【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

76 / 90
血を引く者

 

 

「あん? なんだ煙か? ……あがっ!?」

 

 話をしていた盗賊達の身体の表面が瞬く間に凍り始めた。

 

 霧氷(むひょう)と呼ばれるものがある。

 霧が樹木にぶつかると凍るというものだ。

 それと同じ現象が人間相手に起こっていた。彼らの身体の表面と目玉や口内に至るまで薄く凍っていく。その為身動きと酸素も僅かしか吸えなくなり意識が混濁(こんだく)していく。

 

 キキョウが息を吐くのをやめ、白い霧がなくなる頃には盗賊は全員身体中凍りつき動けなくなっていた。

 この力こそ、彼女を『氷霧』足り得る名をつけた力であった。

 

「……炎による焼死もエグいと思いますけど、氷による凍死も中々にエグいですね」

「死んでないわよ。身動き取れないようにしただけ。まぁ、ほっといたら凍傷になって指とか耳とか腐り落ちるでしょうけど」

「どっちにしろエグいのです」

 

 一思いに殺された方がまだマシだろう。

 二人は物陰から出ると凍って動けない盗賊達に近寄る。

 

「な、なんだテメェラッ!? いきなりこんな事しやがってただじゃおかねぇぞ!?」

「そんなこと言っても怖くもなんともないのです。自らの立場わかってないのですか? 頭ぱっぱらぱーなのですか?」

「なんだとぉっ!?」

 

 激昂する盗賊。だがアイリスには何ら怖くない。魔物や魔族と比べたら全くだ。寧ろ、盗賊という人を不当に傷つける者達に対して怒りを抱いていた。

 

「それよりも、不当に捕獲した魔獣の居場所を教えてください」

「……はっ、なんのことだ?」

 

 しかしアイリスのお子さまな見た目ではナメられているのか、捕まえた魔獣の事を尋ねても答えない。そんな時、手に冷気を纏わせたキキョウが盗賊の顔に触れた。

 

「冷っ、な、なにをする!」

「ねぇ、知ってるかしら? 空気にはね、見えないけれど水分があるの。そして人はそれを吸って呼吸している。……つまり、水分を体内に取り込んでいるの。此方は氷を扱うもの。空気中の水分を凍らせるのなんて容易いわ。貴方の吸った空気、体内で凍らせちゃったら……一体どうなっちゃうのかしらねぇ?」

「ひ、ひぃぃっ!」

 

 態々盗賊の耳に冷気を当てて脅すキキョウ。焚き火に照らされて浮かぶ表情は冷酷、冷徹で温かみを感じさせない。まさに氷だ。

 

 それを見たアイリスはやはりと考える。

 表情豊かで、アイリスとの口喧嘩に負けて泣き出したり、ぽんこつな所があるがキキョウの力は強いと。

 

(わたしやアヤメさんの前じゃ全然湧きませんけどやはりぼっちは魔王軍の元八戦将として相応しい力を持っています。味方ならこれ以上頼もしいことはないですね)

 

 しかし素直にそれを口に出せば調子に乗るのはわかっているのでアイリスは胸の内にしまっておく。

 人質の場所を聴き終えたキキョウは、そのまま盗賊を気絶させるとこちらに振り返る。

 

「分かったわ。このまままっすぐ行ったところに岩で隠された秘密の道、そこに集めた魔獣がいるって……なによ、その顔」

「別になんでもないのです。なんか、いつもよりも生き生きしてると思っただけです」

「え? そうかしら? ちみっ娘にからかわれるストレスを発散出来ると思ってついやり過ぎたわ」

「弱い者いじめじゃないですか。引くのです」

<クゥゥ……>

「な、なによぉ! そんな目で此方を見ないでよ! 此方悪くないもん!!」

 

 一人と一匹に引かれた目で見られたキキョウは涙目になる。

 

「まぁ、ぼっち弄りはこの辺にして早く人質を解放しに行きましょう。場所が分かったんですよね?」

「いじり? 今いじりって言った? ……うらむわ」

 

 ぶつぶつ言いながらもキキョウは素直にアイリスを守るように歩く。

 根は真面目なのだろう。アイリスは口には出さないがキキョウを認めていたし頼りにしている。

 ……絶対に口には出さないけど。アイリスはキキョウに対して素直じゃないのだ。

 

<ガゥッ!>

「居ました! 魔獣達です!」

 

 やがて捕らわれた魔獣達の保管庫が目に入った。檻の中に入れられ、抵抗させない為か餌も入っておらずどの子も弱っていた。

 

 アイリスは中でも衰弱が激しい個体に癒しをーーそれでも敵と認識しているのか睨む子を優しく言葉を掛け、落ち着かせて癒していった。アイリスからすれば当然の行動だが、キキョウからすればいつ頭を丸かじりされるかと気が気でなかった。

 

 やがて治療は終わり、アイリスは安堵の息を吐く。

 

「後でランドルフさん達に来て貰って運びだしてもらいましょう。今この場から出して暴れられたら困ります」

「そうね、さっき渡された奴でも使う?」

「あれはわたしが持ってる奴と違って通信は出来ないのでこちらの状況が伝えられません。断腸の思いですが、完全に密猟者を捕縛するまで我慢してもらいましょう。……?」

 

 その時、アイリスは足元のジャママが狭しない動きをしているのに気付いた。

 

「ジャママ?」

<クゥーン、クゥーン>

「ちょっと、この子どうしたのよ?」

「……妙な臭いがするらしいです」

「臭い? 魔獣の獣臭(けものしゅう)じゃないの?」

「いえ、それとは違うと……。とりあえず行ってみましょう」

 

 ジャママの案内の元、進む二人。

 やがて行き止まりに着いた。

 

「何よ、行き止まりじゃない」

「いえ、此処もまた妙な風があります」

 

 そう言ってあちこちを触るアイリス。

 途中妙な窪《くぼ》みがあり、念の為キキョウに注意を促して押すと壁の一部が割れ、隠し通路が現れた。

 

「隠し部屋? どんだけ入り組んでるのかしらこの洞窟」

 

 驚くと呆れを含んだ声色で溜息を吐くキキョウ。先を進むとまたも行き止まりに着く。

 

「ちょっと、また?」

「いえ、大丈夫です。風の流れはわかりますから」

 

 アイリスが隠し通路を割り出し、更に進もうとする。

 その時、壁から矢が飛び出してきた。

 

「【氷の壁(アイス・ウォール)】」

 

 それをキキョウが氷の壁を出現させ防いだ。

 

「あ、ありがとうございます」

「別にこの程度感謝されるまでもないわ。けど、この調子で罠ばっかあったらめんどくさいわね。ちみっ娘、貴方は此方(こなた)の後ろからついて来なさい。そこの狼もね」

 

 その後、めんどくさくなったのかキキョウが前に出て自らの範囲を全て【凍結する空間(フロスト・エスパース)】で凍らせ始めた。そのせいで設置された罠は作動しなくなって進みやすくなった。

 

「この厳重さ、隠す(・・)んじゃなくてどちらかといえば何かを封印(・・)している……?」

 

 明らかに洞窟の入り口よりも罠の密度が高い。ポツリと呟くアイリス。

 やがて広い空間に出た。そこには洞穴と一体化している檻が見えてきた。

 

「人!?」

 

 捕らえられていたのは人だったのだ。

 状態からしてかなり痛みつけられている。すぐさま治さなければと駆けだそうとするアイリスをキキョウが止めた。

 

「下がりなさい、ちみっ娘」

「え、なんですかぼっち。怪我をしているのだから今すぐにでも……ッ!」

「えぇ、普通の人(・・・・)だったら此方(こなた)も止めはしないわよ」

「……どういうことですか?」

 

 キキョウの言葉に引っかかるものを感じたアイリスがキキョウを見上げる。

 その時、キキョウの声に気付いたのか檻の中の存在が暴れ出した。

 

「うがぁぁあぁぁっっ!!

 

 雄叫びをあげ、アイリス達に向かって突撃しようとする。

 だが手足につけられた鎖によって途中で止まる。しかし、それすら厭《いと》わず尚も突撃しようとする。鎖のつけられた壁にミシミシと亀裂が入る。

 明らかに異常な力だ。

 

此方(こなた)にはわかるわ。この気配。だって100年間ずっと側で感じ続けてきたんだもの。何よりも紫色の目」

 

 興奮しているのか爛々と光る紫の瞳。

 確かに人の(なり)はしているが、その身から漂う気配をキキョウは知っている。

 

「出せェッ!! 此処から出せェッ!! とうちゃんを返せぇ!!」

 

 尚も吼え、暴れる目の前の少女。

 その時、着ていたボロボロのフードが外れ紫色の瞳と小さなニ対(・・)のツノ(・・・)が露わになった。

 

「この子……魔族の血を引いているわ」

 

 

 

 

 

 

「ちくしょお! 【大裂断(だいれつだん)】」

「甘い!」

「がはっ!」

「馬鹿な、アクストがあんな若造に!」

 

 俺とエドアルドは盗賊団との戦闘を行なっていた。あの後罠を警戒していたのだが、殆ど存在してなかった。恐らくはこの天然の隠れ家にあぐらをかいたのだろう。

 先にいた盗賊団も、此方に気付く事なく酒盛りをしていた。俺とエドアルドは、そこに向かって奇襲を仕掛けた。

 突然の襲撃に、混乱に陥る密猟団。あっという間に現場にいた奴らを気絶させ、今は応援に来た奴らと戦闘を行なっていた。

 

 それに洞窟という狭い場所の所為で彼らは数の理を生かせていない。

 

「くそっ! 矢だ! 矢を撃て! 当たりさえすれば……!」

「【要塞(フォートレス)】」

 

 俺の前にエドアルドが立ち塞がり、矢を防ぐ。

 

「何だアイツは!? 当たれば"甲殻陸亀(アースタートル)"の甲羅すら貫く弩を食らって平然としてやがる!」

「私を貫くのなら飛竜を貫けるほどの矢を準備しなさい。この程度「エドアルド! 肩を借りるよ!」むっ?」

 

 俺はエドアルドの肩を借りて飛び越える。

 盾として置かれた樽を超えて、その先にいる密猟者達の中心に着地する。

 

「"空華乱墜(くうからんつい)"!! 」

 

 すぐに回転して剣を振るう。

 一気に四人の盗賊を戦闘不能にした。これでこの場にいた盗賊は先程から指示を出す奴以外全員気絶した。

 背後から盾を構えたままのエドアルドがむすっとした雰囲気で近づいてくる。

 

「私を足蹴にするとは。仕方ないとはいえ抗議しますよ」

「説教なら後で山ほど聞くよ。それよりも彼で最後だ」

「ぐっ、ち、ちくしょう! 奴《・》はまだ来ないのか!?」

 

 最後の盗賊が吼える。

 だがこの程度の相手ならば数が来ようと問題ない。彼らの攻撃ではエドアルドは突破出来ないし、俺の絶技よりも下なら、直接やりやっても脅威とはならない。

 

 

 そう思っていたのは油断だったかもしれない。

 

 

 それは一瞬の事だった。

 

 松明の光に揺らいで何かが此方に接近してきた。気付いた時には既に相手はエドアルドの懐へと入っていた。

 

「【青龍発勁(せいりゅうはっけい)】」

 

 エドアルドが盾を構える時間(ひま)すらなく相手が胸鎧に手を置く。

 

 次の瞬間、エドアルドの口から血が噴き出した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。