【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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特別編:アイリスから見た勇者

 

 それは好奇心だった。

 

 里の年長者らには無闇に里の外へ行ってはいけないと聞かされていたのに。里には結界があって外からの攻撃は通じず、隠蔽されているから魔獣にも気付かれずにいるって。

 

 そして何より外には罪を犯した人間達(・・・・・・・・)がいるから危険だって口を酸っぱくして語っていました。

 

 その日はなかなか寝れなくて森を歩いていると遠目に一際輝いていた人間が造ったというお城。偶に見る事はあるけも今日はいつも以上に輝いていたから一体何があったんだろうと思ってついつい近くまで寄って行ってしまった。

 

 罰なのか、わたしは魔物と遭遇しました。

 

 魔獣とは違い、明確な悪意のみをもってして人を襲う化け物。

 里に戻る事も出来ず、怯えの所為で精霊魔法すら上手く扱えない。

 

 もうだめだと思ったその時

 

「大丈夫かい?」

 

 一人の男性が魔物をあっという間に倒してしまいました。

 

 月光を背に柔らかく微笑んだ赤い髪の一人の青年。声色も優しく、さっきまでの恐怖は忘れ、その笑顔に魅入ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 わたしの名はアイリス・シャガ=ナド=キンレイカ・オルレイン/オリーブ。

 

 因みにシャガとキンレイカが親の名前でオリーブが姓なんですけどここではどうでも良いです。

 わたしはこの『オルレイン大森林』で生まれたエルフです。今の歳はぴっちぴちの123歳です。

 

 それよりも語るべきはあの人、フォイルさんです!

 

 彼はわたしを魔物から助けてくれました。その姿を見たわたしは心臓が高鳴るのを感じました。

 すっごくすっごーく、かっこよかった。でもそれ以上に彼の温かみでしょうか? それを感じました。

 

 その後、彼はわたしを里まで送ってくれました。

 その際に色んなことを会話しました。

 エルフは長寿だから時間感覚も非常にゆったりしたものなんですが、この時だけは非常に早く感じました。

 

 やかて別れの時が来ました。

 わたしは自らの花を彼に渡しました。彼は喜んでそれを受け取ってくれました。

 

 そして本当に別れの時、わたしは何故かその背が酷く寂しそうに見えました。そのまま消えてしまいそうな儚さを。

 

「わたしまた貴方に会いたいです! だから絶対に会いに行きますから!」

 

 その言葉だけを口にすると、彼は手だけをこちらに振ってくれました。

 わたしは別れた後もあの人の事が頭から離れませんでした。

 

 

 

 一年後。

 何とか精霊魔法を扱えるようにもなったわたしはこっそりと彼を探し出すことにしました。

 

 何故なら人はわたし達エルフと違って歳を取るのが早い。このままのんびりしていたら出会うのは何十年も後になってしまいます。

 

 あの寂しそうな背中を見たらそんなに待てませんでした。

 

 ただフォイルさんの言った通り、欲深い獣がいるそうなのでちゃんと顔とかは隠していました。

 わたしは経験から学ぶえらい娘なんです。えっへん。

 

 外に出た時、見たのは彼が『偽りの勇者』として指名手配されている事。

 

「嘘ですっ、こんなことってっ!」

 

 わたしは思わず叫びました。

 こんなこと、何かの間違いです! でも、周囲はそれを真実だとして彼を罵っています。誰も彼も、みんな。

 

「……わたしがなんとかしないと」

 

 彼にはもう味方がいない。

 あの日の背中が記憶に浮かびました。

 

 ギュッと唇を引き締める。

 

「いかないと……」

 

 彼を一人になんてさせない。

 わたしは雑多な人混みの中、歩き出しました。

 

 

 

 

 その後、わたしは頑張りました。

 えぇ、それはもう頑張ったのです。来る日も来る日も歩き続け、馬車を乗り継ぎ、作った薬を売って日銭を稼ぎながら、フォイルさんを探しました。

 幸い最後にフォイルさんが目撃された所に向かい、その後はわたしの愛のぱわぁ(・・・・・)で何とか見つけ出しました。

 

 

 

 けれども見つけたのは本当にギリギリだった。フォイルさん、彼は『真の勇者』だとかいうユウ・プロターゴニストに斬り裂かれ、崖から落ちて川に落ちそうな所をわたしが周りの植物を魔法で作ったネットで受け止め、すぐさまその場から退散しました。

 

 あの勇者が追ってくる可能性を考慮したからです。

 距離を稼ぎ、花畑でわたしは彼の傷を確認すると声にならない悲鳴をあげました。彼からは夥しい血が流れてました。

 

「絶対に、死なせないのです……!」

 

 初めはもうその傷の深さから駄目だとも思いました。

 でも、諦めない。諦めてたまるか!

 

 幾ら傷口を治療しても血が止まらない。わたしの手は彼の血で真っ赤になりました。

 

 いやだ。いやだ。

 心臓の音が小さくなっていく。体温が冷たくなっていく。

 

「ダメっ、死なないで……っ! 死なないでぇっ!」

 

 それでも諦めようとしないわたしは唐突に頭に声が響きました。

 

『貴方に問いたい。貴方は何故彼を助けようとする?』

「!? 誰ですか!? どこにっ!?」

『質問に答えて欲しいわ。どうしてですか?』

「っ! わたしがこの人を助けたいから! それ以外に理由なんてありますか! わかったら黙っていてください!!」

 

 この時わたしは切羽詰まっていたので謎の声の持ち主に辛辣な対応をしました。

 しかし、今思えばその時声の持ち主は微笑んでいたのかもしれません。現に、その声色は柔らかくなっていました。

 

『そう。ならば今代の『聖女』は貴方に託しましょう。人ではなくエルフだから規格は違うけど、何とかなるはず。わたくしを恨んでも、憎んでも構わない。わたくしには(・・・・・・)時間がない(・・・・・)。だからどうか人類をーー』

 

 声が聞こえなくなると共に、わたしの身体に何か力が宿るような感覚がしました。

 そして、知るはずもないのに知っているかのようにその魔法を呟きました。

 

「【癒しの願い(ヒール)】」

 

 わたしの手から力が漲り、そしてフォイルさんの身体が淡く光りました。そして出血していた傷口が塞がりました。

 

「今のは……」

 

 驚くわたしでしたけど、すぐにすべき事を思い出します。

 傷は塞がりはしましたが、失った血を補う訳でなく応急処置にしか過ぎないと気付いたわたしはキチンとした治療を施す為、近くにあった洞穴へとフォイルさんを抱えて入って行きました。

 

 

 

 やがて彼が目を覚ましました。

 その日からわたしとフォイルさんの旅は始まったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………くれ………な…さい」

 

 あぁ、またです。わたしはむくりと起き上がり、ジャママを抱えたままとてとてとアヤメさんの寝るベッドに近づきます。

 

「許してくれ…おれがわるいんだ……おれでは、きみたちのきたいには……ごめん…すま………ない……」

 

 汗を掻き、毛布を強く握りしめながら何度も譫言を呟いています。眉間は皺寄り、今も苦しそうです。

 助けた時からずっと続いていることです。

 

 わたしの力では身体の傷は癒せても、心の傷は癒す事は出来ない。

 

 フォイルさん、いえ今はアヤメさんですか。

 

 アヤメさんはこうやって夜中にうなされています。それの殆どが許しと後悔と自責の言葉です。

 

 これはアヤメさんを助けた時から寝ている時にずっと続いていた事です。

 彼は自らが助けられなかった人々に対して謝罪を繰り返している。彼がわたしと出会った日、いえそれ以前からどのような気持ちで過ごしていたかは知りません。

 

 でもそれはきっと辛かった日々だと思います。

 

 アヤメさんが優しいのは知っている。だから彼が世間の言う『偽りの勇者』として行ってきた事に罪悪感を抱いているのは想像に難くないのです。きっとそうやって精神を摩耗していったのでしょう。

 

 そんな時、側にいられなかった事をわたしは今でも悔やんでいます。あの時、もっと早くに森から出ていれば……。

 

 わたしの言った事でアヤメさんは救世主になることを目指し、生き甲斐を取り戻したみたいだけど、過去の罪は消えません。こればっかりはアヤメさん本人の問題です。

 

 だけどわたしはそのままにすることが出来ず、こうやって頭を撫でながら唄を歌ってあげました。

 

 唄を歌ったのは昔怖い夢とか見たときに母様に寝かしつけて貰う際にしてもらった記憶があるからです。

 

 初めは全く効果がありませんでした。でも歌いながら頭を撫でるうちに段々とアヤメさんの顔が安らいでいきます。

 ふむふむ、やはりわたしのおとなのみりょく(・・・・・・・)は成人男性にも通用するみたいですね。

 

<ガァゥ>

「あ、しーですよジャママ。アヤメさんを起こしたらダメですから」

 

 抱きしめていたジャママがぽすぽすとアヤメさんの頭を爪を立てずに叩きます。

 不思議そうに見ているのはいつもの姿とはかけ離れた様子だからでしょう。爪を立ててないことから気を使っていることがわかります。

 

 最後に手を握ります。大きな手。けれどもその手にはどれほどのことを背負ってきたのでしょう。

 

「大丈夫ですよ。フォイルさん(・・・・・・)。わたしは貴方についていきますから」

 

 名も知らない女神。

 貴方はわたしに『聖女』の称号を与えました。

 アヤメさんをこんな風に追い込んだのは許さないけど、称号を与えた事は許してあげます。

 わたしは『聖女』、『勇者』に寄り添う者。わたしはわたしの勇者の側に寄り添うだけです。

 

 魔王軍とか知ったことではない。でも、彼がもし戦おうとするならばその時はわたしも協力するだけです。

 

「という訳でわたしはアヤメさんの隣で寝転ぶです。えぇ、これは正当な行為です。病人を一人にしておけないのですから何も責められる事はないのです」

 

 そのままもぞもぞとアヤメさんの隣に潜り込み、背中に抱きつきます。間に挟まったジャママが苦しそうな声を出しますが、それよりもアヤメさんの体温の温もりと匂いをいっぱいいっぱーい堪能するのです。

 

 彼の胸板に耳を近付けると聴こえる彼の鼓動。そして温かい彼の体温。

 

 生きてる。

 彼は此処にいる。

 

「……ちょっと匂い嗅いでも良いですよね?」

 

 すーはーすーはー。すぅ……すやぁ。

 

 本当はもっと堪能したかったけどわたしはそのまますぐに寝てしまいました……もったいない。

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝、アヤメさんに怒られました。何でも年頃の娘が男の布団に入って一緒に寝るのはうんぬんかんぬん言ってました。

 別にわたしはアヤメさんとなら一緒に寝ても良いのですが、どうやらアヤメさん的にはえぬじー(・・・・)らしいのです。

 まぁ、良いです。また貴方が悪夢を見ている時は寄り添ってあげますから。

 だからアヤメさん、独り(・・)で抱え込まないでくださいね。

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