【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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番外編3の3 仲直り

 

 二人はどうやら会話しているようだった。

 私は聴き耳を立てる。

 

「メイさんって凄いですね。あんなに色んなーーー」

「そうだね。クリスティナは疲れた?」

「はい、少し。でも、こんなに楽しかったのは久しぶりでしたからこの疲れも心地良い疲れです」

 

 笑みを浮かべて嬉しそうに買った服の入った袋を抱き締めるクリスちゃん。

 その様子を見ていたユウくんだけど、少し考え込むように下を向いた。

 

 ……頑張れ。

 

 やがてユウくんはクリスちゃんに頭を下げた。

 

「クリスティナちゃん、ごめん」

「え? ユウさん?」

「僕はあの時、君に対して酷い態度を取ってしまった。彼を失ったあの日、慰めようとしてしてくれたのに。メイちゃんにも言われたけど、君に八つ当たりしても仕方ないのに」

「それは……」

 

 クリスちゃんも何を言ってるのかわかったのだろう。無言になる。

 そして、次にはクリスちゃんも頭を下げた。

 

「私も……ごめんなさい。私は神官として女神様に与えられた役割を真っ当しようと思っていました。確かに、ユウさんに早く立ち直って欲しいと思っていました。力になりたいとも。だけど、それに対して私の言葉は配慮に欠けていたと思います。大切な友達を失って何より辛いのはユウさんのはずなのに。本当に、ごめんなさい」

 

 クリスちゃんは繰り返し謝罪を続ける。

 

「そして、何より貴方の大切な友達を侮辱するような言葉を……『偽りの勇者』などと言ってごめんなさい」

「クリスティナさん、それは」

「女神教としてこんな事を言ってはいけない、ですか? 確かに女神オリンピア様が定めたであろう役割に疑問を抱くのは、『神官(プリースト)』としては間違っているでしょう。でも、わたしは自らの目で見たことを信じたいのです。ユウさんとメイさんが信じるのであれば、わたしも彼を信じてみたいのです。それが、わたしが彼に投げた言葉への贖罪になるとは思いません。だけど、それでも」

 

 ……そっか。

 クリスちゃんも悩んでいたんだ。

 

 『神官』としての信仰心と、自らが見た事どちらを信じるかずっと。

 ばかだなぁ、私。私はそんななクリスちゃんの悩みを全然気付けてなかった。

 

(こんな時、フィーくんなら気付いたのかな?)

 

 感傷が胸を痛める。

 もう会えないフィーくんの顔を思い出して泣きそうになるのを堪える。

 

 その間も二人の会話は続く。

 

「ユウさん、お願いがあるんです」

「何?」

「あの人の……フォイルさんの事もっと教えてくれませんか?」

「え?」

「勿論、わたしもある程度は知っていますけどそれは噂話からです。わたしは彼にも酷い言葉をかけてしまった。わたしは貴方の口から聞いてみたいです」

「うん、良いよ。彼はーー」

 

 その言葉を聞いて私は確信した。

 

 これなら、もう二人は大丈夫かな。

 

 元々クリスちゃんは最初期からの仲間だから、二人の仲自体も悪くなかった。

 ただ仲直りのきっかけがなかっただけで。

 

 でも、これで二人はもう大丈夫。私はそう確信して笑みをこぼした。

 

「ちょっとこの辺に怪しい格好の者がいると報告があったのですが……貴方じゃないですよね? 念の為、職業をお伺っても?」

 

 ちらりと見れば前に居たのは、不審者を見る目の衛兵さん。

 私は今サングラスに外套を着た、オマケにバレてないけど街中で魔法を使ってる。

 ……。

 

「あっ、まて!」

「ご、ごめんなさ〜い!!」

 

 私は衛兵から逃げ出した!

 

 

 

 

 

「わたた! 話聞くのに集中し過ぎて飲み物買ってなかった! 早く戻らないと怪しまれちゃう!」

 

 話を聞くのと、衛兵さんを撒くのに逃げ回った所為で結構時間が経っちゃってた!

 早く戻らないと心配されちゃう。

 

 私はすぐに近くの店で果実のジュースを買ってユウくん達のいる噴水を目指して走っていた。

 

 そんな時、ふわりと良い匂いが鼻をくすぐる。

 ちらりと覗くと色とりどりの花がたっくさん咲いてた。私は少しだけ見るつもりが思わず足を止めて見てしまう。

 

 凄い、こんなに沢山花を売ってる花屋さん初めて見た。

 

「何か気にいるのがありましたか?」

「え? あ、ごめんなさい。ちょっと見ていただけです」

 

 花屋の店主さん……存外に若い眼鏡をかけた男性が話しかけてきた。

 

「いえ、そうやって足を止めて見てもらうだけでも僕にとっては嬉しいんです。この花々は僕が育てたものですから」

「えっ、そうなんですか?」

「そうですよ。苦労したんですけど、どれもこれも綺麗に咲いてくれたんです。特に、そっちな花は仕入れるのも苦労しましたが、どうしても咲かせたくて……」

 

 店主さんが指差した一角の花。

 その中で私が一番目を引かれたのは赤い花。名前はちょっとわからない。

 その様子に気付いたのか、店主さんがにっこりと笑って教えてくれた。

 

「それはアヤメの花です」

「アヤメ?」

「はい。……僕たちを救ってくれた人がその名前だったんです。そちらのアイリスの花も一緒に居た方の名前がそうだったので、育てました」

 

 大切そうに二つの花を触れる店主さん。

 私が話に聞き入っているとお店の奥から少し幸の薄そうな、それでいて美人な女性が中から出てきた。

 

「あなた、バルザーサさん家の方の配達に向かわなきゃ」

「あ、そうだった。ごめんね。すいません、僕は配達に行くのでこれで失礼します」

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 花束を抱えて去っていく店主さんを見送る。

 後ろから儚い笑みを浮かべた女性が私に話しかけてきた。

 

「うちの主人がごめんなさいね。あの人、お花の事になると饒舌になるから。これは付き合わせたお詫びよ」

「そんな、受け取れませんよ!」

「良いのよ。貴方だってこの花を見ていたでしょう?」

 

 それはそうなんだけど……。

 女の人は、はい。とアヤメとアイリスの花をこちらに手渡ししてくれる。ここまでされて断るのは申し訳ないから私はそれを受け取った。

 

「あの、ありがとうございました! 大切にします。えっと、失礼でなければなんですがお名前は……?」

「あら、そう言えば名乗っていませんでしたね。わたくしの名前はーー」

 

 

 

 

 

「たっだいま〜! ごめんね遅くなって!」

 

 私が帰ってくると二人はほっとしたような表情を浮かべた。

 本当にもうすっかり仲直りしたみたい。

 

「良かった。あんまり遅いから探しに行こうかと思ってたんだよ」

「ごめんねっ。ついつい見入って」

「そうなんだ……あれ? メイちゃん、それって」

「あ、わかる? 実は見入ったお店がお花屋さんでね、そこの人に貰ったの」

 

 私は髪の上に付けたアヤメの花を見せる。

 

「わぁ、とってもメイさんに似合っていますね!」

「ふふっ、ありがとクリスちゃん。そんな良い娘にはお姉さんご褒美をあげましょう。ほらこっちはクリスちゃんに」

「えっ? 良いんですか?」

「うん」

「わぁ、ありがとうございます」

 

 クリスちゃんには同じく貰ったアイリスの花の方をあげる。

 私と同じように髪の毛につけてあげると、クリスちゃんの金髪に青いアイリスは映えてよく似合った。

 

「二人とも、似合ってるよ」

「ありがと、ユウくん。あっ、でもユウくんには似合いそうな花が無かったんだ。ごめんね?」

「あぁ、大丈夫だよ。僕は二人みたいに花は似合わないから」

「そう? でも意外と似合うかもだよ?」

「えぇ!? でも、僕は男だよ」

「でもユウくん裁縫とか得意だし、可愛い物好きだし。趣味が女の子っぽいもの」

「えっ、そうなんですか。ふふっ、可愛らしいですね」

「た、確かにそうだけど……クリスティナも笑わないでよ! 良いじゃないか! ウサギとかも可愛らしいし、触りたくなるだろう?」

「確かにそうだけど……で、も〜流石に今だに昔の本を抱いて寝てたりはしないかなぁ〜」

「え?」

「あぁー! ひ、ひどいよメイちゃん! 言わないって約束だったのに!」

「え〜? 私あの時子どもだったから覚えてないな〜」

 

 態とらしく顎に手を当てて惚ける。

 ユウくんの顔が、へにゃりと情けなくなる。

 

「ぷっ、あはっ、あはははっ」

「クリスティナさん!?」

「い、いえ決して馬鹿にしているんじゃなくて。ユウさんにもそんな一面があるんだなって。あははっ」

「か、揶揄わないでくれっ。お願いだから、その事はオーウェンとファウバーンには言わないでよ!?」

「えー、どうしましょう?」

「クリスティナさん!?」

 

 私と同じように、クリスちゃんは揶揄う。

 ユウくんも驚いてはいるが怒ってはいない。

 

 二人の間にはもうあの蟠《わだかま》りはなさそうだ。

 

 これならもう大丈夫かな。

 まったく……

 

「ほんと、世話がやけるなー。も〜」

 

 風がそよいで、髪につけたアヤメの花がサラサラと揺らいだ。

 

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