の混乱のせいか誰一人としておらず、周囲には物が錯乱していた。
「はっ、はっ、ふぅぅ……」
走り続けたアヤメはある露店の柱に背を預け、息を整える。
吐き出す息は白い。これはスウェイが魔法を使う事で街全体の温度が低下しているせいである。
呼吸するたびに冷たい空気が、肺を蝕む。
左腕が火傷で燃えるように熱い。ジュクジュクと痛む。
右腕の指がかじかんでいる。多分、凍傷にもなっている。
それ以外の身体の感覚についても酷く
アヤメはもはや満身創痍であった。
『あはぁ、追い詰めたわ。此処ならもう隠れる場所なんてないわね!』
スウェイから見れば隠れる場所もないこの市場は、最早アヤメにとって袋の鼠に見えた。
『さぁ、凍りつきなさい! 【瞬間……なっ!?』
アヤメに対して凍らせようと腕を構えたところ途轍もない風が起こった。
そしてそれによって巻き上げられた大量の塵、粉、物によってスウェイはアヤメを見失う。
それらを巻き上げる不自然な風、それを行使しているのはミリュスであった。
「もぉぉ!! 後であたしに請求とか来ないよね!?」
此処には沢山の小麦粉が売っていた。小麦粉は《大輪祭》で食べ物の調理に使う店専用に売る為に大量に此処に置かれていた。
更には鍛冶屋が自慢の製品を売るために出店を開き、その際に砥石によって武器の研磨や、使用者の要望に合わせてその場で武器を加工することもあった。
その際に大量の金属粉も此処にはあった。
小麦粉と金属粉、これにはある共通点があった。
どちらも大量にあると、火種によって
小麦粉は粉塵爆発を。
金属粉は金属爆発を。
【
『ミティスちゃんには風を使って奴の視界を塞いで欲しい。損傷は与えられないけど、妨害はすることが出来るから』
わかっていた。
自分の攻撃じゃ何一つ相手に通用しないって。
でも、だからといってこんな風に使われるなんて思ってもいなかった。
「もし請求されたら絶対にアヤメくんにも引き受けてもらうんだから!」
ミリュスは持てる魔力の限りを尽くして、風を巻き上げる。
スウェイはそれをそよ風といった。
悔しかった。泣きそうになるくらい悔しかった。
だけど今は違う。
この風はスウェイを倒す事に繋がる立派な
「今に見てなさい! すぐにあんたの度肝を抜いてやるんだし!!」
旋風は【
『くっ、此方の氷すら砕けないただのそよ風の分際で……!』
スウェイは唸り声を上げる。損傷はない。
だが、舞い上がる粉で視界を封じられたスウェイは苛立ちを隠さない。【動く氷巨像】の腕を構えるも、何故か魔法を唱えることもしない。
まるで
そんなスウェイが躊躇している足下で。
【
「よぉ、さっきは良くも俺を『鍛冶屋』にすらなれないとか馬鹿にしてくれたな」
バディッシュは不敵な笑みを浮かべる。両手には自身の持つハンマーが握られていた。
『奴は俺が誘導する。だからバディッシュさんには奴が何処かに手を掛けた瞬間、家を破壊して欲しい』
ランカ、ミリュスと続き、それがアヤメから伝えられたバディッシュの役割であった。
バディッシュはそのことを思い出しながらも、ふっと笑う。
成る程、認めよう。
今の自分では
「たしかに俺じゃあ、テメェの氷を崩せねぇ。だがな氷は壊せなくとも……」
デニィッシュの肩が大きく膨張する。いつもよりもより大きく、より力を込める。
全ては
「建物なら壊せるんだよ!! 食らいやがれ!【一撃粉砕】」
バディッシュの渾身の一撃。
それは石で出来た家を簡単に崩落させた。
『あがぁっ! 今度は一体何よ!?』
家の屋根に自重をかけていた【
無論、氷には傷一つない。
だが、すぐには体勢は整えられない。
それはつまり
スウェイの
その為の布石は全て打った。
後はそう、決定的な一撃を入れるだけ。
「アイリスちゃん今だッ!」
アヤメは通信機で合図を送った。
ーーーー
「アヤメさんから連絡です! 下準備は出来たと!」
「そうか! 野郎共! 例の奴の準備だ!!」
「「「おうさ!!」」」
アイリスの言葉にダルティスが花火師達に吼え、一際大きな筒が現れた。
途中から花火を打ち出すのを辞めて、彼らは合図を待っていたのだ。
現れた大きな筒。
それは本来ならば『大輪祭』の締めの一発に使われる花火を入れる為の筒で中には既に花火玉が入っていた。その大きさは周囲の筒と比べても歴然とするほど大きい。
方向も、角度もあっている。
奴自身体勢を崩しかわせるはずはない。
後は撃つだけ。それだけなのだが……。
「……? 何故筒から撃たれねぇ?」
しかし着火役であるはずのシンティラがしゃがんだまま動かない。ダルティスは吼えるように声を荒げる。
「何をしているシンティラ! 奴らが命張って作った隙を台無しにする気か!!」
「ひっ! だ、だってこれだけ工房の皆が撃ってるのに、あの氷の巨人全く崩れる気配がなくてっ。あれを見てたら本当に通用するのかって……」
シンティラは萎縮していた。
無理もなかった。元々飛竜討伐に着いてくるくらいには無謀というか蛮勇のシンティラも街で暴れまわる氷の巨人を見て、次第に悪い方向に思考がそれていった。
恐怖。
人間が持つ強者に対しての根源的な感情であった。
ダルティスはシンティラのその感情が手に取るように分かった。
そう分かった上で笑い飛ばした。
「フハハハハッ! 貴様の悩みなど
「親方……」
「さぁ、分かったら火をつけろ! 奴にあれを食らわせてやれ!」
「はい!」
ダルティスの言葉で立ち直り、シンティラがマッチに火を点ける。
「ふん、随分と余裕だったじゃねぇか。魔族さんよ。だがな、今から撃つこれは飛竜の"爆裂炎袋"にしこたま爆裂の種と調合した火薬、純度の高い魔石を詰め込んだその名は"4尺玉"。その威力、大きさ、轟く轟音もこれまでの比じゃないわい!」
導火線に火が着く。
ジリジリと導火線を火が伝る。
筒が唸りをあげた。
「放てェッ!!!」
花火師達の渾身の出来である"4尺玉"が今、放たれた。