【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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エピローグ

 

「長く続いた夜だったけど、ようやく夜が明けたね」

「はい。まさか魔王軍が乗り移っていたとは思いもしませんでしたけど……だけど、きっとあの国はこれから良くなります」

「つーん」

「そうだね。きっと良くなる」

「はい」

「つーん」

「あー……」

「全く、いつまでそういじけているんですか」

「っ! だって!! だってぇ!!!」

 

 わかりやすくそっぽを向いていたキキョウが、アイリスちゃんの言葉にわっと泣き出す。流石にそこまでなるとは思っていなかったから俺もアイリスちゃんもビックリする。

 

「もう! もうもうもうもう!! なんで此方(こなた)を置いていくのかな! 頑張ったのに! すごくがんばったのに! バレないように相手の足元を氷で凍らせて足止めしたり、扉が開かないように塞いだり、『魔法使い』の魔法を封じたり、頑張ったのに! な、なんで置いていくのかな! 寂しかった、かなしかった、ふ、ふわぁぁぁぁん!!」

「う、本当にごめんキキョウ」

 

 あの後、俺たちはすぐさまその場から離れた。このまま兵士に討たれようとするエドワードを連れて。

 というのもあの後反乱軍の人々が塔の上に押し寄せる可能性があった為すぐさまその場を離れる必要があったのだ。

 

 だけど結局、エドワードは自らを拘束して欲しいと願い出た。

 自らには、たとえ魔王軍の策略によるものだとしても起こした全ての事に対して責務があると。……エドワードは、もう自身が取るべき責任について受け入れていた。

 

 そして頼みとして出来るならピエールさんと話が最期にしたいと言った。その願いを俺は無下にはできなかった。

 

 一度反乱軍の本拠地に戻り、ピエールさんを探した俺だが丁度城を落とした事で勝利の喝采や王は何処に行ったのかやら何やらでワタワタしているところにピエールさんを見つけて、全ての事情を話した。

 

 だが、その話をする為には人が多すぎたので離れた所で告げる必要があったのだ。

 

 その為、途中でキキョウを回収することができなかった。隙を見てジャママに頼んで集合場所を記した手紙を渡す事に成功したけれど。キキョウ自身は戦が終わったのに現れない俺たちに途方に暮れていたらしい。

 

 だから甘んじて叩かれる(ポカポカと全然痛くない)のを受け入れている。

 捨てられる、置いていかれることに対して強い恐怖心を抱いているキキョウにとって俺たちがいなくなったのはどれほどの孤独を味わったのだろうか。

 

 アイリスちゃんもその事を分かっているのかバツの悪そうな顔をして何も言わない。けど、せめてもの抵抗か俺の服の裾を強く握っている。服伸びちゃうんだけど……俺の服これしかないんだよ。

 

 やがては叩く力も更に弱まり、キキョウは俺の胸に練りついてスンスンと嗚咽を堪えている。その姿を見て俺は仕方がなかったとはいえ酷いことをしてしまった。

 

 優しく背中をトントンと叩いてあげながらキキョウの銀色の髪を撫でる。

 

 余り女性の髪……キキョウは大人だから特に撫でるのは褒められた事じゃないけれど、落ち着かせる為にもこれは必要な事だった。

 

 それが功を奏《そう》したのか、やがてキキョウは落ち着きを取り戻した。

 

「落ち着いた?」

「……うん。でも、次は置いて行ったりしないで欲しいかしら」

「あぁ。俺は君を一人で置いて行ったりしないよ」

「……あっ、待って。それはダメ。なんか、すごく顔が熱くなる。でも、胸がホワホワして嫌いじゃない。ね、ねぇ、今の言葉もう一回」

「ちょっと待って下さい! アヤメさんの言葉を否定しませんけども、それ以上はダメです。……なんというか、ダメです! わたしも一緒にいてあげますから、そろそろ離れて下さい!」

「別にちみっ娘が一緒にいても……なんかこう、うるさそうだし。小姑みたい」

「なんですってぇー!? もう許さないのです! アヤメさん、すぐにその手を離してやってください!」

「あっ、やめてよ! 無理に離そうとしないでよ! というか、貴方も早くアヤメから手を離しなさいよ!」

「いーやーでーすぅー!」

「あの、二人とも。喧嘩しないで……」

 

 俺の両手を左右からグイグイ引っ張る。一応、過去に俺の服を破ったからか手加減はしてるけど、遠慮がない。

 

<……ケッ>

 

 あ、今ジャママが汚物を見るような目で俺を見た。

 ……不味いな、側から見たら俺は完全に女性を侍らす屑野郎だ。何故かグラディウスの顔が思い浮かんだ。すぐに消した。

 

 

 

 やがて落ち着いた所で話を戻す。

 

「さて、もうこの国は大丈夫だろう。今更俺の出る幕もない。後はこの国の人々が決めることだ。次は何処に向かうとするか」

「ーーでしたらラルフォール公国がオススメかと。彼処は此処とは違い温和な君主が統治していて希少な魔獣が多種多様に生息し、冒険者から商人までよく訪れ様々な情報も集めやすいとの話を聞いたことがあります」

「そうか。確かにそれは良いね。なら……ん!!?」

「えっ!?」

<ガァウ!?>

「なんでアンタがいるの!?」

 

 答えたのは男性の声。

 背後には盾と槍を携《たずさ》えたエドワードがいた。

 てっきりあのままヴァルドニアに残ると思っていたのだが何故だかこの場にいた。

 

「出るタイミングを伺っていました。驚かせてしまったのなら、謝罪しましょう」

「あ、いや。ちょっと待ってくれ。もしかしてずっと見てた?」

「何の事でしょうか。私は空気の読める方なので、貴方の言葉の真意を理解出来ていませんよ」

「いや、それもう答え言ってるようなものじゃないか。あぁぁ、恥ずかしい……」

「アヤメさんアヤメさん! 何も恥じる事はありませんよ!」

「そうよ、アヤメ! だから立ち上がって!」

 

 二人して励ましてくるけど、さっきのを見られたとなったら恥ずかしい。

 

 だけど、この場にいる彼には聞きたいことがある。その為に恥じらいで熱い頰を軽く叩いてエドワードを見る。

 

「どうして君がここにいる? あの馬車に残ると言っていたじゃないか」

 

 彼は俺に拘束されて馬車の中でピエールさんを待っていたはずだ。それがなんでここに居る?

 まさか逃げて来た? いや、彼の実直な性格からそんな事は思えない。

 

 そんな俺の様子を理解したのかエドワードが理由を教えてくれた。

 

「ご心配なさらずとも、私がここに居るのは他ならぬピエール殿の指示です。私を国外追放にすると」

「追放、ですか?」

「えぇ。処刑でなく、です。変ですよね、エルフの令嬢様」

「あ、いえ。そんな風に思ったんじゃなくてっ」

「否定なさらずに。私はそれだけの事をしてきましたよ。寧ろ、恩情だとしても余りにも寛大(かんだい)な処置でしょう」

 

 自嘲するように軽く笑ってエドワードは語る。

 

 その話を聞いて俺はピエールさんの気持ちもわかった。勿論、民に対しては裏切りなのかもしれないけど、()としてピエールさんの判断を間違いだとは思えなかった。

 

「私の配下の騎士達も全員投降しました。その事も話し合ったのですが、王が魔王軍に操られていたことが分かり、今まで彼に従っていた者達も騙されていたということで恩赦が与えられ、そのまま働かないかと交渉することに決めたのです」

「本当か? それは良かった。だったら尚のこと君も偽名などを使ってそうすれば」

「いえ、私はそうはいきません。騙されていたとは言え、魔族の片棒を担いだ事には変わりありません。彼の手先として民を虐《しいた》げました。ですからあそこに戻る訳にはいきません。それにあの国は生まれ変わる。そこに王の力の象徴であった私が居ては色々と不都合でしょう。だからこそ、国外追放です。……それに、あまり私自身の評判もよくありませんから」

 

 確かにエドワードは国王の暴虐の証としてその名を響かしてしまった。

 だが彼はそれでも国の為に仕え、民も捕縛できたはずなのにワザと見逃したりと、王と国の板挟みの中限りなく仮初めの平和を維持しつつ、民の命を奪っていたが民の命も救っていた。

 

 しかしエドワードにとってはそれは何の贖罪(しょくざい)にもならないのだろう。起こした事は取り返しのつかないことは俺もよく知っている。

 

「それに、私が生きていると知られても不都合しかない(・・・・・・・)。その事を、貴方もわかるでしょう?」

「それは……」

「……」

 

 その言葉を俺は直ぐに痛いほど理解出来た。『偽りの勇者』としての俺が生きている事がバレても人に、そしてユウ達に迷惑がかかるのがわかっていたからだ。

 キキョウもまた思う所があるのか沈黙する。

 

 それをどう捉えたのか不明だが、エドワードは話を続けた。

 

「ですが本当であればやはり自害するのが責任の取り方として正しいのです。人知れず森の中にでも、腹を切るべきでしょう。……しかし私には自ら死ぬことも出来ません。アメリア様の願い、私自身を守れと。何も守れなかった私ですがこれだけは守りたいのです」

 

 エドワードはそっと護符を取り出し、見つめる。

 その瞳には、様々な感情が蠢《うごめ》いていた。やがて彼は護符をしまう。

 

「私はもはやこの国へ帰る事も出来ません。魔王軍の手先となり民を苦しめた私がどの面下げて国に戻れましょうか。無論悔《く》いはあります。私の部下の事、国の事、様々な事が。しかし、それを見届けることは出来ません。自害するということも、逃げであると判断しました。永遠に贖罪の為に生き恥を晒すこと。それが私への罰でしょう。……それで今の私は失業し、所謂無職という奴です。ですが同時に色々なしがらみから解放されてもいます。なので私もアメリア様の願いを守りつつ好きに生きてみようかと思いまして」

「なんだい……ってちょっと」

「我が名はエドワード・ジェラルド。今は亡きアメリア様の専属騎士にして、元ヴァルドニア国のユサール遊撃騎士団の長なり。今ここに貴方の盾となることを誓う。死に損ない、名声も無し、生き恥を晒すだけのなまくらな盾ですがこの命尽き、盾としての役割を終えるその時まで貴方を守りましょう」

 

 膝をつき、恭《うやうや》しく頭を下げる姿はまるで騎士の就任式。

 驚く俺たちを他所にエドワードは逸らすことなくこちらを見据える。

 

「いや、誓うって……」

「はい、この命果てる時まで貴方の行く末を見届けさせて下さい。あの時『救世主(ヒーロー)』を目指すといった貴方の言葉、真《まこと》であるならば私にもその助力をさせてください。それともこう言った方が宜しいでしょうか? 主殿と。ですが、私にとっての永遠の主君はアメリア様であり、口では言っても心までは」

「主殿って……あぁ、もうやめてくれやめてくれ。俺はそんな大層な人間じゃないんだ。アンタ程の人間に敬られるほど、立派な奴でもない。そう言われるのはこう、なんというか……むずむずする」

「ならばアヤメ殿」

「殿呼びはやめないんだ」

「そこは譲れません」

 

 エドワードの目は強い決意に満ちていた。表情は相変わらず無表情だけど。だけどきっとその内面は誰よりも熱い男なのかもしれない。

 俺はこれは説得は無理そうだと頭をかく。

 

「……わかったよ。君の思いを尊重しよう。けどね、俺にも秘密があるんだ。というのも、俺はみてくれから怪しいだろう?」

「えぇ。正直、当初はサーカスか何かの愉快犯かと思いました」

「……うん、まぁ。そうなんだけど……」

 

 バッサリと言われてちょっと傷付く。

 

「だから正直君がついてくるのはオススメできないんだよ。勿論、エドワードの決意を卑下することだからしないんだけども」

「構いません。どちらにせよ、私も罪人。お互いに秘密があっても然程変わらないでしょう。そちらの御二方も何やら訳ありに見えますし」

「訳ありって何ですか。そんなマイナスな厄介ごとを背負ってるのはそこのぼっちだけです」

「ちょっと! それじゃ此方(こなた)が重い女みたいじゃない!」

「そう言ってるのですが? ふっふっふっー、何せ、わたしは清らかですから! どやぁ!」

「むきぃー! な、なまいき!」

「なら何か否定してみると良いです。ほら言って見てくださいよ!」

「もう怒った! 今日という今日は言い負かしてあげる!」

「ふっ、わたしに勝てると思うのですか? 今日こそその生意気な身体に上下関係を叩き込んであげます!!」

「勝手に育ったんだから知らないわよ!」

「今すっごくわたし傷付きました! すっごく!! もう許しません!」

 

 またも喧嘩(じゃれあい)を始める二人。ジャママも何時もの事なのか全く気にしてない。

 

「……とにかく、私の志《こころざ》しは折れませんよ。アヤメ殿」

 

 表情は変わらないけど目で分かる。彼の決意は固い。

 ならばこれ以上の言葉は野暮ってものだ。

 だけど俺にはどうしても一つだけお願いがあった。

 

「さっき俺を主にしようとしていたけどさ。主従とかじゃなくてさ、仲間として俺の事を助けてくれないかな?」

「それが貴方の望みならば」

「堅いなぁ」

 

 眉一つ動かさない鉄仮面ぶり。

 だけどそれが彼の持ち味でもあるんだろう。

 俺は改めて手を伸ばす。

 

「そうか。ならよろしくエドワード」

「よろしくお願いしますアヤメ殿」

 

 俺たちは硬い握手を交わした。

 

「くぅ、また仲間が増えたのです……わたしとアヤメさんの二人旅が……」

<クゥゥン>

「ひっく、えぐぅっ……あやめぇ! ちみっ娘がぁ! ちみっ娘がいじめるぅ! 駄肉って! 駄肉って言ったぁ! ねぇ、此方(こなた)はまだ拗ねてるんだからもっとかまってよ! 慰めてよ!」

「えっ!? ちょっ、ちょっとまってくれ。すぐそっちに行く!」

「……やれやれ、中々騒がしい旅になりそうですね」

 

 とりあえず、二人の機嫌を直すのに俺は駆け出す。

 

 その様子を呆れたようにエドワードは見つめていた。

 

(……アメリア様、貴方様の願いを取り違え踏み滲めた、愚かな騎士ですがいずれこの命尽きるまで私は奪った民の数だけ、彼らと共に他の人を守ろうと思います。もし、やがて磨耗し、果てたその時はまた貴方様の側に使えることを許して頂けるでしょうか?)

 

 高く澄んだ青空を見た後、エドワードは先に行った三人を追いかける。

 その想いに反応するように胸元の護符が一瞬だけ暖かく光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つの国が生まれ変わったこの日、俺にとっても新たな仲間が増えた。

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