【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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そろそろ夏本番ですね。とは言え雨が降って涼しい時もあるので皆様体調に気をつけてください。
因みに私は前日お腹壊しました。


忍び寄る気配

 

 後日、俺たちは《レイク》を後にすることにした。

 

 念の為、大角カジキを討伐した湖を確認した後に次の町を目指したので、出た時は早い時間だったのだが思ったより進む事は出来なかった。

 

「此処で泊まりましょう。周囲の木々が良い具合に陰になっています。匂いを誤魔化す種も辺りに撒いておくので大丈夫なはずです」

「そうだね」

 

 俺たちは周囲を木に囲まれ、背後に大きな岩がある所で野宿の準備を始めた。

 

「あまり進めませんでしたね。これなら宿で泊まってた方が良かったかもしれません」

「そうだね。けど今から戻っても深夜になるだろうから町の門も閉まっているだろう。仕方ないさ」

「せめて馬車があれば……」

「ケチよね。あの湖を助けたのは此方(こなた)達なのに、馬車は貸せないって」

「仕方ないさ。先に予約をしていたのは商人達の方だ。まぁ、ヴァルドニアの中心に向かう馬車が一個もないとは思わなかったけど……」

 

 何故かわからないが殆どの商人が別の国に行くという。

 別に商人が街から街、国から国を跨いでいくのは変じゃないが、それでも一つくらいは王都に向かっていくのがあっても良いはずなのだが。

 特に《レイク》はその成り立ちから、いるはずなのだが何か妙だった。

 

 ふと、脳裏をよぎる。

 俺は似たような状況を知っていなかったか。

 

 民の要請に応えない軍。

 逃げるように国から離れていく商人。

 

 魔王軍が攻めてきた訳でもないのに、不自然なことばかりだ。

 

(思い過ごしなら良いが)

 

 そんな風に考えていた俺だが、突然森に響き渡る鳴き声が聞こえた。

 

「遠吠えか。近くに狩りをしている魔獣でも居るのかな」

「狼……ではないですね。変な鳴き声でした」

「魔獣なんて全部変な鳴き声よ」

 

 そんな中、ジャママが突如として唸り声を上げ始めた。

 

<グルル……!>

「ジャママ?」

「……キキョウ」

「えぇ」

 

 ジャママがこうして唸り声を上げる時は何かよからぬ事が起きる時だ。

 俺とキキョウは周囲を警戒する。

 

 すると草木をかき分ける音と足音が次第に近付いてくる。

 警戒する俺たち。

 

<ヒヒィィンッ>

 

 現れたのは一匹の馬だった。背中には鎧を着た人が乗っている。

 

 俺も構えるも様子がおかしい。乗る人もだが、馬からも出血している!

 

 馬は力尽きたのか、そのまま倒れ、上に乗った男性も放り投げられる。

 

「何だ!?」

「アヤメさん! あれを!」

 

 倒れ伏した馬を追って、火の光で姿が見えたが灰色の四足歩行の2メートル程の蜥蜴(とかげ)が5匹程現れた。

 

 これは俺も知っている! 灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)という、一度獲物を見つけたらどこまでも執念深く追いかけて来る魔蜥蜴だ。

 

 その執念深さから、特に商人達からは恐れられている。商人が護衛を雇うのは盗賊対策なのもあるが、灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)を警戒しているからといっても良いくらいだ。

 そのくらい犠牲になる人が多いのだ。

 

<ジャアァァッ>

 

 灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)は馬と倒れた人に向かって殺到しようとする。

 人に嚙みつこうとした口に向かって俺は体勢を低くして"緋花"を繰り出して、頭を突き穿つ。

 更には剣を横薙ぎに一閃して、もう一匹の上顎から上を寸断する。

 

<ジャアァッ!>

<ガルゥゥ!!>

「ジャママ!?」

 

 仲間がやられたのか怒った一頭の灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)が襲おうとしてきた所を横合いから跳躍したジャママが比較的柔らかい首に向かって噛み付いた。

 

 揉み合いになる灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)とジャママ。

 

 だがサイズの差は如何ともし難く、今のジャママの力では灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)の分厚い首の皮を食い破る事も出来なかった。

 

 頭を抑えられ、動けなくなったジャママを喰らおうとした灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)の背中に剣を突き刺す。心臓がある位置を狙ったのだがうまくいったらしい。灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)は倒れ臥す。

 

「大丈夫か? 助けてくれたのは感謝するけど、その後無茶をし過ぎだ。相手はジャママ、君より格上の魔獣だぞ」

<……ガゥゥ>

 

 プイッとそっぽを向く。

 やれやれ、素直じゃない。助けてくれた事は嬉しいんだが。

 

 それよりも残った二頭の灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)だ。

 奴らは怖気ついたのか、逃げる素振りをしだした。だがその目は憎々しげにこちらを睨んでいる。

 まずい!

 

「キキョウ! 逃しては駄目だ! 奴らは執念深い上に、憎しみを覚える! 逃したら延々と虎視眈々(こしたんたん)と俺たちを着けてくる!」

「わかってるわ。【氷の壁(アイス・ウォール)】そして、【蠢く氷河(グレイシャー)】」

 

 キキョウによって、作らされた氷の壁によって逃げ道を塞いだ後、奴らの足元を凍らせてもらう。

 

「いいぞ! "月凛花"」

 

 四肢を氷によって塞がれ動けなくなり、無防備な首に向かって一閃。

 血を流して、灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)はだらんと倒れ臥す。

 これで全ての灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)は討伐された。

 

「これで灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)は全てか。それよりも……!」

 

 俺は投げ出された人を抱え起す。あちこちから出血していて顔色も悪い。特に右足には灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)に噛まれた跡があった。

 灰鱗大蜥蜴(サンドルレザール)の唾液には毒がある。

 

「大丈夫か!? 今治療を。アイリスちゃん!」

「はい!」

「待っで! ぐだざ、い……」

 

 男の人は俺の手を掴む。

 息は荒く、手も震え、俺も見ている目も焦点が合ってない。

 

「私は奴に噛まれたせいで、毒でもう駄目です……! だがっ、ら、頼みがあります……! どう、か。この手紙を……『啄木鳥の宿』の………201号室…………そ、こに、は……のなか……ま……」

「がんばってくださいっ! 必ず、助けますからっ」

 

 男性は何かを伝えようとしている。

 その間にアイリスちゃんも『聖女』の力を懸命に使っているが、傷が治っても一向に顔色は良くならない。

 

「私は……斥候、もう、すぐ仲間がこっちに……あのお方こそ、我々の希望……なのです。どうか……どうか……」

 

 理由はわからない。だけど彼は俺たちに託そうとしている。

 

 残り少ない命を燃やして。

 

 そのまま彼の手が力無く落ちようとした所を、俺は彼の手を強く握る。

 

「あぁ、承った。だから安心すると良い。君は自らの使命を全うしたんだ。誇ると良い」

「かん、しゃを……」

 

 最期に笑い、そのまま彼は体の力が抜けた。

 アイリスちゃんを見るけど、彼女は悲しそうにしながらふるふると首を振った。

 

「……だめ、か」

「私の力では失ってしまった血までは癒す事は……。それに、既に先程の蜥蜴による毒も……。アヤメさんの時は直ぐだったのでギリギリ大丈夫でしたけど、この方は最後の力を振り絞って今のを告げたかったみたいです」

「わかっている。傍目から見ても彼はもうダメだった。だから、そんなに気負う必要はないよ。アイリスちゃん」

 

 項垂れるアイリスちゃんに向かって言葉を投げかける。気休めだとはわかっている。

 

 元々一目見ても男性が助からないのはわかった。

 それでも『聖女』の力ならと思ってしまうのは、きっと傲慢だろう。

 『聖女』であろうと出来ない事は当然ある。人を生き返らせることが出来ない。

 聖女の力は癒し(・・)であり、生き返らせる(・・・・・・)ことではないのだ。

 

 俺はガサリと手に持つ手紙を見る。彼が渡した手紙は皺くちゃで、血がつきながらもこれだけは死守しようとしたのが窺《うかが》えた。

 

「どうするのアヤメ? この武装、恐らく『騎士(ナイト)』だった者。その彼がこんな状態で、状況的に逃げて来たのだと考えるのなら、明らかに厄介ごとよ。態々首をつっこむの?」

「わかっている。だが、俺は彼に頼まれた。そして、それに対して任せろと言ったんだ。なら、それに応えなければならない」

 

 彼が何故ここまで来たのかわからない。知らない。本来なら町の兵士等に任せるべきだろう。

 

 だが時間もない。

 彼は仲間が来ると言った。

 

 ならその仲間も何かしらに追われている可能性が高い。幸いかはわからないが、彼の流してきた血を辿れば通ってきた道がわかる。それを遡れば自ずとわかるだろう。

 それに馬が通れる場所というのもこの辺りじゃそう多くない。血の跡と合わさってすぐに何処から来るのか判断出来るだろう。

 

「問題はこの手紙を届ける間にこちらに来るという人が何かに追われていて、殺されてしまう可能性があることか。だが、仲間だという人に届けないわけにも……」

「それならわたしに任せて下さい!」

「だけど、アイリスちゃん」

「大丈夫です! 『啄木鳥の宿』はわたし達が泊まっていた所ですし、ここから《レイク》までそんなに距離が離れていませんし! それにジャママもいますから。そしてなにより、わたしじゃ足が遅くて、二人について行けません」

 

 アイリスちゃんの目は決意に満ちていた。

 

「あの方をわたしは救えませんでした。だからわたしはあの方の遺志(・・)を仲間の方に届けたいと思います。大丈夫です! 【木霊との交信(ことのは)】を使えば遅くとも二時間くらいであの町に戻る事が出来ますから!」

「……わかった。くれぐれも気をつけて」

「はい! あとぼっち、アヤメさんに迷惑をかけるんじゃないですよ」

「何で迷惑かける前提なのよ!?」

「今までの事を振り返ってみると良いです。あわや湖を完璧に凍らせてしまおうとしたのは誰でしたか?」

「うぐぐ……」

 

 心当たりがあるのだろう。

 キキョウは反論しなかった。

 

「なら急ごう。こうしている間にも、こちらに向かってくる人は命を狙われているかもしれない」

「はい! でも、その前に……【植物よ、私の願いを聴いて下さい。この方に安らぎを。誰にも荒らされることのない眠りを】」

 

 亡くなった男性と馬を覆い尽くすように周囲の木々が集まりだす。やがて繭みたいに木によって包まれた。

 

「後ですぐに回収しに来ますから」

 

 当然だが、彼の亡骸を連れて行くのはアイリスちゃんには出来ない。

 俺が連れていければ良いが、一刻を争うとの事なのでその暇がない。

 だからここに置いて行くしかない。だが、幾ら【木霊との交信(ことのは)】でも、魔獣達が木を切り裂かないとは限らない。

 

「【氷の壁(アイス・ウォール)】」

 

 突然、木全体を囲むように氷の壁が出現した。

 

「キキョウ」

「これならもっと安心出来るでしょ」

「ぼっち」

「勘違いしないで。ちみっ娘のだけじゃ頼りなかったからよ」

「……はぁ、もう。素直じゃないですね」

「別に本当のことだし! ……何よ、その目! 本当なんだから! 此方(こなた)を暖かい目で見るのやめなさいよ!」

 

 その様子にちょっとだけ笑った俺だけどすぐに気を引き締める。

 

「それじゃ、俺たちは向かってみる。アイリスちゃんも、後からジャママに匂いを辿って貰って来てくれ」

「はい! お二人も気をつけて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガタガタと馬に引かれ走る馬車を中心に20人余りの武装された兵士が馬に乗って道を走る。道が悪いのか馬車は時より大きく上下に揺れていた。

 一様に全員が顔に焦燥を浮かべ、しきりに背後を気にしていた。

 

「追っ手は!?」

「まだ着いてきてる! もっと早く出来ないのか!?」

「無理だこの夜の道でこれ以上速度を出せば転倒しかねない! そもそも街道とは言え、塗装されている訳じゃないんだぞ!」

「奴らが確実に距離を縮めているのはやはり練度の差と馬の品種か!」

「くそ、こっちは馬車だってのに!」

 

 兵士の悪態吐いていると突然馬車を引いていた馬が悲鳴を当てて倒れ伏す。当然馬車もそのままの勢いで倒れてしまう。

 

「なっ!? 何が起こった!?」

「馬がやられた!」

「横からだと!? いつのまに!」

「弓だ! くそっ、こんな夜の中当てて来やがったのか!」

「そんなことはどうでも良い! ピエール様は無事か!?」

 

 倒れた馬車に近寄り、多少歪んだ扉を力ずくに開ける。

 

「ピエール様! ご無事ですか!?」

「あぁ……頭を打たなくて助かったわい」

 

 中からは一人の白い髭の老人が体を抑えつつ現れた。

 大きな怪我もないようで青髪の兵士は安心した。

 

「よかったです。急いで我々の馬に……」

「矢が来るぞ!!」

 

 一人の兵士が叫ぶ。

 馬車が止まった所に矢の雨が降り注いできた。

 

「ぐぅっ」

「ピエール様!?」

「ピエール様に矢が!!」

 

 負傷する兵士と一緒に、老人の胸に一本の矢が突き刺さった。

 

「ぐぁぁっ、あ、足に矢がぁぁ」

「味方にも被害が!」

「それよりも、早くこの場から逃げないと。このままでは」

「駄目だ、左右にも敵がっ」

「扉を閉めろ! 次矢が来たら今度こそピエール様の御身が危ない!」

「わ、わかった!」

 

 馬車の扉が閉められると同時に矢が来た方向から、馬に騎乗する重厚な鎧に包まれた騎士達が現れた。

 

「全員、対象の確保を優先しろ! ただし、抵抗が激しければ最悪殺しても構わない! ……躊躇するな、我らの力を見せる時だ! 抜刀!」

「いかん、ピエール様をお守りするんだ! 突撃!」

 

 比較的軽傷な兵士達が現れた騎士達に攻撃する。

 だが、その力の差は明らかで数だけでなく練度でも負けていた。

 

「はやく馬車を立て直せ! 時間を稼ぐからピエール様だけでも」

「ぐぁぁあぁぁぁ!!」

 

 戦っていた仲間の一人が大きく吹き飛ばされ木にぶつかり気絶する。

 

「何だ、何がおこっ」

「ピエールを確認。直ちに捕縛します」

 

 騎士達が左右に道を譲る。

 その中心から一際大きな馬に乗り、真顔とも能面とも言える無表情の顔をした紫色の髪をした端麗の男が、巨大な盾と業物であろう槍を構えて現れた。

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