【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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譲れぬ思い

 夢を見ていた。

 未だに忘れる事は出来ないあの日の事を。

 

『アメリア様。このエドワード・ジェラルド。貴方様の騎士として、その名に恥じぬよう尽力する所存であります。私は貴方様の盾として、如何なる災厄より御守り致すことをここに誓います』

 

 無表情で淡々と騎士の誓いを立てるエドワード。

 著しい功績と実績を積んだ事で王より一人娘であるアメリア・ヴァルドニアの騎士となることを賜われたのだ。

 

 しかし、周囲はこれを讃えはしなかった。寧ろ左遷とまで言われた。

 それは何故か。理由は王女であるアメリアにあった。アメリアの職業(ジョブ)は『呪術師』であった。『呪術師』はその通り呪いをかけるなど外聞が良くなかった。王妃が亡くなって唯一の王女ではあったが、貴族の中にはあからさまに陰口を叩く人もいた。

 

 だがそれはエドワードとて同じ。愛想笑いすらしないエドワードは、人形とも揶揄された。

 

 誠の意味で祝福するのは国王と騎士団のみ。

 

 周りの貴族もただただ簡素な祝福の声を上げるだけのまるでつまらない演劇のような中、当人であるアメリアは気にすることなくエドワードの前に立ち

 

『これからよろしくね! エド!』

 

 そう、とびきりの笑顔を見せた。

 

 

 アメリア様は良くも悪くもお転婆であった。

 王女であるにも関わらず、自ら『呪術師』としての素材を取りに行こうとしたり、難しい調合をしようとして失敗したりした。

 

 エドワードも彼女を慎めつつも無理に止めず、危険があれば予め排除した。

 

 そのせいか主従揃って変わり者とも言われた。

 

 そんな中、一度強力な魔獣が国を脅かした。その際騎士団は元より腕の立つエドワードも出陣した。結果、魔獣は討伐出来たがエドワード自身大怪我した。

 

 それを城へ帰って来た時見たアメリアは顔を青く染めた。

 

『エド! 怪我したの!?』

『お恥ずかしながら、此度の魔獣は中々に強力でした。不覚をとり、盾も駄目にしてしまいました』

『盾なんてどうでも良いよ!それよりもエドが怪我をしたのが心配なの!』

『これも民を守る為。我々は国を守る盾であり、国民を守る矛であります。その為に果てるというのならば、騎士として本望であります』

『っ、ばか!!』

『アメリア様?』

『死ぬだなんて簡単に言わないでよ! 死んだらおしまいなんだよ!? もう会えないんだよ!? 残された側の気持ちも考えてよ!』

 

 泣きそうになりながら叫ぶアメリアにエドワードは呆気にとられた。そして彼女を悲しませた事に心を痛めた。

 申し訳ありません、と繰り返し謝罪することしか出来なかった。

 やがて落ち着いたアメリアが何かポケットを探り出した。

 

『そうだ! 良い事思いついた!』

『アメリア様?』

『エド、ちょっとだけ屈んでくれる?』

 

 怪訝に思いつつ屈むと首に護符がかけられていた。

 

『これは?』

『これは御守りよ! わたくしが作ったの。エドが必ず帰って来られるように、怪我しないように厄災を跳ね除けて下さいって。だから、これからはそんな大怪我しないでね。約束だよ!』

 

 アメリアが笑う。

 あの時、エドワードは改めて誓ったのだ。必ずこのお方を守ると。

 

 あの日以来、エドワードは大怪我を負うことはなくなった。あらゆる敵を殆ど怪我をせずに打ち負かした。いつのまにか『鉄壁』ともまで呼ばれる程になっていた。

 

 全てはアメリアを守る為に。

 彼女に迫る全ての敵意から守る"盾"として、己を鍛え続けた。

 

 その頃にはアメリアも『呪術師』として、一定の成果を出して周囲から認められ始めていた。これからもうまくいく。そう思っていた。

 

 

 

 

 

 だから、あんな病で死ぬだなんて思ってもいなかった。艶やかで美しかったアメリア様は、最後は衰弱して骨と皮だけの老婆のようになってしまった。

 

『エド……側にいる……?』

『はっ、側におります』

『ごめんなさいね……わたくし、もう目も殆ど見えないの……貴方の顔も、もうわからないわ……』

『謝らないでください。必ず……必ず良くなりますから』

『ふふっ……わかるの。わたくしは、ここまでだって。わたくしは、不孝者よね。お父様を悲しませて、国民にも何も出来ずに死ぬなんて、ほんとうに』

『そのようなことは!!』

『エドの大声、初めて聞いたなぁ。ねぇ、エド……お父様と国を守ってあげて。それ……と……ーー』

『……アメリア様?』

 

 答えは返ってこなかった。アメリアは微笑みながら亡くなった。

 

 鍛え抜いた武はなんら意味を成さず。

 誓いを果たすことも出来なかった。

 

『ッ……! アメ、リア……様……!』

 

 守る者を守れず、失った。

 唯一の彼女の願いも、今となっては果たして守れているのかどうか。

 

 

 我が盾は一体何を守る為にあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 薄暗い地下牢。

 そこは罪人と城に侵入した暗殺者などを捕らえるための牢であった。当然空気も悪く、居住性も最悪だ。

 

 そこに、本来ならば似つかわしくない、居るはずのない男が捕らえられていた。

 鎖に繋がれながらもエドワードはその場でじっと佇んでいた。

 

「エドワード様! エドワード様!」

 

 地下牢に相応しくない甲高い声を発しながら一人の騎士が石造りの階段から降りて来る。

 

「エドワード様ッ!」

「どうしましたか。私は国王様の命により謹慎の身。私に接触すれば貴方もどうなるか分かりませんよ」

「それどころではありません! 反乱軍がこの王都に近付いています!」

 

 その報告はエドワードをして驚嘆の内容だった。だがそれは反乱軍に対してではない。

 

「速すぎる。一体何が起こったのですか? ジャモコ殿はどうしましたか。私の指揮権もジャコモ殿が継承したはずですが」

「それがジャコモ様は反乱軍に敗北、捕らわれましたとの連絡が先程。それでその、フィオーレの町での所業が反乱軍によって手広く知れ渡ってしまいました。そのせいで我慢の限界に達した各地で反乱が起こり、貴族らもそれに続き王の招集に従わず、それどころか反乱軍に加わり王都に目指しているそうです」

 

 エドワードはほんの僅かに目を見開いた。

 ジャコモは強いとは言えないがそれでも『騎士』だ。更には王を守る近衛騎士だ。反乱軍に負ける、そのことを譲っても逃げる事は可能だと思っていた。それが配下含め誰も帰って来てない。

 

 だがエドワードには一人心当たりがあった。

 

(貴方とでもいうのですか?)

 

 脳裏に赤毛の仮面を付けた男が浮かぶ。

 エドワードは確信していた。彼がジャコモを倒したと。

 

「城下町の兵士達はどうしたのですか? 幾ら反乱とは言え無関係な民が住む城下町でなら彼らも戦闘を望まないはずですが」

「それが城下町の市民、兵士も多数が反乱に加わり、一緒になってこの城へと進軍しています。理由は例の町を襲った事が城下街にも反乱軍の密偵により広められたせいかと。そして何より、今の王よりも信の厚いピエール殿が反乱軍にいるからでは……と」

「……やはり無関係な町を襲ったのが仇となりましたか」

 

 温和で善良な貴族のカンディアーニの処刑。これだけならまだ何とかなったかも知れない。所詮は他の領での話。民も決起する事はなかっただろう。

 

 だがジャモコ達は関係ない町をも襲った。

 

 明日は我が身。そう考えた貴族と民が王を打倒しようと考えるのは何らおかしくない。

 

「状況は最悪です。我が軍にも姿の見えない兵士が何人かいます。恐らく逃げたか元より向こうの手の者かと。残った者達も士気に関しては著しくはありません。現状を打破するにはエドワード様の力が必要です。実の所、王より許可を受けています。今、牢を開けます」

 

 配下の騎士はかちゃかちゃと牢屋の鍵を開けた後、エドワードを拘束していた鎖も外す。数日間繋がれていた手足は青く変色し、痛みがあるがこの程度なら支障はない。

 

 そのまま階段で地下牢から廊下へと出る。

 すると見慣れた部下達が近寄って来る。

 

「エドワード様! よくぞご無事で」

「エドワード様、先程反乱軍の中に多数の『魔法使い』もいたとの情報が」

「我々はどのようにして迎え撃つべきでしょうか」

「落ち着きなさい。先ずは情報を精細に教えなさい」

 

 此方に詰め寄り指示を仰ぐ部下を窘めながら、情報を聞く。

 話を聞くにつれ余り状況がよろしくないことを確認しながら速やかに指示を出す。

 

 そんな中、部下達が自らの装備を持ってきた。エドワードは鎧を身に纏う。

 

「エドワード様、こちらを」

 

 部下の一人がエドワードの装備を渡そうとする。

 

「……」

 

 最後に差し出されたのは、槍。

 

 この国を守るように王より授かった至宝の品。だが、その槍が振るわれるのは同じ国の民だ。

 

 自らが槍を振るえばそれだけ人が死ぬ。

 正義がどちらかなど考えるまでもない。

 だが……

 

『エド……お父様と国を守ってあげて』

 

 護符を握り締める。

 

 私は騎士、この国を守りし守護者なり。この国に属するのならば、国を乱す輩を排除するのが我が役目。それがたとえ自国民であろうと。

 

 迷いを振り払い、槍を手にする。

 

 カンッ! と槍の柄を地面に叩きつけ、音を鳴らす。

 

「只今よりこの城の兵を集めなさい、城門前で防御陣を張り迎え撃つと。それと『もし城門が破られた際には、各自己が判断で投降せよ』と」

「しかしそれは」

「もはや敵の方が数は上。『魔法使い』も今の天気では力を発揮し辛いでしょう。それと、兵の一部をこことここに配置しておきなさい。裏切り者、或いは手引きされた者がいるとしてもここを守れば対処出来ます」

「しかしそれでは城門が手薄に」

「問題ありません。数が多くとも一度に攻められる人数は決まっています。それに私自身も城門で」

「エドワード様! 国王陛下より命令です! ……その、国王陛下が己の護衛に回れと」

 

 新たに伝令に現れた騎士のその言葉に騎士達は絶句した。この状況でエドワードを欠く事は統制も、士気にも影響が出る。にも関わらず、自身を守れというのだ。

 

 エドワードも数瞬止まり、やがて頭を振って動き出す。

 

「分かりました。すぐに向かいましょう。……指揮はエラルド、貴方に委ねます」

「……エドワード様、我々は貴方様の元であったこと誇りに思います」

「死ぬな、とは言いませんし言えません。ただ全力で使命を果たしなさい。その後はもう好きにしなさい」

「はっ!」

 

 死地に向かう部下達をエドワードは憂いを帯びた目で見る。

 

 その後、無理矢理に未練を断ち切り王の元へと向かった。

 

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