【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した 作:髭男爵
月が雲で見えなくなり、小雨が降る夜。
夜にも関わらず普段の静けさはなく、喧騒と怒鳴り声、剣戟の音が絶え間無く響いていた。
城門前。
多くの反乱軍と城を守る者達による攻防が繰り広げられていた。
その様子を遠くから見つめる反乱軍本部。
その中にはピエールもいた。
「抵抗が激しい。やはり王が腐っても最後まで国と共にあろうとした者たち。その練度は侮れませんな」
「はっ。我が軍にも多数の被害者が出ています。特に騎士団の抵抗が激しく中々突破出来ません」
「しかし本来予想していたよりではない。向こうの動きも、何やらぎこちなく見える。……もしや。エドワード卿の姿は見つからないのじゃろうか?」
「はい。戦闘区域の何処にも見当たらないということです」
「この局面でいない。恐らく自らの護衛につけましたかの。だからこそ付け入る隙がある。しかし……もはやあの勇姿はないのですね、王よ……」
ピエールはかつての主君に思いを馳せた。
ピエールが思いを馳せる頃、戦場では戦局が動こうとしていた。
「もう一度だ! もう一度城門に向けて破城槌をぶつけるんだ!」
「おぉ!!」
何度目か分からない破城槌が城門に打ち込まれる。
城門側は耐えようとするも絶え間ない破城槌の猛攻についに城門が破られた。
「城門を突破した!」
「突撃! 突撃ぃッ!!」
一斉に内部に侵入しようとする反乱軍。
と、そこへ。
「【高斬撃】」
「【突破槍】」
「【断裂・破槍】」
「ぎゃあぁぁ!!」
「うわぁ!!」
「ぐはぁッ」
剣が、槍が突き出され、勢いよく突撃した反乱軍が押し返された。
幸いにも致命傷になった者はいない。だが全員が戦場から離脱せざるを得ない怪我であった。
「我らユサール遊撃騎士団、ヴァルドニアを守りし守護者であり、栄えあるエドワード様配下の騎士なり!」
剣を掲げるは洗練された動きで巧みに二人の兵士を斬り伏せし騎士。彼は武器を破壊し、無効化させる。
勢を挫かれた反乱軍を騎士が盾で吹き飛ばす。
「此処は我らの領域なり! 容易く突破出来ぬと知れ!」
「我らユサール騎士団、忠節と勝利を!」
「騎士団万歳! 国を蝕む敵を打ち倒さん!」
「もはや我らに
隙がなく、盾を構えて道を塞ぐエドワード配下の騎士ら。反乱軍はその防御を突破することができないでいた。
更には進出し過ぎた反乱軍を囲うように騎士らが両翼より長槍の騎士が突いてくる。
「【我が声に応え唸り、纏い、旋風となりて裁きを与えよ、
「【母なる大地よ、城を守る壁となって侵入者を阻み我らを護りたまえ、
「ぐあぁぁぁ!」
「『魔法使い』だ! ダメだ、下がれ下がれぇっ!!」
更には騎士達の後方にいる魔法使いから魔法が詠唱される。
風の刃が切り裂き、土が体勢を崩しさせる。更には矢が飛んできた。
反乱軍は『兵士』が居るとはいえそのほとんどが平民という戦いに向かない
圧倒的なまでに離れた戦闘力の差に抗うことが出来ない。
「くっ、まだ耐えるんだ。そうすれば」
「城より湧き出た反乱軍の者は既に制圧した。挟撃など、出来ると思わないことだ!」
「!? こちらの作戦がバレてるだと!?」
崩れた所へ長槍や弓を持つ騎士達からの攻撃で武器を破壊されたりと無効化され、どんどん味方がやられていく。
「いかん、このままじゃジリ貧だ! 突入態勢! 一点突破で奴らの陣を崩す!」
「盾を前へ! 奴らは突撃する気だ。押し留めさえすれば魔法使いの攻撃でどうとでもなる!」
練度で劣る反乱軍は強行突破を狙うも、
数は反乱軍が上だが『騎士』である彼らを突破出来るだけの力を持つ者が反乱軍にいない。
このままでは全滅も時間の問題だった。
「退くな! 退いたら負けるぞ!! 突撃ぃぃ!!」
「愚かなッ……【吹き込む風よ、我の……んっ、ぐっ!? ……! ……!?」
「なんだ!? どうした!?… …なにっ? 俺の足っ……。動かない……!? しまっ、がはっ」
「な、なんだ? 簡単に倒せたぞ?」
「いける! いけるぞ!」
「俺たちでも騎士を倒せるぞ!」
突如として弱体化した騎士が倒されたことで反乱軍の士気が上がる。
何故いきなり騎士たちが負けたのか。
「エラルド副隊長! ジュールとアイクがやられました!」
「くっ、一体何が起こってるんだ!?」
「構えを解くな! 奴らを王城に入れる訳にはいかん! エドワード様に顔向けできない!」
「は、はっ! しかし、誰がこんなことを!?」
(ふっふーん、それは全部
盾を構える騎士の足元を凍らせ、踏ん張りがきかないようにし、魔法使いは詠唱する前に喉を凍らせて声を出なくさせた。
何故なら今は雨。ピエールは相手の魔法使いが炎を使えなくなると踏んで城攻めを強行したがこれはキキョウにとっても有利に働いた。降り注ぐ雨に自らの氷も合わせて【雨氷霧】を発生させ、あたり一帯を薄い霧で覆ったのだ。
もはや雨が降る所は全てキキョウの攻撃の射程範囲だ。
凍らせた所もすぐに解除するので夜で視覚が効かないこともあり、バレることもない。
中には勢いの余り騎士の人を殺そうとした人も居たが、そういった人間も転ばせたりして殺害を防いだ。
「
あくまで主役は反乱軍。キキョウはアヤメに言われた通り目立たないようにしながら確実に反乱軍に有利になるよう実力者を倒していった。
「むぅ……」
アイリスはジャママを側に戦場から離れた本陣にいた。近くにはピエールらのいる本陣もある。
「……確かにわたしを危険に晒したくないっていうのはわかります。それだけ大事に思われているのは嬉しいです。だけどこうして見ているだけってのはそれはそれで納得出来ないのです……」
複雑な乙女心。
大切に思われるのは嬉しい。だけど、ただただ守られる対処なのは嫌だ。自分は彼の足手まといなんかではない。
けれどもアヤメが自身を心配している事にアイリスは勿論気付いている。
だからこそ、無理に自らも付いて行こうとはしなかった。
「アヤメさんも、ぼっちもあそこの戦場にいるのですね……」
あの場で行われているのは命の凌ぎ合いだ。
そういう点ではアヤメと肩を並べられるキキョウが羨ましかった。
確かに戦場は危険だ。
怖いことも沢山あるだろう。
でももし戦いでアヤメが傷を負ったなら。
アイリスはそっちの方が怖かった。
「力があれば、わたしだって」
<カァウ?>
不安をやわらげるためあぎゅっと抱き抱えたジャママを強く抱く。ジャママもそんな
アイリスは戦場にいるであろうアヤメ(ついでにキキョウも)の無事を願っていた。
時は少し遡る。
城門が破られる前。
アヤメは城内の一角にいた。
「ここか。確かこれをこう動かすと……」
一緒に居た兵士が煉瓦の壁の一部を取り出すとガコッと土が盛り上がる。その下には空間があり、土を被せて隠していたが秘密の通路だったらしい。
「成る程茂みが深くて煉瓦を動かさせば連動して道が開く仕掛けがあるとはわからないな」
城に突入する精鋭による強襲。その中に俺は居た。
俺の実力はピエールも知っている。犠牲が少なくなるのならと彼も了承してくれた。
王さえ捕らえればこの無駄な戦いも終わる。
「それでは我々は城門に向かいます。このまま挟撃し、城門を完全に解放します。先に別働隊が王の元へ向かっていると思いますがお気をつけて」
「あぁ、君達も気をつけて。武運を祈る」
一緒に居た兵士達が城門に向かって駆け出す。それを見届けて俺もすべき事のために駆け出す。
俺は王様へと続く道の最中を警戒しながら進む。ある程度の道のりはピエールから聞いている。だから迷うことなく道を進めた。
付近には誰一人として警護している兵士はいなかった。もしかすると全ての兵力を城門に集中しているのかもしれない。
そして王へと続く廊下へと着く。その際、武器を破壊され気絶している先遣隊を見た。全員が倒されている。
王へと至る道はここだけだとピエールに聞いた。なら、先遣隊を打ち倒すほどの実力を持つのは……。
駆け抜ける俺だがその歩みを止めた。
それはたった一人の人影を見つけたからだ。
「やぁ、また会ったね」
「私としましては会いたくはなかったですが」
エドワードだ。いつもの様に盾と槍を構え、無表情でこちらの前に立ち塞がる。その姿に隙はない。外では反乱軍の雄叫びが聞こえた。
「……この様子だと我々は劣勢ですか。我が軍の精鋭でしたが、流石に数が多い。城門を突破されれば此方の地の利も失う。やはりそれだけ民の心が離れてしまったのですね」
「それだけじゃないさ。兵士の中にも反乱軍に加わったものがいただろ? 彼らが城の内部の情報も教えてくれたんだ。あの町を襲ったのがきっかけでね」
「でしょうね。アレは民たちの反乱を決定付けましたから」
カンディアーニの当主斬首は貴族達の反乱を決心させた。
ジャモコの無関係なエルヴィスの町の虐殺は民からの心を離した。
皮肉る様子もなく淡々と事実を確認するようにエドワードは頷いた。
「それで、貴方の目的も国王様の首ですか?」
「それもあるけど俺の目的はアンタだよ。反乱軍に身を潜めていたけどあの中に君に敵う奴はいないと断言出来る。アンタと反乱軍が戦えば甚大な被害が出る」
「だから私を討ち取ると?」
「いいや、アンタを説得しにきた」
理解出来ないとエドワードが眉を潜めた。初めて人間らしい態度を見たなと俺は苦笑する。
「何故です? 私は王の剣。謂わば直接的には民を虐《しい》げた者といっても差し支えないでしょうに」
「いいや、君は民を救おうとしていた。あの時、援軍に来た者達は殆どが平民で戦闘経験のない者ばっかりだった。君なら容易く蹴散らせたはずだ。なのに命を奪わず、武器だけを奪った。それだけで君が戦いに不本意であったことがわかる」
「なるほど、確かに。そうですね。私が殺そうと思えばあの時ピエール大臣を捕らえるのではなく殺すことも出来たでしょう。どれほどの犠牲が出るかは分かりませんが。配下からも私の対応を甘いと言われ、その事に関しては私も認めましょう。私自身犠牲は少ない方が良いと思っていました」
「なら」
「だとしても私には騎士としての誉れ……否、
「君はやはり……」
だがこの国の将来の為にもヴェルメ王の暴走を止めねばならない。俺は頭を振り、エドワードを真っ直ぐに見つめた。
「だったら悪いけどそこを退いてもらう。君を無効化して国王を捕らえる」
「退きません」
簡素な、それでいて決意に満ちた一言。
もはや言葉では止まれない。
俺たちは剣を構えた。
「そうか、なら力づくで通してもらう」
「元よりそのつもりでここまで来たのでしょう? ……名乗りましょう。ヴァルドニア、ユサール騎士団団長エドワード・ジェラルド」
「
「「いざ尋常に参る!」」