【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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物事とはうまくいかないものである

 街に着いた。

 正確には城門に入る為の門の前にだけど。

 此処はコアストリドット領のエルタルという街だ。

 

 因みにリンネさん達とは城門前で此処で別れた。彼女らは、そのまま密漁者達もしょっぴいて行った。彼女は何度も礼を言っていた。いらないと言ったが報酬まで受け取ってしまった。

 言外にあの一連の事を公言しないで欲しいという理由も含まれているだろうがそれ抜きにしても、やはり礼儀正しい娘だった。

 

「あれエドワード、君の鎧は何処にいったんだ?」

 

 エドワードの格好だが身につけていたはずの鎧が消えていて、代わりにその下にあった仕立ての良さそうな衣服を露わにしていた。

 

「鎧ですか? 流石に街に入るのにあのような重武装では不可能ですよ。冒険者でもないのですから。更にはあの鎧はそれなりの業物。出所を疑われてバレたら意味がありません。なので今はこの魔法袋に入れています」

 

 エドワードは肩に背負った俺のよりも大きな魔法袋を見せる。

 

「魔法袋ってそんな重量のもの入るんですか?」

「私の持つ魔法袋はかつては王族をも使い、下賜(かし)されたものなので一般的なものと比べてかなりの物が入ります。最も鎧や武装を入れて仕舞えばそれ以上入らないのですが」

「あぁ、あの鎧と盾槍は重そうだからね」

「重そう、ではなく結構重いですよ。まぁ、魔印を刻んでいるので体感ではある程度重さが軽減されているのですが」

「え、あれって魔法具だったのか」

「わたしは知っていましたよ! あの時エドワードさんの身体を漁った時に見ましたから」

「えっ、ちみっ娘そんな事していたの? 男なら誰でも良いのね……不純だわ。ねぇ、アヤメ。あんな破廉恥娘よりも落ち着きのある大人な女性の方が良いと思わない?」

「違いますよ!! 失礼な!! あと勝手に人を痴女みたく言わないでください!」

「しかし本当に取り出せるのか?」

「見てみますか?」

 

 俺の買ったやつよりもデザインが洗練されていて紐を解くと大きく口を開く。そして中からニュッとエドワードの槍の先が出て来る。

 おぉーと皆が口を開ける。

 

「アヤメさんが大金叩いて買った魔法袋がまるで子どもみたいです」

「態々手痛い言葉をありがとう。けど鎧といい随分と豪華なものを使っているね」

「これでも元一国の騎士団を纏め上げていたものです。装備もそれなりの上等なものを下賜(かし)されていましたし、オーダーメイドで造られてもいました。流浪の身で此処までの装備を持つものはそうそういないかと」

「それならアヤメさんも元はゆもぐっ」

 

 何か言いかけたアイリスちゃんの口を塞ぐ。何を言い出すかわかったからだ。

 

「どうかしましたか?」

「いや、何でもないよ」

「アヤメアヤメ、ちみっ娘が満更でもない顔をしているのがむかつくから早く離して欲しいわ」

「むふふ〜」

 

 キキョウがじとっとした目で此方を見ている。

 そんなことをしているとエドワードがこほんと一つ咳払いをした。

 

「それと一つ訂正を。今の私はエドアルド(・・・・・)です。そこの所、配慮をよろしくお願い致します」

「あぁ、そうだったね」

 

 リンネさんとアイリスちゃんが互いの相棒をいかに素晴らしいか語り合っている時、エドワードが話しかけてきた。

 

 どうやら自身の偽名について口裏を合わせて欲しいとのことだった。バレはしないと思うが、ヴァルドニアとラルフォール公国は国としては近い位置にある。ユサール遊撃騎士団についてもある程度把握しているだろうから必要な事だと。

 

 彼は今、エドワードからエドアルドに名を変更していた。

 

「エドワードとエドアルドって殆ど変化が無いように思えますが良いんですか?」

「細かな発音の違いですよ。エドアルドもエドワードも発音がなまっているかどうかその程度です。聴く分には対して変わりませんが似た名前の別人と思うでしょう」

「しかし、もっと別の名前にしても良かったんじゃ無いか?」

「あまり名前を変え過ぎても慣れるまで時間がかかります」

 

 そうかな。

 俺の時は意外とすんなりと受け入れられたが。いや、あの時は状況が状況だったか。それとも、アイリスちゃんが真摯に考えてくれたからか。

 

「? 何ですか?」

 

 何でもないと答える。

 アイリスちゃんはそうですかと言いながら笑顔を向けていた。

 

「それにしても折角街に着いたんだ。色々と買う物はあるね。食料に、衣類、何か掘り出し物の魔法具。最も魔法具は高望みし過ぎだけどね。別になくても構わない。食料とかも補充は当たり前だ」

「その物言いですと、何やら本命があるように聞こえますが?」

「そうだよ。実はこの街で馬を買えないかと思っている」

「馬」

「馬ですか?」

「馬ねぇ」

<カゥ?>

 

 馬。そう馬だ。俺たちには馬が必要だ。

 ピエールさんに伴って各地を移動した際にその思いは強くなった。

 馬は良い。

 最高だ。

 あれは良いものだ。

 

「なるほど馬ですか。良いですね。大地を踏みしめる力強い足腰。こちらの気持ちを推し量り、その通りに行動してくれる。彼らは寝食を共にし、言葉を交わさずとも寄り添ってくれる。人類とは馬と一緒に歩んで来たと言って良いでしょう」

「えっ、なんですか。いつにもなく饒舌(じょうぜつ)なのです」

「もしかしてエドアルドって馬が好きだったりするのか?」

「左様ですね。私も、長年の苦楽を共にした愛馬がいましたが、何処ぞの救世主を目指す人に殺されてしまいましたから」

「ねぇ、それ誰とかじゃなくて明らかに俺の事言ってるよね? もしかして根に持ってるのかい?」

「当然でしょうアヤメ殿。あの時は敵同士であり、生死を賭けた戦いだとは理解しています。あの時死んだ愛馬……マネラとは私が騎士になった時との付き合いですから」

 

 重いんだけど!?

 すごく罪悪感が湧くんだけど!?

 いつも通り無表情でじっと見てくるエドアルドだが心なしか批判の視線が入っている気がする。

 

「まっ……んんっ! まぁ、そうだね。エドアルドが言ってくれたけど馬は重要だ。幸い粉砕熊の皮は高く売れるとリンネさん達にお墨付きをもらった。だからこれで馬を買う資金は出来たと考えても良い」

 

 エドアルドの仕留めた"粉砕熊"だが、その事を話すとリンネさんが剥製にするとかで高く買い取られた。

 因みに俺が仕留めたのは首と胸の傷跡と流れた血で皮が余り綺麗じゃないとかでエドアルドのより安かった。世知辛い。まぁ、それでも一般的な市民と比べると結構な額が手に入ったから良いんだけど。

 

「それにヒノハさんにもこの街の馬売り場についてはある程度聞いた。だから迷う事は無いと思う」

「そうですね。久々に私の目も光ります。馬に関しては私も造詣が深く、一言ありますよ」

「頼りにしてるよ。良い馬を買えるにこしたことないからね」

「えぇ、任してください。では、早速行きましょうか」

「えっ、先ずは宿とかから……」

「良い馬というのは誰にとっても得難いものです。なればこそ、迅速に、早急に、確保する必要があると具申します」

「お、おぉ……そ、そうだね」

 

 いつになく強引なエドアルドに押される感じで俺は頷いた。

 

 

 

 

 

 

「へぇ、どれもこれも立派だね」

 

 訪れた馬小屋は、この街でも一番大きな馬を扱う店だ。

 

 俺は近くにいた馬の顔を撫でる。人懐っこいのか、撫でる手に顔をすり寄せた。

 

「わぁ。こうして改めて見ると馬って立派ですねぇ」

「ふ〜ん、そう? どいつもこいつものほほんとした顔しているしこんなのでちゃんと走れるのかしら……って、うぇっ、涎かけられた!」

「ぷっ」

「なっ、ちみっ娘笑ったわね!?」

「笑ってないですよ。ぷぷっ」

「むきぃー! 絶対笑った! 笑ったもん! うぅ、この服に臭いつかないわよね…?」

「その時は消臭としての花の調合ぐらいはしてあげますよ」

「……礼を言うわ」

 

「馬は賢いっていうからね。嫌な事を言ったら当然悲しいし嫌な気持ちになる。だから余り馬鹿にしちゃダメだよ、キキョウ」

「アヤメ……。そうね、悪かったわね」

<ヒヒィン!>

「わぷっ、な、なんでよぉぉ!! 謝ったじゃない!」

「馬にすら下に見られているのですか……」

 

 またも涎をかけられたキキョウを宥めるアイリスちゃんを見ながら俺は視線を彷徨わせる。

 

「エドアルドは……あそこか」

 

 見ればこの店のオーナーらしき人と話していた。

 

「この馬はどこで育ったのですか?」

「それは西方の方から買い取った馬ですね。良い馬でしょう?」

「なるほど。足腰が立派なのはそのせいですか。彼処から来るとなると山を通る事が多いですからね。……しかしそのせいか少々骨格が曲がったのか体勢が悪いです。しかもそれに対して処置した様子はなし。これでは早々に脚を壊してしまいますが」

「いっ。た、確かにそうかも知れませんがっ」

「それでこの値段。詐欺とされても文句はありませんよ。少し、兵士も加えて詳しくお話ししましょうか」

「か、勘弁してくだせぇ!」

 

 エドアルドは馬の体調を見抜いて、商人相手に不備を詰め寄っている。あれ怖いんだよね。真顔でこっちに近付いてくるから。

 

「エドアルド、だめだよ。それじゃ君が脅しているみたいになっているよ」

「心外です。私はただ事実を指摘しているに過ぎません」

「側から見れば、だ。君はちょっと……いやかなり馬の事になると周囲の視線が見えなくなるみたいだね。ちょっと向こうにいって頭を冷やそう」

「……そうですね

 

 俺たちはオーナーから少し離れた位置に戻る。

 同じく涎を拭き取った二人も合流する。

 

「すんすん。うぇぇ、なまぐさいよぉ……」

「結局一匹として、ぼっちには懐きませんでしたね。それでそっちはどうでしたか?」

「こっちも散々さ。俺が良いと思う馬はいたけど」

「そうですね。あの馬はともかく粒揃いではあります。私の愛馬マネラには劣りますが」

「その話やめてくれない? 心がちくちく痛むんだよ」

 

 エドアルドの言葉に若干心を痛めながら並ぶ馬たちを眺める。どれもこれも立派でよく鍛えられた体躯をしていた。これなら馬車を引くのに充分だ。

 顔の方も自身に溢れて……あれ、怯えてないか? 馬達の視線の先にいるのは…|肉食動物≪ジャママ≫。

 

<ガウン?>

「あぁ、そうか。ジャママは狼だから馬が怯えているんだね」

「今の大きさのジャママに怯えるくらいじゃわたし達を牽引するには力不足ですね。ふふん、やっぱりわたしのジャママは最強! 孤高の存在です」

<ガゥガゥッ!>

「どや顔してるけど、それじゃ馬を買っても走ってくれないってこと気付いてないの?」

「わ、わかっていますよ!」

<カゥ……>

 

 珍しくキキョウに指摘され、アイリスちゃんはバツの悪そうな顔をする。ジャママも飼い主と似たようにシュンと尻尾が垂れる。

 しかしこれは参ったな。これじゃ馬を買ってもキチンと牽引してくれるかどうか…。

 

「まぁ、これだけいるんだ。1頭くらい肝が座ったのがいるはずだ。探そう」

 

 俺は軽い気持ちでそう言った。

 

 

 

 

 甘かった。

 子どもと言えど、『森の金狼』とまで呼ばれ、恐らく森を支配していた"月虹狼(セレハティ)"の血を引くジャママに対して普通の馬じゃ恐怖に耐えられなかったのだ。

 結果は無残。全馬がジャママに怯えた。キキョウに涎をかけた図太そうな馬もダメだった。

 

「全滅か……少しくらい大丈夫な馬がいると思ったんだけど」

「仕方ありません。馬は往来臆病なもの。恐怖に耐えるよう訓練された軍馬ならともかく、普通の馬では自身の天敵である肉食獣がそばに居て落ち着くのは不可能です。唯一の望みは軍馬が何かしらの理由で売られていればでしたがそれも無理でしたから」

 

 エドアルドの言葉に俺は相槌をうつ。確かにそうだ。例え軍馬が居ても他の商人が買い取ったりしているはずだから余っているはずがない。

 

 原因が自らにあると思ったのかジャママは何時もの自信満々な態度は消え失せ、ペタンと耳を下げて尻尾も丸まっていた。

 

<ガゥゥ……>

「ジャママ、そんなに落ち込まないでください」

「そうだよ。どうしても無理なら"疾走蜥蜴"とか"疾る駝鳥(オトリュッシュ)"みたいな怯えることのない魔獣を買えば良いからね。まぁ、どちらも馬よりは速さや走行距離に劣るけれども」

「いっその事ゴーレムがあれば良かったんですけど……。そうすればジャママに怯えるなんてことありませんから」

「アイリス殿、それは"走行する魔法の鎧馬(アンヴァル)"のようなものの事でしょうか?」

「かの伝説の魔導技師の作った作品か。流石にそういうのには値が張りすぎて手が出せないね。そもそもそういうのは大抵国が管理しているだろうし、『魔導技師』の出身国、魔導国家マキナなら或いはって所か。でもどっちせよ現実的な案ではないね」

 

 魔力を糧に自動で動くゴーレムとなるとそれはもう値段が跳ね上がる。なんて言ったって生き物の馬と違い休息と食料が必要でないので日夜問わずに動き続けることができる。一応動かす動力となる魔石の問題はあるけど、それでも一度動かすと休憩の必要ない単調な作業を続けるゴーレムは魅力的だ。

 

「ゴーレム……こんな事になるんなら一体くらい『地蝕』(・・・・)からせしめとけばよかったかしら」

 

 ボソッとしゃべったキキョウの言葉を俺は聞き逃した。

 

 結局俺達はその後も様々な馬小屋を訪れては商人と交渉するも馬を買う事が出来ずに、噴水のある広場の近くにある喫茶店で休憩する。

 

「はぁー、うまくいかないものだね」

「そうですね、何処もジャママに怯えててんで使い物になりそうになりませんでした」

「俺が『魔導技師』の職業(ジョブ)であればなぁ。いや、そもそもあんまり器用な事は得意じゃなかったな。そういったのが得意だったのはユ……」

 

 エドアルドが側にいたことを思い出し、慌てて誤魔化す。

 

「んんっ、とにかくこうなった以上手詰まりだ。この街で馬を買うのは諦めた方がよいかもね」

「さようですね。そうなると、また徒歩ですか」

「それもそれで次の街に向かうまでのスピードと日数がなぁ…。魔法袋に入る食料も無限じゃないし。……あ、思ったんだけどさ、キキョウなら氷の馬を作れたりしない? なんてね、そんなわけ」

「作れるよ?」

「え?」

「だから氷の馬なら作れるって。アヤメなら分かるでしょ?」

 

そうだった。キキョウは魔王軍八戦将の『氷霧』の時、浮遊する氷の薔薇や氷の巨人を形成した。ならば馬くらい何ともないのだろう。

 

「ならそれで良いんじゃないか? 別に買わなくても」

「でも、馬に乗ることはオススメしないわ。氷だから冷たいし、下手したら凍るわよ?」

 

 ……それもそうだ。

 あの氷の巨人も近付くだけでとてつもない冷気を発していて、少しならともかく長く触れると凍ってしまった。

 馬とは乗り物。長時間跨っている間常に氷の馬から放たれる冷気に悩まされる事になるだろう。

 風邪を、いや凍傷にもなるだろう、拷問かな? 

 

「うん、悪いけど遠慮するよ」

「それが良いと思うわ。馬車に繋ぐにしても連結部分から段々と凍っていくもの」

「冷気だけ発しないようにとかできないんですか? 」

「それは炎に触って火傷しないようにしてって言うものよ。魔法は使役者自身にはある程度耐性があっても他人にも影響を及ばさないようにするとなると話が違ってくるわ。『黒の魔術師』や『白の魔術師』のように支援特化や状態異常特化じゃあるまいし。ふふん、そうなると此方の馬に乗ったらちみっ娘はお腹を壊してしまうわね」

「なんで得意げなんですか。寧ろ、冷気を抑えることが出来ない分、ぼっちはまだまだと言うことですね」

「なっ、此方の魔法が未熟だとでも言うの!?」

「そう言ってるのです! 因みにわたしはか・ん・ぺ・き・に! 元素魔法を扱う事もできるのです! どこかの身体だけいっちょ前に成長した半人前とは違うのですから」

「むきぃー! む、むかつく!」

<クゥン>

 

 先程の意趣返しか、ここぞとばかりにどや顔するアイリスちゃん。そうしていつも通りの戯れをする二人を俺たちは見つめる。

 

 あれは二人にとって軽口みたいなものだ。現に初期の頃と比べて本気でいがみ合っていない。

 あの二人も仲良くなったものだなぁ。

 

「……魔法を扱えない我々には耳が痛い話ですね」

「その分鍛錬を積んでいくしかないさ。俺たちは前衛なんだから。という訳でエドアルド、あとで軽く一戦付き合ってくれないか?」

「御所望とあらば。あの時の屈辱を晴らさせてもらいましょう」

「悪いけどまだ負ける気はないよ」

 

 俺とエドアルドは僅かに火花を散らす。

 修行は大切だが負けると悔しい。これまでも手合わせしていたがどちらも本気じゃなかった。

 エドアルドはあの時の雪辱を晴らしたいのだろうけど俺もまた負けず嫌いだから

 

「まぁ、とりあえず馬の事はまた考えよう。それよりも何か食べようか。気分も変えたいからね」

 

 俺はそう提案した。

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