黒崎君は助けてくれない。   作:たけぽん

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11. 黒崎君!笑って!

そして流れるように月曜日はやってきた。予算案は無事まとまり、木場が送ってくれたデータは既に光定に渡してある。それと一緒に恭子が作った意見書も渡したので、準備は全て終わった。

『準備は』と言う言葉は文字通り準備が終わったことを指し、もっと言えば準備しか終わってないことを言う。何が言いたいかと言うと、光定が一星たちに予算案を提示するということは、彼が上手く事を進めないと結局実績にはならず俺たちの計画はそこで詰むという事なのだ。

そうならないように安城達がサポートすることにはなっているが、果たして上手くいくのかどうか。

いや、上手くいってもらわないと困る。安城は俺の居場所を作ってくれた。そして俺はその居場所を守りたいと思った。居場所を守ることは安城を守ることと同義で、それはつまり安城の所属する生徒会を守ることで、生徒会を守るという事は今回の体育祭を完遂することだ。正直回りくどすぎる理由だが、今の俺は理由が無いと行動できない人間なわけで、それでも理由も分からずに誰かを助けようと粋がっていた俺よりは何万倍もましなのだから、それでいいんだ。

 

放課後、チャイムと同時に生徒たちは教室を出る。チャイムと同時に出るって絶対ホームルームの内容聞いてなかったよね?まあ俺なんてチャイムの1分後に出たけど聞いてないわけだが。

そんないつも通りのアホくさい自問自答ができてるだけ落ち着いてる証拠だろう。

廊下に出ると、後ろの入り口から出てきたであろう安城と目が合う。いつもなら俺を見かければやかましく話しかけてくる安城だが、今日はいつになく真剣な表情で俺に会釈すると玄関へと歩を進め出した。

それを何を言うわけでもなく見送った後、俺は携帯を取り出し、この前連絡先を交換した知り合いに簡潔なラインを送り、玄関口とは逆の方に歩を進める。

今日の会議、俺は参加しない。俺が行けば一星は予算案政策の中心に俺がいることに感づいてしまう。そうなると光定がいかに上手く喋ろうが、安城達が策を弄しようが、俺が携わったという事実が先入観となり、まともに取り合っては貰えないだろう。

まあそもそも出禁を喰らっているわけなので、会議室に入ることすら認めてもらえないだろうし。

 

そんなわけで俺は区民センターには行かず、部室棟へやってきた。運動部の部室が密集するエリアは汗臭さを誤魔化すためか芳香剤と消臭剤がばらまかれたような匂いがする。芳香剤まいて消臭剤まいたら打ち消し合って効力ゼロになりそうなんだが、そこのところどうなんだろうか。

運動部の部室の前を横切り、隅にあるサッカー部の部室で曲がり、階段を上る。階段の壁に設置された掲示板には部活動勧誘のポスターが所狭しと掲示されている。

囲碁部、スポーツチャンバラ部、鉄道研究会、柔道部、茶道部、ラーメン研究会などなど……ラーメン研究会ってなんだよ。ラーメンのレビューとかすんの?

ラーメン研究会への興味も階段を上り切る頃には消え去っていた。2階は文化部のエリア。当然漫研の部室もあるわけで、俺がここに来た理由もそこにある。

漫研の部室からは蛍光灯の明かりがもれているが話声は聞こえない。それだけで中の状況は大体分かるが、礼儀として扉を3回ノックする。

 

「……どうぞ」

 

すぐに中から小さな声が聞こえてくる。本当に小さくて、慣れていないと聞こえないほどだ。

 

「お邪魔します」

 

ゆっくりと扉を開け、中にいる人物に声をかける。

 

「うん……ようこそ」

 

雪里茜は部室の隅のパイプ椅子に座りながら俺の声に答える。手には漫画の単行本を持っており、それにしおりを挟むと立ちあがり、俺の方へと歩いてきた。

 

「今日は他の部員はいないのか?」

「うん……今日は……休み」

「というか、俺他の部員に会ったことなかったわ」

「今度……紹介する」

「おう、よろしく頼む」

 

他愛もない世間話はそこで終わり、雪里は俺を部室内に招き入れる。いつもと同じ、程よく散らかった机に、漫画本がぎっしり並んでいる本棚。換気の為か窓が少し空いており、時折ふくそよ風に机の上の原稿用紙がなびく。

 

「これ……どうぞ」

 

雪里は冷蔵庫からお茶を取り出し、俺に渡してくる。それはこの学校で彼女と再会した時と同じ、綾鷹茶。別に銘柄に意味があるわけじゃない。ただ、これを俺に渡すことに意味があるのだろう。それはきっと、あの時とくらべ前に進めたかどうかという俺への問いかけなのだ。

 

「毎回悪いな。有難くもらうよ」

 

綾鷹を受け取り、キャップを開け一口飲む。夏の暑さに乾ききったのどが一気に潤う。

 

「もうすっかり夏だな」

「そう……だね」

「夏休みはやっぱり漫画描くのか?」

「うん……部員みんなで合作」

「へえ、そりゃ大作だな」

「黒崎君は……なにするの?」

「寝る」

「それは……干からびそう」

 

そんな冗談をいう雪里の表情はとても柔らかい笑みで、そんな彼女につられ俺も頬が緩んでしまう。

 

「黒崎君が……笑った」

「そりゃあ、俺も人間だからな」

「ずっと……その笑顔が見たかった」

「雪里のおかげだよ、俺がまたこうして笑えるのは」

「え……?」

「俺が赤羽高校を受験したのは、中学の時の連中がいないからだった。たぶん、誰かが一緒だとあの時のことをずっと引きずらないといけないと思ったから」

「……」

「でも、犯した過ちは身を持って精算するしかない。それが小さな事だろうと、背負ったまま生きれるほど人間は強くできていないんだ。でも、あの時俺はお前と再び巡り合った」

「うん……」

「俺は別に運命論者じゃないけど、少なくとも安城やお前に会ったことは無意味なことじゃないって思う。事実、俺はこうして前みたいに笑っているんだし」

 

雪里は黙って俺の言葉を待つ。その様子を見て思う。俺が再会した人物が雪里茜で良かったと。あの時、彼女が守ろうとした居場所、それを守れたことが心の底から嬉しかったと今なら言える。そのおかげで俺は大切な友達を作れたのだから。

 

「だから、後悔なんてしてない。俺は大切なものを守っただけだから」

「それが……答え?」

「ああ……お前が採用してくれるならな」

「する……採用する!」

 

雪里は今までで一番嬉しそうな表情をする。目には涙が浮かんでいるが、そんなことに気付きもせず俺の手を握りかるく飛び跳ねる。

 

「なあ、雪里」

「……何?」

「夏休み、暇なときでいいからまた『ミント』行こう。新作のパフェが出るらしいんだ」

「うん……行きたい」

「それじゃあ決まりな」

 

***

 

漫研の部室を出た俺は、玄関で靴を履き替え、正門をくぐる。真っ青な空の上で太陽が自己主張を強める中、不意に携帯の着信音が鳴った。

ポケットから取り出した携帯の画面には恭子の名前が表示されていた。

 

「もしもし?」

「あ、ゆーたろー!ちょっとヤバい感じなの!まじでヤバい!」

「落ち着け。何がヤバいか内容を教えてくれ」

「あ、ああごめん。実はさっき予算案を提示したんだけど……」

「けど?」

「はじかれたんだって!」

 

はじかれた。それはつまり一星たちは予算案を認めなかったということだろう。

 

「何が原因だ?」

「それが……ゆーたろーが関わってるってばれちゃって」

「どうしてそうなった?」

「一星会長が、一発で見抜いちゃって……」

「そうか」

「そうかじゃないっての!どーすんのこれ!」

「大丈夫だ。一応手は打ってある」

「え?なにそれ?そんなの土曜は言って無かったじゃん!」

「土曜の時点ではまだ確約がとれてなかったんだよ」

「え?意味わかんないんだけど?」

「とにかく、いまからそっちへ行くから、一星たちを引きとめておいてくれ」

「え?会長たちならもう区民センター出ちゃったよ?」

 

なん……だと。

 

「ゆーたろー?」

「……会議が終わってから何分立ってる?」

「今終わったばっかだから5分くらいかな」

「わかった」

「え、ゆーたろー?どういうこと?」

 

俺は恭子の言葉を最後まで聞かずに通話を切り、一本電話をしてから大きく地面をけって走り出した。

 

***

 

「はあ……はあ……」

 

しんどい。めちゃくちゃしんどい。もともと俺は運動能力に秀でている方ではない。学年で走らせれば真ん中ぐらいをのたりと走るくらいの俗に言う平均的な方だ。そして高校に入学してからは下校、帰宅、ベッドというルーティーンだったため全く持って運動していない。そんな人物が急に全力疾走したらどうなるか、答えは言わなくても分かる。

区民センターまでそんなに距離があるわけではないが、主張の激しい太陽のせいで汗はだらだらと出てくる。

それでも、ここで走るのをやめるという選択肢は無かった。

一星は予算案に俺が関わっていることを見抜いた。それは裏を返せば予算案自体にはしっかり目を通しているということだ。

それなら、なんとなかる。

なんとかなるのだが、それも俺が間に合わなければなんともならないに変わってしまう。

だから、全力で地面を蹴り、腕を振り、足を動かす。

 

しばらく走ると、区民センターが見えてきた。

 

 

「あ、黒崎君!」

 

区民センターの入り口で俺を呼ぶ安城の声がする。そこには木場と恭子も一緒にいた。だが、ここで足を止める訳にもいかない。

 

「悪い!後で!」

 

俺はそのまま安城達を素通りして走り続ける。すると、一星たちの姿が見えてきた。だが、喜んだのもつかの間、信号が赤になり、一星たちのいる歩道の前でストップをかけられてしまった。その間に後ろからは安城達が俺を追いかけ走ってきた。

 

「はあ……はあ……」

 

膝に手をおいて息をゼーゼーと吐く安城。その横にはもう今にも死にそうな顔色で必死に酸素を吸い込む、木場、軽く息を切らしているだけの恭子もいた。ちなみに俺は木場の気持ちが良く分かるくらい疲れている。

 

「く、黒崎君……策って?」

 

恭子から聞いたのだろう、安城が質問を投げかけてくる。その間に赤信号の残り時間を示す目盛りは半分まで減っていた。

 

「お前たちに黙っていたのは悪かったが、正直俺は7割方却下されると思ってたんだ」

「は、はあ!?ちょっとどういう事さゆーたろー!」

 

恭子が俺の肩を掴み揺すってくる。

 

「落ち着け、始めから却下前提だって言ったらお前たちのモチベーションが下がると思ったんだよ」

「それじゃあ、そんな予算案を僕らに作らせた理由は何なんですか?」

 

ようやく息の整った木場が訝しげにこちらを見る。

 

「別に、お前らに作らせた予算案が手抜きだった訳じゃない。光定に実績を持たせるって話も最初から捨て案だったわけでもない。ただ、少し細工を施したんだ」

「細工?」

「そうだ、一星と俺が中学で一緒に生徒会活動をしていたことはもう知ってるだろうが、その中で一星は俺の作った書類に共通の癖があることを指摘していたんだ。その癖をわざと入れておいた」

「な、なんでそんなことをしたの?それじゃあ一星さんが気付くのも訳ないじゃん!」

 

安城は疑問をぶつけてくる。

 

「おそらく、ただ光定が提示しただけの予算案を一星は受理しない、仲谷はともかく一星からしたら全く知らないうえにロクに発言もしない人物だぞ?まともに見てくれるかも怪しいところだ」

「それは……そうかもだけど」

「だから俺は一星が絶対に予算案に目を通すように目立つ所に俺の癖を入れておいた。俺に対しヘイトをためてる一星なら予算案の一枚目を見ただけで気付いただろうな」

「それじゃあ、いったい黒崎君は何がしたかったの?」

「俺の目的は、一星に予算案を読んでもらうことだったんだ」

 

そこで、信号は青へと変わった。それと同時に俺は再び走り出す。

 

「ちょ、ちょっと黒崎君!待ってよ!」

 

同時に安城達も俺の後ろについてくる。

一星たちが信号を渡ってから1分程度しかたっていない。まだ近くにいるはずだ。

俺は無我夢中で地面をけった。

 

 

***

 

「一星!」

 

息も絶え絶え、俺が発したか発していないか分からないような声に、前方を歩く一星は足をとめた。どうやらちゃんと声になっていたらしい。

 

「……なんのようだ黒崎」

 

一星の低い声に他の緑川生徒会のメンバーもこちらに振り替える。

俺は疲れて前かがみになっている体を無理やり起こし、据える限りの空気を吸い込み、大きく吐きだす。正直もうその場に倒れたいほどの疲労感だがここで倒れたら無意味にマラソンしただけになってしまうので、俺は口を開いた。

 

「予算案は……読んでくれましたか?」

「白々しいな。そこにいる連中から状況を聞いたからここまで走ってきたんじゃないのか?」

「つまり……読んだって事ですね?」

「しつこいなお前は。読んだとも。そのうえで却下した」

「その理由は?」

「お前の作った予算案は会議で決まった余興の案を全くと言っていいほど考慮していない。そんな今までの話しあいを水泡に帰す案を採用できる訳が無いだろう」

「でも、そのかわり競技についてはほぼ会議の内容どおりじゃないですか!全部予定通りに実行するのは不可能だと判断したんです!」

 

我慢できなくなったのか安城が異議を唱える。

 

「安城、君は生徒会でいったい何を学んできたんだ?不可能なら、それをどう可能にするか考え、解決するのが我々の役目だろう?」

「……無理なものは無理って判断するのも僕らの仕事なんじゃないんですか?」

 

木場も一星に異を唱えるが、一星の表情は揺らがない。

 

「木場、お前にはがっかりだ。緑川高校生徒会会計でありながら他者と協力までしてもあんな予算案しか作れないとは。最初から無理と断定するのは実に非生産的だ。トップにたつ集団は自分たちの発言に責任を持つべきなのだ」

「なにそれ、ちょーむかつく!あんた中学の時だって、本当はゆーたろーが羨ましかったんじゃないの?」

 

恭子の言葉に一星の顔が引きつる。

 

「何を言っている、矢作」

「いつも誰かの為に頑張れて、みんなから凄いって言われて、時にはだれも見向きもしない相手にだって手を差し伸べられるゆーたろーに嫉妬してただけなんじゃないの!?」

「黙れ!前にも言っただろう、黒崎が誰かを助けるという行動に依存した結果、我が生徒会は崩壊しかけたんだぞ!そんな奴を羨ましがる理由がどこにある!」

「じゃあなんで、黒崎君が間違ってると思った時、一星さんは彼を助けなかったんですか?」

 

安城がふたたび発した言葉に、一星は沈黙した。

 

「黒崎君なら、誰かが間違った時、絶対にその人を助けようとします、やり方はどうであれ、彼は絶対に誰かを見捨てたりしません。それは彼自身が過去の過ちに向き合っているからです!もし中学の時、生徒会の誰かが黒崎君を救おうとしていれば、彼はもっと楽しい人生を送れたはずなのに、一星さんは、そんな彼をただ排除した、それはあなたに無いものを黒崎君が持っていると思ったからじゃないんですか!」

「くだらん。そんなものは君たちの想像だ。それに君たちの話は論点がずれている。結局予算案についてなんら話は進んでいない。全く、不毛な時間だった。私は次の用事があるんだ、君たちもさっさと帰りたまえ」

 

一星は再び前を向き、歩き出そうとする。周囲の生徒会たちも、困惑しながらもそれに続こうとする。

 

「一星……会長。余興案についての不足部分は分かりましたが、それでは競技案の方はどうでしたか?」

 

俺の言葉に一星は背中を向けたまま答える。

 

「しつこいぞ黒崎、競技案が完璧であろうとも全体として不完全ならそんなものに意味は無い」

「つまり、余興案さえ改善すれば俺たちの予算案は完璧という事ですね?」

「……何が言いたい?」

 

一星はこちらへ振り向く。

 

「―――つまりは、その余興って奴の金を用意すりゃいいんだろ?」

 

突然俺たちの背後から聞こえた声に俺以外の全員が振り向く。そこに立っていたのは、茶髪にロン毛、Tシャツにハーフパンツ、足元には赤いソックスが目立つ人物だった。

 

「誰だ、お前は?」

「どうも、会長さん。俺は赤羽高校サッカー部キャプテン、相馬栄八って言うんで、今後ともヨロシク」

 

一星は俺にこの状況の説明を求めると言いたげな視線を送ってくる。

 

「悪いな相馬、結構距離あっただろ?」

「はっ、サッカー部なめんなよ。あのくらい90分走り続けるのに比べりゃ朝飯前だぜ」

「そうかい、そりゃあすごいな」

「けっ、相変わらず人をむかつかせるのが上手い奴だな」

「おい黒崎、こいつはなんなんだ?」

 

一星は苛立ちを隠せない様子だ。

 

「えっと、こいつは相馬栄八。サッカー界では結構名が知れてるんですが、まあ、それはいいでしょう。じつはこいつの家は結構な名家でして、赤羽高校にも寄付をしているんですよ」

「ま、まさかお前は……」

「余興案についての予算はこいつの親が出してくれます。そして不足するようなら、サッカー部キャプテンの相馬が各部活に募金活動の呼びかけをしてくれることになっています。これで、余興案の問題点は解決です。たしか、競技案については先ほど完璧とのお言葉をいただいていたような気がしますがどうでしょう?」

 

俺の言葉に一星はただ表情をゆがませるだけで、何も言い返してくることは無かった。

 

 

 

***

 

「それじゃあ、予算案完成を祝して!」

「かんぱーい!」

 

大きくコップをぶつける安城と恭子の勢いにのまれ、俺は小さくコップを持った手を上げる。

時刻は4時。場所はいつぞやのハンバーガー屋。当初閑古鳥が鳴いていたこの店も、新商品が上手いこと軌道に乗ったらしくすっかり賑わっている。

そんな店の一角で、俺たちはアホみたいな量のハンバーガーとポテトを前に打ち上げらしきものを始めた。

 

「これ、本当に全部食えるのか?」

「むっ、ゆーたろーテンション低い!今日の主役なんだからもっとアゲてよ!」

 

向かいに座る恭子がこちらへ乗り出し、コップを差し出してくるので一応乾杯をしておく。

 

 

「それにしても見た?あの一星の表情!ちょーすっきりしたわ~」

「そうだね、正直私も今すっきりしてるかな~」

 

安城と恭子がキャッキャしているのを横目に俺は隣に座る木場のに尋ねる。

 

「木場、成り行きとはいえお前も相当一星の反感を買う事になってしまったが、大丈夫か?」

 

 

正直自分で巻き込んでおいてどの口がという感じもするが、今回の事をきっかけに木場の立場が悪くなったりすることも考えられる。

 

「大丈夫じゃないすかね?」

「え?」

 

それに対しての木場の返答はシンプルなものだった。

 

「今回の件、あの場にいた生徒会メンバー全員の記憶に残ると思うんですよ。なにせポッと出のさえない生徒に生徒会長が言い負かされたんですから」

「おい、誰がポッと出のさえない生徒だ」

 

文句を言う俺を意に介せず木場はこの場にいる全員に向けて話し続ける。

 

「光定副会長もそうでしたが、生徒会の中にも一星会長の方針や態度に疑問を持っていた人物は少なからずいたはずです。でも彼らはそれを口には出さなかった。と言うよりは出せなかった。誰でもそうですが、自分から人の間違いを指摘するのって結構度胸いるじゃないですか」

「ん?んん?つまり木場は何が言いたいん?」

 

恭子がわけわからんという表情をする。

 

「つまりですね、今回の僕たちの行動はトップに立つ人間が『絶対』じゃないって教訓になったのではないかと」

「そうだね。今回の一件であの場にいた人たちは誰かの間違いを指摘することの大事さを分かってくれたんじゃないかな」

 

安城も木場の言葉に首を縦に振る。

そうだ、間違っている人間は間違っていることに気付けない。俺がずっと自分に言い続けてきた言葉だ。

 

「だから、これからの緑川高校の生徒会活動にとって良い方向へ向くことは確かだと思います。だから、ありがとうございます。黒崎君」

 

木場は俺に右手を差し出してくる。

 

「ようやく名前を憶えてくれたようで良かったよ」

 

俺はその手を力強く握る。

 

「それに、あの会長は今年で卒業ですしね」

「うっわー木場君、今の言葉で雰囲気ぶち壊しだよ~」

 

安城がものすごくがっかりした表情をする。

 

 

「え、僕が悪いんですか!?」

「ほんとほんと、結構いいこと言っててカッコイイと思ったのに最後のでプラマイゼロだわ~」

「ひ、ひどい……」

 

木場はがっくりとうなだれ、やけになったのか一番でかいハンバーガーをがつがつと食べだした。

 

「それにしても、まさか黒崎君の秘密兵器が相馬君だったなんてね」

 

安城はそれまで一言も発せず、一番端の席でポテトを食べる相馬に視線を向ける。

 

「ま、こいつには借りがあったからな」

 

仏頂面のまま相馬が言った言葉の意味を理解できるのは俺と安城だけだが、恭子たちは特に何も聞いてこない。

 

「でも連絡先まで交換するほど仲良くなってるなんて知らなかったよ~?じつはまんざらでもないんじゃないの~?」

「なっ!てめ、安城!」

 

勢いよく立ち上がる相馬に、安城は心の底から面白そうに笑う。

 

「言っとくが、俺が手を貸すのは今回だけだからな!分かってんのか黒崎!」

「分かってるよ。ありがとな、相馬」

「礼とかいうなって!気持ち悪いだろーが!」

 

相馬はそのままテーブルに千円札を叩きつける。

 

「もう行くのか?」

「無駄にカロリー取っちまったからな。走って消費すんだよ」

「そうか、じゃあな」

「あばよ」

 

店を出て行く相馬を視線で見送り、俺はチーズバーガーを手に取る。

 

「あのロン毛俗に言うツンデレってやつ?」

「だと思う」

「でも男同士の友情?みたいなの感じたわ~。あいつ絶対ゆーたろーにお礼言われて嬉しいって思ってたよね~」

 

にぎやかな雰囲気に対して、俺はずっと気になっていた事を口にする。

 

「お前ら、怒ってないの?」

「え?」

「は?」

「んぐ?」

 

え?なにその『お前何言ってんの?』的な返答。

 

「黒崎君何言ってるの?」

 

やばい、俺今安城の発言予知してたわ。そのうち運命操れそうで自分の可能性が怖い。

 

「いや、お前らに黙って相馬に根回ししてたこととか、いろいろ勝手にやっちゃったし」

「なんだ、そんなこと?」

「そんなことって」

「黒崎君。私、嬉しかったんだよ?」

 

え、なに?会話成り立ってないんだけど?またドッジボールなの?

 

「今まで黒崎君はずっと一人で何とかしてきたでしょ?私のお願い事も、中学の時の事も」

「ま、まあ、そうなるな」

「でも、今回初めて黒崎君の役に立てた。今までも少し関わることはあったけど、それって黒崎君がその気になればなんとかなることだったでしょ?」

 

確かに、相馬の一件の時に安城を頼ったことはあったが、それも俺自身でどうにかできないわけではないことだった。ただ効率を考えての行動だった気がする。

でも、今回は安城達の協力が無ければどうにもならない問題だった。今までの俺のやり方とは打って変わったチームでの作業だった。

 

 

「黒崎君が、一人じゃないって気付いてくれたことが、凄くうれしかったの」

 

安城の言葉に恭子も、いつの間にかハンバーガーを完食した木場も、笑顔で首を縦に振った。

 

――そっか。これが俺の欲しかったものなんだ。

 

「く、黒崎君が……」

「笑って、ますね」

 

そう言えば、安城と木場の前でほほを緩ませた事なんて一度もなかったか。

むしろ、ここ最近で笑ったのは恭子と公園で話した時と雪里と部室で話した時ぐらいなものだった。

 

「……さて、新商品のアボカドバーガーでも食べるか」

「え~!黒崎君、もっかい笑ってよ!もっかいだけでいいから!」

「仮に笑ったらどうするんだ?」

「写真に撮る!」

「お断りだ」

 

その後も笑え笑えと言ってくる安城の要求には答えず、俺はハンバーガーを食べ続けた。ハンバーガーなんて食べなれたものだと思っていたが、今日のハンバーガーはいつもの数倍美味しく感じた。

 

 

 

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