【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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お久しぶりです。
こちらでも投稿を再開したいと思います。
お知らせなのですが、『偽りの勇者』書籍化致しました!
興味がございましたら、是非お調べください。


鬼武刀

 

「へ?」

 

 キキョウが間抜けだ声を出す。

 俺もまた、男の変わり身の速さに思わず口を開けてしまった。あれほどの強さ誇った男が躊躇なく土下座した事に。

 一瞬罠かと思ったが、男からはもう微塵も戦う気配が感じられない。

 

<ガゥッ!!>

 

 ジャママが吠える。

 見れば一度は頭を打って気絶した密猟者が、逃げ出そうとしていた。

 

「あ、こいつ逃げ出そうとし」

「【虚空無兇冴《こくむきょうさ》】」

 

 横から凄まじい速度で男が拳を繰り出した。

 それは密猟者の頭を割って、そのまま壁に埋没する。辺りに密猟者の血肉と目玉がぶちまけられた。

 

「う、うぇ」

 

 アイリスちゃんがエドアルドを癒しながら、口元を抑える。

 

「何を!?」

「アンタらこいつらを捕らえに来たんだろ? なら、せめてコイツは殺しておかねぇといけねぇんでなぁ。他の奴は……まぁ、そっちの姉ちゃんが殺《や》ってそうだしな」

「殺してないわよ! 凍らせただけよ!」

「何? なら、キチンと殺しとかないとなぁ。何処にいる?」

 

 剣呑な目になる男。

 俺もキキョウも戦闘態勢になる。

 

「あん? 何構えてるんだよ。やめてくれよ、俺ぁもうにいちゃん達と争う気はねぇぜ。ただコイツらに用があるんだよ。後顧(こうこ)の憂《うれ》いを絶つ為にな」

「だとしてもこれから殺人を犯そうとしているのを見過ごす訳にはいかない」

「おいおい、庇うのかにいちゃん? 奴等は犯罪者だぜ? どの道捕まれば死刑かそれでなくても無期に渡る鉱山送りで死に至る。ならば今殺そうが良いだろう」

「それを決めるのは貴方じゃない。それに今から命を奪おうとする行為を見過ごせない」

 

 俺は聖人ではない。もし盗賊を殺しざるを得なければ殺すだろう。

 だが、殺す必要がないのに命を奪おうとするのを見過ごす訳にもいかなかった。

 

 再び剣呑になる俺達。

 

「ふー! とうちゃんをいじめるな! 怪しい奴!」

 

 その時、男に抱き抱えられていた子ども、アイリスちゃんより小さい子が叫んだ。

 

「えっと、君は?」

「お前生意気だ! 大人しく父ちゃんの言うことを聞いてよ! 父ちゃんよりも弱っちぃくせに!」

「弱いって失礼ね! アヤメは強いわよ。此方(こなた)にも勝ったんだから」

「キキョウ、いい。どの道俺とエドアルドが二人掛かりでも追い詰められかけていたのは事実だ。君のお父さんは随分と強いんだね。だけど、その力でよくないことに手を貸していたのは理解できるかい?」

 

 流石に子供に対して声を荒げたりするほど俺も馬鹿ではない。とはいえ、犯罪に手を貸していたのは事実なので宥めつつそこを指摘する。

 

「そうだ! 父ちゃんは強いんだ! でも、あたしの所為であんな奴らの言う事を聞く事になったんだ……」

 

 一転してしょげるイフィゲニア。

 何か並々ならぬ事情があったのかと勘ぐる。

 

「気にするなイフィゲニア。お前が無事なら俺ぁいいんだよ。そうだ、名乗っていなかったな。俺ぁはグリゼルダ。かつては『鬼武刀』と呼ばれた男だ。宜しくな」

「何急に馴れ馴れしくなってるのよ。貴方のした事此方(こなた)は許していないわよ」

「おぉ、怖い怖い。さっきの魔法を見りゃわかる。アンタ相当に強いな。俺ぁでもこの狭所で戦いたくないわ」

「ふんっ、戦う気があればすぐに氷漬けにしてあげるのに」

「……『鬼武刀』?」

 

 威嚇しているキキョウの横で俺はある言葉に引っかかっていた。

 

 『鬼武刀』。

 何だかその名前に覚えが……

 

 

 

 鬼、鬼……。

 卓越した技術を持つ"武術家"……。

 それは俺の剣を折るほどの……。

 

 

 

 ジッと姿を見る。朧《おぼろ》げだが、昔何処かで見た事がある気がする。それはどこで……。

 

「あぁっ!?」

「ど、どうしたのよアヤメッ!?」

「あ、ごめんっ。グリゼルダ、貴方はもしやかつて《獅子王祭》での優勝者本人ではないですか?」

 

 太陽国ソレイユで四年に一度開かれる祭典。

 数多の挑戦者、歴戦の戦士、強者の剣士達が一同に集まり技を凌ぎ合う《獅子王祭》。かつてグラディウスが頭角を現した剣闘祭がこれだ。

 

 その中でも異質な逸話(・・・・・)として語られていたものがあった。

 

 

 

 最大規模の国が開く祭り。当然腕に自身がある者が参加する。

 当然数多くの名剣、逸品の武器もまた《獅子王祭》では数多く集まる。

 

 そんな人々が凌ぎ合う《獅子王祭》に参加した人間、その全ての剣が折られていた。

 

 

 拳のみで(・・・・)

 

 

 男は他者を寄せ付けず、武器を使用せずに己の武術のみで勝ち抜いた。

 

 

 その強さは正に鬼《・》の如く強く、卓越した武《・》を持ち、数多の刀《・》を折った男。

 

 

 ついたあだ名が『鬼武刀』。

 グリゼルダが名乗った名と一致する。

 

 そして実際に俺はその試合を見ていた。

 だいぶ昔の事だから朧げだったが思い出した今となっては鮮明に思い出せる。

 

「へぇ。もう十二年も前なのに知ってる奴がいるとはな。いかにも、俺ぁがそうだ」

 

 何処か誇らしげに頷く。

 

 優勝してからは当時の太陽国ソレイユから報奨金と、共に魔王軍と戦かって欲しいという打診を断り、その後行方知れず。

 優勝した年、つまり十二年前から姿が消えて、その名前も聞かなくなって死んだとされていた。

 

「……成る程、そのような経歴が。ならあの強さも納得ですな」

「エドアルドさん! まだ動いちゃダメですよ!」

 

 背後では気絶していたエドアルドがアイリスちゃんに支えられながら立ち上がっていた。

 

「エドアルド! 無事だったか!」

「お見苦しい所をお見せしました。ですが、もう大丈夫です」

「大丈夫じゃないですよ! 胸回りの筋肉が破裂していたんですよ!?」

「その程度で済んだのならば僥倖でしょう。そこの男は私の心臓を破壊するつもりだったらしいので」

「まー、悪かったって。ほら、俺の秘蔵の干物やるよ!」

「いりませっ、うごっ」

「まぁまぁ、遠慮するなって。硬いのは顔だけにしとけ、な?」

「やめなさ、こいつ何という力の強さッ!?」

 

 ぐぐっと跳ね除けようとしているのにエドアルドの口に干し肉を口に突っ込まれる。

 

「あの、彼はまだ傷が完全に塞がってないんだからそんなふうに……ん?」

 

 何やら強い視線を感じる。見れば、グリゼルダの裾を掴みながらこちらをにらんでいた。

 

「ところで、その。先程から気になっていたのですが、そちらの子は」

「あぁ、そうだな。わかっていると思うが俺ぁの娘だ。さっきも言ったがイフィゲニアだ」

「そうだ! 父ちゃんの娘だ!」

「……魔族の娘(・・・・)、か?」

 

 彼女の見た目は明らかに人とは違っていた。姿形は人間だが頭には二対のツノが生えている。そして何より、紫色の瞳。この瞳を持つのはたった一つ、すなわち魔族だ。

 

 人間と魔族が子を為すなんて信じられない。

 

「あぁ、そうだ。俺ぁ魔族の妻がいた。イフィゲニアは其奴と生まれた子だ」

 

 わかってた事だが少なくない衝撃が俺を駆け巡った。

 それは皆も同じだったようだ。

 

「あわ、あわわわわ」

「……わかってたけど。言ったの此方(こなた)だけども……魔族との子ども……え、あの姿形が奇妙奇天烈な奴らの誰かを選んだの……?」

「魔族と結婚とは、何とも命知らずが居た者ですね」

 

 アイリスちゃんは何やら顔を赤くして、キキョウは信じ難いと慄き、エドアルドは勇者を見るような目で見る。

 

「おいおい散々な評価じゃねぇか。俺ぁの妻は良い女だったぜ。気が強くて、すぐに怒って、乱雑で、細かいことは何にも出来ず、岩ぐらいも粉砕できるだけの力を持っただけの至って普通の奴さ」

「どんな化け物ですか、それは」

 

 思わず慄いたように言ってしまった。流石にグリゼルダもカチンときたような顔になる。

 

「んだよ、良いじゃないか。魔族だろうと惚れちまったんだからよ。愛にな、種族の差なんて関係ないんだよ」

「わかります! 愛に種族の差なんてないのですね!!」

「お、おぉ。なんだよ、嬢ちゃんわかってるじゃねぇか」

 

 何やらすごく納得したように頷くアイリスちゃん。

 グリゼルダはビックリするも、見所があるなと褒める。

 

「何故、そんな人がこんな密猟団なんかに?」

「それは……」

「あたしの所為なんだ! あたしが、あいつらに騙されて捕らえられて、そしたらあいつらが父ちゃんの強さを知って魔獣を密漁するのを手伝えって。父ちゃんはそれに従うしかなかったんだ! だから悪くない!」

 

 吠えるようにまくし立て、グリゼルダを庇うようにイフィゲニアが前に出る。

 彼女の言葉を信じない訳じゃないが、少しばかり疑う視線になる。そんな時、予想外の所から援護が入った。

 

「アヤメさん、彼の言葉に嘘はありませんよ。実際あの娘、イフィゲニアさんは奥深くに幽閉されていました」

「そうね。厳重に閉じ込められていたからこの密猟者達も恐れてはいたんでしょうね」

<ガウッ>

「それは……そうか、二人が彼女を連れてきたんだったね。なら、納得だ」

 

 なら彼女の語った内容に偽りはないだろう。

 とはいえ問題は何も解決していない。それはグリゼルダも同じ事を思っていたようで笑いながらーー目は全く笑っていないーー問いかけた。

 

「それでだ、にいちゃん。俺ぁをどうする? 衛兵にでも突き出すか? 無論、そうなると勿論俺は抵抗するぞ? この拳でな」

 

 緊張の一瞬。

 全員が俺を見ている。

 

 俺の答え次第で再び戦うことになるだろう。

 その問いに俺は考え、口を開いた。

 

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