【書籍化&コミカライズ決定】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した 作:髭男爵
グリゼルダさんの稽古を受け、数日が経った頃ようやく時間を取れたリンネさんが俺達に会う時間を得ることができた。
「先ずは先日の密猟組織、"暗闇に潜む闇鯨"の捕縛に協力して頂きありがとうございました。こうしてお礼を言う機会に時間がかかった事をお詫び致しますわ」
屋敷に案内された俺たちは、リンネさんは丁寧に頭を下げた。
俺たちは皆、貴族として色々とやることがあるのだろうと気にしていないと告げる。
「そこで改めてお願いがあります。貴方方をわたくしの護衛として雇いたいのです」
「護衛?」
どういう事だ?
「私は貴方方を評価しています。"暗闇に潜む闇鯨"を捕縛する事が出来た貴方方を。更にこうして接してみて信頼に値する方だと確信出来ます」
「それは、
面と向かって言われるのって、照れるな。
俺はお礼を言って頭を下げる。
「それであの、何のための護衛なんですか?」
根本的な理由をアイリスちゃんが尋ねる。
その事を尋ねられたリンネさんは、ちらりとリンクルを見る。
<……バゥン>
問題ないと言うように一鳴きする。
そうするとリンネさんは佇まいを直して語り始めた。
「最近、妙な被害が出ているのです」
「被害?」
「はい。村人全員が消えるという不可思議な現象です。ある日、突然忽然と村人全てが消えるのです」
「それはこの間の密猟団のような人間組織によるものではないのでしょうか。その手さばきからして魔獣の確率は低いでしょう」
「いいや、考え辛いな」
エドアルドの指摘を否定したのはランドルフだ。
「オレも実際現場に行ってみたがあったのは嗅いだことのない獣《・》の臭い。それが、村人全員消えた村全てでしてるとなりゃ、魔獣に違いないはずだ」
「詳しく話せませんが、とある法則についてもある筋から得ることが出来ました。少し我が国の者と話して次に狙われる可能性が高い所を特定しました。今わたくしの手の者を先に行かせ、わたしくが向かうおふれを出しました。わたくし自身が魔獣の被害を予め抑える、或いは何かしらの兆候がないかと確認したく思っています」
なるほど
しかしそれは態々リンネさんが行く必要があるのだろうか? 部下とか他の人に頼んでも良いと思うんだけど。
同じ事を思ったのか、アイリスちゃんも口を開く。
「貴方がいく必要がないのではないですか? リンネさんはこの街を治める人の娘なのですよね?」
「書類ではなく、直接目で見なければわからないことが世の中にはあります。貴族には貴族たる責務があります。領民が安心して過ごせるように最大限の努力をする。
そうか。
彼女は本当に民のことを思っているんだな。
「御質問を。ならばリンネ殿がいなくなった後のこの領地の事はどうするのですか?」
「それについては心配ございません。間近な問題は"暗闇に潜む闇鯨"による密漁のみでそれが解決した今、兵の余力も治安も安定してます。差し当たってはコアストリドット家の許可が必要な事がなく、仮にあったとしてまお嬢様が居なくとも、ある程度はこの街の上層部に判断を任せています」
エドアルドの質問にはヒノハさんが答える。
「我が家の者は優秀な者が多いので。喜ばしい事ですわ。さて、わたくしが依頼したかったものの内容はこれです。ですが、これはあくまでも貴族としての命令でもなく、ただわたくし個人のご依頼です。ですので断って貰っても構いません。どうでしょうか?」
リンネさんは真っ直ぐとこちらを見る。
答えは最初から決まっていた。
「わかりました、その依頼受けたいと思います」
「ふぅーん、謎の被害ねぇ」
「あぁ、だから暫く俺たちは街を離れます。それを伝えておこうと思いました」
酒場で俺はグリゼルダさんに会って暫しこの街から離れる事を言った。無論、誰からの依頼かなどは伏せては置いたが。
彼はぐびりと酒を飲む。
「なるほどな、確かに実際に被害が出てるんだとしたらさっさと解決したいのは統治者としての道理だな。だけどよ、今まで誰も見た事がないってのは、見た事がある奴が皆殺しされたって可能性があるんだぜ。危険だとは思わなかったのか?」
「危険は確かにあるがそれ以上に実際に被害にあった人が出ているんだ。なら俺はそれを見過ごせない」
「なるほどなぁ。まぁ、にいちゃんがそうしたいっつーなら俺ぁに止める権利も何もないわな」
酒のつまみで有る骨つき肉を骨ごとかじりながらグリゼルダさんは暫し考え込んだ顔になる。
「……なぁ、にいちゃんそれってよ、俺ぁもついていけねぇか?」
「えっ? どういうことだ?」
「理由は3つだな」
彼は3本指を立てる。
「一つは誰かはしらねぇがご指名のご依頼だ。ちょっと分け前を貰うだけでもこの先俺ぁの旅にも余裕が出来る。一つはその噂なら俺ぁが奴等に協力させられてた時に聞いた。最近変な魔獣がいると、もしかしたら何かの役に立てるかもしれねぇ。もう一つは、今まで姿形も露わにしねぇ奴の強さに興味がある。あとなぁ、ぶっちゃけにいちゃんが心配なんだわ」
「俺が?」
首をかしげる。
何か心配かけるような事があっただろうか。グリゼルダさんが気にするのはイフィゲニアくらいだと思うのだけれど。
「あぁ。俺ぁはにいちゃんに"巧技"を教えているがまだ途中だ。その不明な被害をもたらす奴が仮に物凄く強かったら、にいちゃんが起死回生の策として破れかぶれで使ったとしよう。それで生き残れたならまだ良い。問題はそのせいでにいちゃんの筋肉や骨がぐちゃぐちゃになる事だ。下手すりゃ剣を握れなくなるぜ」
「薄々思ってはいたがそんなにリスクがある技なのか?」
「そりゃそうさ。元々『戦士』らの【
大丈夫だろうかと言うのが正直な気持ちだ。
元々仕方がなかったとは言え、グリゼルダさんは"暗闇に潜む闇鯨"に加担していた。イフィゲニアの正体を知るリーダーらしき人物はグリゼルダさん自身が葬り去ったが他の奴等が完全に知らないとは限らない。
そして、その事をリンネさん達が知らないとも限らない。
「まぁ、駄目なら駄目で構わねぇよ。仮におーけーだったとして、もし仮に正体とかバレそうになったらトンズラこくからよ」
「……とりあえず、一応話はしてみる。だがあまり期待はしないでくれ」
「おうよ」
難しいとは思うが。
俺は、もう一度リンネさんの所に行くことに決めた。
「よう、にいちゃん。どうだったよ?」
「グリゼルダさん。一応許可は貰えましたよ。かなり強引にねじ込んだ形になりましたけど。俺達が認める手練れであれば、是非とも来てほしいとの事です」
「そうか。なら久々のちゃんとした裏のない仕事だ。腕がなるな」
肩を鳴らすグリゼルダさん。
その横でアイリスちゃんがイフィゲニアに対して何かを教えていた。
「良いですか? 勝手に人を殴ろうとしてはダメですよ? わたし達から離れるのもダメです。知らない場所に一人で行くのもいけませんし、知らない人についていくのも論外です! わかりましたか?」
「な、なんでそんな事あたしに言うんだよっ。お節介だよっ」
「だーめーでーす! 貴方は色々特別なんですから警戒はしないにこしたことはないのです!
「フィアって何!? あたしはイフィゲニアだもん!」
「フィアは愛称ですよ。そっちの方も良いですが、こっちの方も可愛らしい響きじゃないですか」
愛称をつけられるのを嫌がっているように見えるが、本気で嫌がってはないように見える。その様子はまるで仲の良い姉妹みたいだ。
「見ない間にアイリスちゃんとイフィゲニアは随分と仲良くなっているな」
「見た目は歳の近い同士、色々とあったのでしょう。我々にとっても悪い事ではありませんよ」
エドアルドが頷く。
「ふーん、なるほど。なら
こっちもこっちでキキョウが何やら考えていた。
後日、俺たちはリンネさん達の屋敷の前に集まる。
やがて門が開くと先に馬車とランドルフがいた。
「へぇ、時間より早く居るだなんてマナーがなってるな。さすがだぜ」
「このくらいはね。それよりもこちらが今回力を貸してくれるグリゼルダさんだ」
「獣人か。強そうだな。ま、よろしく頼むぜ」
「……へぇ、なるほどなるほど。感じ取れるぜ、アンタの強さが。でもそれだけじゃねぇ、血の臭いがするぜ」
ランドルフの言葉に一瞬俺は息が詰まる。
しかしグリゼルダさんはおくびも反応しない。
「そりゃ、俺は己の拳のみで闘ってきたからな。だから返り血を浴びちまう。それが染み付いているんだろ」
「あぁ、そりゃわかるぜ。オレも獣みたいに荒れた生活していたからな。同類の匂いがする。まぁ、別にアヤメやアイリスの方も独特な臭いがする。エドアルドの野郎は何処か、気品というか型苦しい感じの臭いだ。キキョウは……なんか、うん。嗅いだ事がねぇ臭いだな。まぁ、鼻につく臭いだ」
「ちょっと待って!? すっごい聞き捨てならない事聞いたんですけど!?」
恐らくはキキョウは長い事魔界に居たので変な臭いが染み付いていたのかもしれない。
ランドルフは尚も話を続ける。
「中でも一番は嬢ちゃんも妙な臭いだな。一番濃い嫌な臭いだ」
「っ!」
ジッとランドルフがイフィゲニアを見据える。
まずい、疑われてるかっ?
「ランドルフ! リンクル噛みつきなさい!」
<バゥンッ!>
「いってぇ!!? 何をするんだお嬢様に先輩!?」
突然背後から現れたリンクルがランドルフに噛み付いた。
「女性に臭いの事を言うだなんてデリカシーの欠片もない不届き者ですわ! 恥を知りなさい、この駄狼ッ!」
「獣人馬鹿にすんなよな!?」
「貴方だから馬鹿にしても大丈夫だと信頼してるんですわ!」
「全く嬉しくねぇ! あだだだだっ!」
<バゥッ、バゥゥッ>
「ランドルフ。暴れて馬車にぶつからないでくださいよ。貴方雑なんですから」
「うるせぇヒノハァッ!」
暴れるランドルフを放っておいてリンネさんが前に進み出る。
「あらためて。わたくしが此度の依頼をしましたリンネ・ペッタン・コアストリドットですわ。彼らの推薦してくれた貴方の実力、期待していますわよ」
「任せてくれよ、お嬢さん。ご期待には応えてみせるぜ」
挨拶をする二人。
とりあえず、怪しまれることはなかったようだ。俺はホッと息を吐く。
「ね、ねぇ?
「大丈夫ですから、そんなに狼狽ないでください」
<ガゥ……>
後ろでは臭いと言われてキキョウが自身の体臭を気にしていた。
「それでも向かうとしましょう!」
リンネさんの号令で俺達は馬車に乗り込む。リンネさんは俺達用にも馬車を用意してくれていた。
「人々を襲う魔獣。そんなのが存在するのならば必ず止めてみせる」
揺れ始めた馬車の中、俺は無辜の民を魔獣の脅威から救う為の決意を固めていた。