【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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髪飾り

 

 アヤメとキキョウが買い物に出かけている頃。

 

 一方の《啄木鳥の宿》で待機中のアイリス。

 彼女はアヤメとキキョウが出かけてからずっとベットの上で枕を抱きながらゴロゴロと唸り声をあげて転がっていた。

 

「うーうーうーうー」

<ガゥゥ、ガゥガゥ>

「ふがー!」

<キャインッ!?>

 

 突然枕に埋《うず》めていた顔を上げる。

 いきなりの行動に辺りをうろうろしていたジャママは飛び上がって驚く。

 

「やっぱり気になります! こんなんじゃ寝れません! かといって後をつけるのはダメです! そもそもあの二人だと気付かれちゃいます!」

 

 アイリスは今頃二人が一緒にいると思うと胸がもやもやするのだ。それは嫉妬だ。同時に自身でもこんなにも嫉妬しやすいのかとアイリスは愕然としていた。

 

 だからこそ、今二人きりという事実に心ではともかく身体がついて行かず、先程から珍妙な行動を繰り返している。

 

 アヤメとキキョウ。どちらも戦闘の達人でアイリス如きの追跡ではすぐにバレるだろう。

 

 幾らアイリスがエルフ同年代の中では身体能力が低いとはいえ、その隠密能力は魔獣もまける程なので普通の人ならば気付かないのだが、この場合相手が悪かった。

 

「言い出したのはわたしですけれど! でも! でもでもでも! 胸がもやもやします……! はっ、まさかあのぼっち調子に乗ってアヤメさんにちゅ、ちゅちゅちゅちゅ、ちゅーしたりしないでしょうね!? あー! やっぱり二人きりにすべきでは……でも、でも、わたしも一緒に行ったらぼっちも楽しめないでしょうし……うー」

<ガゥゥ>

「うぅ、わたしの味方はジャママだけですよー……」

 

 ギュッとジャママを抱きしめ、寝っ転がるアイリス。ジャママの柔らかい体毛を触ると幾分心が癒される。

 だが、それでも完全に解消という訳にはいかない。

 

「はぁ、ずっと部屋にいるのもよくないです。ちょっと空気を入れ替えるために下に行って飲み物でも飲んで来ましょう……、行きましょうジャママ」

<ガゥッ!>

 

 ジャママを連れて部屋から出る。

 この宿にはミルクが売ってある。キキョウと比べて成長が遅いアイリスだが、少しでもグラマーな体型に近付く為、町にいる時は毎日欠かさず飲んでいた。

 

 廊下を歩く。途中何やら焦った様子の男性がアイリスの横を通り、アイリスとキキョウの部屋の隣201号室の扉を開けて何やら話し合う。

 

「情報だ。王様とあの方の対立がかなり本格的になってきたらしい」

「本当か? ついにか。ということは」

 「あぁ、恐らく来る可能性が高い。念の為準備の方を忘れるな」

「わかっている。その為に戦力を温存していたからな。町の人には悪いことしたが……。それにこっちは平民ばかりだからな。いくら兵士にも賛同してくれる人が居るとは言え、分が悪いのは確かだ」

「あぁ」

(……? 何の話でしょうか?)

 

 途中、妙な会話を聴きながらも盗み聞きはよくないとアイリスはそのまま一階に降りていった。

 

 

 

 

 

 

「これくらいかしら?」

「あぁ、とりあえず必要な物は揃ったかな」

 

 その後、俺たちは順調に買い出しを進められた。

 買った物は、俺の魔法袋に入れられるから嵩張(かさば)ることがない。

 

「そう、ならもう帰りましょう」

「あっ、ちょっと待ってくれ。実はあと一つだけ買わなきゃいけないものがあるんだ」

 

 しかし俺は今だ目的を達成することが出来ていなかった。アイリスちゃんからの頼まれごと、キキョウへの花飾りが買えていないのだ。

 

 ちょくちょく造花の花飾りを売っているところを覗いてみたが、残念ながら俺が求めるものはない。

 

 けどさっきやっとあったのだ。

 だから一旦キキョウにはここで待っていて欲しかった。

 

「そうなの? なら此方(こなた)も」

「いや、すぐに終わるからキキョウはここで待っていてくれ。歩き回ったし疲れただろう?」

「別にそんな疲れてはないんだけど……。けど、アヤメがそう言うなら此方(こなた)も少し休憩しておくわ。早く戻って来てね?」

「あぁ」

 

 キキョウから離れ、一度角を曲がった後キキョウの位置から見えないように態々遠回りして俺は目的の花飾りを売っている露店に辿り着く。

 

「いらっしゃい。何をお求めで?」

「花飾りが欲しいんだ。キキョウという花の飾りはあるか?」

「ありますよ。これでどうですか?」

 

 幾つかあるキキョウの花飾りの中で、見せられたのは八重咲きの紫色の大きなのと白色の小さなキキョウが一緒の花飾りだ。茎の部分などは金で出来ている。

 これならキキョウの銀髪にもよく似合うだろう。

 

 俺は迷わずそれを購入した。精巧(せいこう)に作られているだけにやはり結構な値段がした。

 

 だがこれでキキョウに花飾りをプレゼントすることが出来る事に安堵する。

 

 代金を払ってキキョウの花飾りを受け取る俺だが売られている花飾りの横で、首にかける部分は簡素な紐に括られつつ、色んな造花の中央にどんぐりのような宝石がはめ込まれた首飾りに目を取られる。

 

「これは?」

「お、お兄さんお目が高いね。これは今日入荷したばかりの商品さ。ここだけの話、これは魔法具でもあるんだ」

「魔法具だって?」

「おう。といっても、握って魔力を込めるだけで一瞬とてつもない光を発する、ってだけなんだけどな。それでも暴漢や魔獣に襲われた時に目を眩ませる事が出来るから女性にオススメなんだ。最も効果がそれだけでも魔法具だからな。少し値段が張る。アンタの買ったのと同じくらいだよ」

 

 その言葉に俺は少し考える。

 

 奇襲ならともかく、これは俺やキキョウでは特段買う意味はない。

 

 だけどアイリスちゃんなら話は別だ。

 アイリスちゃんが精霊魔法を使えるのは知っているけど、何かあった時に直ぐに使うことは出来ないだろう。【木霊との交信(ことのは)】も同じだ。

 

 なら、僅かでも自衛の手段を持つのは悪いことではない。

 

 人間は視覚に頼っているから、目くらましに使えるこれは実用性はある。それに首飾りにしても珍しく全体が金属製ではなく、アイリスちゃん達、エルフが身に付けるような伝統工芸の品だから違和感がない。

 

 財布を見る。食料と花飾りを買ったが、ギリギリ足りそうだ。

 宿で待つアイリスちゃんにお土産を買ってない事を思い出し、俺は買うことにした。ジャママは買った食料をあげたら喜ぶだろう。

 

「すいません、それも貰えますか?」

「良いのかい? ありがとうよ!」

 

 これで綺麗に俺のお金はすっからかんだ。旅の費用としての共通費用はまだあるが俺個人としての金はもうない。

 

 だけど後悔はない。

 

 キキョウへのプレゼントとアイリスちゃんへのお土産を買った俺は早く、キキョウを待たせている場所に戻ろうとする。

 

「喜んでくれるだろうか」

 

 自信はあるが、気にいらなかったらどうしようと考えつつ、キキョウの待たせている場所に行く。

 

 だが、その途中で泣いている子どもがいた。

 

「迷子か? ん? キキョウ?」

 

 見ればスタスタとキキョウが迷子に近付いていた。何やら話している。俺は遠くからそれを見る。

 泣き止まない子どもへ、屈んだと思うと手のひらからパキパキと氷細工の華が出来上がった。

 

「わぁ、すごーい!」

「町で魔法を使ったバレたら此方(こなた)が起こられちゃうから、内緒よ?」

「うん!」

 

 子どもはすぐに泣き止んだ。その後、すぐに親が現れて親子は去って行った。

 キキョウはそれを見送る。

 

 俺は、良い光景を見たと頬を緩《ゆる》ませながら近く。

 

「優しいね」

「アヤメ。見てたの?」

「あぁ」

「……えっち」

「え!?」

「嘘よ。ふふっ。……前に、商業都市リッコ(あの街)での出来事を思い出したの。あの時、此方(こなた)あの娘(ラーミア)に酷いことをしてしまったわ。ううん、あの娘だけじゃない。今まで襲った人々、全員に」

 

 キキョウは後悔の入り混じった瞳で親子の去っていった背中を見つめる。

 

 俺はその気持ちが痛いほどわかった。

 

 彼女もまた自らの行いに自責の念に駆られている。

 

「けど、君はあの子を笑顔にした。それは事実だ」

「……けど」

「キキョウ。過去は変わらない。変えられない。だからこそ、これからに目を向けていくんだ。そうしてば、きっといつか自分を許せる日も来るはずだ。これは、その為のプレゼントだ」

 

 俺はさっきの店で買った花飾りをキキョウの手を握ってその上に渡す。

 キキョウはそれを受け取るとぽかんとした顔になり、俺と髪飾りを交互に見る。

 

「……え? な、何これ?」

「髪飾りだ。君は髪につけていないだろ? だからプレゼントしようと思ってね」

「それは……、ちみっ娘の入れ知恵ね。アヤメは知らないもの」

「勿論アイリスちゃんに頼まれたのもある。だが、俺はキキョウに何かしてあげたいという気持ちもあった。だから、今日誘ったんだ。良かったよ。君の新しい一面も見る事が出来たからね」

 

 俺は少し茶目っ気に笑う。

 するとキキョウもつられてか、くすくすと笑ってくれた。

 

「ねぇ、アヤメ。良かったらこれ、つけてくれないかしら?」

「喜んで」

 

 何処にする? と聞くとキキョウは、アヤメの好きにしてと言った。なら俺は、キキョウは大人っぽいので後ろ髪に似合うようにする為、髪を結《ゆ》っても良いかと聞くとキキョウの許可をもらえたので、ベンチに座って彼女の銀髪を触り始めた。

 

 メイちゃんやアイリスちゃんと違う感触の髪だが嫌いではなかった。

 

 俺はキキョウの後ろ髪をハーフアップにし、その中心の髪飾りをつけた。

 

 キキョウはそれを手のひらサイズの【氷面鏡(スペクリム)】で確認する。

 

「ありがとう、凄く……すごく、嬉しい」

 

 はにかむ彼女は本当に嬉しそうで。とても素敵だった。

 

 いつか彼女にアイリスちゃんが『聖女』であると話せる時が来るだろうか。

 

 来るといいな。俺はそう願った。

 

 

 

 

 

「お帰りなさい! 二人とも!」

<ガゥッ>

 

 宿に帰ると何故か中に併設されている食事場にアイリスちゃんとジャママがいた。その顔は若干むくれている。

 

「ちみっ娘、口に牛乳で白ひげが出来ているわよ」

「えっ!? あわわ」

 

 ぐしぐしとハンカチで口元を拭うアイリスちゃん。

 その後再びおかえりなさいと言う。頰が赤いのは、きっと恥ずかしかったからだろう。

 

「ただいま、アイリスちゃん」

「ちみっ娘、気を使わせたわね。もう体調が悪い演技なんてしなくて結構よ。最も、もう隠す気なんてないんだろうけど」

「むむっ、バレちゃいましたか。でも、その様子だと良かったみたいですね」

「えぇ、そうよ。見てみなさいこの髪飾り! 良いでしょ!」

 

 クルクルと花飾りを主張するように回るキキョウ。

 その様子にアイリスちゃんは呆れつつも、よかったですねと褒める。

 

「やれやれ、子どもなんですから」

「あははっ、あそこまで喜んで貰えると俺も嬉しいよ。そうだ、アイリスちゃんにもプレゼントがあるんだ。はい」

「え?」

 

 俺は、同じ露店で買った首飾りが入った袋をアイリスちゃんに渡す。

 アイリスちゃんも、受け取った袋から首飾りを取り出すと目を見開いた。

 

「アヤメさんがわたしにプレゼント……」

「それは魔法具でね。握りしめて魔力を込めるだけで強烈な光を発することが出来るんだ。咄嗟の時に使えば、目くらましになると思ってね。それで」

「アヤメさんがわたしの為に……アヤメさんが! わたしの為に!!」

「あの、俺の話聞いてくれてる?」

「ふっ、あんな程度で喜ぶだなんて……子どもね」

 

 アイリスちゃんはいつまでも嬉しそうに叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ〜ん」

 

宿のお風呂に入ってアイリスがジャママの毛を梳いていると、キキョウがランプの光に照らしながら貰った髪飾りを手に持って鼻歌を歌っていた。

 

「いつまで歌ってるんですか? 何時もなら寝てるのによっぽどご機嫌なんですね」

「えぇ、よっぽどご機嫌よ」

 

 何時もなら皮肉を返してくるが、それすらもしない。

 言葉通りよっぽどご機嫌らしい。

 

「ちみっ娘」

「なんですか」

「……悪かったわね」

 

 アイリスはジャママを毛繕いする手を止めてキキョウを見る。

 今、何と言った?

 

此方(こなた)は貴女を攫《さら》った際に、貴方の花を凍らせて砕いたわ。それは嫉妬よ。醜くも、此方(こなた)は貴方に嫉妬したの。その事は事実よ」

 

 自分の持っていないものを持つアイリスを(ねた)んだ。嫉《や》いた。

 その時のことをキキョウは気にしていた。してはいたが、謝る機会がなかった。

 

「だから、謝るわ。ごめんなさい」

 

 ぺこりと頭を下げる様は、昨日までなら見られなかっただろう。それだけ今日の出来事はキキョウに変化を与えたのだ。

 

「でも、それはそれとして見てよこれ! アヤメがくれたのよ! ちみっ娘はこんなの貰ってないでしょうね。ふふーん」

 

 しかし、それはそれ。

 キキョウはやはりアイリスに対して張り合おうとする。

 

「む、わ、わたしだってアヤメさんからこの首飾りを」

「それは護身用の側面が強いでしょ? 此方(こなた)は違うわ! アヤメが自ら選んでくれたもの! 羨ましい? でも、あげない。此方(こなた)のだもん」

 

 そういってまた緩んだ顔で髪飾りを撫でるキキョウ。

 

 それはまるで宝物を自慢する子どものようで。だから、アイリスもこれ以上張り合う事はせず、素直に優しい気持ちで良かったですねと褒めるのだった。

 

 今までキキョウとは張り合ってばかりだった。それは敵の時にアヤメを傷付けたというのもあるし、単純にキキョウへの警戒もある。

 

 だけどこうして貰ったものを自慢したり、喜んだりする一目を見て同じ人なんだと改めて強く理解する事が出来た。

 

 これからは少しは信じられる。

 

 そうアイリスは思ったのだった。

 

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