【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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光明

 

「いつつ。いや、本当に容赦がない。頼んだのは俺だけどさ……」

 

 宿に戻り、俺は痛んだ身体を抑えつつ凝った身体を解していた。

 ずっと"闘気錬成"を手にする為に意識しながら修行しているが全く感覚が掴めない。

 この修行の跡も今は痛いのだが、明日の朝になると全く痛くなくなるのがグリゼルダさんの技術を如実に表していた。

 

 しかし、掴めない。

 魔力を感じろと言われても、突然今まで意識した事のないことを感じ取れと言われても困る。

 胸に手を当てようとも感じるのは己の鼓動のみ。それだけだ。

 

「時間は有限。魔王軍がいつ動くかもわからない。グリゼルダさんだってずっと付き合ってくれる訳じゃない。それまでになんでも良い。とっかかりでも掴まないと」

 

 俺は何としても"巧技(たくぎ)"を身につけると決意する。その為には"闘気錬成(とうきれんせい)"を使えるようにならなければ。

 その時、俺の部屋のドアがノックされた。

 

「アヤメさん、今大丈夫ですか?」

 

 ドアを開けるといたのはアイリスちゃんだった。

 

「アイリスちゃん、どうしたんだ? キキョウ達は?」

「ぼっちはジャママと一緒に街に行きました。なんでも小腹が空いたとかで何か買ってくるそうです。入っても?」

「あぁ、構わないよ」

 

 俺はアイリスちゃんを部屋に入れる。

 

「エドアルドさんは?」

「あぁ、彼なら今宿の風呂に入っているよ。態々沸かしてもらって」

「そうなんですか。丁度良かったかもしれません」

 

 彼女はじっと俺を見つめてくる。

 

「アヤメさん、疲れてますね」

「え? ……やっぱりわかるかい?」

「はい。ここ最近ずっとそうですから。でも、疲れの中にも爽快感といいますか、そういったものも含まれているので大丈夫かな?」

「君は本当に俺の事わかってるね」

「当然です! いつも見てますから!」

 

 胸を張って宣言する。

 そ、そうか。そう言われると少し照れるな。

 

「アヤメさんが、エドアルドさんやグリゼルダさんと何かをしているのは知っています。それが何だか、わたしは聞きません。でも、疲れているアヤメさんにわたしも何かしてあげたいのです。駄目でしょうか?」

 

 彼女お願いは俺を気遣っての事だ。断れるはずがない。

 

「そっか。ならお願いしようかな」

「はい! わたしはこう見えてマッサージ得意なんですよ! いつも胸を大きくする為に自らし……っ、ご、ごめんなさい! 今の聞かなかった事にしてください!!!」

「あ、あぁ」

 

 慌てるアイリスちゃんが何を言おうとしたか指摘せず、曖昧に笑っておく。

 そのままベットに横になるとアイリスちゃんが馬乗りになり、ぐっぐと俺の背中を押す。

 

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「あぁ〜……」

「気持ちいいですか?」

「うん、凄くね」

「ふふっ、なら良かったです。書物を読み込んだ甲斐がありました! それにこんな風にアヤメさんに触れられるだなんて、うへ、うへへ」

「あ、あのアイリスちゃん?」

 

 淑女が出してはいけないような声が聞こえたんだが。

 

「は! す、すいません! つい心の声が」

「あ、うん。気にはしてないよ、うん」

 

 驚きはしたが。……前から思っていたが、俺はアイリスちゃんの目覚めさせてはいけない性癖(何か)を目覚めさせてしまったのだろうか。

 悶々とする俺を余所にその間もアイリスちゃんは背中をマッサージし続ける。

 

「やっぱりアヤメさん凝ってますね」

「そうか? まぁ、確かに基本的に戦いばっかりだからかなぁ」

「あんまり無茶したらダメですよ。あ、ついでに『聖女』の力を使って筋肉を癒してあげます!」

「それはありがたいけど、大丈夫か?」

「大丈夫です! この程度負担にもなりませんよ! 少しぐっすりと寝れば元どおりですから」

 

 そう言ってアイリスちゃんは癒しの力を使う。

 

 先程とも違う正に天に昇るような心地よさだ。

 

 あぁ、癒される。

 じんわりと温まるのが、筋肉の繊維一つ一つが癒されていくよな感覚……

 

「はっ!?」

「わきゃっ」

 

 咄嗟に起き上がる。

 

「『聖女』の力によって確かに感じた身体の中にある暖かみ……もしかしてあれが俺自身の魔力の流れか!?」

 

 『聖女』の力は他者を癒す事だ。

 彼女の力によって伝わる暖かみは傷を癒す、つまり活性化させていると言ってもよいかもしれない。

 

 なら今のが己の身を深く感じるということか!!

 

「あの感覚をいつでも覚えて、使えるようになれば」

「ア、アヤメさん?」

「あ、ごめん! 急に驚かせてしまったね」

 

 俺の所為でベットに転げたアイリスちゃんがこっちを見ている。俺はすぐに彼女の手を取って身体を起こさせる。

 

「ありがとうアイリスちゃん。君のおかげで何とか光明が見えてきたよ」

 「なんだかよくわからないですけど、アヤメさんの役に立てたのなら良かったです」

「本当にありがとう。そうだ、何か礼をしたい。何かないかな?」

「えっと、でしたら……」

 

 髪の毛の先を弄りながら、アイリスちゃんはモジモジする。

 

「また、髪を梳いて欲しいです」

 

 上目遣いで此方にお願いする姿は庇護欲をかきたたせる。

 

 そのくらいならと俺は快く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いしますッ!」

「おうよ。ま、あんまり気張るなよ」

 

 何度目かになるグリゼルダさんとの稽古。

 俺は剣を構え、集中する。己の身体を深く意識する。そして一息でグリゼルダさんへ近づく。

 

「ほぉ?」

 

 何か気付いたようにグリゼルダさんが目を軽く見開き、俺の剣を素手で受け止める。

 その後、数も打ち合う。やがて、グリゼルダさんが口を開いた。

 

「……驚いたな。やべぇな、にいちゃん。何があった? 昨日と今日じゃ、身体の強化具合、身に纏う雰囲気が段違いだ」

「そう言って貰えると嬉しいさ」

「最初の動きもだが、練度も低いがあれは"無拍子"だな?」

「あぁ、それを再現してみた」

 

 何故昨日の今日で俺が"闘気錬成"を少しとは言え使えるようになったのか。

 それは微かにだが気付いた事がある。

 

 "闘気練成"の事だが、あれは聖剣を用いた時の『加速(アクセル)』と同じ身体に力が漲るのを感じた。つまり、細かい所は違うだろうが俺の身体を強化するという点では同じだったのだ。

 

 無論あれは、聖剣の恩恵があってこそでありその強化具合も比べ物にはならないけれどそれでも聖剣を持っていた際に使った慣れ親しんだ技能(スキル)と同じということはこれまでわからなかった"闘気錬成"というものを俺の中では格段に理解出来た。

 

 だから俺はそれに気付くとうまく出来るようになった。『加速(アクセル)』の時の感覚を思い出し、それを再現するよう意識する。

 無論、ちょっと使うだけでとてつもない疲労が来るし、グリゼルダさんのとは遠く及ばない。彼もその事は分かっているようだった。

 

「成る程、コツを掴んだか。おめでとう、にいちゃん。アンタは一歩道を進んだ。0か1かの違いだが、それでも1進めたのならこれからは自ずと"闘気錬成"を扱えるようになるだろう」

「ありがとうございます!」

「とは言え、俺ぁからすればまだまだひよっこだ。その調子で励むんだなぁ。まだ"巧技"も練度が低く扱えていねぇんだからな」

「それは勿論。これからどんどん努力して俺はもっと強くなる」

 

 一歩進んだのだ。

 ならば後は進み続けるだけだ。

 

「俺はまだまだ強くなる。次、お願いします!」

「おうよ、ドンと来なぁ!」

 

 俺は先へ進む為、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 宿に戻ったグリゼルダ。

 やがて彼は無意識にポツリと呟いた。

 

「すげぇな、にいちゃんは」

「とうちゃん?」

「ん? 悪りぃなイフィゲニア。起こしちまったか?」

「ううん、大丈夫。それより、とうちゃん楽しそう」

 

 イフィゲニアの指摘通り、グリゼルダの口元を笑っていた。その事に気付いたグリゼルダは大きく笑う。

 

「楽しそう、か。あぁ、そうだな。若い奴の成長を見るのは楽しいぜ。特に、イフィゲニア。娘の成長を見るのほど楽しいことはないぜ。ったく、立派に成長しやがってうりうり」

「あはははっ! くす、くすぐったいよぉ!」

 

 こちょこちょと戯れ合う。

 ある程度戯れあった後イフィゲニアはむくれる。

 

「もう、とうちゃん嫌い! あたし寝る!」

「おう、おやすみ」

「……うん、おやすみ」

 

 文句を言いつつ離れないイフィゲニアの頭を撫でる。やがてイフィゲニアは寝息を立てて眠り出した。

 

「……へっ、つい熱くなっちまったよ。ったく、もうそんな歳じゃねぇって思ってたんだがなぁ」

 

 稽古の時を思い出す。

 あの時のアヤメが"闘気錬成"のコツを掴んだ事にグリゼルダは内心大きく驚いていた。無論"無拍子"も完全でないが扱えたことも。

 

(キッカケこそありゃ、それを扱えるだけの激闘、死闘を既に繰り広げていたって事だ。あの若さで)

 

 それはどれほどの死闘だったのかグリゼルダには想像もつかない。

 しかし、それらを生き延び、また己の成長の糧として来たのだろう。アヤメの姿勢には尊敬すら覚える。例え生き急いでいるにせよ、その力を求め精進する姿は好感を覚える。

 

「イフィゲニアもちったぁ笑うようになりやがって」

 

 グリゼルダがアヤメを稽古つける時は基本アイリス達に面倒を頼んでいる。

初日こそ、何で一緒にいなきゃいけないと文句を垂れていたが、今はそんなことはない。何だかんだ楽しかったのか、アイリス達と一緒に居た時の事を語っていた。グリゼルダはそれがすごく嬉しかった。

 

 自分以外の他者と過ごす楽しみというのが育まれていくことに。

 グリゼルダは己の判断が間違ってなかったと感じた。

 

 寝入ったイフィゲニアの頭を撫でつつ、夜空の月を見る。

 思い出すはアヤメの稽古の時の言葉。

 

 

 『弱いのは嫌だ、悔しいんだ。守りたい人を守れない。助けたい人を助けられない。何かを失って自らの弱さを嘆くような事はしたくないッ……!』

 

 

「強くなるためにがむしゃらに、己の身すら省みずに愚直に突き進む姿勢。ほんとに馬鹿だなぁ。けどよ、昔の俺ぁもお前からはそう見えていたのか? なぁ、リィアン(・・・・)

 

 グリゼルダの独り言は夜闇に紛れて消えた。

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