【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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その壁を越えろ

 二本の剣により猛撃。

 エドワードは先程とは違い防戦一方になった。勿論、未だに盾は突破出来ていないが、それでも僅かだが攻撃が通るようになった。

 

「どうした!? その盾は飾りか!?」

「言ってくれますね。なるほど、二本の剣による剣術もただの思いつきではなさそうですね。しかも同じ箇所ばかり攻撃して……無理矢理突破する気ですか」

 

 エドワードが不愉快そうに眉をひそめている。

 

「ならば盾を前面に、このまま押し潰してくれましょう。【大盾潰し(シールドバッシュ)】」

 

 エドワードの盾が光り、先程とは比べものにならない速度でこちらに迫り来る。

 

 来たか。

 

 俺は内心ほくそ笑む。

 【大盾潰し(シールドバッシュ)】はエドワードなら必ず持つスキルだろうと思っていた。

 

 俺はワザと柱に追い込まれたと見せかける。来い! 

 盾が俺に当たるより少し前でエドワードに向かって煙玉を繰り出す。

 

「この程度! 何の障害にもなりません!」

 

 盾で煙玉を受けようともそのまま直進。

 次の瞬間柱にぶつかった大きな音が鳴った。柱にヒビすら入る強力な一撃。柱と盾に挟まれたのならば絶命すら免れないであろう技能(スキル)

 

 だけど、残念だったね。

 そこに俺はいない!!

 

 エドワードは盾で押し潰そうとした俺がいないことに気付いた。

 

「なにっ、どこに……っ! 上か!?」

「はぁっ! "飛花落葉(ひからくよう)"!」

 

 元より【大盾潰し(シールドバッシュ)】は盾を前面に押し出す為視界が限られる。エドワードは煙玉で視界が悪いまま直進し、柱にぶつかって初めて俺がいない事に気付いたんだ。

 

 柱を垂直に駆け上がり、一気に剣を構え落下する。

 俺を見失ったエドワードが直ぐに気付くも遅い。

 狙うは槍ーーではなく盾《・》!

 俺は盾のベルト部分を切り裂いた。その衝撃は手甲越しにエドワードへ強い衝撃を与えたようで、握っていた盾を離してしまう。

 

「ぐっ、盾が」

 

 その隙を見逃さず、俺は落ちた盾を蹴り遠くへと追いやった。

 

「……成る程、狙って?」

「あぁ、君のその絶対的な防御はあの大盾あってこそだからね」

 

 彼の厄介さは盾による防御だ。【盾撃(バッシュ)】も【大盾潰し(シールドプレス)】も盾が無ければその効力を失う。それがなくなれば格段に攻撃も通るようになる。絶え間無く攻めることで彼に勝負を急かすように仕向けたがうまくいった。

 

「何をやり遂げたように笑っているのですか? 盾を失ったのは確かに痛手です。しかしそれで勝利したと考えるのは些か楽観的過ぎるでしょう」

 

 ダンッと、槍を構えエドワードは先程とは違う俊敏さで接近する。

 盾がない分、身軽になって速さが増しているのか! 体を隠せる程の大きさだからかなりの重量だとは思っていたけれど、ないだけでこれだけ違うとは。だがこれは想定内だ。

 

 俺は頭を狙った槍を首を捻って躱す。瞬間エドワード槍を薙ぎ払うもこれも剣の側面で受け流す事で躱す。そのまま背後に跳ぶ。

 

 だがエドワードは俺から離れない。俺の剣を受け、鎧が凹んでも尚接近する。防御を捨て、全身全霊で此方に向かって来ていた。彼の槍の先が光る。

 俺の背筋に冷たい汗が流れた。

 

「【散撃槍(ショットスピア)】」

「ぐ、おぉぉぉ、"沙水雨(さみだれ)"ぇ!!」

 

 槍を何度も高速で突くという単純だが強力な技能(スキル)をエドワードは使う。狙ってくるのは肩、脇腹、太ももどれも食らえばタダではすまない。

 

 高速で放たれる槍の連撃。

 

 俺はそれを二本の剣で受け流し、弾き、迎撃する。だが、それぞれが重い一撃は両手で剣を扱うせいか、筋力が劣って一本で持つより完全に迎撃することが出来ない。

 

 ちっと、皮が切れる。

 ジュズっと筋肉が削がれる。

 

 それでもキキョウの【突き穿つ氷の槍(ピアス・アイス・スピア)】すら迎撃できた"沙水雨(さみだれ)"は、エドワードの槍から致命的な一撃な一撃を防いだ。

 

 だが、次第に速さと鋭さ増す槍に捌くのは難しくなり負傷箇所が増えていく。

 

「ふっ!」

「ぐぅっ!」

 

 肩を狙われた槍を二本の剣で挟み、大きく弾いた。その隙に、エドワードの胸を蹴り飛ばす。彼は無理に体制を整えようとはせず、一度転がることで即、体勢を元に戻した。

 

 距離を置いた俺たちだが、奇しくも次の一撃で決着をつけようと駆け出していた。

 

「【突撃槍(ストライク・ホーン)】」

「"柳緑花紅(りゅうりょくかこう)"」

 

 二本の剣を一度に複数回交錯させる"柳緑花紅(りゅうりょくかこう)"。

 

 エドワードの技能(スキル)と俺の絶技(・・)がぶつかり合い甲高い音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

「……私の負け、ですね」

 

 エドワードの槍が、仮面のない方の俺の頰を切り裂く。だが、槍の穂先が俺の顔横へあるのに対し、俺の剣先はエドワードの首元へ突きつけられている。

 

「参考までに、何故敗れたのか聞いてみても良いでしょうか?」

「【突撃槍(ストライク・ホーン)】は槍を扱う【騎士】なら持つことのあるスキルだ。だからある程度軌跡が決まっているんだよ。特に君は俺の心臓を穿つ事に執着していたからね。他の技能(スキル)より軌道が読みやすかった」

「なるほど、技能(スキル)に頼り過ぎたという訳ですか」

 

 エドワードは降参とばかりに槍を落とす。俺はそれを見て喉元から剣を離した。

 

「……なぜ殺さないのですか」

「殺さない。アンタは惜しい。民を思い、国を憂うアンタなら、必ず新しく生まれ変わる国の助けになる。ピエールも、恐らくは君が生きることを望んでいる」

「私に生きろと?」

「そうだ」

 

 エドワードは無言になる。

 俺はかねてから抱いていた疑問を聞いた。

 

「何故アンタは民を思いつつもこの国に殉じようとしたんだ? この国の王の横暴は知っている。あの時、ワザと民を見逃したアンタなら分かっていたはずだ。アンタだって、もうこの国が終わりだって事に気付いていただろ?」

 

 国とは民あってのもの。そんな事に気付かないほど目の前の男が愚かだとは思えなかった。

 エドワードは顔こそ変わらないが自嘲気味に笑う。

 

「約束ですよ。ただ一人忠誠を誓った方のために、私はヴァルドニアを……例え仮初めであろうと、平和を維持しようと国王様に従ってきました。最も、結局今日の国の破滅を止める事は出来ませんでしたが」

「先ほどの誓いといい、それは亡くなったといわれているアメリア・ヴァルドニアが関わっているのか?」

「さぁ、どうでしょうか」

 

 そっと目を翳るエドワード。その事で彼がどんな思いだったのかがわかった。

 彼もまた苦しんでいたのだろう。狭間で。

 その苦悩は俺では計り知れない。

 俺は彼に何と声をかけようか考えていると

 

 

 

「やれやれ。まさかたった一人に敗れるとは。貴様も落ちたものよのう」

 

 

 

 場違いな、何処か揶揄(なぶ)る声が広間に響いた。

 見れば、エドワードの背後の王の間に続く階段からコツコツと音を鳴らし、豪華な服を着た男が降りてきた。

 

「国王様!」

「成る程、あれがヴァルドニアの国王ヴェルメか」

 

 ヴェルメは顎に手を当て余裕の態度を崩さない。ここまで攻め込まれているのにその自信の態度は少しばかり不気味に思えた。

 

「降伏しなよ。もはやこの城は落ちたも同然だ。供回りもなく脱出も出来ないだろう?」

「……国王様。もはやこの国はここまでです。僭越ながら私も最期までお供いたします」

 

 俺の降伏勧告と、エドワードからの諫言。

 ヴェルメは俯き、震え出す。

 恐怖か、屈辱か。

 

 そのどちらかだと思っていたが

 

「ふふふ、ふはははは! 国王、ヴェルメ様と。先程から貴様らは誰の事を言っている(・・・・・・・・・)?」

 

 何を言ってる? 

 そう思った俺だが、次の瞬間目を見開いた。

 

 王の目玉が落ちた。

 そして、うじゅるうじゅると王の穴から粘液が噴き出し、どろりと黒い粘液が溢れ出したのだ。

 その様は余りにも悍まし過ぎる。身体中から粘液を出し、ぐりんぐりんと身体があちこちに揺れる様は、明らかに正常ではない。

 なんだこれは? 粘液をドロドロと出しながらヴェルメの口が動く。

 

「ざ〜んねんでしたねぇ? 私はヴェルメではありません。名乗りましょう、私は魔王軍『分裂』のシュテルングと申します」

「魔王軍だと!?」

 

 何故、魔王軍がこんな場所に!?

 驚く俺の隣で、エドワードが落とした槍を持ち、速攻でシュテルングの黒い粘液を穿とうとした。

 

「おやおや、危ない危ない」

 

 シュテルングはそれを避ける。

 声は国王のまま、シュテルングは態とらしく悲しそうにする。

 

「長年使えた主君を殺そうとは。不忠の配下を持ったものだ。嘆かわしい」

「黙りなさい、その身体は国王様のもの! 貴方が魔王軍だと言うのならばその粘液を穿ち、返してもらいます」

「残念ながら我々の本体はアメーバでしてねぇ。この宿主の脳は既に溶かしてしまったので、我々を追い出そうが何の意味もありませんよ。そう、五年前からねぇ?」

「なっ。ば……かな、では私は何の為に……」

 

 エドワードは事実に打ちのめされている。無理もない。それは王が死んでいたということに他ならなかった。

 

「当時は別の大臣に寄生していましたが、中々に()()()()()が一人いたのでね。排除しました。いやはや。始末出来たことでうちひがれる王に接近し、寄生するのは楽勝でしたよ」

「そんな……まさか……」

「この体に寄生して五年。国を守れず、民を守れず、姫も守れず、最後の姫との約束も守れない。ははは! 何一つ守れやしない貴方は実に滑稽でしたよ」

 

 黒い濁流をエドワードはもはや防ごうともせずにその身に受けた。そのまま柱にぶつかり動かない。息はありそうだが、気力がないのだろう。

 

「さてさて、あの男は愚かでしたがそれなりに優秀な駒でした。それを打ち破った貴方は何者なんでしょうかねぇ?」

「黙れ外道。試してみるか?」

「いいえ、いえいえ。寄生するこの身体は余りにも貧弱でしてね。我々自身もあの男が生きてるように、本体そのものの力も脆弱です。あの男は愚かでしたがその強さには光るものがありました。それを降した貴方には勝てない。だからこういう手を使わせてもらいました」

「何を言って」

「アヤメさん! 愛しのアイリスが来ましたよ!」

 

 突然ジャママを抱えたアイリスちゃんが俺が通った道から訪れた。

 

「アイリスちゃん!? なんでここに!?」

「えっ、アヤメさんが呼んでいるって」

「えぇ、呼びましたよ。このシュテルングが、ですが」

「え? きゃあっ!」

<カウッ!?>

「大人しくしてもらおう」

 

 アイリスちゃんの後ろにいたパラシータが同じく身体中の穴から黒い粘液を出し、ジャママごとアイリスちゃんを捕らえた。

 

「なっ、パラシータ。お前!」

「見ていましたよ、彼女が持つ力。まさか死にかけていた大臣が立ち直るほどとは。その後もジャコモに襲われた町で数多くの町民を救う。『治癒師』とも違うその力。もしやと思ったが、まさかこんな所に居たとはな『聖女』よ」

「全く全く。あの方の指令をこなしつつも長きに渡り『勇者』の存在は公《おおやけ》になっても、『聖女』だけは何処にいるのかわからなくて苦労した」

「だけどこうして我々の手に落ちた」

「これで魔王軍の脅威は勇者のみ」

「あの方の指令による、裏切り者(スウェイ)の所在も明らかになった」

「「ならば最早、この国に価値はない」」

 

 国王とパラシータ、二人で交互に話す様は不気味だ。

 それよりも俺は、最悪な事実に気付く。

 

「まさか、最初から反乱も全て把握していたのか?」

「えぇ、それは勿論。我々は寄生する為に生み出された者。人程度ならば宿るのも容易い。まぁ、最低限の大きさというものもありますので情報を連絡していた為、この国ではもうこの二人にしか寄生していませんが。さて、こうして話している間に他に人が来られても厄介です。この国ももう興味がないので、さっさと反乱軍に滅ぼして貰いましょう。中々に楽しませてもらえましたよ。後の罪はこの身体の持ち主に被ってもらって、我々は悠々と空から(・・・)退散させてもらいますよ」

「なっ、待て!」

 

 奴は懐からガス状の何かを発布する。瞬く間にガスが満ちる。

 何だか分からないが吸ったらマズイ!

 俺はすぐさま隣の窓を割り、空気の流れを変える。煙が晴れた後には、シュテルングもアイリスちゃんも、そしてジャママすら居なくなっていた。俺と、柱に背もたれるエドワード、中身のなくなったパラシータの死体だけだ。

 

「くそっ! まさか魔王軍が噛んでいるなんて。……エドワード! 奴は空から逃げるといった。誰にも見つからずに、ここから逃げ出せるような場所が何処かあるかい!?」

「……」

「エドワード!」

「ははは…私は国を守ろうと戦ってきました。それがこのざま…ふふふ…もはや…私には戦う理由など…」

 

 エドワードは虚ろな目で呟いている。

 俺はギリっと歯を食いしばり彼の胸元を掴んだ。

 

「っ! 立て! 騙されていたとは言え自分が魔族の策略に加担していた自覚があるのなら、その清算をつけろ! そして今度こそ守るものの為に立ち上がれ!」

「……」

 

 駄目かと掴んだ胸元を離そうとした時エドワードがボソリと呟く。

 

「此処より南に行った所に古いが塔があります。普段は使われることはない場所ですが、最も高い建造…物でありますから人知れず飛行手段で逃げるとしたらそこしかないでしょう」

「そうか…ありがとう」

 

 俺はエドワードに背を向ける。彼はいまだに俯いたままだ。

 彼に構う時間もない。だが、少しだけ言葉を投げかけることにした。

 

「俺は行く。そのままずっと項垂れているならそうすればいい。だけど、忘れないでくれ。君が忠誠を誓ったお姫様は、そんな姿を望んでいたのかってことを」

 

 彼の心情は俺如きでは計り知れない。

 この言葉は只の詭弁だ。

 立ち直るかも彼次第だ。

 

 しかしこれ以上、彼に時間をかけられない。

 俺はエドワードに言われた塔を目指し、目の前へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 去っていく足音を感じながらエドワードは柱にずるずると力なく凭《もた》れかかる。

 

 エドワードにはもはや立つ気力がなかった。

 国を守る為にとしたことが全て魔王軍が手のひらの上だった事。その事に対して怒りを抱くよりも先に、喪失感の方が優った。

 

 自責、後悔、虚無。様々な負の感情が彼の心を蝕む。

 

 何の為に戦っていたのか。

 何のためにこれまで生きてきたのか。

 私のしてきた事に意味など最初からなかったのだ。

 

 国王様を救えなかった。

 民をいたずらに傷つけた。

 

 あの方の願いすら、自身は守れなかった。

 

 ならもう良いでしょう。このまま果てたい。

 そう思い暗く深い底に心を沈めようとした時、胸元が暖かく感じた。

 

 取り出されるは一つの護符。

 その護符を作った人物。

 

 誓いを誓った人物。

 アメリア様。

 

『中々に勘の鋭い娘が一人いたのでね。排除しました。いやはや。始末出来たことでうちひがれる王に接近し、寄生するのは楽勝でしたよ』

 

 あの魔王軍の手の者は排除したと言った。なら、あの病はシュテルングによるもの。

 

 つまりはーーアメリア様の仇だ。

 もはやこの身に正義はない。魔王軍の手先となり民を虐げた。自身は全てにおいて悪と人々は言うだろう。自身も地獄に堕ちるだろう。

 

 だがそれでも。

 かの者がアメリア様の、国王様の仇だと言うのならば。

 

「アメリア様……私は……!」

 

 ぐっとエドワードは槍を握りしめた。

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