【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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大湿原

 ラルフォール公国領の街向かう途中、俺達は広い大湿原へと辿り着いた。

 そこに広がる光景に俺は目を見開いた。

 

「これは……凄いな。見渡す限り、どこまでも湿原だ」

「本当ですね……、森のような生命力に溢れた空間とはまた違った、自然の力を感じる光景です」

<ガゥゥ>

 

 見渡す限りに、広い大湿原が広がっていた。遠目にはピンク色の鳥が飛び交う姿や、牛に似た魔獣が群れとなって疾走し、その背後を別の肉食の魔獣が追いかけている。沢山の魔獣が生き生きと存在している。

 正に大自然を体現したような光景だ。

 

「当然でしょう。この大湿原は付近において1番の広さを持つ事で有名ですから。私も若い頃アメリア様と護衛と共に此処に訪れたことがあります。……あの頃と殆ど景色は変わりませんね」

 

 語りながら懐かしむようにエドアルドが目を細める。此処に来たのはエドワードが一度此処に訪れたいと、彼は言った。俺は街に行く前にその言葉を受け入れたのだ。

 その時、俺はエドアルドの眉が動いたのを見逃さなかった。

 

「どうした? エドアルド」

「いえ。先程仰った通り、この大湿原は有名で時には貴族が観光として護衛を連れて訪れることがあります。人の姿が全く見えないのが少し気にかかっただけでございます。冒険者ぐらいなら居ても良いのですが」

「冒険者とて人よ。お金は大事でも態々危険地帯に無闇矢鱈に足を突っ込んだりはしないでしょ」

「左様ですね。失言でした」

 

 キキョウの言葉にすんなりと引き下がるエドアルド。

 でも確かに魔獣は沢山いるが人はいない。それが少し寂しい。

 

 だが同時にこの美しい光景を不粋な輩から守られている感じがした。

 

<! ガゥッ!>

 

 ジャママがピクンと耳を立てて吠える。

 俺達はその声を何度か聞いたことがある。つまり、何かしらの警告だ。

 

 人はいないかと思ったがやはりいたのか!

 

「誰かが襲われてます!」

「誰であろうと助けるまでだ!」

 

 俺は剣を抜いて、駆け出す。

 近付くと同時に跳躍して、水蜘蛛の頭部目指して"落下狼藉"を繰り出した。

 

<ヂィッ>

「避けた!?」

 

 だが、水蜘蛛は瞬時にその場に移動して俺の攻撃を避けた。

 そのまま滑るように移動して離れ、鋭い牙をカチカチと鳴らす。

 

(あの水蜘蛛、こっちを見ていないのに反応して避けた!)

 

 着地して、もう一度突撃しようとした俺だが足に纏わりつくような感触があった。

 

(この辺り一面に撒き散らされている水、微かにだが粘着力がある。まるでメイちゃんの【水粘液(アクア・ジェル)】みたいに)

 

 今はまだ動けるがこのまま踏み続ければ動けなくなるかもしれない。ならば最小の動き、最小の面積だけで移動して仕留めるだけだ。

 

 その時、水蜘蛛は俺ではなく追っていた人に向かって水のブレスを吐き出した。

 男性とブレスの間にわりこむようにしてエドワードが入り、攻撃を防ぐ。

 

「ご無事で?」

「あ、あぁっ。待て、気をつけろ! そいつの吐く液体」

「むっ!?」

 

 ズズッとエドワードの身体が引かれている。

 水蜘蛛は何かを巻き取るような動作をしていた。

 

「これしきの事で、我が盾を奪えるとでも? 【要塞(フォートレス)】」

 

 自重を数倍にして、その場に聳えあらゆる攻撃を受け止める【要塞(フォートレス)】。

 エドワードはあえてその技能(スキル)を使うことで自身が引き寄せられたり、盾を奪われるのを防いだ。

 

 俺は彼と水蜘蛛が綱引きをしている際、水蜘蛛の吐いた糸もまた透明なのに気付いた。俺の考えが確かなら、あれはここらにある水のような糸と同じ筈だ。ならば。

 

「キキョウ! 周囲一帯を軽く凍らせる事は出来るか!?」

「そのくらいなら楽勝よ。【蠢く氷波(グレイシャー)】」

 

 ピシピシと辺り一面の地面が凍っていく。

 その時やっと目で視認出来た。やはり、地面は元より、あらゆる所から見えない糸が張り巡らされていた。このまま突っ込めば俺はあれに捕らえられていたかもしれない。

 

<ギチチチチッ!>

 

 水蜘蛛は八つの目を真っ赤にして怒る。

 そのまま、エドワードから水糸を離し、俺に向けてまたも水糸を吐いて来るが、俺はそれを容易く躱す。

 エドワードの時にも見たあれは吐く時必ず正面を向く必要があるのだ。そんなわかりやすい予備動作があるのなら、食らうはずがない。

 懸念だった粘着質な足下の糸もキキョウの氷で効力を失っている。何の障害すらなく、俺は水蜘蛛へと接近する。

 

「"流水落花"」

 

 流れるように回転して水蜘蛛の右側の脚を斬り落とす。

 今回は"粉砕熊"の時とは違いファッブロの剣を両手で掴んで行った事から威力が上がっている。

 そのまま倒れた水蜘蛛の頭部に向かって、もう片方の剣"刺斬剣イザイア"で"緋華"を繰り出した。

 

 透明な液体を撒き散らして水蜘蛛は生き絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、この大湿原は立ち入り禁止なのか!?」

「あぁ」

 

 その後、傷付いた男性達をアイリスちゃんが普通の医術で治療してくれた。

 しかし何処か余所余所しいというか、警戒している男性に何故か問うてみると上記の返答がかえってきた。

 エドワードの方に顔を向ける。

 

「……知っていたか?」

「いえ、私も知りませんでした。それは何時頃からなのでしょう?」

「半月くらい前からだ。だから今、この大湿原は保護区にも指定されて入る事が出来る者が限られているだ。だからこそ、誰も居ないと思ったのだが。君達が現れた」

「あぁ、つまり俺たちが密猟者じゃないかと疑っていたのか」

「確かにそう考えるのも仕方ありませんよね」

 

 頷くアイリスちゃん。

 

「お待ちを。ならば貴方達は何故此処にいるのですか?」

 

 エドワードの疑問は最もだった。誰も入っていけないなら、目の前の彼らがいることもおかしかった。

 

「あぁ、それはこれさ」

 

 男性は胸元から銀色の紋章が刻まれた時計を出した。

 

「これはこういった保護区に入る為の許可状みたいなものだ。これがあれば殆どの保護区は自由に入れる」

「へぇ、そんなのを持つということは貴方この国でそれなりに偉い立場の人なのかしら? そうは見えないけど」

「こら、キキョウ失礼だ。すいませんら仲間がご無礼を」

「はははっ……。ちっ」

 

 ?

 今舌打ちしなかったか? やはり機嫌を悪くしたのだろうか。

 

<ピィー!>

「あれは?」

 

 ふと見れば彼らの馬車の中には真っ白な鳥が入っていた。何やら騒いでいる。興味を持ったのかジャママが少し近づいた。

 

<ガゥゥ?>

<ピィー、ピィピィ!>

「あ、こら近付くな!」

「ご、ごめんなさい。ほらジャママ! 駄目ですよ!」

 

 別の男性に怒られ、ジャママはアイリスちゃんに抱えられる。

 

「あの鳥は? どうして檻の中に入っているんだ?」

「あれは"シコウノトリ"と呼ばれる鳥でしてね。その柔らかな羽は装飾品として古くから重宝されていたんだ。だからその数を減少させてしまって。"シコウノトリ"はこの大湿原でのみ存在を確認されている。このままでは絶滅してしまうとの危機から一時的に国管理の施設にある程度の数を移すのと、この地域での保護を目的として俺たちは此処に訪れたんだよ」

 

 なるほどそういうことか。

 なら彼らがこの場にいたことも納得だ。

 尚も"シコウノトリ"は籠の中で暴れ続ける。

 

<ピィー!! ピィピィ>

<ガゥッ……ガウッ!>

「わっ」

 

 未だに"シコウノトリ"は騒いでいる。

 ジャママは何やら唸ると、アイリスちゃんの腕から抜け出しそのままててーと何処かに走って行ってしまった。

 

「あ、ジャママ! すいませんっ、少し失礼します!」

「アイリスちゃん、俺も行こうか?」

「大丈夫です、すぐに連れ戻しますから!」

 

 アイリスちゃんがジャママを追いかける。

 この辺りに危険な魔獣はあの蜘蛛以外いない。俺は見送り、目の前の男性達にこの辺りの街の情報について教えてもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

 アイリスが追いかけた先でジャママは何やら臭いを嗅いでいた。勝手に離れた事を叱ろうとしたアイリスだが、その様子に何かあるのではと考えた。

 

「ジャママ、どうしたのですか? いきなりあの場から離れて」

<クゥ、クゥ〜ン>

 

 スンスンと鼻を鳴らして歩くジャママ。

 アイリスはやはり何かあると感じ暫し彼の好きにさせる。

 

 やがて大湿原の中では珍しく生い茂った木々の林に入った。

 

「ジャママ、まだですか? これ以上は流石に危ないですよ?」

<クゥ〜ン……カゥッ>

 

 抑えた声でジャママが吠える。

 前を見てくれと言っているようであった。アイリスは茂みをかき分け、前を見る。

 

「あれは確かあの人達の馬車と同じですね。他にも仲間が居たのでしょうか?」

 

 あったのは数台の馬車であった。そこには複数の男達がいる。

 馬車の形が同じなので男性達の仲間だと思うが一体こんな離れたところで何を疑問に思うアイリスの男達の会話が耳に入る。

 

「おい、此奴はどうする?」

「あぁ、そいつはこっちに入れておいてくれ。羽根には傷付けるなよ。値が落ちるからな。あとで、あの幼鳥の方もこっちに入れる予定だ」

「あいよ」

(値段? 売る?)

 

 只ならぬ内容にアイリスは聞き耳をたてる。

 

 馬車の荷台の帆が開けられる。その時、エルフ特有の良い視力でアイリスは沢山の"シコウノトリ"が狭苦しい檻に入れられているのを見た。どれもぐったりしている。扱いが雑で、明らかに保護だなんてものじゃない。

 その時、檻の中に入れられてた"シコウノトリ"が嘴を檻に叩きつけ、鳴き声(クラッタリング)をする。

 

「黙ってろ!」

(なっ!?)

 

 一人の男がガンッと檻を叩く。

 その際檻が揺れて中の"シコウノトリ"は頭をぶつけ、そのまま気絶した。

 

(……売るという言葉、そしてあの扱い。保護なんかじゃない、彼らこそ、密猟者!)

 

 急いでアヤメ達に知らせようとするアイリス。此処では通信の魔術具も使えない。

 しかし、あの"シコウノトリ"を見たせいで動揺していたのか、アイリスは普段なら絶対しない枝を踏んで音を鳴らす失態を犯した。

 

「誰だ!?」

「しまっ」

<ガルルゥアッッ!!>

 

男達が此方に気付くと同時に、ジャママがアイリスを守る為に飛び出した。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「それでこれから貴方達はどうするのですか?」

「あぁ、我々はこのまま……ん?」

 

 俺達が話をしている最中、草むらをかき分ける音が聞こえる。もしかして魔獣かと、武器を構え警戒する。

 

 ぴょこんと、草むらから何かが現れた。

 やたらと顔のシワが多い一匹の魔犬(ブルドッグ)。身体はジャママよりも僅かに大きく寸胴型だ。しかしその顔は何だか気が抜けるような顔だった。

 警戒した俺たちだが予想外に相手に油断する。

 

「へっ、なによこいつ……ブサイクね、犬?」

「この品種……何処かで見覚えがありますね」

<……バゥン>

「やべっ、こいつはっ」

<バドオォーーンッ!!>

 

 遠吠えをあげる魔犬。

 な、なんて声量だ!? 俺たちは全員耳を塞ぐ。俺は目の前の犬に首輪がつけられているのに気付いた。あれは確か『魔獣使い』が使役する魔獣の証。なら今遠吠えは強化されたものの可能性が高い。

 

 唸り声を上げ始める魔犬。

 俺達……いや、男性達を睨んでいる?

 

「見つけましたわー!!」

 

 轟くような声と同時に新たに人が現れる。

 

「リンクルに任せた甲斐がありました! もう逃がしませんわよ!」

「お嬢様、先走り過ぎです。私のメイド服が汚れてしまったではありませんか」

「全くだなぁ。足元泥だらけだぁ。でも、いやぁ、見つかって良かったなぁ。お嬢様」

「貴方ちゃんと反省していますの!? 獣人なのに臭いも追えないなんて!」

「いやぁ〜、今日に限って鼻炎気味なんだよ。仕方ないだろ、お嬢様〜?」

 

 現れたのは三人組。

 その中でも上質な服を着た蜂蜜色のツインテールの少女は背後の男達を指差した。

 

「わたくしから許可状を奪い取った罪! 忘れませんわよ!!」

 

 ……え。

 

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