【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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己の心に従って

 

 キキョウがアイリスちゃんの力に気付いた。

 

 その目はアイリスちゃんに注がれている。アイリスちゃんが息を飲むのがわかった。

 

 嘘は……つけない。

 

 大丈夫だ。キキョウはそんな人ではない。

 俺はアイリスちゃんを見る。彼女もまた、俺の方を見て頷き返した。

 

「実はーー」

 

 

 

「今代の『聖女』ねぇ。へぇ、このちみっ娘が」

 

 俺はキキョウにアイリスちゃんが『聖女』であることを伝えたい。

 その内容に対し、キキョウの反応はこんなものだった。

 

「女神とやらも案外抜けているのね。こんなお子さまを『聖女』にするなんて」

「ちょっと、どういう意味ですか!」

「そのままの意味よ。『聖女』ってのは確か人類の希望なんでしょう? 此方(こなた)は歴代の『聖女』は知らないけど、それでも伝え聞く限り包容力のある女性らしいじゃない。ちみっ娘にはとてもとても……体も貧相だし」

「こ、これからなるかもしれないじゃないですか!」

「その頃には多分今回の魔王軍と人類の戦い終わってるわよ。エルフの寿命何年あると思っているのよ?」

「むぐぐ……」

 

 悔しげに唸るアイリスちゃん。

 俺はと言うとハラハラしながら二人の様子を見守っている。

 

「でもこれで納得がいったわ。あの時のアヤメの傷をその力で治したのね」

「あの時?」

此方(こなた)がちみっ娘を人質にした時よ。傷が治ってたじゃない。とにかく疑問が解けたわ。それで? なんでちみっ娘は此処にいるの? 貴女の居場所ってあっちの本物勇者なんじゃないの?」

「へーん! そんなのこっちからお断りです!」

「なんでよ?」

「だってあの人アヤメさんの事斬ったんですよ!? わたしがいなきゃアヤメさんは死んじゃってましたよ!」

「は? なにそれ聞いてない。ちょっとその本物勇者氷漬けにしてくるわ」

「珍しく意見が一致しましたね。そうしましょう」

「えぇ、そうね」

「ちょっと待ってくれないかな!!?」

 

 二人の話を聞いていた俺だが聞き逃せない言葉に割って入る。

 

「あれは俺がそうなるように仕向けて、俺自身それを罰として受け入れるつもりだった。だからユウには責任はなくてだねっ!?」

「だとしてもアヤメさんの事を信じきれずに、あまつさえ不可抗力とは言え、殺しかけるだなんて酷いのです! 少し

「そうよアヤメ。殺さないにしても指の一本や二本くらい凍らせて壊死させても良いはずだわ」

「良くないよ!? 何一つ良くないから!」

 

 えぇーと二人揃って不満そうな顔をする。なんてこんな時に仲良くなっているんだ!?

 落ち着け。

 俺は息を整える。

 

「とにかくだ。俺はユウに斬られた事を気にしていないし、二人にも物騒な事を考えて欲しくない。俺は君達も、二人も大切なんだ。俺の為とはいえ、いがみ合ったり、罵っているのを見たくない」

「あ……。そう、ですよね。アヤメさんにとってもあの二人は大切な人ですもんね。ごめんなさい」

「そうよね……。ごめん、アヤメ」

「気にしないでくれ。二人こそ、俺の為に憤ってくれてありがとう。その心は嬉しいよ」

 

 お礼を言うと二人は照れたように俯いたり、そっぽを向いたりした。その姿が可愛らしくて、俺はつい笑ってしまう。

 

「アヤメがそう言うならひとまずは保留にしておくわ。それでちみっ娘、貴方はどうするのよ?」

「どうするとは?」

「だって魔王軍との戦いには『聖女』の力が必須なんでしょ? 此方(こなた)は魔王に会った事は一度しかないからわからないけど、その力は本物だと理解できるわ。『勇者』だけでは勝てないわ。たとえ『真の勇者』だとしても、先代達と比べてもその力に今の所差があるとは思えないわ。『迅雷』を倒したとしてもね」

「それは……」

 

 それはあえて避けていた問題だった。

 

 アイリスちゃんが『聖女』なら、本来はユウの側にいなければならない。いつだって魔王を倒すのは『勇者』と『聖女』だ。

 俺は……『勇者』としては偽物でなれなかった。

 だから、彼女の居場所はここではない。だけど、アイリスちゃんは俺の側にいるし、俺もその事について何か言ったことはない。

 

 いや、わかってる。

 俺はユウ達とアイリスちゃん両方を大事に思っている。どちらも両天秤にかけて、結局どちらも選ぶことが出来ずに答えを先延ばしにしていたのだ。

 

 民を救うのに『聖女』の力が必要と知りながら、魔王軍との戦いに不可欠と分かりながら。

 

 きっと俺が何を言おうと偽善で、愚かなのには変わりないのだ。

 だから、責められるべきは俺なのだ。

 

 俺が何か言おうとするより先にアイリスちゃんが口を開いた。

 

 

「わたしは、アヤメさんと居たいんです。これはわたしの意志です。他の誰に言われようとこれは変わりません」

 

 

 彼女は、既に自分の考えで此処にいた。

 立派だった。

 女々しく、自己欺瞞で答えを避けていた俺なんかよりも。ずっと。

 

「ふぅ〜ん、まぁ良いんじゃないの? 好きにしたら」

「責めたりはしないのですか?」

「何が?」

「だから、その『聖女』なんだからその力は世界を救う為に使えって……」

「アイリスちゃん……」

<クゥゥ〜ン>

 

 それでも思う所があるのか、俯くアイリスちゃんに、俺は心配そうな顔をする。ジャママも彼女に慰めるように擦り寄る。

 その様子を見ていたキキョウは呆れたように溜息を吐く。

 

「なんで此方(こなた)が責めないといけないの?」

「え? だって……」

「そんなこと言ったら元だけど魔王軍の八戦将の此方が此処にいるのもおかしいわよ。魔王軍ってのは人類を滅ぼす為に力を振るうべきなのに此方(こなた)の知ってる奴の中には鉱石の為だけに魔王軍に与する奴もいるもの。更には自らの体を焼く変態もいると来たわ。だから力はともかくその使い方はその人次第よ。何の為に使うか、誰の為に使いたいかなんて自分で考えなさい」

 

 ……驚いた。キキョウが凄くまともな事を言っている。

 そういえばこの中じゃ、一番年長者なんだったキキョウは。だからこうしてアドバイスしてくれる。

 

「どの道、八戦将を何人か倒さなきゃ魔界へ行っても返り討ちにあうだけだし、結界も破れていないなら今すぐ本物勇者の所に行く必要はないでしょ。『迅雷』を倒せるなら問題ないはずよ。それにね。別に此方(こなた)はちみっ娘の事軽蔑はしていないわ。寧ろその選択をした貴方にほんのちょっと感心したくらいよ」

「感心……ですか?」

「そうよ。女神なんて見る事をできないものから与えられた使命よりも、自分で判断した事にね。それってね。難しい事なのよ。特にこの世界じゃ。だけど、ちみっ娘は自分でついていく人を見極めた。そのことは認めざるを得ないわ。それにね此方(こなた)もそうよ。此方(こなた)は此方の信じた方につくわ。だから此方(こなた)は此処にいるの。そしてその事に後悔なんてしていないわ。ちみっ娘も、後悔してないでしょ?」

「当たり前ですよ!」

「ならば、悩む必要なんてないじゃない。自分で選んだ行動よ。胸を張りなさい。それに」

 

 キキョウはアイリスに近付き耳元でボソリと呟く。

 

「好きな人の側にいたいのは分かるわ」

「ふぁっ!! な、ななな何のことなのかさっぱり……」

「あら違ったのかしら? ……ならアヤメは此方が貰おうかしら」

「それはだめです!」

「いっ!? いきなり大声出してどうしたんだ? 」

「そ、それはっ」

 

 喧嘩でもしたのかと心配してアイリスちゃんを見ると彼女は顔を赤くしてすぐさま俯いてしまう。

 

「あ、あうあう……(ぼっちが好きな人とか言ったせいで変に意識してしまってアヤメさんの顔が見れません……)」

「ふふん、やっぱりお子さまね。この程度のことで動揺するなんて。ほら、何が言ってみなさいよ。ほら。ほらほら」

「ぬぐぎぎぎ……誰のせいだと……」

 

 何故だかわからないがアイリスちゃんはキキョウを睨んでいる。キキョウはどこ吹く風だ。

 

「けど、変ね。そもそも、エルフには称号なんて与えられないはずだし、そもそも歴代の『聖女』にエルフが選ばれたことなんてないはずだけも」

「えっへん! それだけわたしが優れている証明なのです!」

「そんなものかしら……?」

 

 何処か納得いかないような表情をキキョウが浮かべるもそれ以上突き詰める事はしなかった。

 

 

 

 

「それで、アヤメ。あの話はどうするの? 」

 

 アイリスちゃんの秘密についての話が終わり、話題が変わる。

 何が、とは言わない。

 

 あの後俺はピエールに共に戦ってくれないかと誘われた。

 そして俺はそれに対して条件付きとは言え頷いた。

 人同士の争いに、首を突っ込む事にした。

 

 それはもしかしたら、救世主(ヒーロー)の道からは外れる行為かもしれない。

 

 

 わかっている。

 ピエールはきっと嘘をついていない。

 わかっているさ。

 これは俺のワガママだってこと。

 

 

 全部わかっている……!

 

 

 だけど俺は決めたのだ。

 不当な暴力に、権力に抑圧されている人を助けると。

 

 それこそが俺に出来る、あの時助けられなかった人々への償いになる。

 

 

 だから俺は自分自身の目で確かめたい。

 この国の闇を。

 

 

「今はとりあえず彼らと共に行動する。そして見極める。何がこの国にとって最も良いのかを」

「そう。まぁ、此方(こなた)はそれでも良いけど。ちみっ娘はどうなのよ?」

「わたしもご一緒にしますよ! 当たり前じゃないですか」

<ガゥっ!>

「ジャママも一緒と言っています!」

 

 二人はどこまでも俺についてきてくれようとする。

 だが俺は心苦しかった。何故なら二人を人同士の血みどろの争いに巻き込んでしまうかもしれないからだ。

 

「そうか……ごめん二人とも。俺の都合に巻き込んで」

「何言ってるんですか」

「何言ってるのよ」

 

 二人は揃って声を合わせる。

 

「わたし達はそうしたいと思ったから、一緒に行くんです。だからアヤメさんが謝る必要はありませんよ」

「そうよ。アヤメはアヤメのしたいことをしなさい。此方らも、自分達がしたいことをしているだけなんだから」

 

 そう語る二人の目は何処までも俺の事を信じてくれていた。

 

「そうか……、ありがとう二人とも」

 

 あぁ、全く。

 俺には勿体ないくらい良い仲間だ。

 

 俺は嬉しくて笑みを浮かべる。

 二人も、つられるように笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い闇の中、月光を頼りに走りぬける集団があった。

 誰を隠そう、例のユサール遊撃騎士団である。

 

「エドワード様、私の馬をお使い下さい。私はマルセイの馬に一緒に乗せてもらいます」

「感謝します。まさか愛馬(マネラ)を失う事となるとは。速度を重視し、馬用の鎧をつけてこなかった私のミスです」

 

 配下の馬を借り、エドワードは騎乗する。その後、怪我人はいないか確認するがどうやら数人氷の魔法使いにやられたのか腕に凍傷を患っていた。すぐさま水を掛け、タオルで包んで解熱するよう指示しておく。

 

 帰り道の道中、騎士の一人が質問する。

 

「エドワード様、何故退いたのですか? あのまま行けばピエール殿を」

「あのまま戦えば此方にも、そして向こうにも被害が出たでしょう。我々の目的はあくまでピエールの捕縛であり、民を殺すことではありません。それに立ち塞がったあの男。彼からは並々ならぬ覚悟と技量を感じました。あのまま戦えば私でも勝てたかどうか……それにどうやら向こうには『魔法使い』もいたようですから此方が不利なのは変わりません。私はともかく貴方達では彼の方相手では荷が重い。その点ではピエール殿にしてやられました。まさか『魔法使い』も雇っていたとは。こちらも連れて来るべきでしたね」

「急な指令だったとは言え、事前情報ではそんな内容はありませんでした」

「それにあの魔法も見た事ないほど大きかった。何者でしょうか? 氷など、雪山に住む隠遁した『魔法使い』の末裔か何かでしょうか?」

「わかりません。しかし、あの時点でピエール殿を捕らえるのは不可能になりました。人手が足りませんから」

 

 『魔法使い』相手には『魔法使い』で対抗するか遠距離で仕留めるしかない。だが、弓ではあの『魔法使い』を仕留めるのは難しかった。あの仮面の男(アヤメ)がカバーするように弓矢を叩き落とすので届かないのだ。こちらは『騎士』であり『弓手』でない以上、あれ以上の威力の弓矢は撃てないので届かない。

 

 それでも時間をかければ他の騎士がピエールを捕らえることが出来ただろうが、あの増援でそれも無理になった。

 

 あとは不毛(ふもう)な乱戦による命の落とし合いだ。いや、装備と練度の差からして虐殺か。それは望むべくことではない。

 

「これからどうなるでしょうか」

「ピエール殿を捕らえる事が出来なかった以上、国王様の叱責は免れないでしょう。責任は全て私にあります」

「そんな! エドワード様は何も悪くありません!」

「事前に捕縛できなかった我々に罪があります!」

「……けどまさかピエール殿まで反乱軍に身を費やすなんて。ピエール殿は俺が『騎士』になるより前からいた大臣だった。そんな人が離反するなんて。ならこの国はもう……」

「おい、滅多な事言うな!」

「いいえ。長くこの国に仕えたピエール殿が離反した以上、他の者も続くのが通りでしょう。彼は前王より仕える忠臣。彼がこの国を見切ったのならば……それはつまりそういうことです」

 

 エドワードは否定しなかった。

 部下達の顔に翳りが出来る。

 誰もが沈黙する中付き合いの長い副長が意を決して語った。

 

「エドワード様、民を思うならば我々も選択(・・)するべきではないでしょうか」

 

 暗に裏切りを仄《ほの》めかす部下に、エドワードはそれでも首を振る。

 

「いいえ、それは出来ません」

「エドワード様! もう民は限界です! 幾ら貴方様が見逃そうとも肝心の国王様が態度を改めない以上何の解決にもなりません!」

「確かにヴェルメ国王陛下の横暴には目を覆うものごあります。しかしそれでも私はあのお方に……アメリア様に誓ったのです。国王様を、ヴァルドニアを守ると。だからこそ、どうして私がその剣を国に向けることが出来るでしょうか」

「エドワード様……」

 

 その言葉に騎士達は皆悲痛そうに顔を臥せる。エドワードはそっと胸鎧の中にある護符を取り出し、握りしめると再びしまう。

 

「ですが、貴方達は違う。もしもの時は」

「いえ、我々も最後までお伴します」

「……感謝致します」

 

 闇夜を走る騎士達の姿。傷一つない鎧に武勇を誇る剣。どちらも彼らの輝かしい戦績を表している。

 しかし彼らの心は闇のように陰っていた。

 

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