目標はワン○ースっぽい展開に持ち込みたい、です。←掲げるだけ無駄
※「リール(R)」はお金の単位
#1 探索者選抜レース、スタート!
「ええっと、Dの13番……Dの13番……」
手のひらほどの紙を大事そうに抱えた少年が、うろうろと行ったり来たりを繰り返していた。目線は立ち並ぶ看板と紙とをひとつひとつ見比べている。
オレンジ色を基調とした動きやすそうな服装に包まれたその背には、小ぶりな―――といってもまだ大人とは程遠い少年の小さな背からすれば十分な大きさの―――短剣がかかっている。装飾は無く、黒塗りの鞘にいくつか細かい傷が見えることから、そこそこ使い込んであるのだろうことが伺えた。
「Dの11……Dの12……で、どうして次がHの1なんだぁ? おっかしいなぁ」
至極困った顔を浮かべた少年を見かねたらしい、1人の女性が声をかけた。長い金髪を邪魔にならないように三つ編みにした彼女も、運動に差支えない服を着ている。迷彩柄のリュックサックを背負って肩に担ぐのは、大きなライフル銃だ。腰にはいくらかの弾倉が見られる。
子供と女性が揃って剣だの銃だのを持っていることには、誰も騒がない。通り過ぎる人々は皆、それよりも別のことに注目していた。否、むしろ「別」というより、「彼らを含む」の方が正しいだろうか。
「どうしたんだい、ぼうや? あんたも“参加者”だろう?」
「うん、そうなんだけど、番号がみつからないんだ」
「どれ、見せてごらん……ああここはね、ほれ、あっちの列の向こう側に続いてるんだよ。参加人数は年々増してるからね、何十人かの単位でぶった切ってるんだろうさ。……見えるかい? あの派手な緑髪の女の前に1人分開いてるだろ? ほら、あそこだよ」
少年と同じ高さに腰をかがめた女性が、人の隙間から場所を指さした。そこから覗いた少年が、パッと顔を華やがせる。素直な子供らしい反応に、女性も思わず頬を緩めた。
「あ、見えた! ありがとうおばさん!」
「コラ、“お姉さん”とお呼び!」
「あはは、ありがとうオネエサン! これお礼に上げる。風邪に効く実だよ。オレの村の近くの山で採れるんだ」
ポケットからごそごそと取り出したのは、パンパンに膨らんだ黄色い巾着袋。意外とずっしりした袋の口を開くと、中に何やらクコの実に似た赤茶色の実が沢山入っている。見覚えのあるその実を見た女性は、あっと声を上げた。
「これ、ヤクの実じゃないか! まさかあんた、盗んだのかい?」
「盗む? そんなんじゃないよ。言っただろ、故郷の近くの山でいっぱい生えてるんだ。じゃ、そろそろ時間だしオレ行くよ! ありがとねおばさん! 助かったよ!」
「だから、お姉さんと……」
もはや反射で訂正の言葉を紡ぎながら女性が顔を上げた時には、少年の姿は影も形も無かった。周りを見渡してもそれらしき姿はなく、「まあなんて足の速い子だこと」とぼやいた彼女は、再び手元の巾着袋に視線を落とす。これでもかと詰められたのは“ヤク”と呼ばれる木の実。少年は裏山で拾った程度の軽さで言っていたが、これは一粒1000リールはくだらないだろう価値がある、列記とした“薬”である。「医者要らず」の別名を持つこの実は、あらゆる病に効く万能薬だ。今のところヤクの実でしか解毒が解明されていない毒だってたくさんある。それを「風邪に効く」とは……なんて贅沢な。風邪程度寝て治せと言いたくなるほど勿体ない。
林檎が1個10リールで買えるこのご時世、なぜ同じ木の実にその百倍の値段を払う必要があるかと言われれば、それはその効能ももちろんだが、何しろ流通しないのがヤクという実なのだ。その木が生える場所というのが兎角人間には厳しい場所で、熟練の登山者しか登れないような断崖絶壁などにへばりつくようにして生えている。おまけに1本の木に数個の実しかならないのだから、歯がゆいものである。
それが、「近くの山で採れる」なんて、なんと底の浅い嘘を吐く少年かと思いきや、あの様子ではそれは本当なのではないだろうか。
「……一体、どんな辺境の村だい、それは」
換金すれば数万リールはするだろう巾着を握りしめた女性には、通りすがる人々が泥棒に見えて仕方が無かった。
一方、無事自分の並ぶ場所を見つけた少年は、意気揚々と列に並んで“その時”を今か今かと待っていた。周りを見渡せば、彼と同じか少し上くらいの年の子供もいくらか見受けられる。彼らも皆、腰に背に、各々の信ずる武器を身に着けていた。
「……ステス、テスト、マイクテスト、オーケー」
前方から聞こえてきた声に、しゃんと背筋を伸ばした。来賓客の最前列に座るのは白髪の老人。彼こそが存命する最後の“遭遇者”、「
それも当然のことであろう。
遭遇者、全世界の王なる証、方舟に選ばれし者―――バガラリー。
「それではこれより、第288回、
◆シーカー・レース編
#1 探索者選抜レース、スタート!
一万年よりずっと昔、世界は科学の力に満ち溢れ、人類は今よりもずっと栄えていたらしい。あらゆるものは機械で制御され、仕事も娯楽も芸術も、すべてが情報化されていた時代。
それが、今では「旧時代」と呼ばれている時代。
何があったのかは誰にも分からない。一万年前、その高度な文明は成す術もなく崩壊した。自然災害だったのか、それとも戦争だったのか。今でも専門家の意見は、結局のところ推論でものを語るにとどまっている。
今となっては残された僅かな文献をひも解いてその実態を想像するしか無いのだが、その他にもう一つ、叡智を尽くした太古の遺産が世界にはまばらに点在していた。雨風に打たれ風化したものが殆どの中、洞窟や鬱蒼と茂った森の中のものは当時の形を残したまま、静かに眠りについている。発見された当初、一万年の時を超えてなお形を保つことができるその技術の高さが、世界の技術者たちの度肝を抜いたのは想像に難くない。
その
“
宇宙は膨らみ続ける。遠い過去に比べて技術力は衰退したままなかなか伸びない現状においても、その認識は一致したままだ。そして、宇宙が広がれば広がるだけ、未知なる世界は生まれ続ける。今こうして過ごしたほんの一瞬前から、世界は、歴史は枝分かれを繰り返して、そうして積み重ねた一つ一つのわずかな差異が、同じ星からまったく異なる環境、異なる生命体を生み出すのだ。
そして同時に発見された、数々の摩訶不思議な事象のうちの1つ、通称「方舟」。一体誰が言い始めたのか、「乗れば何でも願いが一つ叶う」という、なんとも夢物語のような存在。
しかし実在するのだ。最初の“
それを発端に、“方舟”の伝説は次第に探索者―――シーカーにとって新たな世界を旅する目的となった。見つければ、何でも一つ、願いを叶える。金、名声、国、女、果ては
シーカーとなる者が激増すると比例して、異世界で命を落とす者も沢山いた。既に地球においては肉食の野生生物はほとんど見かけることも無いが、進化の歴史を違えた異世界では違う。何がどうなってそう成長したのか、翼をもつ馬や、足の三本生えたカラスなど、神話にでも出てきそうな生物などが堂々と闊歩する。その危険性から“
それでも職を失ったり、一攫千金を狙って世界を渡る者は後を絶たない。そうした無為に命を散らす現状を食い止めようと統一政府が打ち出した政策こそが、「
何番目かに見つかった、今の地球に似た環境を持つ世界。ただし、地球よりももう少し野生を残した世界。既知の
こうした長年の活動と成果によって今ではシーカーの死亡率も昔に比べれば格段に減り、またレースのイベント化などによって、シーカーは“勇気ある者”という意識を民草に抱かせられた。
そして今、288回目のレースが始まろうとしている。
「では来賓あいさつ、最後にミスター.グレゴリー・エトワール。お願いします」
乞われ立ち上がった白髪の老人は、少年の記憶では90にそろそろ届こうかという高齢であったが、そのしゃんと伸びた背筋と鋭い目は、史上8人目のバガラリーとしての威厳のようなものを、少年は感じた。高揚する気分が彼の握りしめた拳を震わせる。未だ沈黙を破らない8人のバガラリーたち。方舟の実態は明らかにされないまま、400年が過ぎた。
「私から言えることは僅かです。これから先、初めての異世界があなたたちに牙をむくでしょう。厳しい戦いも待ち受けていることでしょう。しかし、臆せずに。信頼に足る仲間と共に世界を渡り歩けばあるいは、方舟を見つけられることもあるでしょう。焦らず、あるがままを受け入れて、そして証を得ようと得まいと再びこの地球に帰ってくることが出来ればあなたはもう探索者足り得ます。どうか皆様が無事に全員帰ってこられることを、ただただ願うばかりであります。頑張ってください」
それは少年にはどこか困惑を含んだスピーチに聞こえたが、大方の民衆たちにとっては偉大なるバガラリーの御言葉である。首をかしげる以前にすさまじい熱狂に包まれた。
歓声のボリュームは下がることを知らず、たとえ見知らぬ参加者であろうと笑顔で応援の紙吹雪を送る観客たちに背を押されて、第228回シーカー選抜レース参加者のべ207人は初めての異世界へと足を踏み出す。
旧時代の天使をかたどった門は半時間近くもの間、ぴかぴかの武装に身を包んだ新人シーカー達を呑み込み続けた。
青い空。白い雲。見渡す限りの広い草原と流れる小川。
都会の喧騒に忘れていた鳥のさえずりと、遠くにはモンスターの親子だろうか、見かけない形の大小の動物が見えた。
空気も地球とそう差異は無い。深呼吸をしながら風に揺れる草を眺めていた少年は、拡声器のひび割れた声にハッと意識を戻された。
「それではルールを説明します。ここは001第二世界『シミラリティア』。参加票と同封されていた地図をご覧ください。ゴールは今我々が経っているここ、地図には門の記号と『ゲート』の文字があるはずです。ここからスタートして、エリア内に隠されているこの……」
そういっていったん切ったスタッフは、足元に置いた紙袋からごそごそとピンクの旗を取り出した。
「この旗を取って帰ってきてください。それだけです。時間制限は20分後午後2時半から5日間! 参加者207人に対して、旗の数は僅か20本しかありません。注意事項は、殺人をしたら即失格、帰還後そのまま警察に引き渡し然るべき刑を処します。ただし、旗を他人から奪い取るのは可とします。5日間自分の足で歩き回るか、それとも近くに潜んで帰ってきた者から掠め取るか、どうぞご自分に合ったやり方でやって構いません。なお、今回のレースでは必ず2人以上5人以下のグループで参加することとします。たとえば1本の旗を取ったチームが3人ならば、3人ともレース合格者、という換算方法です。何か質問は? ……それでは20分後、合図を上げてからスタートとさせていただきます。それまでに単独参加者はメンバーを見つけておくように。以上」
そそくさと立ち去るスタッフを、少年は茫然と見送った。
(どうしよう……)
田舎からわざわざこのレースに出るためだけに上京してきた少年は、地元以外で友達がいない。かといって、こんな子供をわざわざグループに入れてくれるような大人はいないだろう。他の子供たちはと視線を巡らすと、どうやら近くに立っていた彼らは皆顔見知りだったらしく、さっさと5人組を作って作戦会議をしていた。
そうこうするうちに大人もメンバーは決まってきて、最終的に少年が打ち出した案というのは、あの親切にしてくれたおばさんにもう一度だけお世話になるというものだった。うろうろと探し回りやっと、目的の彼女を見つける。どうやら友人か、あるいは恋人の男と2人のコンビを組んでいたらしい。あちらも少年に気付いたようで、おや、と片眉をひょいと上げた。
「ぼうや、一人なのかい? ほら、さっき話してたあの子供だよ」
「ああ、君が……」
男性がまじまじと少年を観察するのを見て、照れくさげに頭を下げた少年がうなずこうとしたとき、後ろから妙に大きな声で彼を呼びかける子供がいた。
「あ、あの!」
びっくりして後ろを振り向くと、そこにいたのは金髪に碧眼の美少年。年のころは同じぐらいか、目を瞬かせた彼に金髪の子供はもじもじと話しかけた。
「あの…えっと、ひとり?」
「うん、そうだけど。君も?」
「うん。……あの、僕、ジョニー・ワレット、っていいます。もしよかったらなんだけど、一緒にグループ、組まないかい?」
「もちろんさ! ああよかった! ありがとうおば…じゃなくておねえさん! なんか大丈夫みたい!」
人見知りする性格なのか、もったいぶった誘い方をした金髪の子は、ああよかった、と大きく息をついた。内心困っていた少年の方も跳び上がって喜びながら女性に礼を述べる。特に何もした覚えのない彼女は幾分困惑しながら、そうだと手を打った。
「ああ…何だか知らないけど、見つかったならよかった。…そうだ、ぼうや。名前くらい教えてくれないかい?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
少年が黒のテンガロンハットを取る。艶やかな黒髪を日に輝かせて、存外に優雅な仕草で一礼した。
「オレ、
え? 「
つか何あのカタカナは。本当は「スイマー」とか「スキーヤー」みたいな流れで「バガラリアー」とかの方が英語的に正しいんでしょうけど、そこは目をつぶってください。
だってこじつけだもの。ご都合主義だもの。
衝動書きだもの。つか詰め込みすぎたか。