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平凡とは悪いことだろうか。俺がそう聞かれたらまず「平凡」といういい方自体が平凡の価値をおとしめていると答えるね。なんだよ平凡って。特に凡って字。意味するところはなみなみとか普通とかありふれたとかあまつさえ優れていないとからしいが、いくらなんでも酷過ぎるだろ。なんだよ優れていないって。平凡という言葉の一般的な解釈としては「普通」とか「一般的」とかだろうに、凡って字のせいで一般的でいることが他より劣っているみたいになってるのが最高に腹立たしい。いいじゃん、一般的で。だって一般的を超えたらそれは異質な存在ってことだろ?人は異質なものを恐れる。なぜなら得体が知れないから。人は自分のキャパシティをこえる存在を簡単には認めない。でも、それを理解した時、自分がその存在を許容できない、狭い考えの持ち主だと知ってしまうから、だから「凄いね」とか「流石だよ」なんて浅い言葉で周囲を欺く。あくまで自分はそれを認めている、許容しているように見せたいから。まあ、別にそれが悪いことだと言っているわけじゃない。だれだって自分を大きく見せたいものだ。未成年がたばこ吸ってみたり、興味もないのにフランス語勉強してみたり、ラノベの主人公みたいな俯瞰した態度とったり。話を戻すと平凡といういい方はよろしくない。なにか別の漢字にするべきだ。例えば、兵盆とかどうだ?兵士が余暇で育てる盆栽の様に趣がある的な。うん。なかなかいいな。今度友達に自慢して見よう。
「あと10分。終わってる奴は見直しもしとけよー」
俺の壮大な考察は試験監督の言葉で中断され、現実に引き戻される。
時は4月5日。私立赤羽高校では新学期早々実力テストが行われている。現在4コマ目の英語の終了時間が迫っているわけだが、生徒たちの多くは既に問題を解き終わっているようで、伸びをしたり、ペン回ししたり、机に突っ伏したりしている。そんな中、俺は黒崎裕太郎と書かれた自分の答案用紙に適当に選択した解答の番号を書いている。だって、実力テストって成績に加味されないんだもの。だが、流石の俺も全部の問題を適当にやっているわけではない。0点をとること自体はいいのだが問題はその後確実に目立ってしまう事だ。俺は何事もなく、穏便に、平和に過ごして卒業出来ればそれでいいのだから。
「はい、終了。後ろから答案回せ―」
俺が最後の問題の答えを記入したのと同時に試験は終了する。この後は昼休み。そして5コマ目に数学をやって全日程が終了となる。
「いいか、2年生になって最初のテストも次のコマで終了だが最後まで気を抜かないようにな」
試験監督のありがたい言葉を聞いている生徒は一人もおらず、各々があくびをしたり昼飯を買うための小銭を財布から取り出したり、机に突っ伏したりしている。おい最後の奴、もう試験終わってるからな。
「それじゃあ、日直」
「起立、礼」
かくして午前の最後のコマは終了し、生徒たちは一斉に昼休みへと入った。机をかこい弁当を広げるもの、購買に走る者、昼食を後回しにし昨日のサッカーの試合の話しをする者。
俺はというと、朝コンビニで買ったサンドイッチを持ち教室を後にする。
赤羽高校の校舎は無駄に広い。無駄に長い渡り廊下、無駄に多い水飲み場、無駄に多い教室。とはいっても、別に設計者がアホだった訳ではない。この学校が創立した50年前には今の数倍の生徒や職員がいたのだから。だが少子高齢化がすすむ今日、全校生徒は300人程度、1学年3、4クラスの規模となっている。
まあ、別に将来ここが廃校になろうが知ったこっちゃ無いんだが。
そう思いながら俺はいつも使っている空き教室の扉を開ける。乱雑に積まれた椅子と机、埃っぽい床。落書きだらけの黒板。それだけでここがもう何年も使われていないことが分かる。適当に椅子をひっぱりだし、腰かけると袋からサンドイッチをとりだし包装をはがす。今日は少し奮発してカツサンドにして見たのだが、果たしてその値段に見あった味はするのだろうか。
「うん。普通だな」
一口食べてすぐにジャッジを下す。特段まずくなければ特段美味しいわけでもない。まあ、コンビニのものだしこんなものか。
カツサンドを黙々と食べながら窓の外を見る。2階から見えるグラウンドでは既に昼食を終えたであろう男子たちが野球をしている。たまに不思議に思うんだが、昼休みの野球ってどういう基準で勝敗がつくんだ?一点先取制なのか、はたまた一打席勝負を数回やるのか。誠に謎だ。
そんな答えの出ない自問自答をしていると、唐突に教室の扉が開いた。
この時間、この教室に俺以外の来客とは珍しい。少し興味が湧いたので入口の方へ振り向いてみると、一人の女子生徒が息を切らしながら入ってきた。身長は俺より頭一個低いくらいで、スカートの丈はしっかりと校則通り、髪型は肩にかかるくらいの黒髪で、手には何か分からないがたくさんの書類を持っている。
良く分からないがそれ以上その人物に面白みを感じなかったので俺は再びカツサンドに意識を戻す。
「あ、あれ?」
後ろでその女子が何か疑問らしき声を上げている。
「あのーすみません」
問題。空き教室で昼食をとっていたら見ず知らずの女子に声をかけられました。あなたはどうしますか?
「……なに?」
答え、極力迷惑そうな表情で返事をする。これで向こうはこちらが楽しいブレイクタイム中だと察し出て行ってくれる。
「あれ、君、同じクラスの黒崎君じゃん」
おかしいな。どうやら不正解らしい。仕方ない、作戦プランBに移行しよう。
「ごめんなさい。ここ、使うんだったら別のところに移動します」
答え2、相手に自分がいることで俺がこの場を去るという苦渋の決断をしていると感じさせ、自責の念を負わせ立ち去ってもらう。
「黒崎君って委員会入ってたっけ?」
またもや不正解。クイズ番組なら完全に放送事故だ。しかもまったく会話になっていない。言葉のドッジボールが始まってしまった。
「他の委員の人はまだ来てないの?」
尚も俺にボールをぶつけてくるその女子の言葉に、俺は朝のホームルームで担任が昼休みに委員会の集まりがあると言っていたことを思い出した。
「多分、教室間違ってるぞ。委員会は3階の教室だ」
「え?うそ?」
女子生徒はメモ帳をぱらぱらとめくる。
「あ、ホントだ!間違ってる!」
そう言って彼女はバタバタと教室を出て行く。
だが、そのわずか数秒後にこれまたバタバタと戻ってきた。
「教えてくれてありがとう黒崎君!」
「どういたしまして」
女子生徒が立ち去った後、俺は開きっぱなしになっている扉を閉め、再び昼食にもどる。
「……あいつ、だれだっけ?」
この時の俺は知る由もなかった。彼女が、あんな面倒事をもってくるなんて。
***
それから1週間。2年B組の教室はいつも通り賑わっている。今日の授業は終わり、残すところは帰りのホームルームのみで、担任が入ってくるのを待っている最中だ。そんななか俺はスマホにイヤホンを指し、音楽を聞いている風を装っていた。なぜそんな事をしているかと言うと、こうしていれば誰も話しかけてこないからだ。別に誰かと話すのが嫌いなわけではない。クラスの良く知らない男子と話すこともある。まあ、大抵はよく知らない芸能人の話題に相槌打ってるだけだが。だからといって、俺から誰かにどうしても聞いてほしい話があるわけでもないのに話しかけるのも特に意味が無い。それにイヤホンを耳に付けている生徒なんて教室を見渡す限り3、4人はいる。傍から見れば俺だってその一人だ。俺だってスマホの充電が切れていなければ音楽を聞いてるはずだったんだ。畜生、このポンコツ携帯め。そろそろ機種変しよう。
そんな事を考えているとだんだん眠くなってきた。いかん、流石におにぎり4つ食べた後のホームルームはきつい。明日から自粛しよう……。
「……はっ!」
気付くとホームルームは終わっており、掃除当番すら教室には残っていなかった。いや、誰か起こしてくれよ。まあ、話しかけられないようにイヤホンしてたのは俺なんだけどさ。
まずいな、ひょっとしてかなり目立ってたんじゃないだろうか。今まで何事もなく過ごしてきたのにたかが居眠りで目立つなんて本末転倒だ。
……なわけよ。ホームルームで寝ている生徒なんて珍しくもなんともないだろ。少なくともホームルームで「この後カラオケ行く人募集してます!」なんて言わないかぎり目立つわけがない。
俺の席は窓側に位置しているためいつの間にか開けられた窓から心地よい風が吹いてる。その空気を思い切り吸い込み、ゆっくりと息を吐いてから席をたち、机の横に引っかかっている鞄を掴み、帰り仕度を始める。
「……ん?」
ふと教室の後ろの席に目を向けると、先ほどの俺同様机に突っ伏している女子生徒がいた。その脇の机にはプリントが高く積まれている。何の気なしに近づき、プリントを一枚手に取ってみる。
『購買満足度調査
次の質問に当てはまる番号に丸を付けてください。1(大いに満足)、2(やや満足)、3(どちらとも言えない)、4、(余り満足していない)、5、(満足していない)
・購買の品ぞろえについて
・購買の店員の対応
・購買のサンドイッチの味について
・購買の商品の値段について』
そんなことが書いてあるプリントだった。見たところ、購買についての満足度調査の様だ。そういえば去年も同じ様なアンケートに答えた覚えがある。
「いや、でもこれは……」
「これは?」
唐突に他人の声がしたので体をびくっと震わせてしまう。落ち着いて音源を捜すと、すぐそこに答えはあった。
「あんたは……」
それは1週間前に俺のブレイクタイムに入り込んできた女子生徒だった。
「誰?」
「ズコー!」
彼女は大げさにリアクションをとっているが、俺は本当に彼女の名前をしらない。そもそもクラスメイトの名前をほとんど知らない。
「私だよ私!」
「詐欺師の定型文だな……」
「ええ……本当に知らないの?」
「残念ながら」
「じゃあ、自己紹介するよ」
「結構です」
「私は安城奏!よろしくね!」
なるほど、この安城何某さんはやはり会話のドッジボールの天才らしい。仮にオリンピックの種目にドッジボールがあったら代表間違いなしだな。
「まあ、よろしく」
「それで、このアンケート何だけどね」
もう突っ込まないぞ俺は。
「私が任されてる仕事で、購買の満足度調査何だけどなんか足りないなーって」
「まあ、かなり足りないな」
「え?」
「だってこれ、去年の使い回しだし、質問事項も意図がしっかりして無いし」
って、しまった。つい悪い癖が……。
「黒崎君よくこれが去年のと同じだって分かったね!」
安城は何故か目をキラキラさせている。
「て、適当に言ったら当たっただけだって」
「ひょっとして黒崎君ってこういうの詳しいの?」
「いや、別に詳しいわけじゃ……」
「でも、質問の意図がどうとかそれっぽい事言ってたじゃん!」
こいつ、自分はボール投げまくってキャッチする暇をくれない癖にこっちの都合の悪いボールばっかりキャッチしやがるな……。流石オリンピック出場候補だ。
「し、知らん。悪いけど俺も忙しいんだ」
「え?でも黒崎君部活入ってないよね?」
なんで俺の個人情報が漏れているんだ。まあ、部活も入ってないしさらに付け足すなら帰ったらすぐにベッドにダイブするくらい忙しくないんだけど。
「おねがい!これ明日までなの!手伝って!」
「いや、なんで明日までの作業を今日やってるんだよ。完全に計画ミスだろ」
締め切りぎりぎりに仕事とか漫画家かよ。
「その……他にも仕事があって……」
なんだそりゃ。どこの委員会か知らないけどかなりのブラックさだな。
「……」
安城は捨て猫のような視線を俺に向けてくる。そんな可愛いしぐさしても駄目なものは駄目です……って言ったらこいつどうするかな。ひょっとしたら俺がすごく冷たい奴だって言いふらされるかもしれない。それはかなり目立つな。最高に迷惑だ。
「……わかったよ。その代わりあくまで俺の個人的な考えだから最後は自分で判断してくれよ?」
「うん!ありがとう黒崎君!」
というわけで俺は安城の向かいに椅子を追いて座る。
「まず必要なのはこのアンケートのコンセプトとターゲットだ」
「ターゲットはわかるけどコンセプトってよくわかんない」
「コンセプトっていうのは簡単に言うと企画とかで貫くべき視点や考え方だ。このアンケートで言えば何のためにこのアンケートを実施するかってことだ」
「?それは満足度の調査じゃないの?」
「満足度の調査っていうのはあくまで実施形態にすぎない。つまり、満足度を調査してその後それをどう利用するかってことだ。このアンケートは多分購買の運営や販売形態の課題を見つけるために作られたもののはずだろ?つまりコンセプトは『購買についての課題点の発見』になる」
安城は俺の話に耳を傾けながらメモをとってゆく。
「そして次にターゲットだが、確か去年このアンケートは全校生徒を対象に行われてたよな?」
「うん」
「だが、全校生徒300人がみんなが購買を利用するわけじゃない。弁当を持ってくるやつやコンビニで買ってくるやつもいる。つまりメインターゲットは購買を利用する生徒だ。そこを意識すればもっと質問項目が具体的になるはずだ」
「なるほどなるほど」
「だからと言ってそれだけじゃ購買にとってはプラスにならない。なぜならすでに購買を利用している生徒は多少不満があるにしろ無いにしろ既に常連だ。つまりカモとして十分役割を果たしている」
「カモって……」
「つまりこの時点で『どうやったらみんなが購買を利用してくれるか』って課題がでてくる。つまり、利用者以外の人にもどんな購買だったら利用したいかを聞くことでこのアンケートの意味はさらに大きくなる」
「ターゲットを二分してそれぞれに違う質問を用意するってことだね」
「そうだ。そして次にこの解答の選択肢が問題だ」
「え?そうなの?」
「問題はこの3(どちらともいえない)ってところだ。別にこの選択肢自体が悪いわけじゃない。大事なのはこれに答えるのが学生だってところだ。大半はこのアンケートにさかれる時間を部活や勉強に使いたい訳でこのアンケートに真面目に答える生徒はほとんどいないだろうな」
「ぶっちゃけたよこの人!いや、まあそうかもしれないけど……」
「そういう意味ではこの3の選択肢は便利だ。とりあえずこれに丸をつけとけば解答したことになるし、曖昧な解答でお茶を濁せる。だからあえて3の選択肢を消すのも手だ。つまり、肯定か否定かの2択にすることで解答に責任が伴う事をほのめかす。簡単に言うと脅しだな」
「う、うん……」
「そして最後に、自由記述の欄があると尚いいだろうな。例えば「購買において欲しい品物はありますか?」とかだな」
「でも、自由記述だと書いてくれない事が多いんじゃないのかな?」
「そこは書きようだ。反映率99パーセントとか書いとけ。無茶なのが来たら1パーセントに該当したことにするとか」
「なにその果汁○パーセント以上使用みたいな詐欺……」
「後は質問の数はなるべく絞ること。いくらいい質問を用意しても問題数が多くなりすぎると解答者はだんだんいい加減に解答するからな。だから、ベストなのは何回かに分けてアンケートをとることだな」
そこで俺はいったん話すのをやめ、安城がメモを取り終えるのを待つ。安城はメモ帳に綺麗な字で要点をしっかりまとめてメモしている。ひょっとして頭いいのかこいつ?
「何回かに分けてっと」
安城はメモを取り終えると、再び俺のほうに視線を向ける。
「えっと、参考になったか?」
「うん!すごく分かりやすかったよありがとう!黒崎君って頭いいんだね!」
「いや、別に……実力テストだって真ん中くらいだったぞ俺は」
「とにかくありがとう!これで会長たちも満足してくれると思う!」
うきうきしている安城の言葉に、俺はひっかかるワードがあることに気付いた。
「おい、会長って……」
「あ、そうだ!黒崎君、良かったら……」
俺は背筋がゾクリとした。また同じ間違いをしてしまったと思ったからだ。
「生徒会に入らない?」