【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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覚悟

 

「グハァッ!!?」

「アヤメ殿!?」

 

 そのまま吹き飛ばされ、何度も地面を転がり身体中を打ち付ける。

 エドアルドが叫ぶがそれどころじゃない。

 

 何だ、今何が起こった……!? 状況をっ、攻撃を食らったのは間違いない。ならあとはまだ戦えるかだがっ……!?

 

「ぐぅ、ふぅーッ! ふぅーッ……!!」

 

 胸から脇に走る肉を裂く感覚と貫く痛み。

 不味い。肋骨が折れたか……!?

 

 何故だ、相手は見えていなかった筈だ……ッ!

 

 残った盗賊の一人が慌てて自らの視線を確保する為に松明を掲げた事でわかった。男は足を振り上げたまま此方を見ている。

 

 蹴りだ。

 俺は今思い切り蹴られたんだ。威力も、重さも、鋭さも全くもって異次元の蹴りが俺に襲ってきたんだ。

 

 当たる瞬間悪寒から微かに身を捩れたおかげでこれで済んだんだ。もし直撃してたら背骨が逝っていた。

 

「ぐっ、がはっ。ごほっ……ッ!」

 

 不味い、息が整えられない。肋骨が折れれば中にある肺を傷つけてしまい呼吸ができなくなる。

 口の中に血が流れてきていないから幸い肺自体には傷は付いていないが、痛みのせいで呼吸がおぼつかない。

 頭が痛みと酸素不足でくらくらする。俺は膝をついた。

 

 一撃で此処までの威力だなんて。

 ダ、ダメだ、気を失うな……ッ!

 

「殺す気で蹴ったが、殺しきれなかったみたいだな。苦しめるのは趣味じゃねぇ、さっさとトドメを」

「【投擲槍(スロウ・ホーン)】」

「おっと」

 

 男の背後から投げられた槍が容易く洞窟の壁に突き刺さる。

 まただ。またこの男は見《・》もしないで攻撃を躱した。なんなんだ、技能(スキル)なのか?

 

「……不意を打っても通用しませんか」

「暗闇や背後からの奇襲は俺ぁには何にも役には立たねぇよ。悪りぃが、気ぃ失っといてくれや。【手刀白虎(しゅとうびゃっこ)】」

「【大盾潰し(シールドバッシュ)】」

 

 全身の防御を固め、エドアルドは迫り来る男に合わせて盾を押し出し迎え撃とうとする。

 だが男は接近すると一瞬で背後に回り込み、エドアルドの首に手刀を食らわせた。

 頭鎧をしているのに、崩れ落ちるエドアルド。

 

「エドアルド……ッ!」

 

 彼は重傷な筈だ。

 それを、俺を助けるために。

 

「……やっぱり、アンタ堅いなぁ。首の骨折れなかった。こりゃ、正確に頭部を潰さねぇとならねぇか、ん?」

 

 俺はアイリスちゃんの煙玉を男へ投げた。呼吸を止め、足に力を入れて瞬く間に接近する。痛みがなんだ、エドアルドは俺を助けるために戦った。なら俺もそうすべきだろう!!

 

 "緋華《ひばな》"を繰り出す。

 

「だからよぉ、無駄だって言ってるだろぉ? 【塵旋突(じんせんつ)き】」

「ぐぅっ!!」

 

 男はやはりというべきか、煙に乗じたのに容易く躱す。それどころか、俺の右肩を指先で深くめり込ませた。

 まだ……だ! 逃げられないのはお前も同じだ!!

 俺は思い切り頭を目の前の男へとぶつけた。

 

「ずぁっ!? 頭突きてお前!」

「ぬぐあぁあぁぁッ!」

「ちぃっ」

 

 気迫に押され男は俺の肩から指を抜いて下がる。

 くそっ、仕留めきれなかった。肩まで抉られたのに。

 それでもなお俺は剣を構える。

 

「おいおい、ちったぁ自分の身体を労われよな。そんなんじゃ早死にするぞ。にいちゃんは満身創痍じゃねぇか。頭突きの所為で頭からも血ぃ流れてるぜ。そろそろ諦めろよ」

「諦めない」

 

 骨は痛むし、右肩も剣を握ると凄まじく痛む。それでも(けん)は折れていない。

 

 こんな所で負ける訳にはいかない。俺はまだ、歩みを止める訳にはいかない。

 誓ったんだ。アイリスちゃんと。

 『救世主(ヒーロー)』になると!

 

 その為には目の前の男を倒す!

 骨が折れ、肉が裂かれ、手足を失おうとも!

 

「……へぇ。良い眼をしてるなぁ。やっぱにいちゃんのこと嫌いじゃねぇわ。でも、残念だ。俺ぁは、にいちゃんの事殺さなくちゃならない」

 

 男が拳を構える。

 同時に男から()が放たれた。

 

 さっきからこの身を刺すような威圧感(・・・)、嫌な汗が流れる。人の身でここまでの気配、存在感を感じたことはない。

 

(いや、何だこの僅かな既視感……)

 

 昔、俺はこれと似たようなものを感じ取った事がある気がする。だけどそれはいつ……

 

 

 脳裏をよぎるのは、大柄で角の生えた魔族。

 威風堂々とした風貌に、極限にまで鍛えあげられた巨軀。

 名は確かーー

 

 

 思考を中断する。

 今は余計な事を考えている暇はない。今尚折れた肋骨が筋肉を傷つけている。俺が負ければ、俺だけじゃなくエドアルドも死ぬ。アイリスちゃんにキキョウも悲しむ。ジャママは……悲しんでくれるだろうか、くれると良いな。

 

 ……何を馬鹿なことを考えているんだ。俺は生きる。そうだろう!

 

「覚悟はありそうだな。そら、行くぞッ!」

 

 男は、奇妙な間を置き急接近する。

 

 またか!

 

 なんなんだこの動きは!? 洞窟だから視界が悪いとかそんな理由じゃない。

 瞬きもしていないのに、するりと、いつのまにか接近されている。俺の時も、エドアルドの時もそうだった。

 わかっているのに、認識出来ない。意識の外を抜けるように接近されている。

 それでも、迎撃する為に"絶技"を放つ。

 

「"流水落花(りゅうすいらっか)"」

 

 横に回転して剣を振るう。

 

 けれど男は身体を逸らして回避し、すかした俺の剣の腹を蹴って壁にぶつけた。

 

「これで終わりだ、【虚空無ーー!? 」

 

 追い詰められた俺は後ろの壁を蹴飛ばして、男が拳を振るうよりも前に体当たりをかました。当然俺の身体も悲鳴をあげる。骨が、肉により深く突き刺さる。だがそんなのに構うものか。

 

 まさか来ると思わなかった男はそのままモロに受ける。

 

「うっはぁ! 腹超いてぇ!!」

 

 しかしそれだけの事をしながらも直ぐにバク転して体勢を立て直す。

 隙あればそのまま追撃しようと思ったがそんな暇もなかった。それよりも、走ろうとしたせいか刺さった骨が酷く痛んだ。

 

「頭突きといい、タックルといい『剣士』の動きじゃねぇぞ。だけどその動きが俺ぁの不意をついている。本当、面白いなぁにいちゃん」

「貴様ッ、何を手間取ってる!?」

 

 残った盗賊の言葉に目の前の男は苛つく顔を見せた。

 

「うっせぇ、黙ってな。……しかしよぉ、武術家相手に何度も懐飛び込むとかにいちゃんイかれてるだろぉ? さっきももし俺が別の技してたら頭吹き飛ばされてたよ、にいちゃん」

「ふぅー……ふぅー……はは、なら賭けに勝ったということだね。俺は、まだ生きている」

「そうだなぁ、その点で言うと俺ぁ判断を間違ったな。……次は砕くんじゃなく、穿つ」

 

 目の色が変わる。

 拳がさながら槍の如く指を纏める。

 

 男の全身から殺気が放たれた。

 それはさながら牙を磨いた獣。隙を見せれば一瞬で食い破られる。

 

 俺も残った刺斬剣イザイアを両手で持って構える。

 

 油断は出来ない。

 相手は手練れ。殺す気でいく。

 例え腕や足が無くなろうとも必ずこの剣を届かせる。

 

 

 睨み合う。

 お互いに歩みを進めようとした時ーー

 

 

 

 突然。

 俺たちの間に氷の柱が出現した。

 

「この氷は……」

「この気配(・・)は、まさか」

 

 これが誰によるものか、すぐにわかった。

 思わず俺は安堵してしまった。これでエドアルドは大丈夫だ。

 

<ガウッ!!>

「な、なんだこの魔獣は!? 何処から、あがっ」

 

 盗賊の足に噛み付いてるのはジャママだった。

 ジャママはそのまま足を引っ張り、盗賊が後頭部から転けて気絶する。

 

 その後からアイリスちゃんとキキョウが現れた。

 

 「二人とも。良かった、無事だった……」

 そう思ったのも束の間、二人の間から何かが飛び出す。目で終えない影は俺を通り過ぎてそのまま男へと抱きついた。

 

「とおちゃん!」

「やっぱり! イフィゲニア!!」

「とおちゃんとおちゃんとおちゃーん!!」

 

 抱きしめ合う二人。

 男もさっきまでの殺意なんてもう微塵もない。どういうことだ? 一体何が起きたんだ?

 

「誰なんだ……? とおちゃん……?」

「アヤメさん! エドアルドさん! 大丈夫ですか!?」

 

 俺の状態に気付いたアイリスちゃんが悲痛そうな顔をする。そして『聖女』の力で癒そうとしたアイリスちゃんを止める。

 

「俺は後で良い。まだ意識はある。それよりもエドアルドを頼む。恐らく、内臓をやられている」

「エドアルドさん!? いけない、直ぐに治療します!」

 

 エドアルドは内蔵と首への一撃で気を失っている。

 意識がある俺よりも、彼の方が心配だ。男も、心臓を潰すつもりで攻撃したと言っていたから。

 

 それに対して俺はまだ戦える。呼吸も足取りも覚束ないが、それでもまだ剣を振るえる。

 痛む身体に鞭を打って立ち上がろうとする。

 

「下がって」

「キキョウ」

「アヤメも重傷よ、無理はしないで。……それでこれはどういう事かしら? 貴方、此方(こなた)の仲間に何をしているのかしら?」

 

 俺の横を通り過ぎたキキョウが男を見据える。

 洞窟全体の温度が急激に下がる。この感覚はキキョウがスウェイだった時と同じだ。凍てつく、全てを凍らせる絶対零度の氷の女王。

 

 

 俺ですらぞわりとする冷たい気配。

 もしかしなくても、キキョウは怒っていた。それもかなり。

 

 

 だけど目の前の男は臆する事なく、不敵にニィと笑い。

 

 

「悪かったァッー!」

 

 そう言って土下座した。

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