【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した   作:髭男爵

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過去2

 

 魔界には"魔瘴"とよばれるものが充満している。

 これは主に魔物なども攻撃として放つ人に害がある物質だ。

 リィアンはなるべく魔瘴のない所を選んではくれているが、それでも完全に防ぐ事は出来なかったが、それでも格段に過ごしやすかった。

 

「つまり、"魔瘴"によって自然は蝕まれ生物が生き抜くには過酷な環境になるのさ。だからこの辺りに生息する魔獣は過酷な環境を生き残ったからこそ、屈強なんだ」

「成る程な。その点でいやぁ、俺ぁ環境に負けた敗北者って訳だ」

「いやいや、アンタはやるよ。たまーに好奇心等に刺激された奴が魔界に来る奴がいるが、大抵魔瘴に侵されて死ぬからな。それとくらべたら頑張ってる方だ」

「そりゃ、俺ぁ人間界でも強者に位置していた。身体の方は頑丈だ。日頃の鍛錬の賜物だな」

 

 何処か得意げな表情を浮かべる。

 それに対してリィアンは何か考え込み、そして白い歯を見せて笑う。

 

「なら戦ってみようぜ」

「は?」

「そろそろ傷も治っただろ? アタシはアンタと戦ってみたくて身体が疼いているんだ。そいと決まったら行くぞ!」

「つぁっ、テメェこら、引っ張るんじゃねぇ!」

 

 グリゼルダはリィアンに引きづられ外に出た。

 

 

 

 

 案内された赤い土以外何もない環境で二人で戦っていた。

 

「そぉら、次だ! いくぞグリゼルダァッ!」

 

 雄叫びと共にリィアンが棍棒を横に振るう。

 グリゼルダはそれを躱す。

 

「いいぜ、いいぜ! 次だよッ! おらよぉッ!」

(こ、こいつ全く疲れながらねぇ! そして何より、この力の強さ!?)

 

 外した棍棒が地面に叩きつけられた瞬間、地面が割れて隆起する。

 明らかにおかしい。魔族が人を凌駕する力を持つとは聞いていたが、ここまでダメージがあるとは思わなかった。

 

「ナメるなよッ! 【嵐龍脚(らんりゅうきゃく)】」

「ッ! ……あっはぁっ、こんなにダメージ食らったのは久々だ。いいねいいねぇっ、ゾクゾクするよォッ! ほら、もっと……あれ?」

 

 グリゼルダの凄まじい蹴りに、喜色を浮かべるリィアンだが、グリゼルダが膝をついているのに気付いた。

 

「ぐっ、く、くそっ」

「あー、これ以上やると傷口に響くか。ま、いいか。久々に手応えのある相手とやりやえたんだし」

「お前っ、なんて力持ってやがるんだよ。俺ぁより、背が低いくせに」

「生まれてこの方力が強い事が取り柄だからなぁ。ま、生まれ持った才能の差だな。アタシは天才なのさ」

 

 ふふんっと得意げになる。

 

 それを見たグリゼルダは悔しさから歯噛みした。

 リィアンの力が圧倒的に強いのだ。それに体力もあるし、【嵐龍脚(らんりゅうきゃく)】を食らっても全く応えた様子がない。

 

 リィアンは手に持つ無骨な棍棒で全てを一振りで粉砕する。

 岩だろうが、地面だろうが、魔獣だろうが全てだ。

 

 

 元々の基礎(スペック)からして違いすぎる。

 これが人間と魔族の差だった。

 

 とは言え、グリゼルダが辛うじて食らいつけたのはひとえに彼の卓越した武術による賜物だろう。

 

 リィアンはその点攻撃は雑だった。力任せに棍棒と拳を振り回す。それだけだ。だが、それが圧倒的な暴力の戦術として君臨している。

 当たれば死は免れないがその全てを回避した。

 

「そういや、アンタもちょくちょく唯の殴りのはずなのに、なんというか腹にズンッ! ってくるのがあったな。ありゃなんだ?」

「何って武術に決まってるだろう」

「へぇ、ちょっくらアタシにも教えてくれよ」

「あぁ、別に構わないが」

 

 グリゼルダはリィアンに武術を軽く教えるもうまくいかなかった。

 

「こうして……あれ? あぁ、どうなってんだこれ! 全然アンタみたくならないじゃないか!」

「まっ、俺ぁでも磨くのに長い年月がかかった。アンタが身につけるにもそれなりの月日が必要だと思うぜ」

「……やーめた」

「はっ!? お前が言い出したことだろ!?」

「アタシは本能の赴《おもむ》くままに戦いたいんだ。武術だが何だか知らないが型に嵌った戦い方はアタシの柄じゃねぇわ」

 

 はー、ヤダヤダと興味を失ったリィアン。

 そっちから頼んでおいてその言い草は何だ、と青筋を浮かべる。

 

<グルルルッ、>

「お? 魔獣か。丁度良い、叩きのめしてやるよ!」

 

 その時現れた魔獣を憂さ晴らしとばかりにリィアンは蹂躙する。その様子をグリゼルダは複雑な表情で見ていた。

 

「『赫鬼人』つったか。なるほど、あの強さと粗暴はまさに鬼《・》だな」

 

 返り血に染まりながら浮かべる笑みは狂気的で、それは正に暴力の化身のようだった。

 まさしく鬼の名に相応しいだろう。

 

「くそっ、『鬼武刀』の名が泣くぜ。……ぜってぇ強くなってやる。その為にはただの武術じゃダメだ。もっと、別の力が……技《・》がいる。それに()も」

 

 戦うリィアンを目に収めながらメラメラと対抗心を焚いた。

 

 

 

 その後も二人の奇妙な関係は続いた。

 

 グリゼルダの傷は順調に回復し、彼はリィアンの代わりに料理をすることにした。

 

 意外や意外、グリゼルダは料理が上手かった。

 健全な体は、健康な食事からーー常に闘いに身を置くのが至上のグリゼルダにとって常に自らの体のパフォーマンスを整えておくためーーと考えていたから、妥協を許さず追求した結果だ。

 

 グリゼルダの料理をリィアンは美味そうに食べる。

 

「いやぁ、いいねいいねぇ。まさかこんな所で美味しい料理が食べられるとは思わなかった」

「そんなにか? 俺ぁとしてはまだ満足には程遠いんだがな」

「そりゃそうさ。魔界ってのはマトモな食料ないからなぁ。……アンタもあんまりこっちの食材を食べるとこっち側(・・・・)になっちまうよ」

「へっ、何だ角でも生えるってか?」

「そうさ、ある日突然角が生えたり、体の色が変わって今までの自分とは似ても似つかない姿になる。心もまた、変化する。そうしてこっち側(・・・・)に染まるのさ」

「へーへー、そりゃまた恐ろしいこった」

 

 グリゼルダはリアンの言葉を軽く流す。

 真面目に聴いてないと分かり、リィアンは肩を竦めた。

 

「ま、アンタがそれで良いならアタシはもう何も言わないさ」

「そうか。それでよ、アンタはこれからどうすんだ?」

「あん? どういう事だ?」

「こーして毎日毎日一緒に戦ってよ。俺ぁとも居て、故郷とか住処に戻らなくて良いのか? 家族とかいるだろう?」

「家族はいないよ。全員殺された」

 

 ピタリとグリゼルダが鍋を混ぜる手を止めた。

 

「アタシが狩猟に出てる時にな。帰ったら村ごと何にもなくなっちまった」

「そりゃまた……」

「あぁ、同情すんなよ? これ事態は魔界じゃよくある事さ。魔族同士の争いだってよくある事だしな」

 

 リィアンは本当に気にしていないようだが、グリゼルダはそうはいかず暫し無言になる。

 

「んだよ、気にすんなって。それよりも後でまた戦ってくれよな」

「そりゃいいが……なんで強さを求めているんだ? 別にお前は既に十分強いだろ?」

「あぁ? ……倒さないといけない奴がいる。そいつは恐ろしく強い。だから其奴を倒すためにアタシはより強くならなきゃならないんだ」

 

 暗く決意を秘めた瞳だった。

 

 それは先程故郷を滅ぼした奴と関係あるのか。

 部外者でもあるグリゼルダにはこれ以上は何も突っ込めなかった。

 

 

 更に数日経ち、朝からリィアンは無言だった。

 いつも通り、飯を食べた後珍しく棍棒を手入れしているリィアンにグリゼルダは神妙な顔をする。

 やがてリィアンは立ち上がった後、気合いを入れるように頷いた。

 

「ちょっくらアタシは出かけてくるわ」

「あん? また戦わないのか? 折角新しい技を扱えるようになったってのに」

「悪いけど、今から行く場所はアタシでも大変な場所でな。無駄に体力を使う訳には行かないのさ」

「場所? 何処に行くんだ?」

 

 尋ねるグリゼルダ。

 

「いや、ちょっくら魔王軍の施設を破壊しに」

 

 それに対してリィアンは軽く答えた。

 

 

 

 

 止めるグリゼルダを置いてリィアンは一人でやって来た。

 視線の先には明らかに人工的に作られた建物があった。

 

「強くなるには戦い以上に効率的なのはない。あいつ(グリゼルダ)との戦いは刺激的だったが、アタシにあいつの武術を手にするのは無理だな」

 

 リィアンは自らに武術の才能がないのを自覚していた。

 あの辺りにはもうリィアンに匹敵する魔獣はいない。そこでリィアンは叩きのめした魔族に聞いた秘密の魔王軍の施設を襲うことにした。

 

 そこならば強い奴がいる。生死に直結する戦闘が自分の修行になると思ってリィアンは襲う事を決めたのだ。

 

「さて行くか! 【亜羅螺鬼貫(あららぎがん)】」

 

 棍棒を振るい壁を破壊する。

 

「何の音だ!?」

「敵襲だと! 馬鹿な此処は魔界だぞ、人が入れるはずがない!」

<グゴォォォオォォッ!>

<ギャオォオォォンッ!>

 

 先に居たのは何かを研究している魔族と閉じ込められている魔物。施設と聞いたがまるで研究所だ。

 

「へぇ、魔物を研究する奴等がいるだなんてね。頭のない魔物の中には魔族にすら襲いかかる奴もいるのに酔狂なこったぁ」

「その姿、我々と同じ魔族か!? 正気か貴様、此処を魔王軍の施設と知っての狼藉か!」

「関係ないね。此処には強い魔物達がいると聞いた。なら、あたしの為にあんた達は経験値となりな!」

「ほざけ! 『水陣』様の配下の我々の強さを侮るなッ!!」

 

 魔族が襲い掛かる。

 リィアンは笑い、戦闘へと雪崩れ込んだ。

 

 

 

 

「……こりゃ。ちょっと不味いかもしれないね」

 

 リィアンの周りには魔物が沢山いた。

 魔族を殆ど殺した後、これまでと思った魔族が閉じ込めていた魔物を解放したのだ。

 

 そうして襲い掛かってきた魔物は思った以上に手強かった。

 

 元より、より強化された魔物を生み出す為に作られた施設では未だ納得する結果には実を結ばぬとはいえ、通常よりも強力な魔物が沢山存在していた。

 

<グゴオォォォオォォッ!>

「! ちぃっ!」

 

 魔物を倒していた所に、別の魔物が襲い掛かる。

 迎撃しようとするも、血に足を取られた。やがて魔物の爪が迫り、その身を貫こうとした時

 

「【虚空無兇冴(こくむきょうさ)】」

<グゴォッ!!?>

 

 現れたグリゼルダに吹き飛ばされた。

 リィアンは目を見開く。

 

「グリゼルダ!? アンタ何此処に来てんだよ!」

「ンなもの、お前を追いかけてきたに決まってんだろ?」

「馬鹿野郎! 此処は"魔瘴"に満ちているんだぞ! 人間のアンタじゃ、長く持たないぞ!」

「あぁ、そうだな」

 

 グリゼルダの身体は既に一部変色していた。痛々しいがグリゼルダは気にした様子がない。

 

「だったらさっさと此処を抜けださねぇとな。リィアン、手を貸せ」

 

 助けに来たのにあけすけに手を貸せというグリゼルダに目を見開き、やがて頭を掻いた後リィアンは立ち並ぶ。

 

「ったく、しょうがないね」

「へへっ、それでこそだ。とはいえ俺ぁよ、リィアン。お前のバカさに頭突きしてやりたいぜ。普通魔王軍の施設を襲うか?」

「はんっ、説教なら後で聞くよ。今はこの場から生き残ってからだ」

「へっ、そうだな」

 

 二人は互いに背を庇いあう。

 

「アタシの背中、アンタに任せるよ」

「そっちこそ、頼んだぜ」

<ブオオォオォォッ!>

<グゴォォオォォッ!>

 

 魔物が襲い掛かる。

 だが、二人にはこれっぽっちも負けるとは思わなかった。

 

 何故なら、お互いの背後を守る存在がいるから。

 二人は戦い続け、遂には施設の魔物を全て倒したのだった。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、何とか帰ったな」

「ふぅ、ふぅ、全くだ。死ぬかと思ったぜ」

 

 怪我を負いながらも二人は生き残った。

 互いに支え合い、住処まで戻って来れた。住処に入る前にグリゼルダが足を止めた。

 

「なんだい。早く戻ろうじゃないか?」

「あー、悪りぃがリィアン。まだ俺ぁに付き合ってもらうぜ」

「あ? なんだい」

「今日の戦い、まだやってなかったよな。それをして欲しい」

「おいおい、幾ら疲労しているからってアンタに負けるほどアタシは弱くないぞ。なら、明日で良いだろう?」

「いいや、今日じゃなきゃダメなんだ。あの日から1ヶ月経った今日、俺ぁは言うと決めてたんだ」

 

 真面目な表情で語るグリゼルダに折れたのか、リィアンは溜息を吐きながらも棍棒を担ぐ。

 

「何を言うつもりかしないが、まぁ、わかったよ。戦ってやるよ。一撃で決めてやるからな」

「こっちも直ぐに終わらせるつもりだ」

 

 互いを武器を構える。

 やがて先に動いたのは、グリゼルダだった。

 

「"無拍子"」

「はっ!?」

 

 いきなり目の前に現れたグリゼルダに動揺する。

 

「【無双乱舞拳(むそうらんぶけん)】」

「うがっ!? こ、この調子に乗るなよグリゼルダ! 【亜羅螺鬼貫(あららぎがん)】」

「"影狼"」

 

 必殺の威力の誇る一撃を容易く躱される。

 

「【阿修羅鬼戮殺(あしゅらきりくさつ)】」

「なッーー!?」

 

 6つの強力な一撃が両膝、両腕に走りリィアンは膝をつく。最後に拳がリィアンの目の前で止まった。

 

「俺ぁの勝ちだな?」

「……あぁ、くっそ! 負けたぁ!! 悔しい悔しいッ! アンタ、いつのまにかアタシと同等に打ち合い出来るまでに成長しやがった?」

「とっておきさ。お前の姿を見て思った。戦闘の最中でリィアンは自らのポテンシャルを遺憾なく発揮していた。己の生命力を余りなくその身に宿していた。俺ぁだって、種族は違うが姿形は同じだ。なら、俺ぁにだって出来るはずだって思ってな」

「はぁ? それだけでアタシと同じ事をしようと思ったのか!? 正気じゃないよ」

「正気だったら"魔界"になんて来ねぇよ」

 

 愉快そうに笑うグリゼルダ。

 

「"魔界"で過ごす内に俺ぁ体内で熱い力を感じた。そん時は不思議と調子が良くてな。それはいつでも扱えるように努力した。身体中の力を発揮する事、これを"闘気錬成"とし、それによって強化されたものを"巧技(たくぎ)"と名付けた。それでだ。俺ぁの勝ちだぜ?」

「ちぇっ、そうだな。アタシの負けだよ! 清々しいほどにな。それで言いたいことって何なんだ?」

「あぁ」

 

 グリゼルダは息を整えた。

 

「リィアン、俺ぁの妻になれ」

「……はぁ?」

「一目惚れだった。好きだ、リィアン」

 

 その言葉を言った途端、リィアンは今まで見た事ないぽかんとした顔をした。

 

「……参ったね。これはちょっと予想していなかった。まさかアタシが求婚される事があるとは思わなかった。ましてや、好いてくる男がいるだなんて思いもしなかった」

「なら、それは外れだな。俺ぁはお前の事好いてるし、愛してるぜ」

「口にして言うんじゃないよっ! あぁ、くそ。調子が狂う。顔が熱い。戦闘でもないのに、何だこれ。あー、くそ! こっち見るなよ!」

 

 顔を赤らめ、グリグリとあっち向けとグリゼルダの顔を押す。それを笑いながらグリゼルダは手を握る。

 

「それでだ。返事の方聞かせてもらってないぜ」

「……ったく、仕方ないね。まさかアタシが結婚するだなんてね。『赫鬼人』はここで途絶えると思っていたんだが。……よろしく頼むよ、旦那(・・)

 

 照れながらも笑うリィアン。

 その様は()の名が似つかわしくないほど、穏やかな笑みだった。

 

 

 

 

 魔王軍の研究施設は破壊された。中にいる魔族も、魔物も殆どが二人によって討ち取られた。

だがその際、戦いに紛れて一匹の魔物が逃げ出した事に二人は気付かなかった。

 

<ぶご……ぶごごっ、豚業業業業(・・・・・)っ!>

 

 今はまだ弱い魔物。

 この魔物が後に人類に対して大打撃を与える存在にまで成長することをリィアンも、グリゼルダも、人類も気付かなかった。

 

 

 

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