【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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今回からユウ視点での話となります
大体一週間ほどで終わります


真の勇者の物語《雷鳴轟く『迅雷』の脅威》
とある勇者の追憶


 昔から英雄譚が好きだった。

 

 人々を脅かす魔獣を倒す冒険者。

 幾多の戦争を駆け抜ける伝説の騎士。

 海の上で巨大な魔物と戦う海の戦士。

 

 旅の途中に、彼らの周りには仲間が集っていく。

 困難な道、強い強敵、巨大な悪。

 それら相手に様々な英雄達が仲間と共に力を合わせ倒していく。

 

 それを見るたびに心がときめいた。

 すごいすごいと何度も口に出していた。

 

 

 その中でも勇者に憧れていた。

 弱い人を守り、悪党を退治し、国を救う。正に理想のヒーローだ。

 

 

 ぼくもそんな人になりたいと思っていた。

 

 

 だけどぼくは臆病だった。喧嘩も好きじゃないし、力も弱い。そして何より泣き虫だった。そんなぼくがなれるはずがない。

 

 それにぼくは勇者に相応しい人を知っていた。

 

 

 フォイルくん。

 ぼくの幼馴染で、そして何より憧れの人。

 

 

 彼は誰よりも勇気があって、それでいて優しかった。

 

 だから彼が『勇者』だと知った時はやっぱりの気持ちが強かった。

 

ーーやっぱり彼は英雄なんだ!!

 

 ぼくはそう信じていた。

 勿論勇者になれなかった事に対して悔しさもあったけど、それ以上に彼が勇者だと知って納得の気持ちの方が強かった。

 

 

 ……その後ぼくが『名無し』だと判明した時の事はよく覚えていない。

 その場から逃げ出して、泣いて、泣いて、泣いた記憶しかない。三人で作った秘密基地で、一人泣き続けた。

 もしメイちゃんが追ってくれなかったら僕はずっとそのまま泣いていたままだっただろう。

 

 メイちゃんはぼくが『名無し』でも、ユウくんはユウくんと言ってくれた。お父さんもお母さんは、ぼくが『名無し』と聞いて驚いたけど受け入れてくれた。

 そのことはとても嬉しかった。

 それからフォイルくんに会いに行こうと言うメイちゃんに対してぼくは渋った。

 

 彼に蔑んだ目で見られると思うと怖かった。彼に見切られるのが怖かった。

 メイちゃんは大丈夫だって励ましてくれたけど、臆病なぼくは勇気がなかった。無理やり連れて行かれなかったら多分彼が村を出るまで会わなかったと思う。

 

 だけどそんなぼくの心配は杞憂だった。

 

 フォイルくんは態度を変えなかった。

 大切な幼馴染だって言ってくれた。

 ……嬉しかった。そしてまた泣いちゃった。あはは……

 

 その後フォイルくんに一緒に来て欲しいと言われた時、ぼくは彼の役に立ちたいと思った。どんなことでもしても彼についていきたいと。

 

 そう誓ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから10年。

 ()は青年になった。

 身体つきも立派になったし、顔立ちも大人っぽくなった。泣き虫なのはあんまり治らなかったけど……。

 対照的にフォイルくんは勇者に相応しい貫禄になっていた。剣の腕もすごくなっていた。誰がどう見ても立派な勇者だった。

 

 僕はまだ剣を振っている。

 殆どが一人で修行しているだけだけど、フォイルくんや騎士団の人が稽古をつけてくれたりもしたけど技能(スキル)もない僕には着いていくだけで精一杯だった。

 

 だけど僕は諦めなかった。

 だって、諦めたらもうあの背に追いつけない。届かない。

 そんなのは嫌だった。

 

 だから努力した。グラディウスさんからは無駄な努力と言われ、メアリーさんからは無様と罵られたけれど、それでも剣を振り続けた。

 そして何より、周囲をよく見て考えるように頑張った。

 僕には技能(スキル)がない。だからこそ、考えるのをやめなかった。

 

 

 これまでで最大の敵が現れた。『爆風』の呼ばれる魔王軍の幹部。奴は民を人質に都市に立て籠もっているらしい。フォイルくんは民に被害を出したくないらしい。それは僕も同じだった。無関係な人々が傷つくのは見たくないし、許せない。

 そこで僕は一つの作戦を立てた。だけどその為には全員の力を借りることが必要不可欠だった。

 僕が語った作戦を、彼は信じてくれた。不満そうなグラディウスさんとメアリーさんを説得してくれた。

 それがどれだけ嬉しかったか、フォイルくんは知っているんだろうか? いや、きっと知らないだろう。

 彼はいつだって僕の前に居て、僕を導いてくれる。

 

 そして遂に『爆風』を倒せた時、僕はこれ以上ないくらい嬉しかった。

 フォイルくんの役に立てたことが嬉しかったんだ。

 きっとこのまま行けば魔王軍も倒すことが出来る。そう信じていた。

 

 

 

 

 

 

 ……そんな彼から僕は追放された。

 役立たずは必要ないって。『名無し』であるからと、僕は彼に冷徹な目で告げられた。

 

 あの時はもう茫然自失で、勢いで宿を出た。

 何処をどう歩いたのか。全く覚えていなかった。

 

 気付いたら、街の外に出ていた。

 

 街道を出て、森の中で一心不乱に剣を振った。

 目に付く木々や草を刈っていった。八つ当たりだった。自暴自棄だった。

 

 ふと気付けば魔獣が集まっていた。

 魔獣達は、一人の僕を容易く食べられると踏んだのか周囲を囲んでいたんだ。

 

「アァァァアァァァァァァッッ!!」

 

 叫んだ。

 今のぐちゃぐちゃなった心は少しでも発散して、落ち着かせる為に僕は叫び続けた。

 

 僕は思い切り剣を振った。

 魔獣は胴体が真っ二つになり、血と臓物が辺りに広がる。僕自身にも血がかかった。

 

 魔獣はそれでもまだ襲って来る。僕は次第に押されていく。足を噛みつかれ、肩を爪で引っ掛かれる。

 その度に激痛が走る。

 だがそれ以上に実感したことがあった。

 

 僕は弱い。

 弱い!

 弱い!!

 

 弱いから僕は彼に見切られた。

 そんなことはわかっていた。そんなことは知っていた。

 僕は技能(スキル)のない、『名無し』だ。何者にもなれない、ただの()()()()だ。

 

 弱い自分が嫌だ。悔しかった。

 その為には戦わなければならない。そうだ。戦うんだ。

 もう、逃げてはいられない。

 

 

 そう、僕は()()()()()。戦いから逃げていたんだ。フォイルくんが勇者だから、強いから、心の何処かで彼がいれば何とでもなると思っていた。おいて行かれないようにするだけで、追いつこうとはしなかった。そんな思いを抱きながら振った剣になんて心がこもるはずがない。

 そんな事に僕は今まで気付かなかった。

 馬鹿だ。僕は大馬鹿だ。

 

 

 グラディウスさんとメアリーさんの言っていた事は事実だった。

 僕は、いつしか本気(・・)で強くなろうとする事をしなくなっていた。

 そんな僕を、きっとフォイルくんは見抜いたんだ。

 

 

 だからもう逃げない。逃げたくない。

 此処で逃げたらそれこそ僕は本当に臆病者になる。彼ともう一度会う権利が無くなってしまう。

 

 

 

 僕はそんな不安を振り払うように魔獣の群れと戦い続けた。

 

 

 

 気付けば周囲は魔獣の死骸によって埋め尽くされていた。血溜まりが周囲に広がる中、その中心で僕は満身創痍になっていた。全身傷だらけで、無茶苦茶に斬った剣は凹凸が出来、血と脂で濡れたぎっていた。

 立つこともままならないから、剣の柄を支えに息を整えていた。汗は止まらず、足は震えていた。

 

 そんな時ガサリと、音が鳴った。

 ズシンと振動した。

 

 現れたのはあの日、幼い頃に見た魔獣と似たような魔獣だった。それも比べ物にならないくらい凄い大きな。

 血の臭いに誘われたのか、魔獣は大きな口を開けて獰猛な目で僕を見ていた。

 

 トラウマが蘇る。

 ガクガクと疲れではない、恐怖で足が竦む。震える。

 

 だけどダメだ。僕は逃げない。

 そう誓ったんだ。

 

 魔獣が走る。大きな口で僕を喰らおうとする。

 僕の反応出来ない速度でその牙が突き立てられそうになった時ーー

 

「【マナを(かて)に、目の前に立ちはだかる障害を打ち砕き給え、放出水破砲(ウォーター・ピストル)】」

 

 突然隣から凄まじい勢いの水が魔獣を蹴散らした。

 この魔法が誰なのか、わからないはずがなかった。

 

 現れたのはやっぱりメイちゃんだった。

 今の僕では倒せないであろう魔獣を、メイちゃんはいとも簡単に倒した。

 

 そう。一撃でだ。あまりにも歴然とした差だ。

 技能(スキル)の有無はこれほどまでに差をつける。それが、すごく悔しかった。

 

 メイちゃんがこっち来る。その目は心配と焦りが浮かんでいた。きっと血塗れの僕を見て驚いているんだろう。

 来てくれたんだという安堵があった。

 だけど、それ以上に悔しかった。不甲斐なかった。あのまま戦っても勝てないとわかっているからこそ、そこまで強くなろうとしなかった自分に腹が立った。

 

 

 僕は、あの魔獣に木の棒片手に挑んで負けた日から何にも変わっていなかったんだ。

 

 

「ユウくん、大丈夫!? こんな、傷だらけじゃないっ。今治療薬を出すから」

「メイ……ちゃん……僕は、僕は」

「喋っちゃダメだよ。ほら、これを飲んーー」

「僕はっ……う、ぐ……強くなりたい!」

 

 流れる涙と嗚咽を隠そうとせず、僕はそう告げた。

 『名無し』だから技能(スキル)がないからだなんて、何の免罪符にもならない。大切なのは強くなろうとする心だ。その心をいつしか僕は失っていた。

 

 彼と対等(・・)に立つ為の強さが僕は欲しかった。

 

 自らの思いを叫んだ後、僕は気絶した。

 

 

 

 気がついたらベッドの上で目が覚めた。

 メイちゃんは、僕が起きたのに気付くと泣きながら抱きしめてくれた。死んじゃったと思ったと言われた時、ごめんと謝ることしかできなかった。

 

 その後メイちゃんは、あの後勇者パーティから抜けたと聞いた。

 それを聞いた時、思わず「どうして!?」と叫んだ。

 

「だって、ユウくんが心配なんだもの」

 

 メイちゃんはそう言ってくれた。

 そう言われた時、とても嬉しかった。

 一人じゃないというのが、こんなにも心強いだなんて思いもしなかった。

 でも、僕にはきになることがあった。

 

「だけど、フォイルくんはどうしたの? 彼だって心配じゃないの?」

「……」

「メイちゃん?」

「知ら……ない。幼馴染を簡単に捨てるフォイル(・・・・)がこれからどうするのかなんて、知らない……」

 

 フィーくんと呼んでいた愛称が変わっていた。

 何があったのかは聞けなかった。

 それは踏み込んではいけない領域だったから。

 それに、何より知らないと語るメイちゃんがすごく辛そうだったから。

 後には重い沈黙だけがあった。

 

 

 

 数日後、僕とメイちゃんは街から離れて、その後は冒険者の真似事みたいなのをしていた。

 メイちゃん程じゃないけど僕も戦う事は出来る。その術を僕はフォイルくんとルヴィンさんに教えてもらっていた。だから、余程の差がなければ魔獣相手に、少なくとも一方的にはならない。

 

 だけど弱いのには変わりない。

 だから僕はこれまで以上に考えて動くようになった。

 

 どうすれば相手の先を読めるのか。

 どうやったら自身の動きが良くなるのか。

 なにをすれば相手を出し抜けるのか。

 

 常に考えて行動してきた。

 その甲斐あってか、前よりも強くなっていった。まぁ、フォイルくんと比べたら微々たるくらいではあるんだけど……。

 

 

 

 そうして何ヶ月かが過ぎていった。

 いつしか僕たちは辺境の村々では《民の味方(パルティザン)》と呼ばれるようになった。

 

 なんでも魔獣被害に困っていれば、何処からともなく現れて助けてくれるかららしい。

 なんだか小っ恥ずかしかった。そんな崇高な行為だと思われていることに。

 勿論、困っている人がいれば助けたいのは本当なんだけど、殆どがメイちゃんのお陰のようなものだ。

 僕は未だ、メイちゃんと彼と比べたら弱い。

 

 その日も、訪れた村で何やら山の方で不穏な空気が流れているのを聞いた。僕たちをそれを調査する為に村に滞在することにした。

 

 クリスティナさんと会ったのはそんな時だった。

 彼女はとある村の『神官』だった。何でも女神教の方では素晴らしい功績を挙げたにも関わらず、そのまま街にいるのでは無く、こうした恵まれない人々や辺境に住む人達の力になりたいから、色んな村を回っていたらしい。

 

 正直、凄い立派な人だと思った。僕たちよりも若いのに。

 

 その村を()()が襲った。

 明らかな急襲だった。こんな所に魔物が現れる事なんて無かったはずだ。

 

 村人達は逃げ惑った。そして教会に立て篭もった。村の兵士たちじゃ魔物に手も足も出なかった。

 僕とメイちゃんは教会を襲おうとする魔物を正面で迎え撃っていた。だけど魔物の数は多かった。このままでは抜かれてしまう。

 

 その時不思議なことが起こった。

 身体中に力がみなぎったと思うと、これまで感じた事のない高揚感が心に吹き込み、いつの間にか手に持つ剣で魔物を一閃していた。その力は正面にいる魔物を全て一撃で殺した。

 メイちゃんが驚いていた。今のはきっと技能(スキル)だと。

 僕は信じられないように、手のひらを見ていた。

 

 

 魔物襲撃から後日。

 クリスティナさんに教会に来て欲しいと言われた。

 そこでクリスティナさんが言ったのだ。

 先程私に【天啓】が降りたと。【天啓】とは【神託】とは違いある日突然『神官』に得られるものらしい。

 そして、その【神託】の内容によれば本当の勇者……『真の勇者』は僕であると。魔物を倒せた一撃は勇者のみに伝来する【聖輝剣波斬(シャイニング・ウェーブ)】だという。

 

 まさかと思った。

 信じられなかった。

 わからなかった。

 理解出来なかった。

 

 だって僕にとって勇者とはフォイルくんのことで、勇者なんて雲の上の、物語の存在だったからだ。

 

 だから『真の勇者』と彼女が言っても僕は殆どその事を信じていなかった。

 クリスティナさんは僕たちについて来た。なんでも女神から僕たちをサポートして欲しいと頼まれたからだって言ってた。

 けど僕はその時になっても、彼女の言葉をあまり本気に捉えていなかった。

 

 けれどそれから僕に変化が訪れた。

 段々と動きが良くなったり、相手の動きが良く見えるようになった。

 更には技能(スキル)を、それも勇者に伝来するものが沢山使えるようになった。

 

 此処まで来ると僕もクリスティナさんの話を段々と信じるようになってきた。

 

 言いようのない感情が僕の心に沸いた。

 僕が、本当に勇者なんだという。

 それは非常に甘美で、抗い難い感情だった。

 

 

 

 そうしてその後も旅を続けていく内に、オーウェンさんと出会い、ファウバーンとキュアノスとも出会った。

 大切な仲間との出会いだった。彼らは僕を認めてくれて、一緒に旅をしてくれた。

 

 励まされた、褒められた、期待された。

 初めて感じるそれらを心地良く感じていた。

 

 あぁ、そうだ。

 僕は浮かれていたんだ。

 勇者……そう、『真の勇者』だ。

 その名の重さも何も考えずに、ただただ何の職業も称号もない『名無し』じゃないと、浮かれていたんだ。

 

 

 そしてその代償として僕は掛け替えのない幼馴染を失うことになった。

 

 

 

 

 フォイルくんが『偽りの勇者』と【神託】により発覚した時、色んな人が彼を悪し様に罵り、殺そうとした。僕達が抜けた後の勇者パーティの悪評は知っていた。だけど、フォイルくん自身の悪評はそんなにない。だけど、皆が彼を勇者を騙った大罪人として裁こうとする。

 

 それを知った僕は、誰よりも早く彼の元に行こうとした。

 僕は驕っていた。彼を救ってみせると思い上がっていたんだ。

 それがどんだけ傲慢な事か、僕は理解していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 僕は彼を斬った。

 斬ってしまった。

 

 唖然と困惑と呆然と混乱する僕に、フォイルくんが語りかけてきた。

 それは、あの時僕を追放した時みたいな冷徹な目じゃなくて何時もの彼の優しい瞳だった。

 だから僕は混乱しながらも彼の言葉を聞いた。

 

 

 嘘だ、といった。

 なんで彼がと叫んだ。

 心が、理解することを拒否していた。

 

 

 だけど彼が嘘を語るはずがないとわかっていた。

 フォイルくんは、ただただいつもの赤い瞳で僕を見る。僕はその目を揺れて見ることしかできなかった。

 彼は言う。これは決まっていたことなんだと。

 

 

 違う。

 こんなの望んでいなかった。

 僕はただ、君と()()でいたかっただけなんだ。

 昔みたいに肩を並べたかっただけなんだ。

 それがこんな。

 こんな。

 

 

 だけどそんな思いを僕は口には出来なかった。

 

 フォイルくんは何時ものように笑みを浮かべると、僕の胸に聖剣を渡して来た。

 『真の勇者』として、人々を導いてやってくれって。

 

 

 初めて持った聖剣アリアンロッド。

 清らかで神聖な見た目と違いその剣はとても重かった。

 

『俺はユウ……メイちゃん……君達二人と並び立つ仲間になりたかったよ……」

 

  聖剣を手に入れたあの日。

 『真の勇者』として担ぎ上げられたあの日。

 

 

 

 

 僕は今でも幼馴染を斬った感触が手に残っている。

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