黒崎君は助けてくれない。   作:たけぽん

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4. 黒崎君!練習場所を取り戻して!(中篇)

「という訳なんだが」

 

昼休み彼女が一人になったところを見計らって時間をもらい、以前の空き教室で事情を話す。

 

「なるほど……」

 

安城は俺の話を聞き終えると一端食べていたおにぎりを膝の上に置く。もちろん、越前から聞いた生徒会の内情についてのことは話していない。それを言えば、俺が今回の件に関わっている理由から何から話さなければならなくなるからだ。

 

「初めてだよね、黒崎君から私に相談してくるのって」

 

安城はすこしニヤニヤしながら上半身をを左右に揺らす。

 

「まあ、普段ならお前に用事なんて全く無いからな」

「ひどっ!」

「それより、どうだ?該当する人物はいるか?」

「うーんと、バスケ部の千鶴ちゃん、バド部の葉月ちゃん、バレー部の類ちゃんと、後は――」

「ちょっとまて、男子はいないのか?」

「え?なんで?」

「今回の問題の引き金はサッカー部と野球部だ。男子しかいない部活だから、出来ればその辺と密接な関係のある奴が好ましい。そうなると男子の方が都合がいい。後は」

「後は?」

「最悪お前に泣き落としてもらう」

「古典的っ!てかなにナチュラルに私を売ろうとしてるのさ!」

「これまで散々俺に頼みごとをしてきたのによくそんな態度がとれるな」

「ひっ!ご、ごめんなさい……」

「冗談だ。別にお前を売るつもりは無い」

「よ、よかった……ていうか黒崎君かなりSだね……」

「とにかく、できるだけ男子で絞ってくれ」

「はーい」

 

安城はスマホをとりだし、画面を操作しだす。え、なに?ひょっとしてこいつみんなの連絡先知ってるの?なにそのコミュ力、営業行かせたらめっちゃ契約取ってこれそうなエリート感半端無いんだけど。

 

「そうだな~。サッカー部の福田くんか野球部の川俣くんかな~」

「いきなり発端そのものに当たるのか……」

「やっぱ駄目かな?」

「……いや。ちょうどいいかもな」

「どういうこと?」

「正直、俺は越前から話を聞いた時、サッカー部と野球部が悪だと考えた。勝手に体育館を使いだしたわけだからな。だが、今朝教室の雰囲気を見て、両部の全員が体育館を横領しようとしてるわけじゃないんだと思った。それがただしければサッカー部と野球部に味方を作れる可能性がある」

「そっか!、確かに!」

「安城、悪いけどそいつらに会えるようにセッティングしてくれないか?越前の名前で呼んでくれればいい」

「それはいいけど……」

 

安城はなにか煮え切らない様子だ。

 

「けど、なんだ?」

「黒崎君、なんでそんなやる気なの?こないだも急に面倒事があったら話し聞いてくれるとか言いだしたし」

「……別に、しつこく勧誘されて目立つくらいなら多少手を貸したほうが結果的に目立たないと思っただけだ」

「そうなの?」

「なんだ、まだなんかあるのか?」

「なんか黒崎君、最初に話した時と違うなって」

「ちがう?」

「うん。最初にアンケートのことで助言してくれた時の黒崎君は暗い感じで、話してても私の方を見てなかったっていうか。でも今は、発言や態度こそ前と変わらないけど、普通にクラスの中心にいてもおかしくないって感じ」

「……抽象的で良く分からんな」

 

俺が本心から分からないと言ってるなんて、安城も思ってないだろう。

俺だって分かっている。自分が変化しかけていることくらい。いや、変化という言葉は適切ではないかもしれない。俺に頼みごとをし続けてきた安城は一番近いところで俺の言動を見てきた訳で、そんな安城と接しているうちにいつかの自分が外に出ようと暴れ出してくるのだ。そのたびに、その自分に全部委ねてしまおうかと思ってしまう。でも、そうさせないのは、俺自身がその行く末を知っているるからに他ならない。

だから、あの時の自分では無く、そして今の自分でもない、新しい自分として、少しだけ踏み出してもいいのかもしれない。

 

**

放課後、再び空き教室。俺がひっぱりだし、雑巾がけし、教室の真ん中に置いた長机で俺の向かいに座るのは野球部の川俣。野球部と言うだけあってやはり坊主頭、そして着なれたであろう練習着。そしてなにより特筆すべきところは、顔が怖い。坊主頭でなければもうすこし中和されるのだろうが、スーツを着せて繁華街にほうりだせばとてもカタギさんには見えないだろう。そんな川俣は無愛想な表情で俺の言葉を待っている。

 

「えーと。来てくれてありがとう。川俣……くん」

 

自分でも違和感ありありの口調とスマイルで謝辞を述べる。

 

「俺、越前から大事な話があるって言われてきたんだけど。お前だれ?」

 

ひ、ひええ。声もかなり渋くてロックな感じだ。いや、これで甲高い声とかだったら絶対に噴き出してただろうけど。

 

「越前は、その……顧問に呼び出されたみたいで、俺は代理人みたいなもんだ。ほ、ほら、ちゃんとあいつから話の要点をまとめたメモも貰ってる」

 

俺はポケットから白紙のメモを取り出し、あたかもそれを確認しているようなそぶりを見せる。

 

「まあ、それならいいや。そんで、越前の話ってのは体育館のことだよな?」

 

話が早くて助かるな。いや、そもそも越前が今野球部と接触を図るってのはつまりそういうことだって予想できるか。

 

「そうだ。越前は今回の体育館の取り合いに対しては穏便に争いを終わらせる方針で考えている」

「その方針ってのは?」

「サッカー部や野球部が雨で練習できないという現状は理解してる。だからといって好き勝手に体育館を使われたんじゃ他の部もたまったもんじゃない。特にバド部は来月に大事な試合があるから体育館を使える日はとても貴重なんだ。だから、両者が納得のいく落とし所として、そっちが体育館利用のルールに従ってくれるなら譲り合って使おうという方針だ」

 

俺が言っているのは方針2だ。実のところを言うとまだ方針は定まっていない。もしかしたら方針1をとる可能性もあるが、最初から方針1を提示すれば反発されるのは間違いない。そういう意味で、無難な方を仮決定として話を進めることにしたのだ。

 

「そんな提案しなくても、俺たちを無理やり追い出せば解決じゃないのか?」

「言っただろ、野球部とサッカー部の事情を考慮しての落とし所だって。でもこの方針で進めるにあたって、まずはそっちの内部事情を把握しておきたいんだ」

「内部事情?」

「そうだ。まず聞きたいのは今回の体育館使用の発案者は誰なんだ?」

「それを聞いてどうするんだ?」

「単純な話だ。発案者に直接今の話を持ちかける」

「なるほど……」

「ちなみに川俣……くんのプライバシーは尊守する。都合が悪くなったら越前の名前を出してくれても構わない」

 

川俣は少し沈黙した後、口を開いた。

 

「発案者はサッカー部キャプテンの相馬だ」

 

やっぱりか。

 

「ありがとう。それじゃあ次の質問。野球部はなんで相馬の考えに同調してるんだ?相馬と同じ考えの人がいるのか?」

「それは……その……」

「オーケー、言えないなら言わなくていい」

 

この反応からして相馬に同調するのは野球部の本意ではないのだろう。

 

「それじゃあ、川俣君含め野球部は方向としては越前の案に賛同しても構わないってことでいいか?」

「……そうなるな」

「よし、大体分かった。貴重な時間を割いてくれてありがとう。これ、越前の連絡先だから他に提供してくれる情報があったらここに送ってくれ」

「ああ、わかった」

 

川俣はのそりと席を立ち教室から出て行く。

 

「……ふう」

 

疲れてる場合じゃない。次はいよいよサッカー部の部員の登場だ。今のうちに聞いたことをまとめておこう。

 

1、今回の事の発案者は相馬

2、野球部は何らかの理由で不本意ながら相馬に同調している

3、野球部は方針2の障害にはならない

 

こんなところか。後はサッカー部の福田に話を聞いてからだな。

 

待つこと10分、再び教室の扉が開く。その陰からサッカー部の福田が姿をみせる。身長は高めで長髪。いかにもサッカー部って感じだ。俺は立ちあがってかるく会釈し、自分の向かい、さっき川俣が座っていた席に誘導する。福田はそれに従い席に着く。

 

「きてくれてありがとう。俺は越前の代理の黒崎」

「体育館の話か?」

 

越前の名前で呼び出された時点で大方察してくれたらしい。説明の手間が省けあたて良かった。

 

「えっと、それじゃあいくつか質問させてもらう。福田……くんのプライバシーは尊守するからその点は心配無用だ」

 

福田はだまって俺の言葉を待つ。

 

「まず最初に、君は相馬君の事をどう思う?」

「……うざい。調子こいててマジむかつく」

 

思った以上にストレートだ。

 

「サッカー部の中でもそう思ってる人は多い?」

「半々って感じ。あいつを崇拝してる奴もいれば俺と同じ考えの奴もいる」

「なるほど、それじゃあ体育館を占領してるのもその一部の人間で福田……くん達は反対してるのか?」

「そうしてえよ。俺たちは好きでサッカーやってるけど、それで他の部の邪魔したらスポーツマン失格だろ……。でも、無理なんだよ」

「無理ってのは?」

「お前知らないのか?相馬の親はこの学校に多額の寄付をしていて、校長すら頭が上がんねえんだ」

「それは知ってるが……もしかして」

「そうだよ、相馬の親は学校だけじゃなくサッカー部にも寄付してるんだ。ユニホームやシューズ、遠征のバスだって全部そのおかげで使えるんだ。だから、あいつに逆らえばサッカーそのものができなくなるんだ」

 

思っていた以上に相馬ってやつはバカ息子らしい。

 

「それじゃあ次の質問。サッカー部、いや相馬は野球部になにか脅しをかけてたりしないか?」

「それは……」

「頼む。それが分かるかどうかで今回の件は大きく変わるんだ」

「……野球部の顧問が育休とってるだろ?でも相馬の親はそういう休暇をあまり良く思っていないんだ。だから、野球部の連中に顧問がクビになるのが嫌なら従うように言ったんだ」

 

まあ、金でゴリ押しすれば顧問をクビにすることも不可能じゃない。その場合いろいろ面倒な事態がついてくるだろうから相馬の親もいくらなんでもそんなことはしないだろう。

だが、それは俺含め野球部のやつらも常識的に考えてたどり着く答えだろう。だが、可能性が全く0な訳じゃない。万が一、億が一でもそうなってしまった場合、野球部の顧問の人生は崩壊する。重要なのは相馬の親がそれをするかどうかでは無い、それが可能であるかどうかだ。

 

「じゃあ、最後の質問。越前は体育館を譲り合って使う方針なんだが、サッカー部の、福田君たちはそれに賛同したいって気持ちはあると思っていいか?」

 

福田は無言で頷く。

 

「そっか。今日は貴重な時間を割いてくれてありがとう」

 

定型文を述べた後に先ほど同様越前の連絡先を渡す。

 

「……ふう」

 

取りあえず状況は前よりずっと明確になった。

サッカー部ではキャプテン相馬の独裁政治がおこなわれており、歯向かうものは金で屈服させる。野球部は体育館横領の兵士として顧問を人質にされ抵抗不可能。

つまりは相馬の説得に成功すれば万事解決だが、問題なのは相馬の親の存在だ。今までの話からして結構なバカ親だと想像できる。誰かが相馬に異議を唱えれば野球部の様に脅されることは間違いないだろう。つまり、必要なのは説得では無く、相馬本人に自主的に引いてもらう事だ。相馬の意志で方針2を受け入れてくれれば被害者はゼロ、全ての部活が体育館を使用できる。目指すべきところはそこだ。

そのために必要なピースを少なくとも今週中に揃えなければいけない。

 

「……」

 

なにが必要だ?相馬自身の意識改革を目標に設定した以上、こちらからアクションを起こしていることを悟られてはいけない。

そうなると相馬という人物についても少し情報が欲しいところだ。

時計を見ると、4時50分をさしていた。時間的に、部活動は始まっているはずだ。

俺は重い腰を上げ、長机を窓側に寄せ空き教室を後にする。

 

***

 

 

 

「へいパス!パス!」

「プレッシャーかけろ!そこ!」

 

体育館には練習するサッカー部の声と、床とシューズのそこがすれる音が響いている。どうやら体育館一面を使ってミニゲーム形式の練習をしているらしい。その端では野球部が筋トレをしている。だが野球部の面々の表情には生気がない。中には恨めしそうにサッカー部の練習を見ている者もいる。入口付近のホワイトボードには体育館の利用表が貼ってあり、今日の欄にはバドミントン部と書かれているが、もはやこの表は全く機能していないようだ。

俺はこっそりとゴールの後ろのステージに上がり、少しの間ミニゲームを観戦することにした。

当然だが2チームに分かれているようで、緑のゼッケンをつけているものと赤のゼッケンをつけているチームがボールを追いかけている。

スコアボードを見ると、緑チームが大差をつけて勝っている。かなりの差に驚いたが、その理由はすぐに分かった。どうやら緑チームは2年生の部員で編成されており、赤チームはほとんどが1年生、それもあまり上手くない選手で編成されているようだ。

力の差は歴然。像とアリの戦いと言えるくらいの理不尽なゲームだ。

俺が観察していると、デジタルタイマーの数字がゼロになり、同時にそれを伝えるための音が響く。

 

「ちっ、もう終わりか……。おい!さっさとコート出て休憩しろ!」

 

大きな舌打ちをしたロン毛の人物は荒い口調で全員をコートから出す。そんな中、赤チームの一人がコートの中で動けずに足を抑えている。どうやら足をつってしまったらしい。

 

「おい、お前!早くコートから出ろ!」

 

ロン毛は尚も荒い言葉をかける。

 

「す、すみません相馬さん、足つっちゃって……」

「はあ!?つったくらいでなさけねえ声出してんじゃねえよ!お前が休憩しないせいで練習時間が無駄になるだろ!チームの足ひっぱってんじゃねえよ!」

「す、すみません!」

 

赤ゼッケンは無理やり立ちあがり、足をかばいながらコートを出ようとする。

そしてどうやらあのロン毛が相馬らしい。なんというか、予想してた通りの外見だな。

 

「あーもう!さっさと歩け!」

 

相馬は怒鳴りながらボールを足元に置き、赤ゼッケンに向けてそれを蹴った。サッカー部のキャプテンだけあって見事なコントロールでボールは赤ゼッケンの腹に直撃する。

 

「かはっ!」

 

倒れ伏す赤ゼッケンに対して、他の部員たちは助けに行くわけでもなく、心配した様子もなく、普通にドリンクを飲み、汗を拭きながら喋っている。その異質な光景に、俺はしばらく唖然とすることしかできなかった。

 

「お、おい相馬!やりすぎだろ!怪我でもさせたらどうするつもりだ!」

 

そんな傍若無人な相馬に対して異議を唱えたのは筋トレをしていた野球部の部員だった。

彼含め野球部の面々はこの状況が異質だと認識出来ているようだ。

 

「ああ?うっせ―んだよ!そいつがやめてくれって言ったのか!?」

 

相馬は赤ゼッケンを指差す。

 

「やめてほしいに決まってるだろ!お前のやってることはサッカーじゃない!ただの暴力だ!」

「暴力?何言ってんだ、俺はただ厳しく指導してるだけだ!なあ?」

「そうだ!相馬さんの指導のおかげで俺たちの技術は向上してるんだ!」

 

休憩していたサッカー部の部員たちが口々に言う。

 

「おい!君!君はそれでいいのか!」

 

野球部員は赤ゼッケンに声をかける。彼はやっと足の痛みが引いたのか、ゆっくりと立ち上がる。

 

「だ、大丈夫っす。すみません相馬さん!次からは足を引っ張ったりしません!」

「よーし良く言った。さっさと休憩しとけ!」

「はい!」

 

これは……やばいな。確かに相馬や何人かの部員のプレーはかなり上手かった。相馬が他の選手の技術を向上させているのは事実なんだろう。だからこそここにいるサッカー部は相馬を崇拝し従っているのだ。相馬の暴力的な行為も厳しい指導の一環だと認識してしまうほど、相馬に毒されている。相馬に従えば技術も上がって試合にも出れる。試合で活躍すればスポーツ推薦なんかもあるんだろう。

 

「おい三隅!」

 

相馬は先ほどの野球部員に呼びかける。

 

「今回は見逃してやるが、あんまり練習の邪魔するんなら、お前らの監督がどうなるか分かってんだろうな?」

「ぐ……」

 

三隅と呼ばれた野球部員は悔しそうに体育館の端にもどっていく。

 

「ひどい有様だろ」

 

俺の後ろから小声で話しかけてきたのは越前だった。

 

「越前か。バスケ部は今日は休みか?」

「一応廊下練で走ってるよ。俺は体育館の様子を見に来ただけさ」

 

越前は俺の横に腰をおろし、手に持っていたスポーツドリンクをぐびぐびと飲む。

 

 

「呼び出した彼らからはいい情報を聞けたかい?」

「まあ、発案者は相馬で野球部は顧問を人質に協力させられてるって事くらいだな」

「そんな内部事情まで話してもらえたのかい?」

「まあ、向こうのプライバシーの尊守を条件にな」

「なるほど……流石だな。……それで、何か解決案はあるのか?」

「相馬をつぶせば一発解決だろうな」

「お、おい……」

「冗談だ。外部からあいつに働きかければこちら側がつぶされるのは話を聞いて分かった。だから相馬を説得するのは諦めた」

 

さっきまでの言動を見るに、たとえ越前や他の部長たちが束になって説得しようとしても聞く耳を持ってはくれないだろう。

 

「つまり君は相馬君自身の意志で引いてもらおうって方針なわけか」

「そうなるな」

「できるのかい?そんなこと」

「正直ノープランだ。放置しても相馬は変わらない。だが外部から働きかけるのも不可能。八方ふさがりってのが現状だ」

 

俺は肩をすくめて見せる。越前は歯がゆい表情で空になったペットボトルを握りつぶす。

 

「俺が……なにか出来ればいいんだけど」

 

越前だって本当は相馬に言いたいことが山ほどあるのだろう。だが、その場合被害をこうむるのは越前だけじゃない。バスケ部のメンバーや仲のいい友人たちにも被害が及ぶかもしれない。それは越前だけでなくみんなが思っている事なのだろう。だから相馬の暴挙は成り立っている。

 

「最悪俺が言ってやるよ。どうせ俺には被害を受けるような深い知り合いはいないからな」

 

クラスでも校内でも目立たない俺なら失うものはない。ただ、自分がつぶされるだけだ。

 

「本当にそう思うのか?」

「事実そうだろ」

「安城さんは君の友達じゃないのかい?」

「……たとえ友達だとしてもそれが表面上露見してなければ傍からは他人だ。相馬もそこまで知ることは出来ないだろうよ」

「……君は、どうしてそうなんだい?いろんなことができるのにそれをひけらかすこともせず、誰かからの評価を求める訳でもない、それで君は何を得られるんだよ」

 

越前の真剣な表情に、俺は沈黙する。

 

「なんとか言ったらどうだ……」

「誰かを助けて、誰かに感謝されることが、みんなにとっていいことだとは限らないだろ」

「どういうことだい?」

 

俺はそれには答えずに立ちあがり、ステージの横の階段を下りる。

 

「お、おい黒崎君!」

「心配するな。お前の用件を投げたりはしない。取りあえずお前は各部の部長に体育館を譲り合う方針を伝えて納得させといてくれ。そうしないと相馬が引こうが根本的に解決しないからな」

 

越前の答えを待たずに俺は体育館を後にする。

 

 

***

 

 

 

時計は午後7時を回り、窓の外に見える道路からせわしなく行きかう車のライトの光がちかちかと俺の網膜に刺激を与えてくる。それに何を感じる訳でもなく、俺は注文したハンバーガーをかじる。駅前に最近できたこのハンバーガー屋がどんなものか興味があったのが、店には閑古鳥が鳴いている。駅前なんて激戦区に店をだせばこうなるのも必然か。

俺は再びハンバーガーをかじる。構造的にはハンバーガーもサンドイッチも対して変わらないのだが、やはり俺はサンドイッチ派だな。

 

「はあ……」

 

越前にはあんな事言ったが、本当にどうしたらいいか分からない。相馬の意識改革という解は出ているが肝心の式が穴だらけだ。答えが見つからないという思考が、他の思考をすべてつぶしてしまい、結局何も考えられないという負の連鎖に陥ってしまった。

 

 

「うーん……」

「あれ?ゆーたろー?」

 

珍しく下の名前で呼ばれたので思わず声の方に振り向く。そこに立っていたのは茶髪で着崩した制服、短いスカート。俗に言うギャルだった。だれだ、こいつ。家族以外で俺の事を下の名前で呼ぶ知り合いはいない。ってことは俺の家族……なわけないだろ。いかん疲れててまともな思考がどっかいった。

 

「えー超久しぶりじゃん!なになに、こんなところで何してんのー?」

 

この超やかましい口調をどこかで聞いたことがある。いつも俺に話しかけ、くだらない話題を矢継ぎ早に出してくる女子。

 

「……矢作?」

「あー今絶対忘れてたでしょー!マジショックなんですけど!」

 

そうだ、矢作恭子。中学の時席が隣だったのを思い出した。

 

「……」

「なに黙ってんのさ?あ、もしかして照れてんの~?」

 

やかましいテンションで何故か俺の向かいに座る矢作。鞄から携帯をとりだし、何故か俺に向けてシャッターを切る。

 

「……いきなりなんだよ」

「え?いや~久しぶりに会ったからツイッターに投稿すんの」

「今すぐやめろ。訴えるぞ」

「だいじょーぶだって、ちゃんと加工して目線に線入れとくからさ」

「俺はなにかの被告人か」

 

俺の質問には答えず、矢作はスマホをいじっている。これ、訴えたら確実に勝てそうだな。

 

「でもほんとびっくり、ゆーたろーって今どこの高校通ってんの?」

「……赤羽」

「は?赤羽?ゆーたろーの家からめっちゃ遠いじゃん。どうりで誰もゆーたろーの消息しらないわけだ。え、なんで赤羽なん?あそこって頭いいっけ?」

「普通だな」

「えーもったいな!ゆーたろー中学の時めっちゃ頭良かったじゃん!毎回上位5位以内には入ってたよね?」

「……まあ、そんなこともあったな」

 

俺がそう答えると矢作は不思議そうな顔をする。が、すぐになにか思いついたのか俺のおでこに手を当てる。

ひんやりとした感触が伝わってくる。

 

「……なにしてんの?」

「いや、なんかゆーたろーテンション低いからさ。熱あんのかなって」

「熱があるならハンバーガー屋なんて来ないだろ」

「ほらーやっぱり。なんか暗くない?中学の時はもっと元気だったじゃん?」

「……なんか注文したらどうだ?冷やかしだと思われて出禁にされるぞ」

「んーなんかハンバーガーって気分じゃないかな」

「ハンバーガー屋に入ってきた奴の言葉とは思えないな」

「そだ!ゲーセン行かない?」

「行かない」

「えー?あれだよ?わたしめっちゃ練習したから鬼つよだよ?もう昔みたいなワンサイドゲームにはならないって!」

「……今忙しいんだ」

「ただハンバーガーたべてボーっとしてただけじゃん」

「……」

「はー、わかった。なんかゆーたろー調子悪いみたいだし。また今度でいいや」

 

そういって矢作は俺のレシートを手に取るとペンをとりだしさらさらと走らせる。

 

「これ、私のラインのIDとツイッターのアカウント。登録しといて」

「……は?なんで」

「そんじゃね!後でライン送っといて!」

 

矢作はそう告げると足早に店を出て行った。

 

「……あいつ、元気にしてたんだな」

 

ぽつりとでた呟きは今の俺には似つかわしくないそんな言葉だった。

適当にスマホを取り出し、矢作の書いて行ったツイッターのアカウントを検索する。

すぐに『アカツキ@緑川高校2年』というアカウントがでてきた。一瞬まちがったかと思ったがそう言えばツイッターやラインなどのSNSは本名でアカウントを作る必要はないんだった。両親含め自分も本名でラインをやっているから忘れていた。それにしたって、せっかくアカツキというハンドルネーム使ってんのに所属してる高校の名前を書いたら無味じゃないのか?まあ、たしか緑川高校は赤羽と同じくらい生徒がいたはずだし簡単に特定はされないんだろう。匿名って便利だな。ツイートをたどると先ほどの俺の写真が載っていた。『久々におなちゅうと再会!』と短くまとめられたツイートにはすでにいいねが13件もついていた。一応、俺の顔には犬のスタンプがかぶせられている。

 

『ゆーたろーって犬感あるよね!』

 

遠い記憶の中の彼女がそんなことを言っていたかもしれない。そんな矢作と一緒にいた時の俺は、今よりずっと上手く笑っていたのかもしれない。

 

 

 

 

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