【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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第3章 ヴァルドニアの動乱
巡らせる者たち


「まぁ、予想通りでしょう」

 

 魔王城の一室。

 数多ある部屋の中でもマーキュリー専用の個室があった。

 飾られた水槽には巨大な魚が悠々自適と泳いでいる。

 自らの配下からの報告を受けたマーキュリーの言葉はそう零した。

 マーキュリーの予想通りトルデォンは『真の勇者』に挑み、敗北した。

 

「それで? ソドォムに展開していた魔族はどうしましたか?」

「ソドォム王都の魔族と魔物は壊滅しましたが、その他の地域の魔族は、トルデォン様の敗北後速やかに撤退させました。その為損害は軽微です」

「結構。八戦将が敗れる『真の勇者』が現れた時点で劣る魔族では勝てやしませんからね。我々が直接統率すればまた別でしょうが。その分の力をまた戦線にでも投入するとしましょう。あぁ、それとトルデォンさんの亡骸の回収は?」

「既に完了済みです。勇者が去った後の復興の最中に回収しました。女神教が来る前でしたので簡単でした。我々によるものと思わせないよう火事で焼失したように見せかけています」

「宜しい。では例の場所(・・・・)に運んでおいてください」

「わかりました」

 

 それらの一人からの報告を受けたマーキュリーは満足そうに頷き、別のそれらに顔を向ける。

 

「それで? 観測させていた魔族からの情報はどうなんですか?」

「……こちらに」

 渡された書類を確認する。

「ふむ。……成る程、『真の勇者』の仲間は四名。元より存在が確認されていた『魔法使い』に加え、『神官』『戦士』そして『魔獣使い(テイマー)』ですか。それで飛竜を所持していると。道理で予想よりも移動速度が速いわけです」

「飛竜となると、少し厄介です。こちらにも居りますが『魔獣使い(テイマー)』と契約した飛竜となると強化されていると思います」

「確かに脅威ですが、たかだか一匹の飛竜。此方がそれ以上の数を動員すれば容易く落とせるでしょう。数の暴力の前に個など

「なるほど、確かにそうですね」

 

 思わず頷くそれらの内の一人。

 その様子を見ていたマーキュリーだが、ふと顎に手を当てる。

 

「……いえ、訂正します。侮るのは危険です。仮にも勇者パーティに選ばれる程なのです。何か他の特別な力があっても不思議ではありません。それこそ、『竜騎士』に匹敵するほどに」

「それは……杞憂(きゆう)なのでは?」

「飛竜に乗る勇者など脅威以外の何者でもありませんよ。勇者からの攻撃でこちら側の飛竜は容易く撃墜されるでしょう。そう考えると、これから勇者の現れるであろう場所に飛竜を使うのは控えた方が良いでしょうか……? 上空支援は街を陥とすのに必須と言っても良いのですが。しかし、無駄に落とされるのも此方としては痛手ですし。かといって全くの航空戦力なしも……まぁ、こちらはまた後で検証しましょう」

 

 マーキュリーは今後の課題として飛竜の運用を考えておくことを決意する。

 

「そして何より『真の勇者』の実力。此方は予想以上に成長速度が早いですね。まだ聖剣が渡って二ヶ月しか経たないというのに、八戦将を討ち取るとは。勿論、仲間の機転によるものが大きいですが」

 

 報告では、トルデォンは勇者に斬られた後自らの雷を利用され、逆に大ダメージを負ったと記されている。

 最初から本気を出せば、勇者の仲間くらいなら簡単に仕留められたものを。結果足元を(すく)われている。又も侮ったのかとマーキュリーは溜息を吐きそうになる。

 

「ダウンバーストさんがやられた時とは随分と違う。向こうは『偽りの勇者』の時は鍛える期間があったとは言え、10年かかってやっと此方(こちら)の一人倒せたというのに……。真の勇者はまだ現れて二ヶ月も経っていない。なのにもう八戦将を討ち取れるとは。ん? そう言えば、『偽りの勇者』とはいえ此方(こちら)の八戦将が討ち取られた……。これは、どういうことでしょうか?」

 

 マーキュリーは今代の勇者はユウ・プロターゴニストだと思っている。

 だがフォイル・オースティンによって一人八戦将が討ち取られている。それはおかしい。八戦将に対抗出来る存在は少ない。

 ならば、もしかしてフォイルも勇者であったのか?

 だがそれだと『偽り』というのが矛盾する。道理が合わない。

 

「……消すべき、いや。そもそも彼は『真の勇者』に討ち取られていましたか。ふーむ、聖剣を奪うのではなくこちら側に誘うべきでしたね」

「マーキュリー様、既に一度その策は実行したの。そして実行した魔族はあえなく死んだの」

「おや、バレてしまいましたか。流石は私のものですね」

「光栄なの!」

 

 嬉しそうにするそれらのうちの一人。

 他のそれらはその一人に若干の嫉妬の目を向ける。

 

「次にいきましょう。ブラチョーラさんからの報告はどうでしたか?」

「問題なしなの。ゴラァムの守備隊は全滅。街も、そして首都ももう焼け野原、人っ子一人の気配もないなの。細々とした村も魔物が追い込んで全部皆殺しにしたの。抜かりはないの。それと副次作用でゴラァムに一杯人間のアンデットが沸いたの。それだけの苦痛、悲哀だったのね。だから、人間側はその対処に追われているの。ゴラァムを復興するのはもう不可能なの!」

「成る程。流石はブラチョーラさんですね」

「けど、魔王城に帰った後もうるさいの。「もっと身体も心も熱くなる戦いを!」って騒いでるのなの。おかげで途中の廊下が焦げたの。すっごい焦げ臭いの」

「……まぁ、その程度の被害には目を瞑りましょう」

 

 ブラチョーラは身も心も焼く魔族だ。

 こちらが言った程度で鎮火するはずもない。トルデォンと比べればやることはキッチリとやるのでその程度の損害ならば目を瞑る。さっさと地下の溶岩地帯にでも行かせておこう。

 

「それで、スウェイさんの方はどうでしたか?」

「音信不通。今だに反応なし」

「あぁ、またですか。なら同行している私の配下の魔族カマディスクに連絡しなさい」

「同じく音信不通」

「……何ですって?」

 

 ここで初めてこれまで余裕綽々(よゆうたんたん)としていたマーキュリーの表情が崩れた。

 

「どういうことです? 詳しく状況を説明してください」

「スウェイ様率いる魔族は一月前にこの魔王城から出発、その後、報告しないスウェイ様に代わってマーキュリー様の入り込ませた魔族と連絡を取ってました。最後の報告は、商業都市リッコに近付いたという報告だけ。それ以来何の反応もなし。予想だにしていなかった。まさに青天霹靂(せいてんのへきれき)

 

 報告を受けたマーキュリーは、ここで初めて考え込む仕草をした。

 

「完了の報告がないということはスウェイさんが商業都市リッコを落としていない…? 確かにソドォムとゴラァムと比べれば距離がありますから、その分も含めれば多少の誤差は仕方ないはず。しかし、近くに行けたのなら一日どころか半日でも制圧できるはず。しかし音信不通……? 前よりそういった事自体はありましたが、カマディスクとの交信もないとなると……」

 

 地図を持って来なさいと、マーキュリーはそれらの一人に命じる。広げられた地図ーー人間の持つものよりも精巧なものーーを見ながらマーキュリーは指示を下す。

 

「位置的に近いのは()()()()()()()()()()()()ですね。貴方は、彼にも念の為情報がないか集めるように指示しなさい」

「……了解。……けどあの国は今マーキュリー様の指示通り結構国内が荒れています……そんな中、情報が集まるでしょうか……?」

「今のシュテルングの地位を利用すればさして難しいことはないでしょう。彼のおかげで大量の魔物と魔族も太陽国ソレイユより背後の国々へも潜ませることが出来たのですから。それよりも、もし仮にですがスウェイさんが何かしらに敗れたとすればそちらのが大問題です。彼処には勇者がいません。それでももし仮に敗れたとすれば……」

 

 マーキュリーは扇子を口元に持っていく。

 

「女神教の例の実行部隊か……? しかし、戦線に出張っているから此処に現れるとは考え辛い……。ならば冒険者。先代の勇者の遺物の組織(・・・・・)に邪魔されたと考えるのだが妥当ですか? 確か、此処より後ろの国々の殆どに存在していたはず。しかし、幾ら最上位の冒険者であろうと八戦将が遅れを取るとは……」

 

 明晰な頭脳はあらゆる可能性を考える。

 しかしその全てが答えは否、とでる。

 

 八戦将は、魔王軍の要。

 いくらスウェイは魔王より加護を受けていないとはいえ、その力は八戦将として認められたほどなのだ。

 

 しかし、スウェイの正体について思考を巡らすとある一つの答えが浮かび上がる。

 

「まさかエルフですか。それならまだ、納得がいく。彼女の正体からも粛清と考えるのが妥当でしょうか? それにしてはエルフ側の動きがない。"ミュルクヴィズ大森林"を監視させているもの達からも連絡はない。元より森に籠る隠匿者であり、本当の意味で魔法を扱う種族。そうそう動きを読めるものではありませんが……」

 

 元々魔王軍にスウェイを誘ったのはマーキュリーだ。当時魔界の一角を吹雪地帯にまで行き、言葉巧みに誘った。

 その後八戦将としての交流はあったので、ある程度の事は把握している。

 だからこそ、他の八戦将と違ってエルフが動き出してもおかしくはない。

 

 だが、幾らエルフであろうと今のスウェイの力は増している。少数のエルフ相手に負けることはないほどに。

 

 ならば大規模かというと、それは先述の通り"ミュルクヴィズ大森林"に動きがない事から考えづらい。

 

 ふとマーキュリーはそれらが心配そうにこちらを見ているのに気付く。

 

「……まだ決まった訳でもないのに考え込むのは私の悪い癖ですね。とにかく、情報を集めるのを先決しなさい」

「「「「はっ」」」」

 

 それらは、マーキュリーの言葉に従い部屋を後にする。

 

 誰も居なくなった部屋でマーキュリーは地図を商業都市リッコがある箇所を睨んでいた。

 

 杞憂(きゆう)なら良い。

 偶々スウェイの通信機が故障し、カマディスクも街を襲った際に死んでしまったのなら問題はない。

 だが、もし仮に。

 何者かに倒されたとするならば。

 

「例え誰であろうと、私の策を邪魔する者は許しませんよ。人……いえ、こう呼ぶべきでしょうか。"不透明な者(イレギュラー)"」




カマディスク
《氷霧》の話で名乗ろうとしたらアヤメに斬られた魔族。マーキュリーが潜り込ませた配下。以上。
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