6月某日、天気、雨。雨である。俺は雨が嫌いじゃない。雨の日は体育もクーラーの聞いた室内で行われるし、授業中、窓から眺める雨は趣があり、暇なときは窓にかかる水滴の数を数えるほどだ。それは流石に暇すぎ。暇すぎて逆に神経使うな。
美化活動の一件は俺のアドバイスが功を奏したの改善され、ゴミ箱は綺麗に使われるようになった。だが、肝心の勧誘に関しての俺の提案などまるでなかったかのように安城は勧誘しまくってくるのだ。どうやら俺の投じた渾身の一球は簡単に叩き落とされてしまったらしい。叩き落としたらそれはドッジボール的にアウトな気もするが、もはやそんな常識は通用しない高みに安城はいるらしい。
「はい、ランニング終わり~つぎ二人一組でストレッチな~」
体育教師の声に体育館を周回していた生徒たちは足を止め、息を切らしながら体育館の中央に集まる。そう、先ほど言ったように雨の日の体育は体育館で行われるのだ。ちなみに晴れていた場合は長距離走とかいう地獄だった。いやあれほんと地獄でしょ。そもそもなんで男女で距離違うの?男子は1500メートルで大丈夫とかその自信どっから来るの?
そんな事を考えていると周りでは徐々に二人一組が出来始めている。よし、俺も誰か探そう。
「黒崎君、良かったら俺と組まない?」
そう言って微笑むのは……だれだっけこいつ?たしかクラスの人気者でバスケ部でリア充な越前だっけか。全部知ってんじゃねーか俺。なんで知らないふりしたの?
「いいけど……」
別に誰と組もうとただストレッチをするだけで特に変わりは無いのだが、疑問なのは越前が急に俺を誘ってきたことだ。こいつに限ってあぶれるなんてことはまずないだろうし、俺以外にもまだ組ができていない奴もちらほらいる。その中で俺を選ぶ理由があるのか?それとも俺が自意識過剰なだけ?
疑問に思いながらもストレッチを進行する。
「次、俺が押す番だね」
名前は分からないが足を前にのばしてそのまま上体を前に倒すアレをやる。先ほどやってみたが越前はあり得ないくらい前に倒れていた。正直骨を折ってしまったかと不安になるほどだった。
「それじゃあ押すよ~。1、2……」
越前に押されるまま俺は上体を倒す。
「あれ、黒崎君結構柔らかいんだね?中学では運動とかしてたの?」
あれだよね、リア充ってやたら中学の事聞いてくるよね。中学の時の部活とか中学の時の成績とか中学の時の恋の話とか。リア充たちはそうやって高度な情報戦を行い、その結果グループが形成される。いつのまにか戦って無かった連中もそれに感化されてグループを作る。そうして俗に言う1軍、2軍、3軍とカーストが決められていく。中には全てのグループを渡り歩く八方美人もいるらしいが、それはまだお目にかかったことが無い。
「……」
そんな情報戦をする気は無いのでストレッチに集中している風を装う。最悪文句言われても「え?なんだって?他の人の声がまざって良く聞こえなかったよ」とでも言っておけば誤魔化せるだろう。
そうしているうちにストレッチは終わり、授業が始まる。今日の種目はバスケットだ。授業でイキリまくるサッカー部とは対照にバスケ部というのは温厚な生き物だ。レギュラー補欠問わずにミスしたら『ドンマイ』、いいプレーをしたら『ナイス』と声を掛け合う。なんだろうか、サッカー部にもいい人はいるのだがどうしてもサッカー部の悪いイメージが払拭できない。あれだな、こないだサッカー部の3年生と思われる奴らが給水所で水掛け合って遊んでたの見たからかな。お可愛いこと。
「黒崎!パス!」
「え?」
ボーっとしていたら急にとんできたボールが俺の顔面にクリーンヒットする。ボーっとしている奴に急にパスするなんてひどい。いや、試合中にボーっとしてる奴の方がひどいな。
俺はそのまま床に倒れる。ちゃんと尻から倒れたおかげで頭は無事。転び方にも上手い下手があるわけよ。
「黒崎!大丈夫か?」
体育教師が俺のもとに駆け寄ってくる。大丈夫な奴がパス取り損ねて顔面ブロックすると思いますか?全部自己責任だけどさ。俺はゆっくりと起き上がり、頭を振ってみる。特に痛くはないな。
「あ、はい。大丈夫みたいです」
「一応保健室で見てもらってこい。だれか黒崎についてやってくれ~!」
おいバカやめろ。公開処刑じゃないか。これであと1時間くらいは『顔面ブロックの黒崎』の話でもちきりになっちゃうだろ。
「あ、じゃあ俺行きます」
名乗り出たのは越前だった。越前は俺に手を差し伸べ引っ張りおこす。そのまま俺たちは体育館を出る。
「越前、俺になにか用か?」
渡り廊下を半分進んだところで俺は越前の肩から手を離す。
「……やっぱりばれてたか」
「当たり前だろ。今までまったく喋ったことのない奴が急に親しくしてくれば誰でも不思議に思う」
越前は苦笑いしながら首を触る。なんでイケメンってみんな首痛めてんの?ちゃんと治療してもらえよ。
「実はさ、黒崎君にお願いが合ってさ」
「断る」
「いや、せめて話だけでも」
なんだか猛烈なデジャヴを感じる。お願いがある、話だけでも。このセリフを今年に入ってから何度も聞いている。
「お前、安城になんか言われたか?」
「すごいな君は。まるでエスパーだ」
「余計な勘が働くもんでな」
「え?」
「……なんでもない。それで、安城はなんて?」
「黒崎君がいろいろ助言してくれるって。最近校内がきれいなのも君の助言のおかげだって」
案の定安城が余計な事を言ってまわっているらしい。雪里とは大違いのお喋りだな。とにかくこのまま広まる前にくぎを刺しておかなければ。
「言っておくが俺は好きこのんで安城に助言したわけじゃない。あいつは毎回俺の話を聞かずに外堀から埋めてくるんだ」
「でも、安城さんは黒崎君を高く評価してるし、君の話は分かりやすくて参考になるって」
「問題は助言するかどうかじゃない。安城を手伝う事で俺が悪目立ちするところなんだよ」
「別に悪目立ちはしてないと思うよ。むしろ君は感謝されてるじゃないか」
駄目だ、このわからんちんリア充は俺が話を聞くまで折れてくれそうにない。さっきはあんなにしなやかにストレッチしてたのにいまじゃ鉄骨のごとき堅さだ。
「感謝されようがなんだろうが俺は平穏に穏便に過ごしていたいんだよ」
自分でもだんだん口調にとげがでていることが分かる。なんというかこいつの発言は不愉快だ。
「わかった。それじゃあ取引しよう」
「取引?」
「俺のお願いを聞いてくれたら安城さんに君を勧誘するのをやめるように説得する。これでウィンウィンだろ?」
「どこがウィンウィンだ。俺がお前のお願いとやらを仮に完遂したとしても、お前の説得が上手くいく保証がないだろ」
さんざん働いた後で約束自体を無かったことにされても困る。そもそもこういう場合、先に行動した方が痛い目を見るのが世の常だ。
「君はどうして安城さんが君を勧誘するか知ってるかい?」
「それは……俺が使えると判断したからだろ」
なんか自分で言うの凄く恥ずかしいな。帰ったらベッドでバタバタしそう。
「まあ、それも正解なんだけど、彼女が君を誘うのは生徒会の今後の為でもあるんだ」
「生徒会の今後?」
「そもそも君が優秀だったとしても、生徒会がちゃんと機能していれば安城さんの行動は必要ないだろ?」
「それは、生徒会が機能してないってことか?」
そういえば、アンケートの一件も、美化活動の一件も、安城以外の生徒会メンバーがそれに関わっているという話は聞かない。毎回安城が俺に協力を求めるのは、仕事の量が安城のキャパシティを超えているからということだろうか。
「安城さんは持ち前の明るさでみんなから人気があるし勉強も出来る。それに困っている人を放っておけない性格だと俺は思う。だからこそ、生徒会は安城さんありきの体勢になっているんだ」
生徒会は安城に頼り、安城は俺に頼っているわけだ。
「……そんな運営でよく生徒会って形を保てるな。会長とかは批判されないのか?」
「んー。会長は言っちゃ悪いけど結構変人というか、思想が偏っているというか」
「ポンコツな訳だ」
「まあ、そう捉えてくれて構わないよ」
「それで?安城が生徒会でこき使われてる話がどうかしたのか?」
「ああ、ごめん、話題が逸れちゃったね。つまり安城さんは次の生徒会のメンバーとして君を勧誘してるわけであって、要はちゃんと働いてくれる人がいればそれで問題解決な訳だよ。だから、君が俺の頼みをきいてくれたら、俺が生徒会に入るよ」
確かに、イケメンリア充の越前が生徒会に入れば自然と次の生徒会メンバーは越前の親しい人物で固まるだろう。そこで越前が仕事を分担すれば俺なんて必要なくなるだろう。
ただ、ひとつ問題がある。
「お前、バスケ部はどうするんだ?キャプテンとしての仕事と生徒会、両立できると思ってるのか?」
「もちろん、そこは上手くやるよ」
上手くやる、だと?
「簡単に言うが、生徒会の仕事は一筋縄ではいかないぞ。予算の計算、捻出、管理。各部活動および委員会の活動費用、名簿の管理、仕分け。委員会会議や部会の書記およびその書類の管理、イベント事では企画、進行、運営。その他備品整理や設備点検、よその学校との交流、雑務。その全てを各々が自主性をもって取り組まなければ回らない。よく知らんがバスケ部だって大事な大会や試合があるんだろ?それを生徒会と同時並行で出来る能力が一般的な高校生にあるとは到底思わない」
俺が急に長々と語ったことに驚いたのかドン引きしたのか、越前は唖然としていた。が、すぐに落ち着いたようで口をひらく。
「すごいな、良くそんなに生徒会について知ってるな」
……越前の発言に対してはスルーしよう。これ以上、興味を持たれても困る。このまま話を続けたところで何にもならんしな。仮に越前が生徒会に入ったところで改善するとは考えられない。時間の無駄だ。
それにそもそも俺にはどちらも関係ないわけで、知らぬ存ぜぬを通せば俺の望む平穏な生活は保たれるのだから。
だが、それでいいのか?二人とも時間をかけ考えた上で俺を頼っているのではないのか?
それに対し俺は考えることを放棄し、自分の為だけに断っていいのか?
……そんな呟きが、どこからか聞こえてくる。その声の正体については考えるまでもない。
その声に従う気は無い。従えばきっと、“また間違える”
だけど本当にそれでいいのか?間違えるのが嫌だから、俺はその声を無視するのか?
……理由があったはずだ。俺が安城を二度も助け、今、越前の言葉に思考を巡らせる理由が。
……分からない。
でも、俺はその理由を分からないままで生きて行きたくない。知らないことはひどく恐ろしいのだ。
それなら――
「わかった。お前の用件を聞いてやる」
気付いたら、俺はそんな言葉を発していた。
「え?それじゃあ俺の提案でいいのか?」
「安城を説得する必要は無い。単に俺が引き受けるだけでいい」
「え?」
「お前に半端な気持で生徒会をやられるくらいならそんな条件はいらない。取りあえず、放課後部活が終わったら正門に来い」
「あ、ああ。ありがとう。助かるよ」
俺はそのまま越前を放置し渡り廊下を進む。しばらく歩くと、廊下の途中のトイレから安城がでてくるのが見えたので俺は足を止める。
「あれ?黒崎君?」
「ちょうど良かった。お前に言っておくことがある」
「え、な、なに?」
「俺がお前に助言したとか手伝ったとか他人には絶対に言うな。迷惑だから」
「あ、う、うん。ごめん……」
「その代わり、なにか面倒なことがあったら話くらいは聞いてやる」
「え?」
俺はそのまま安城の横を通り過ぎる。別に安城に同情したとか、越前の態度がきにくわなかったからこんなことを言った訳じゃない。
ただ、あの二人を見ていると、嫌気がさしたのだ。
あの二人は、俺と同じ道をたどろうとしているから。
今は、それが理由でいい。本当の理由を見つけるための仮初めの理由。
俺は、その答えを探すために、越前の話をきくのだから。
***
放課後、忘れていたが今日は職員会議のため部活動はすべて休みの日だったらしい。それゆえ越前はすぐに正門へとやってきた。
取りあえず落ち着いて話を出来る場所に移動しようと提案すると、越前はいい店があると言ってきた。別に話が出来れば店のよしあしなんてどうでもいいのだが、越前が余計な気をまわしてくれているのでそれに乗っかることにした。
既に雨は上がり、空はからっと晴れ渡っている。道行く小学生は傘でちゃんばらをしたり意味もなく傘をさかさまにしてくるくる回したりしている。また、水たまりからは太陽の光が反射し、ときどき目がちかちかする。
「黒崎君は普段何してるんだい?」
「寝てる」
「えっと……習い事とかは」
「してない」
「好きな食べ物は?」
「サンドイッチ」
「へ、へえサンドイッチか。意外だね」
「お前サンドイッチなめんなよ。食パンさえあれば中身は体調や気分にあわせて自由に
調整可能、さらに火も包丁も使わずに作ることもでき片手で食べながら作業できる偉大な食べ物なんだぞ」
「う、うん。そうだね」
絶対こいつ『こいつ熱くなるとすぐ早口になるよな』って思っただろ。言っておくがこれでもかなり端折って伝えてるんだぞ。俺が本気を出せばサンドイッチについてで小一時間語り続けられるほどなんだぞ。
その後も越前の長ったらしいアイスブレイクに対しドライアイス並みに低温の答えを返しながら俺たちは駅前へとやってきた。この流れはマックかモスだな。間違いない。
が、越前は何を思ったか路地裏へと入っていく。
「お、おい。どこいくんだよ」
「いいから、こっちこっち」
仕方なく越前の後を追って路地裏にはいると、何やら外国語で書かれた看板が見えてきた。全く読めん。やっぱりアメリカ語は難しいね。
「ここ、俺のバスケットの知り合いがやってる店なんだ。この時間はほとんど客はいないから」
むしろこの時間が一番客引きすべき時間なのではないだろうか。まあチェーン店と自営業だと違うのかも知れんが。
木製の扉を開く越前に続いて入店する。店内は茶色を基調とした壁紙に、小さな円卓が間隔をあけて3つ、さらにカウンターに丸椅子が4つくらい並んでいる。そして客はいない。
「おお、和人じゃねえか。久しぶりだな」
カウンターでコップを吹いていたスキンヘッドのおっさんが越前の来店に反応する。
「こんにちは響さん。客足は相変わらず見たいだね」
「ほっとけ。そっちのは?」
「ああ、彼は学校で同じクラスの黒崎君。ちょっと長話になるけどいいかな?」
「別に構わんぜ。あ、でも飲み物くらいは注文しろよ」
「オーケーオーケー」
越前は適当な席に座ると、俺に向かいを促してくる。俺はそれに従い席に着く。
「ちょっとお腹へったね。なんか食べようか」
そう言って越前はメニュー表を俺に向けてくる。
看板が英語だったからメニューも英語かと思ったが、ちゃんと日本語で書かれていた。
ピザにチャーハン、お好み焼きに、焼き魚定食……ここ何の店なんだ?こんなに統一性なかったらそりゃあ客も困るだろうに。取り合えずメニューを全部見てみる。ついでに右下には『ベアトリーチェ』とポップな日本語で書いてあった。おそらくこれが店の名前なのだろう。
「それじゃあ、パンケーキ」
全部見た結果、一番軽そうなメニューを注文する。これから長丁場になるのにラーメンとか食べたら寝落ちする自信しかないからな。
「それじゃあ、俺はボンゴレ」
「あいよ、飲み物はどうする?」
「俺はミルクにするけど、黒崎君はどうする?」
「同じものでいい」
響と呼ばれていた男は先にコップにミルクをつぎ、俺たちのテーブルに運んでくる。
「料理はあと10分くらい待ってくれ。それじゃあごゆっくり」
響が厨房で調理を始めると同時に越前は口火を切る。
「それで、相談の内容なんだけど。一言でいうと体育館の取り合いをやめさせてほしいんだ」
「……ちょっと良く分からないんだが」
体育館の取り合い?そんな話聞いたことないぞ?そもそも誰が取り合ってるんだ?昼休みのバドミントンのコートでも取り合ってるのかね。
「えっと、黒崎君も知ってるだろうけど俺の所属するバスケ部や他にもバドミントン部、バレー部、ハンドボール部は普段体育館で練習してるんだ」
「そうだろうな」
「うん。それでいつもは部長どうしで話し合って半コートずつ、一日に2つの部がつかうことになってるんだ」
俺は黙って続きを促す。
「でも最近、雨の日が多いだろ?それで外で練習してるサッカー部と野球部が勝手に体育館で練習しだすんだ。それで他の部もそれに反発して、もう練習どころじゃないんだよ」
確かに、雨が降ったら外で練習は無理だな。
「というか、サッカー部と野球部の顧問に文句言えば何とかしてくれるんじゃね?」
「それが、サッカー部顧問の松岡先生はユースチームの指導員として北海道に遠征中で、野球部顧問の茂野先生は育児休暇をとってて、二人とも来月までいないんだ」
「……それじゃあ他の先生は」
「実は、サッカー部のキャプテンの相馬君の親御さんは学校に多額の寄付をしてて、先生たちもなかなか注意しずらいみたいなんだ」
なるほどバカ息子の機嫌を損ねるとバカ親の機嫌まで損ねかねないと。つまりは教師陣は当てにせず、生徒たちで解決するしかないと。
「確認なんだが、体育館を使う部活はさっき言った4つだけか?」
「そうだね」
「そこに野球部とサッカー部……6つ巴になってるわけだ」
6つの勢力が一つの体育館を取り合う。体育館を使えるのは1日に二つの部だけ。サッカー部と野球部は本来体育館を使う部活ではない。状況としてはこんなものか。
「体育館を使わない日はどんな練習をするんだ?」
「基本的に廊下練か部活そのものを休みにしてるかな」
「参考までに、バスケ部の廊下練のメニューを教えてくれ」
「えっと、一階の廊下を40周、その後筋トレ、休憩をはさんで階段でダッシュ、休憩してストレッチ、解散かな」
「廊下練の時、他の部と使用場所がかぶることはあるか?」
「いや、基本的には部同士でメニューを上手く組んでるから場所がかぶることはないよ」
「なるほど、あとは……」
それから1時間くらいで情報は出尽くし、俺たちは店を出た。ちなみにパンケーキはめちゃくちゃ美味しかった。また来よう。今度は一人でゆっくりと味わいたい。
「それじゃあ、俺はこの後本屋に行くから」
越前は俺に小さく手を振る。
「そうだ、今回の件、いつまでに終わらせるのがベストだ?」
「そう……だね。バド部が来月の頭に試合があるって言ってたから練習時間も考慮して来週半ばくらいには」
今日が火曜ということは一週間ちょいか。あんまり時間がないな……。
「とりあえず了解した。もしかしたらまた何か聞くかもしれない」
「オーケー。俺も手を貸すから困ったら言ってくれ」
困るのはお前が持ってきた相談ごとのせいだけどな。
***
翌日。結局昨日は体育館の件についてずっと考えていたためほとんど寝れていない。
そんな俺に対し朝の教室はにぎやかに……というかうるさいくらいに賑わっている。おかげで寝れないのだが、寝ないのなら少しやることがある。
「そんでさー実はあそこの裏に隠しダンジョンがあってさ、もうボスが鬼つよなんだよ~だからさ、今日の夜狩りにいかね?」
あいつは確か……上原だったか。所属はバスケ部。こないだの数学の小テストのランキングで上位にいたっけか。性格は明るく、ムードメーカーってところか。
「まじかよ!ぜってーレア素材あんだろ!いこうぜ!」
その隣、猿渡。所属はバド部。よく遅刻してくる遅刻常習犯だが、よく面白い言い訳をしてクラスを賑わせているお茶らけ担当。
「なあなあ、和人もやろうぜ!今日の11時に部屋つくるから!」
「あ、ああうん。いいね。俺もレア素材欲しいな~」
「えー?和人くん明日塾の模試だって言って無かった~?」
水野。クラスでもトップクラスの美少女で、女子の中でカーストもトップ彼女をねらう男子も多いが何分高飛車な性格で全員撃沈している。
「あ、ああうん。大丈夫だよ。毎日勉強してるし、前日に詰め込んだって悪あがきだよ」
そしてグループのリーダー、越前。見た目よし、性格よし、成績も学年でトップクラス。クラスでも中心的な存在である。
何故俺が興味もないクラスメイトの観察をしているかと言うと全ては体育館の件を解決するためだ。安城を手伝った時のアンケートやゴミの問題は誰かに悪意があって起きたものでは無かった。だが、今回はサッカー部と野球部の傍若無人な行いから問題が起きている。人の感情や行いが火種な以上、人物の関係や周りの状況を見て解決策を考えるほかない。
クラスで特に親しい友人もコミュニティのない俺が出来ることは人間観察程度だ。
だが、今朝の教室をみて分かったことがある。それは今回の件で個人同士の繋がりは切れていないということだ。例えば上原と猿渡は今回の問題の渦中にいるバスケ部とバド部の所属だが、今日も親しげに話している。クラス内には当然サッカー部や野球部の部員もいるが、彼らが言い争う様子もない。つまり争っているのはあくまで部という単位であり、個人個人がいがみ合っているわけではないのだ。
そうなると、そろそろ解決の方針を決めなければいけない。
方針1、野球部とサッカー部に出て行ってもらう。
これは越前をふくめ各部活動が望むところだろう。そもそも彼らの勝手な言い分で体育館に入ってきたのだから至極真っ当な方針である。問題点としては、彼らを説得、あるいは言い負かす文句が必要なこと。
方針2、体育館を譲り合う。
これは要するにサッカー部と野球部にも体育館を使う権利を与えること。その代わり、当初越前達がやっていたように交代制で半コートずつでの使用になる。雨の時期が終われば彼らは再び外で練習するだろうし少し我慢して妥協しようという方針だ。問題点としては他の部がそれで納得するかどうかだ。もともと自分たちに与えられていた権利や時間をなぜサッカー部たちに訳与えなければならないのか。争いが白熱しているこの状況で妥協してくれる部なんてないだろう。
このどちらかの方針をとるのがベストだろう。だが、どっちにしても俺一人でどうこう出来る規模ではない。現在俺が動かせるのは俺自身と越前だけ。流石にコマが足りなさすぎる。となると必要になってくるのは協力者。それも今回の件の渦中にいて俺が考えた方針のどちらかに賛同してくれる人物だ。
……そんな人脈ないじゃん。
落ち着け、ダイレクトに目的の人物にアクセスしようとするから駄目なんだ。こういうときは身近な人物から徐々にネットワークを広げるべきだ。
雪里……は文化部だし、こんな争いに巻き込むのも申し訳ない。後俺の知り合いと言えば……。
消去法、というほど選択肢があるわけでは無いので必然的に答えは出てしまう。