【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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決別

「え…? フォ、フォイルくんどうして…?」

「すまない、これは前々から決めていた事なんだ。お前をこのパーティから追放する。二人も私の案に賛成してくれた。役に立たない仲間なんて必要ない」

「でも、僕だってパーティのために色々としてきた。なのにそんな」

「笑わせるぜ、木偶の坊。剣の取り柄もない、力もないお前がこのパーティにいるのが烏滸がましい」

「本当ですわ。魔法も使えず、役にも立たない貴方が栄えある勇者の仲間なんて何かの間違いですわ。『称号』を持たない人間が身の程をわきまえなさい」

 同じ部屋にいたグラディウスとメアリーが侮蔑を含んだ目でユウを見ている。

 二人は俺の話した内容に反論しなかった。寧ろ嬉々として頷いた。その姿に思う所はあれど今は好都合だった。

「仲間だった好よしみだ。退職金は出してやる。だから、さっさと出て行くといい」

「まっ…てくれよ、フォイルくん。そんな一方的に…! さっきまで普通に話していたじゃないか!」

「そうだ。それで気付いたんだよ。確かにメアリーの言う通り、お前みたいな奴が勇者パーティにいるのは相応しくないってね」

「当然ですわ。ワタクシ達には使命が、そしてそれを為すために選ばれた存在ですのよ? それなのに、貴方のように何にも取り柄のない人がいるだなんて不愉快ですわ」

「そりゃ、僕がこのパーティに相応しくないことはわかっていたさ。でも僕だって僕なりに皆の役に立とうと一生懸命色んなことを」

「そんなの。お前でなくても出来るんだよ。なぁ…分かってくれ、ユウ。この世界では、職業が…称号が全てなんだ」

「っ!」

 

 ユウの顔が絶望に、悲痛に、悲観に歪む。

 違う。俺は本当はそんなことは…!

 いや、駄目だ。撤回するな。俺は決めたんだ。

 

「お前のような『名無し(・・・)』と付き合ってられないんだよ、プロターゴニスト」

 

 決定的な別れの言葉。

 その言葉に耐えきれなかったのか、金も受け取らずにユウはこの場から去っていった。それを見て笑う仲間達。

 そんな中俺は去ったユウの背中をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィーくん! どういうことよ!?」

 

 あの後宿からユウが荷物を持って居なくなったと女将に聞いた俺は石橋の上で佇んでいると怒鳴り声が飛んできた。

 誰だか振り向かなくても分かる。

 俺は振り返った。

 

「あぁ、君か。メイちゃん。何の話だ?」

「何だも何もユウくんを追い出したってどういうこと!?」

「どういうこともなにも言葉通りだ。アイツはこのパーティに相応しくない。だから追い出した。それだけさ」

「なんで!? 意味わからない! ユウくんが私達の為にどれだけの事をしてくれたか忘れたの!? フィーくんも知ってたじゃない!」

「そんな事関係ない。それはユウでなくてもできる事だ」

 

 嘘だ。どれだけユウが自分達の事を想い、索敵や警戒といった行為をしてくれスムーズにことを運べたのかを知っている。ユウ以上の奴などいない。

 だけど俺は嘘を塗り固める。

 メイちゃんは凄く怒っていたけど俺の言葉に段々と声も小さくなって、俯いた。

 

「ねぇ…なんで? 昨日まで三人一緒に仲良くしてきてたじゃない。わかんない、わかんないよ。フィーくん、お願い何があったの教えてよ。ねぇ、どうして…。フィーくんはそんな人じゃ」

「いいや、今も昔も変わらない。僕達は魔王を倒し、人々を救う使命がある。そんな中に彼の様なーー」

 

 そこで一度言葉を切る。

 これを言えばもう取り返しはつかない。

 バクバクと心臓が鳴る。言え。言え。言うんだ…!

 

役立たず(・・・・)は必要ない」

 

 言ってしまった。もう取り返しはつかない。

 

 パァンと高い音が鳴った。メイちゃんが俺の頬を叩いたのだ。その目には悲しいのか、悔しいのか涙を携えている。

 思わずその涙を拭いてやりたい衝動に駆られるが、自分が彼女を泣かせたのだ。その資格はないとギュッと拳を握り締める。

 

「貴方は変わったわ、フィーくん。昔の貴方はそんなんじゃなかった。誰もを思いやって引っ張っていく優しい人だった」

「いつまでも子どものままじゃいられないんだよ、メイちゃん。それに僕は変わっていないさ」

「ーー嘘つき(・・・・)

 

 メイは哀しみを目に溜め、軽蔑を含んだ声色で言った。

 

「私はユウくんを追うわ。あの人を一人にしておけないもの」

「そうか」

「パーティからも抜ける。元々他の二人とはソリが合わなかったもの。ユウくんがいなくなって、貴方までそんな風に変わってしまったのなら、私はあそこにはいれない。いたくない」

「…そうか」

 

 メイちゃんならそうすると思っていた。

 俺は俯く。

 

「さよなら、フォイル(・・・・)。私は貴方のこと大切な幼馴染みだと思ってたわ」

 

 決定的な別れの言葉。そのまま自分の横を通り過ぎようとした時にポツリと呟く。

 

「メイちゃん、ユウを頼んだ」

 

 驚いた様に振り返ったメイから逃げるように俺はその場から立ち去った。

 

(…あぁ、初恋は実らないのでっていうけどこれは辛いな)

 

 走りながら、叩かれた頬よりも心の方がズキズキと痛かった。

 

 

 人気のない路地で一人座り込む。

 

「はぁ…はぁ…ふふ、ははは。ははは…ぅ、ぅぁっ…あぁぁ…」

 

 泣き声はあげない。

 これは自ら選択した事だ。だから

 ユウの事はメイちゃんが一緒なら大丈夫だ。支えとなってきっと道を照らしてくれる。

 

 俺も…大丈夫だ。

 俺は大丈夫。

 だいじょうぶ。

 

 だから泣くのはこれが最後だ。後は最後まで己の役割を全うするだけなのだからーー

 

 

 

 

 ユウに続きメイまで辞めたことへのグラディウスとメアリーの反応は簡素なものだった。

 

「何も出来ない木偶の坊がこのパーティに相応しくないのは分かる。強さこそが正義だ。そんな弱い奴に着いて行くあの女も所詮その程度のアバズレだったということだ」

「元々平民風情が栄えあるわたくし達勇者パーティと肩を並べる事がおかしかったのですわ。特にあの貧民の女は、私と同じ魔法使いでしたから目障りでしたわ。あ、勿論フォイル様は別ですわ! 貴方は魔王を倒す人類の希望、勇者様なのですから!」

 

 強さのみを全てとし、弱者を歯牙にも掛けないグラディウス。

 貴族として、新たなステータスを得る為だけにこのパーティに参加したメアリー。

 

 彼ら二人は自分たちこそが魔王を打ち砕く勇者パーティであるという愉悦に浸り、民を見下している。ユウの事も裏で虐めていた。だからそんな彼らが世界を救うと驕っていることに吐き気が出る。

 だが、それは俺も同じだ。俺も勇者という名を偽っている。それでも()の俺は勇者なんだ。だからこそ演じる必要がある。

 

「そうだな、人々の為に弱い者は必要ない。僕たちが世界を救わないと」

 

 本心を隠して俺は笑う。

 偽りの笑顔を貼り付けて。偽りの心で蓋をして。偽りの力で。

 

 彼らと共に俺は旅を続けていく。その先に破滅があると知っていても。

 

 最後まで俺は演じ続ける。

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