【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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番外編4 熾烈な戦場《上》

 

 トワイライト平原。

 人間界と魔界の中心に位置するこの平原では、いつも互いに命を削り合う戦いが繰り広げられていた。

 だが、今回に限ってはいつも以上に熾烈に戦いあっていた。

 それは魔王軍による攻勢が始まったからであった。

 

「うぉおぉぉぉ!!!」

<グオォォオォォッ!!>

「ぐっ!!」

 

 戦い合う両者。

 しかし、人間側に対して魔物側は一体一体が強力であった。複数で囲んでやっと倒せるのに、魔物と人間の数が同等となれば、人間側は不利でしかなかった。

 

「被害拡大っ、これ以上は持ち堪えられませんっ!」

「誰かっ、衛生兵を!」

「このままではっ……!」

「退くな! 我々が退けば退くほど背後にいる人々を危険に晒すこととなる!」

 

 指揮官が声を張り上げて叫ぶも、本当は誰よりもこの状況を打破することが出来ないことがわかっていた。

 

「ぐっ、魔王軍め。最近大人しいと思ったらこの時のために力を蓄えていたのかっ!」

 

 魔物の侵攻はここだけでない。

 このトワイライト平原全てで同時に行われている。策を弄して数を減らそうとも、躊躇せず味方の屍を踏み越えて魔物は侵攻してくる。

 

 それに対して此方は退けない。

 先程も言ったが背後には傷を負った仲間が、民がいる。越えられる訳にはいかない。

 だが、現実は非情でもはや崩壊は時間の問題だった。

 

「ここまでか……んっ!?」

 

 諦めかけた、その時。

 突然巨大な光が光ったと思うと、背後から白い斬撃が魔物のみを斬り裂いた。

 

「今の攻撃は……」

「勇者だ! 勇者様からの援護だ!」

 

 一人が叫ぶ。

 

 見れば、遠くにいるが聖なる光を放つ剣を掲げし一つの影があった。

 兵士は叫ぶ。兵士は呼ぶ。

 その名前を。

 

「『真の勇者』のユウ・プロターゴニストだ!!」

 

 

 

 

 

 

「感謝します、勇者殿。このまま行けばなんとか食い止められそうです」

「いえ、これが僕の責務ですから」

 

 騎士からの礼をユウは聖剣を仕舞いつつ受け止める。

 ユウは前線ではなく、後方に近い所にいた。

 

 魔物に有効な聖なる力。

 『神官』でしか使えないこの力を、聖剣アリアンロッドを持つユウであれば扱う事が出来る。

 

 だからこそ、ユウは前線ではなく後方から戦局を見極めることにした。

 

 確かにフォイルのように前線に突っ込んで圧倒的力で魔物を突破するのも手だが、此度は魔物が広く全体的に侵攻しているので一点だけを守っても意味はない。別の場所を突破されればそれだけで瓦解しうる。

 

 だからこそ、危険な所に向かって援護として聖剣の力を使っていった。

 聖剣の力は正に魔物にとっての滅びの光。その隙をついて人間側が攻勢に出る。

 

 本当ならば全ての領域を援護したい。前線にいるオーウェンやファウパーンのように。

 だけど、ユウにはそれが出来ない理由もあった。

 

「……だけど、前線の兵士達も心配です。彼らが前線で戦っているのに、勇者の僕が後方に居るだなんてと思う所もあります。だから、いざという時は僕も前線に出ます」

「大丈夫です、勇者殿。我々とて生半可な覚悟でこの場にはおりません。貴方様がこの場にいて、その存在を示してくださる限り、我らが志しが折れることはありません」

 

 胸を張る騎士。

 確かにこれまでの時代も魔王軍が裏から回り込んでも"トワイライト平原"が突破されることはなかった。

 だが、だからといって楽観してはいけないとユウは思っていた。

 

「っ! 危ない!!」

「なっ!?」

 

 殺気を感じて騎士の前に立ち、降り注いできた攻撃を防ぐ。飛来した攻撃の数は多い。それら全てを迎撃する。

 辺りには夥しい数の針が突き刺さっていた。

 

「何者だ!?」

「見つけたぞ、貴様が勇者だな?」

 

 盛り上がった丘からこちらを見下す3つの影。

 

「我が名は『針刺』のナデル!」

「同じく『泥寧』のモータモア」

「『粘糸』のシュピンネ。御主を『真の勇者』であると認識する。我々の主であった『迅雷』のトルデォン様の仇を取らせてもらいましょうぞ」

 

 襲い掛かる三人の魔族。

 『針刺』は全身がハリネズミのような、『泥寧』は人間の身体が全て泥で出来ており、『粘糸』は直立不動の蜘蛛みたいな魔族であった。

 

 『迅雷』のトルデォンが破れた際に他の都市を襲っていた魔族はマーキュリー指示のもと全て退却した。

 しかし、中にはトルデォンを崇めていた者もおりそういった手合いをマーキュリーは前線に投入していた。

 

「おら、行くぞ【針百本(ハンドレッドニードル)】」

 

 人間の指ほどの針が、ナデルの身体から放たれる。一本一本が太く、鎧も貫通するほどの威力の針をユウは躱す。

 

「勇者様! 我々も……!」

「下がって! 今、ファウパーンから連絡があった! 一斉に魔物が攻勢に出た! 君達は他の人達の援護を!」

「しかしっ、いえ、わかりました。御武運を」

 

 食い下がろうとした騎士だが、自らの本分を思い出しす。

 足手まといにしかならないという気持ちを抑えて戦うユウに対して勝利を祈ってその場を後にした。

 魔族は去っていく騎士達に目もくれずユウだけを狙って来る。それも複数で囲むように。

 

(この魔族、他と違って連携を取って来ている……)

 

 つまり、自分相手に連携を練習したということだ。異能を持つ魔族相手にこのまま手をこまねくのは危険だ。

 

「だったら、一人ずつ相手をするだけだ!」

 

 そう思って攻勢に出ようとしたユウの前に兵士が立ちふさがる。

 

「どうした? 早く避難を……っ!」

 

 いきなり斬りかかった兵士の攻撃を避ける。

 

「どうしたんだ!?」

「ファファファ、其奴らは儂らに負けた哀れな敗者じゃ。だから、どうせなら最期まで使ってやろうと思ってな」

「勇者様……も、うしわけ……あり、ません」

 

 涙を流しながら剣を振るう兵士。

 他にも多くの兵士がユウに向かって攻撃してきた。その全てをユウは躱すも、このままでは魔族を倒すことが出来なかった。

 

「勇者様、我々に構わず……斬って……ください」

「っ! いいや、僕は見捨てやしない!」

「意気込みはよし。だが、それだけでは勝てませぬぞ。ほれ、トドメを刺すが良い」

 

 兵士達が一斉に槍と剣を突き出す。

 ユウはジャンプしてそれを躱すと同時に

 

「【真空波斬】」

 

 回転して真空の斬撃を兵士の頭上に放つ。

 操る糸を切ると、兵士達はその場に崩れ落ちた。

 

「ぬぅ、儂の糸をこうも容易く斬るとは。ただの技能(スキル)でもこうも違うとは。やはり聖剣侮りがたし」

「やはり、一対一じゃ無謀だね。そんじゃ、ナデル。例の技行くよ!」

「おうさ!」

 

 ナデルとモータモアが攻めて来る。

 ユウはモータモアを斬るも手応えがない。

 

「あはははっ、アタイの身体は特殊でね! そんなんじゃ倒せないよ!」

「だったら、次はより多くの面積をえぐりとる技を、くっ!?」

 

 モータモアの身体を貫通し、ナデルの【針百本《ハンドレッドニードル》】が炸裂する。

 不意をついた、モータモアを盾とした視覚外からの攻撃に流石のユウも捌くのが遅れて数本針が刺さった。

 

「ちっ、確実にいけたと思ったのに当たったの数本だけかよ」

「味方ごと攻撃するなんて」

「あーら、アタイの心配? だけど、問題ないし。ほれ見ろ、アタイの身体は泥で出来てるからこの針なんて痛くも痒くも無いのさ」

 

 穴が空いた部分が元に戻っていく。

 

「味方の特性を把握しておくのは当たり前だろ? まさか魔族が出来ると思わなかったとは言わねぇよな?」

「そうだね……。油断していたのは僕の方かもしれない。だから、一撃で決める!」

 

 聖剣アリアンロッドが輝き始める。

 それを見た二人がその場から離れた。

 

「おっと、あぶねぇ! 流石にトルデォン様が敗れたその技を食らっちゃあ、耐えきれねぇからな!」

「!?」

 

 確かに【聖光顕現】は聖剣を持つ『勇者』の必殺技だ。だがそれを見た魔族は少ない。何故なら、見た魔族はその殆どが討ち取られている。

 

 なのに、ナデルは知っていた。それはかつてフォイルの時に見て生き残ったからなのか。

 何者(マーキュリー)かによってユウの勇者の力を伝えられているのか。

 

「隙ありぃ!」

 

 モータモアが身体を流動的に動かしてユウの足元を覆い尽くす。

 絡みつくように離さず、ズブズブと沈んでいく。

 

「ぬぷぷぷ! アタイの異能の【底無し沼】だ! 貴様はもう動けまい!」

「ファファファ、更には【完全拘束の蜘蛛巣《ラニャテーラ】」

 

 ユウの身体を糸が絡め取ろうと襲い掛かる。

 ユウは殆どを迎撃したが一本だけ左腕について拘束した。

 

「よっしゃあ!! これで終わりだ【針千本(サウザンドニードル)】!!」

(迎撃……ん?)

 

 全身の針をユウに向かって解き放つ。

 夥しい数の、当たれば身体中に風穴が開く針の嵐。

 

 だがナデルの針はユウに当たる前に空中で止まっていた。

 

「あぁん!? なんだそれは!?」

「【聖障結界】……メイさん!」

「【水激竜の白滝(ナーガ・ストリーム・フォール)】」

 

 【聖障結界】を張っていたのはクリスティナだった。

 彼女が呼びかけると杖を構えたメイが頭上から特大の水魔法を浴びせる。

 

「ギィッ! わ、儂の糸がぁ!!?」

「うにゃあぁぁ!!! あ、アタイの泥が清められる!! い、痛い痛い!!」

 

 水に濡れて、ラーニヨの糸はその粘着性を失っていた。

 更には泥が本体のモータモアも余波で大ダメージを受けていた。

 ナデルでさえも流された。

 

 だがその中心地にいたユウは全く濡れていなかった。

 

「な、なんでお前は無傷なんだよ!?」

「クリスティナさんの【聖障結界】のお陰だよ」

 

 ユウが迎撃する直前にクリスティナから連絡が入ったのだ。そのまま居て下さいと。

 【結界】ではなく、【聖障結界】を選んだのはその後のメイの魔法から身を守る為であった。

 

「味方の特性を把握するのは当たり前。君が言った言葉だ」

「こ、この野郎揚げ足とりやがって! おい、モータモア! さっさとコイツを沈めろ!」

「やめっ、この水が痛くてそれどころじゃないんだよ、針鼠野郎!」

「んだとぉ!?」

「【加速(アクセル)】」

 

 再び沈む前に、強力な蹴りで【底無し沼】から抜け出すと、モータモアに向かって聖剣を振りかざす。

 

「ひぃっ!? く、来るな!!」

「【聖光顕現】」

「にぎゃあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 【聖光顕現】を喰らい、モータモアはその身を残さず爆散する。

 

「お、おのれ!  例え粘着力が無くなろうと儂の糸は丈夫! 再び捕らえてくれる! 【鋼糸の籠目(スレッド・ケージ)】」

 

 八つ目を赤く発光し、腕から糸を乱射する。

 だがユウはその全てを躱し、シュピンネの懐まで接近する。

 

「な、何故当たらぬ!?」

「【連・聖天斬】」

「ギィィッ!?」

 

 何度も斬り刻まれたシュピンネは細切れになって死んだ。

 

 あっという間に一人になったナデルは恐怖に震え出す。

 

「ば、ばかなっ。オレ達の連携は完璧だったはずだ」

「君達の連携は凄かったよ。だけど、僕にも仲間がいる。君達の連携は僕一人だけを念頭に置いたものだった。それが敗因だ」

「ちぃぃぃ!!」

 

 悔しげに、憎々しげに歯軋りをする。

 先程の【針千本《サウザンドニードル》】を放ったせいでナデルにはもう攻撃手段がなかった。

 

 聖剣を構えるユウにはもう油断もない。

 相手取る魔族に対してトドメを刺そうとした時、脳に警鐘が走った。

 

「!? この気配ッ、二人ともすぐにこの場から離れて!!」

「え?」

「ユウくん?」

 

 その言葉とほぼ同時にとてつもない熱量の何かがユウ達に襲いかかってきたーー

 

 

 

 

 

 少し前。

 前線では魔物達の侵攻が抑えられ始めていた。

 歴戦の兵士達に、卓越した指揮官。

 『真の勇者』による援護と、前線で腕を振るうオーウェンとファウパーン。

 

 これらによって人間側に僅かではあるが劣勢から優勢へと変わり始めていた。

 

 だからこそ、この傾いた天秤を再び元に……魔王軍側に戻そうとする為にそれ(・・)は現れた。

 

 大地が割れる。

 地割れが起きて、魔物も人も等しく落ちている中悠然と現れた異質な存在。

 

 バラバラに各地を襲撃する魔族達の中で唯一、"トワイライト平原"にのみ常に張り付き、魔王軍側が劣勢になると優勢になる人間側に向かって砲撃を加え込んでいく。そのせいで毎回犠牲者の数が跳ね上がる、人々からは畏怖と恐怖を向けられる存在がいた。

 

 『砦城』と人間側からは呼称される、()()()()()()()()()()()20メートルに及ぶ巨大な岩の集合体。

 

 それは正にまごうことなく重厚かつ堅牢な守りと苛烈に過剰な程に巨大な砲台を抱える巨大な城と言って過言ない程であった。

 

 この存在があるからこそ、ユウは聖剣の力を温存せざるを得なかった。前線で戦うことが出来なかった。

 これを倒すのには、聖剣の力が必要不可欠とされていたからだ。

 

 『砦城』は戦場を見渡し、戦局を把握する。

 そんな中、離れた場所にいるユウ達を発見した。

 

『ーーーーーー』

 

 大地が振動し、空気が震える。

 その巨躯に匹敵する大きさの砲台から収束焼却砲(ビーム)がユウ達に向かって放たれた。

 

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