【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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再開

 

 

 後日、やっとエドアルドの怪我はアイリスちゃんの力により殆ど治った。少なくとも、歩くのに問題はない。

 

 リンネさんからは謝礼などを払う話についてだが、何かあったのか多少時間がかかるらしい。それでも必ず払うとヒノハさんがそう言っていた。

 先ずは頭金だけを俺たちは渡された。後日改めて払いたいのでそれまで暫し滞在して欲しいとのこと。

 

 急な用事もなく、またアイリスちゃんに治して貰ったとはいえ俺もエドアルドも本調子とは言い難いので療養を兼ねつつ、街を観光していた。

 

「ふむ……」

「エドアルド、何か気になるのか?」

「気付かれてしまいましたか。実の所悩みがありまして」

「悩み?」

「私の頭鎧の事です。今まで着けていたのは、あの方によって破壊されてしまいましてね。最早使い物にならないでしょう。しかし、杜撰な造りの武具を買うのも金の無駄使いです。かと言ってオーダーメイド、それも頭のみは中々頼むのも憚られます。だからこうして何か良いのはないかと店をチラ見していました」

 

 なるほどと頷くと共に、俺は腰にある剣を触る。

 ……ファッブロの剣は最早使い物にならない。全ては技量の甘かった俺のせいだ。いずれキチンと供養したい。

 

「流石に私の顔を直に知る者もヴァルドニア以外には居ないとは思いますが、念には念をと思いまして。頭鎧であれば、武装的に顔を隠していても違和感がないので」

「つまりエドアルドさんは顔を隠したいんですか? でしたらエドアルドさんにこれあげますよ、どうぞ!」

 

 アイリスちゃんが渡したのは目の部分を隠す仮面だった。あ、あれ見たことある。最初に俺の仮面を選ぶ際に出していたやつだ。

 

「……なんですかこれは?」

「わたしが作った仮面です! ふっふっふっー、何を隠そうアヤメさんの仮面を作ったのもわたしなんですよ? それはですね、昔読んだ物語を参考に作りました。これをつけたエドアルドさんはミステリアスさと清廉さを兼ね揃えた、まさにミスター・キシドー! どうですか! 良い物でしょう」

「……」

 

 俺にはわかる。

 エドアルドはいつも通りの能面だが、視線が若干泳いでいる。もしかしなくても困っている。後ろではキキョウが笑うのを堪えていた。

 

「……お気持ちは有難く。しかし、今これをするのは適さないでしょう。同一の仲間で仮面を付けているのが二人とは、怪しんでくれと言っているようなもの。これはまた別の機会に着けさせて貰います」

「そうですか……残念です」

 

 やんわりと断りつつ、エドアルドはアイリスちゃんから渡された仮面を仕舞う。

 あの仮面をつける時はあるのだろうか? ちょっと見てみたい。

 

「貴方、ほんとにそれ付けるの?」

「出来ればそんな時が来ない事を願っております」

「まぁまぁ、アイリスちゃんも善意でくれたんだからさ。それに俺もつけてるけど居心地良いよ」

 

 そんな風に会話していると不意に俺の首に何かが寄りかかってきた。

 

「よぉ、にいちゃん! 奇遇だなッ!」

「うわっ!? グリゼルダ!?」

 

 いつのまにか背後にグリゼルダが居て、俺に肩を組んでいた。

 

 瞬間、エドアルドとキキョウが武器を抜こうとして戦闘態勢になる。

 

 俺は二人に目配せする。

 今武器を抜けば、犯罪者となるのは二人だ。だから止める必要があった。

 

「な、なぜこの街に? 此処から離れるんじゃなかったのか?」

「あー、そう思っていたがのっぴきならない事に出くわしまってな。この街に暫し滞在することにした」

「重大な事態? それは一体」

 

 深刻な表情。

 彼ほどの強さを持ってしても解決出来ないことなのかと俺も気を引き締める。

 

「んー、それがなぁ。ぶっちゃけると金がねぇんだわ」

「は? か、金?」

「そう、金だ」

 

 彼は語る。

 元々余り街に寄り付かない旅路を続けていたが、それでも途中狩った魔獣を村などに売りつけたりして路銀は稼いでいた。

 

 それが彼の娘、イフィゲニアが"暗闇に潜む闇鯨"に囚われてからは一切の金も奪われ、いいように使われていたらしい。

 

 あの後、すぐにランドルフが呼んだ応援なども来たので金を回収する暇もなかったとのことだ。

 

「別に生きていくだけなら山の中で自給自足すりゃ良いけどよ。それじゃ、本当に生きているだけだ。それは違うだろ? 人が人らしく生きるにはある程度の人らしい生活が必要だ。そして、人と関わっていかなきゃならねぇ」

 

 グリゼルダはイフィゲニアの頭に手を置く。

 

「俺ぁ、イフィゲニアにもっと広い世界を見せてやりてぇ。それが、俺ぁが死んだ後もイフィゲニアが生きていく為に必要な経験だからだ。

「別にあたしはとうちゃんがいれば良いよ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。俺ぁだってそうしてやりてぇよ。だけどな、だからと言ってお前の可能性を潰す訳にはいかねぇのよ」

「可能性?」

「いずれ分かるさ」

 

 イフィゲニアはわからないのか頭を傾げていた。

 恐る恐るアイリスちゃんが手をあげる。

 

「あの、それで結局わたし達に何の用があるのですか?」

「おぉそうだったな。頼みがあるんだが、にいちゃん。暫くの間、俺ぁ達をにいちゃん達と一緒に行動させてくれないか?」

 

 背後でキキョウとエドアルドが微かに身動ぎしたのを感じた。

 彼女達が何を考えているのかはわかる。つまり、グリゼルダが隙を見て俺達を口封じする可能性だ。

 俺も少しだがその事は考えた。だが、イフィゲニアを撫でるグリゼルダには微塵もこちらに対する敵意は感じられない。

 

「何故俺達に?」

「ある程度こちらの事情を把握しているし、頼れる奴が他にいねぇってのが理由だな。ぶっちゃけ知り合いいねぇし」

「あの、思ったんですけど。別にわたし達と一緒じゃなくとも、冒険者にでもなれば良いんじゃないですか? 貴方ほどの強さなら大抵の魔獣なら倒せると思うのです。実際村に魔獣の素材を売っていたんですよね?」

「確かにそうだ。どうなんですか?」

 

 アイリスちゃんの言葉は的を得ていた。

 グリゼルダは困ったような顔をする。

 

「あー……確かに別に冒険者になっても良いんだがなぁ。ぶっちゃけると俺ぁ強いだろ? だからランクも割と簡単に上がる。そうなると高い金の依頼も受けれるようになる。ここまではいい。だが有名になるとそれ相応に貴族やら何やらの依頼が来ることになるし、ギルドの方にも定期的にお偉いさんと顔を合わせることになる。けどなぁ、そうなるとイフィゲニアが……」

「あぁ……」

 

 可能性は低いが、彼女の正体がバレる可能性がある。

 特に冒険者同士では時には知らぬ者同士でパーティを組む事になるので、顔を明かさないのは怪しまれるだろう。

 

 それ以外に、もし正体がバレたらどうなるかわからない俺じゃない。

 

 そう思って見ていると、彼女はジッと俺の事を見上げていて、口を開いた。

 

「あたし、おまえ嫌い」

 

 真っ直ぐな拒絶の言葉に思わず苦笑いになる。

 ゴチンと硬い音がなった。

 

「っぅ〜! とうちゃん! 何するの!?」

「馬鹿野郎、お前。心ではそう思っていても口に出してはいけないことだってあるんだよ」

「でもっ!」

 

 涙目になりながらイフィゲニアは反論する。

 俺は彼女の前に立ち、屈んで彼女と目線を合わせる。

 

「君はお父さんを傷つけようとした俺の事が許せないんだよね?」

「ぅっ……、そ、そうだ! とうちゃんは強いんだ! 本当ならお前なんかに遅れを取ることなんてないの!」

「やはりそうか。俺の事、君のお父さんを傷つけようとしたから嫌いなんだよね? 信じられなくても好かなくても良い。だけど、君のお父さんが信じたっていう事は信じてあげてほしい。お願いできるかな?」

(傷つけられてたのはアヤメさんでは)

(死にかけてたわよね)

(私もですが、彼もグリゼルダ殿にこっぴどくやられていましたね)

<クゥン>

 

 相変わらずお人好しだ。

 そう思いつつを三人と一匹は黙って推移を見つめていた。

 

「うっ、うぅ」

 

 イフィゲニアは動揺した。

 このように真っ直ぐに瞳を見られた事はないからだ。やがては耐えられなくなったのかグリゼルダの背後に隠れる。

 俺は苦笑して立ち上がった。

 

「事情はわかった。俺はグリゼルダを受け入れたいと思う。皆はどうだろうか?」

「わたしはアヤメさんが言うのなら良いですけど……」

<ガゥ>

「好きにしたら良いわ。ただ、信頼はないわ」

「心理的には賛同しかねますが、かといって此処で放り出すのは後味が悪いと言うもの。貴方の決断に従いましょう」

 

 不承不満はあれど、皆は受け入れてくれた。

 その様子をグリゼルダは笑って受け止める。

 

「ま、妥当な反応だな。だけど誓うぜ。俺ぁ、アンタらに危害を加えようとは思っていない。無論ただじゃねぇ。俺ぁに出来ることならなんでもしてやるぜ」

「そんな事」

 

 しなくていいと言いかけたが俺は少し考える。

 

「……なら頼みがある」

 

 

 

 

 

 

「で、だ。俺ぁの娘を嬢ちゃんたちに任せて、俺ぁをこんな場所に誘ってどんな腹だい? 逢引にしちゃ、無骨だし俺ぁはそっちのけはねぇぞ?」

「そんな訳ないだろ!?」

「冗談だ、ジョーダン」

 

 ケラケラと手を振って笑う。俺は溜息を吐いた。

 この人と一緒にいるとペースが崩れるな。だけど俺にも目的があって此処に来たんだ。彼にペースを握られる訳にはいかない。俺は向き直り、グリゼルダの瞳を見た。

 

「グリゼルダ、いやグリゼルダさん。改めて頼みがあります。俺を鍛えてくれませんか?」

「あん?」

 

 グリゼルダさんは俺の言葉に目を細めた。

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