【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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雷光

 雷鳴(らいめい)(とどろ)いた。

 【紫電針(しでんばり)】内部に帯電(たいでん)した雷は、地面の中で一箇所に収束し、ユウの着地しようとした地面を割って発生した。

 

 それは世にも珍しい()()()()()()()()()であった。

 

 余りの威力に大地は割れ、中の水分も一気に蒸発して(かわ)いた土と化した。パラパラと散った砂塵(さじん)が舞う。

 トルデォンは目を細めた。砂塵(さじん)の中に人影を発見したからだ。

 

「あ、ぐぅぅ……ッ!」

「……へぇ、咄嗟に避けたか。足一本奪い取ってやろうと思ったんだがな」

 

 ユウは生きていた。

 咄嗟に聖剣アリアンロッドの【|聖輝剣波斬《シャイニング・ウェーブ】を地面に放ち、立ち上る雷の威力を相殺したのだ。

 しかし、聖気では魔族の力は相殺出来ても雷によって生じた石飛礫(いしつぶて)から身は守れなかった。

 結果、ユウは身体の至る所から出血していた。更には咄嗟だったので聖剣の力を行使するのも不十分だったので、完全には相殺出来ず今も身体が(しび)れている。頭からも血を流しながらも、その目からは闘志(とうし)は消えていない。

 

「僕は……諦めないッ!」

 

 トルデォンはその姿から、面白くなさそうに鼻を鳴らす。

 

「【雷脚(らいきゃく)】……ムカつくんだよ! その闘志(とうし)は折れないって様は! 何も出来ない癖に一丁前に勇者ぶってんじゃねぇ!」

「がはっ!?」

 

 【雷脚】で凄まじいスピードでユウの背中に回り蹴飛ばす。

 

「どいつもこいつもオレを苛立だせやがる。おいおいこんなものかよ、天下の勇者パーティ様よぉ!? もっとオレを楽しませろよ【畝り迸る蛇雷鞭(ブリューナク)】」

「あ、ぐ。皆っ、下がるんだ!」

 

 (しび)れる体に(むち)を打ち、ユウは仲間へと警告する。

 のたうち回る蛇のように雷が走り、周囲の建物や木を焦がし燃やす。更にはそれは消えることなく被害を広げ続けた。

 

「まずい、あの方向は!」

 

 蛇が向かうのは助けた避難民のいる方向だった。

 彼方には防備を固めた兵士と避難民らの人がいる。際限(さいげん)なくあれが暴れれば甚大(じんだい)被害(ひがい)が広がってしまう。

 

「けほっげほっ。う、ぐ。【主よ、全てを災いからその慈愛を持ってして不浄なる輩を封じたまえ。聖障結界(せいしょうけっかい)】」

 

 錫杖(しゃくじょう)を握り締め、再び唱えるクリスティナ。

 【結界】の更に上の奇跡である【聖障結界(せいしょうけっかい)】。それでもトルデォンの雷を止めることが出来ず結界にヒビが入る。

 だからクリスティナはそれを三重、つまりは三回唱えた。当然それだけ力を消費する。

 やっとの思いで結界で閉じ込めた時にはクリスティナは立つのもやっとのほど消耗していた。

 

「はぁ……はぁ……!」

「はん。【畝り迸る蛇雷鞭(ブリューナク)】を封じ込めるか。流石は『神官』、『聖女』っつー奴といい何かを封じたりするのには()けているな。だがもはや他の奇跡を起こすだけの力は無いみたいだな」

「くぅ……」

 

 クリスティナは悔しげに顔を伏せる。

 オドロとは比較にならない圧倒的な戦闘能力。これが魔王軍八戦将の力。

 トルデォンは周囲を見渡し、誰も立ってない事を見ると溜息を吐いた。

 

「んだよ、『真の勇者』だなんて大層な名の割にこんなもんかよ。やれやれ思い出すぜ。あの時もそうやってあの勇者共(・・・・・)は地面に()いつくばっていたな」

 

 トルデォンの言葉に、とりわけユウとメイが反応した。

 

 

 

「勇者……?」

「それって……」

「ん? あぁ、確か『偽りの勇者』だっけか? はっはっはっ! あの時は傑作だった。奴ら俺たちに手も足も出ずに敗北したからな!」

「フォイルくんが……負けた」

「そうさ、奴は無様(ぶざま)に負けた! ベシュトレーベンの野郎に鎧袖一触(がいしゅういっしょく)であしらわれてよぉ! 剣士の野郎も随分と自信があったようだが俺に簡単に腕を斬られて絶望し、魔法使いもスウェイの奴にいとも容易く負けて(わめ)いていやがった。初めはなんでこんな弱っちぃ奴らが勇者なんて名乗っていたのか不思議だったが今なら納得だ! 結局の所奴は偽物(・・)に過ぎなかったんだからな!」

 

 トルデォンが嗤う。

 何処までも悪意に満ちた哄笑が響く。

 

 ユウはその中でトルデォンの言葉を反芻していた。

 

 

 偽物。

 ニセモノ。

 

 

 そんな訳はない。

 彼はいつだってーー

 

『大丈夫か? ユウ』

 

 いつも見ていた背中と声が聞こえた。

 

 

 

「だ……まれ……」

「……はん?」

「お前にフォイルくんの何が分かるんだ……お前にっ!! 何をっ!!」

「良いねぇ、良い怒りだ。だが貴様如きの速さではオレに着いてくることはーー」

「【加速(アクセル)】」

 

 聖剣を扱う勇者のスキルの一つ【加速】。

 自身の身体能力の段階をあげる勇者の奥義。フォイルの時はもはや使えなかったその技能(スキル)をトルデォンは初めて見た。

 

 ユウが消える。その速度は音すら置き去りにした。

 ユウは首を寸断する勢いで聖剣を振るうも、トルデォンは歴戦の戦士。何か来ると直感し、それを(かわ)す。だが完全には(かわ)しきれず肩を大きく斬られた。

 直ぐにその場から退避したトルデォンは斬られた肩を眺める。聖剣で斬られた所は簡単には再生しない。白銀の体から青い血がダクダクとながれていた。

 ユウの身体は淡く白く光り、聖剣もそれ以上に輝いていた。

 

「くっ! 外した……!」

「……へぇ、まさかオレに傷をつけるとはな。それにこのオレに匹敵する速度。間違いない、貴様は脅威になる。だから此処(ここ)で確実に殺す」

 

 雰囲気が変わる。

 先程までのおちゃらけた、遊びの雰囲気ではなく明確な殺意を持って殺しにかかる。

 トルデォンの殺意に共鳴するように空気中に静電気が発生する。バチバチと右手に電気を溜めながらユウに近付くトルデォンの背後で、のそりと大きな影が動いた。

 

「まだ……俺も終わってねぇぞ!」

「ふんっ、死に損ない目が! 今度は(なぶ)ろうとは考えん、焼き焦げて死にやがれ! 【雷撃剣(らいげきけん)】」

 

 背後から切りかかったにも関わらずトルデォンは容易(たやす)くオーウェンの大剣を(かわ)す。

 そのままオーウェンは【雷撃剣(らいげきけん)】を受けて感電……することなく、トルデォンの剣が振るわれるより先にそのまま頰を殴る。

 

「ふん! 【殴打(ヒット)】」

「がっ、テメェ!」

「悪いが俺は『()()』であって『()()』ではないからな! だから殴ったり蹴ったりもするぜ! どうした、まさかお上品に剣だけで対抗すると思ったのかぁ!?」

「図に乗るな! 雷電……ちっ」

「【聖空斬(せいくうざん)】!!」

 

 横からのユウの聖剣にトルデォンを攻撃をやめ、(かわ)す。

 流石に聖剣の一撃はトルデォンも警戒しているのか、最初のように受け止める事はしなかった。

 

「オーウェン! 大丈夫!? でも、あまり無茶をしないでくれ。心配なんだよ!」

「はっはっはっ! 若造が一丁前に俺を心配する暇があったらもっと自分の事を考えろ! それになぁ、前衛が無茶せずに後衛が守れるか! 旦那っ! 良いか、奴に反撃の隙を与えるな! 奴の攻撃には()()がある。それを潰すぞ!」

「うん、わかってる!」

「あぁ!? テメェらがオレに勝つつもりか!? 調子に乗るなよクソどもが!!」

 

 トルデォンの速さにユウがついていき、止まった所にオーウェンが強力な一撃を叩き込もうとする。聖剣の力も、オーウェンの一撃もまともに食らえばどちらも厄介だ。

 必然的にトルデォンは後手に回る。しかしそれでも決定打を与えるには至らない。何かあれば容易(たやす)く逆転する程度の薄皮程(うすかわほど)の有利だ。

 

 激突する三人。

 その間に、痺れが抜けてきたメイが倒れ込むクリスティナに近づく。

「クリスティナちゃん……大丈夫?」

「は、はい……こほっこほっ」

「血が出てるわ! 早く手当てしないと!」

「大丈夫です! このくらい……人々が受けた痛みに比べたらなんでもありません。それよりも、ユウさん達を援護しないと……あぅ」

 

 立ち上がろうとするも倒れそうになるクリスティナをメイは慌てて支える。

 クリスティナはもう限界だ。奇跡を行使する為に精神力を限界まで振り絞ってしまっている。

 

 だからこそクリスティナと違い人為的魔力(マナ)の方は余裕があるメイは二人を援護しようとするのだが

 

「動きが速すぎて援護の隙が……!」

 

 目まぐるしく変わる動きにメイは魔法を放てないでいた。下手に放つと巻き込み、向こうにチャンスを与えかねない。更にはトルデォンの言う水は雷を通しやすいという言葉がある以上二人を巻き込むのは絶対にダメだ。

 その事に歯噛(はが)みしている中、クリスティナは冷静に戦う様を分析していた。

 

(何故トルデォンは最初にオーウェンさんを倒した時みたいに放電しないのでしょうか?)

 

 クリスティナは思考する。初めに使ったあの【感電(エレクト・ショック)】を使えば今の状況を簡単に打破出来る。少なくともオーウェンは倒せる。なのに使わない。

 オーウェンの言うような溜めとは違う。何か別の理由があるように感じた。

 その時気付いた。派手に、豪快に雷を扱うことトルデォンが意図的に電気を扱うのを避けている箇所があることを。

 

「もしかして……」

「どうしたのクリスちゃん?」

「ユウさんの作った()。あれのせいでトルデォンは身体全体から雷を放てなくなったのかもしれません。血は所謂水に近い物質、奴は先程メイさんの水を伝ってユウさんを倒しました。ならば自らの血も電気を流してしまう媒体となります。トルデォンは確かに強力な雷を使いますがもしかして自分にもリスクがある能力である可能性があります」

 

 例えば炎。『魔法使い』の魔法の中には【炎灼帝(えんしゃくてい)(ころも)】と呼ばれる最上級魔法がある。あれは(あら)ゆるものを寄せ付けない強力な攻防一体の魔法であるが、技術が不足していると自らを焼く自滅の技となる。

 それと同じように今のトルデォンは全身から雷を放つと傷口から自らに感電してしまうのでは、と。

 メイもその指摘を受けて確かにと思う。しかしそれには疑問もある。

 

「でも……アイツ自身の体から雷を扱うんだから、雷を食らったら逆に元気になる可能性はないの?」

「だとしたらあの【雷脚(らいきゃく)】みたいに脚だけなく全身を強化して良いはずです。相手が八戦将ならそれもできるはずです。しかし、トルデォンは明らかに負傷した箇所に雷が帯電(たいでん)するのを避けています」

「何か不都合な事がなきゃ、態々躊躇する理由がないってことね……」

 

 メイは暫く考え込んだ後、ふと【聖障結界】に封じ込められた【畝り迸る蛇雷鞭(ブリューナク)】を見た。

 

「クリスちゃん、あの結界に封じ込められた雷ってそのままなのよね?」

「あ、はい。でもごめんなさい。本来なら封じ込められた魔法は時間をかけるにつれ弱まるのですけどトルデォンの力が強すぎて今の私じゃ消すことは……」

「違うの。あの結界って解放することは出来る?」

「え? 確かに出来ますけど」

「なら……」

 

 メイの語った内容にクリスティナは驚いたが「可能性はあります」と同意してくれた。

 メイはそれを聞いて、実行に移すことを決めた。

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