黒崎君は助けてくれない。   作:たけぽん

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6. 黒崎君!体育祭実行委員会に参加して!

雨ばかりだった6月は終わり、7月に入ると太陽は自己主張を強め光り輝く。6月に雨の文句を言っていた連中は今度はうだるような熱さに文句を言う。あれだよね、『暑いって言ったら罰金ゲーム』が始まって、『はいざんねーん。お前今ゲーム名で暑いって言ってるからアウトでーす』って言う奴がいて『いや、今お前も暑いっていたぞ』ってつっこまれて『あ!お前も暑いって言った―!』という連鎖が起きそうだよね。

まあ、俺も暑いのは得意ではない。ついでに言うと寒いのも得意じゃない。そして春と秋は花粉がとぶので得意じゃない。もうあれだな、どっかに移住するか。オーストラリアとかどうだろうか。

夏服に衣替えし教室内ではしゃぐ生徒たちのかわす話題は2つ。一つは来月からの夏休み。既に夏祭りやプールの約束をしているものや、沖縄旅行を計画しているようなものもいる。夏に沖縄って、それは飛んで火にいる夏の虫みたいな計画だな。いや、むしろそのものか。

もう一つは10月に行われる体育祭だ。この学校では2年に1度、どっかの学校と合同で体育祭をやるらしい。どこの学校だったかは忘れた。とにかく、体育祭に向けて今から筋トレやランニングに励む者もいたり、クラスTシャツのデザインをしている者もいる。まあ、俺は体育祭でもいつもどおり、目立たず平穏に過ごすだけだが。

 

「はい、それじゃあ今日のホームルームは終わり。日直」

「起立、礼」

 

今日のカリキュラム終了。生徒たちは足早に教室を飛び出していく。俺は部活も委員会もないのでその波を横目にゆっくりと鞄に教科書をしまう。今日は珍しく安城もさっさと教室を出たらしいので生徒会への勧誘はない。少し物足りないとか思ったりはしてない。断じて。

ゆっくりと席を立ち、教室を出る。一階に下りるとバスケ部が廊下を周回しているのが目に入った。俺は邪魔にならないように廊下の脇によって歩く。

 

「あれ、黒崎君?」

 

バスケ部の列から離脱して俺に話しかけてくるのは越前だった。

 

「……なんか用か?」

「いや、用ってわけじゃないよ。たまたま見かけたから」

 

なんでイケメンって理由もなく人に話しかけられるの?無視されるかもとか思わないの?いや、逆にイケメンと言う立場が返事することを強要しているのかもしれない。国はイケメン脅迫罪という罪状を作るべきだ。

 

「もう7月だね。室内だとクーラー効いてるけど外のサッカー部や野球部は暑くて大変だろうね」

「そうだな」

「そういえば、黒崎君は夏休みなにかするのかい?」

「いや、夏休みは寝てる予定だ」

「へ、へえ」

 

越前はドン引きしているが夏休みは休みという言葉の通り休む期間だろ。つまり寝て過ごすというのは夏休みを存分に謳歌しているという証明じゃないか。

 

「そういえば、安城さんはクラスの友達と夏祭りに行くらしいよ」

「ふーん」

「は、反応薄いね」

 

いや、むしろどんな反応が正解なんだよ。

 

「ま、まあ夏休みまでの時間をお互い有意義に過ごせるといいね。それじゃあ!」

 

越前はそう言い残し周回へ戻っていった。俺はそれを見送るわけでもなく玄関に直行し、靴を履き替え外に出る。

 

「行ったぞ!レフトー!」

 

金属バットの乾いた音と共にそんな声が響く。野球部はこんな暑さでもノックをしているようだ。

 

「よーし良いぞ!ナイッシュー!」

 

隣のスペースを使うサッカー部はどうやらシュート練習をしている。6月の体育館騒動も既に過去の出来事らしくそれぞれの部活動がいつも通りの日常を送っているみたいだ。相馬もあれ以来無茶な練習や他者への暴力的な言動はやめ、今では本当に楽しそうにサッカーをやっている。

さて、今日は帰ったら久しぶりにベッドにダイブだな。いや、冷蔵庫のアイスを食べてからにしよう。たしかスイカバーがあったはずだ。あの種の部分の歯ごたえがめちゃくちゃいいよね。夏はスイカバーに限る。

 

「あ……黒崎君」

 

物静かな声で俺を呼んだのは校門近くでそわそわしていたらしい雪里だった。

 

「……待ち伏せ?」

「ち……ちがう……偶然……」

 

いや、絶対待ち伏せだろ。じゃなきゃ校門前でただ突っ立ってるわけないし、俺を見つけた瞬間嬉しそうな顔とかしないでしょ。

まあ、俺の放課後は速効帰宅というワンパターン方式だから校門を通る時間とかも大体予想出来るだろうけど。

 

「どっか寄ってくか?」

「……!う、うん」

 

雪里はいつもより2段階くらい大きな声で返事をする。

 

 

***

 

やってきたのは駅前の喫茶店、『ミント』。以前雪里に……というよりは安城に呼び出された店だ。あの後一人で何度か来てみたが、この店のバナナパフェがこれまた絶品で、俺は一回で虜になってしまった。

なので、当然バナナパフェを注文した。雪里は小食らしく、コーヒーだけしか頼まなかったが、ここで食べすぎても晩御飯が入らなくなるだろうし妥当な判断だよな。『外で済ましてきたから』って言った時の母親のため息はもはや凶器レベルだ。いや、悪いのは全面的にこっちなんだが。

 

「ご注文の品はおそろいでしょうか?」

 

ウエイトレスの問いに、俺たちは頷く。

 

「それではごゆっくりどうぞ」

 

ウエイトレスが去っていってすぐに俺はスプーンをもち、パフェを食べ始める。

ああ、このひんやりとしたクリームとバナナ、もはや芸術だ。そしてこの下にはさらにひんやりとしたチョコアイスが眠っているわけで、この構造を最初に思いついた人物は天才だとしか言いようがない。

 

「……おいしい?」

 

雪里はコーヒーに手をつける訳でもなく、パフェを食べる俺に語りかける。

 

「ああ、おいしい。雪里も一口食べるか?」

 

俺はパフェとスプーンを雪里へ近づける。

 

「……!え、えっと……」

「あれ、お前甘いの苦手だったっけ?」

「そういう……わけじゃ……」

「なら食ってみろって。この店に来てるのにこの味を知らないのははっきり言って敗北だぞ」

「あ……う、うん」

 

雪里はゆっくりとスプーンを手に取る。なんか顔が赤いように見えるが、クーラーはしっかり作動しているわけで。まったく、暑がりならホットじゃなくてアイスコーヒーにすれば良かったのに。

 

「いただき……ます」

 

雪里はスプーンでクリームをすくい、ゆっくりと口にいれる。

 

「な?うまいだろ?」

「う、うん」

 

雪里は大きく頷きながらパフェを俺の方に返す。あの雪里がこんなに大きな反応をするなんて、よっぽど気に入ってくれたみたいだな。

 

「か……間接……キ……」

「え?なに?」

「な、なんでも……ない」

「そうか?ならいいけど」

 

俺は尚もクリームを食べ進める。雪里もゆっくりとコーヒーを飲み始めた。

 

「それで?俺になんか用事だったんじゃないのか?」

 

クリームを食べ終え、チョコアイスに突入したところで俺はそう尋ねる。

 

「え……えっと……」

 

雪里は何やら鞄を開けがさごごそとやっている。

が、すぐにA4くらいの茶封筒を俺に差し出してくる。

 

「……履歴書?」

「ち、ちがう……その……見てほしい……」

 

良く分からないが中身を開けてもいいということだろうか。俺は封筒から中身を取り出す。

 

「……これは」

 

でてきたのは30枚くらいの束になった用紙。一枚目には制服を着た高校生らしき女子と、メガネをかけた同じ学校と思われる男子のイラストが描いてあった。

 

「漫画?」

 

雪里はこくりとうなずく。そういえば、昔も雪里の書いた漫画を読ませてもらったことがある。漫研を続けているのだからそりゃ漫画も続けてるわけだ。

 

「今度……賞に応募するから……感想が……欲しい」

「へえ、応募用か。雪里先生になる日も遠くないかもな」

「そ……そんなことは……」

「わかった。帰ったら読ませてもらうよ。いつまでに感想言えばいいんだ?」

「そんなに……すぐじゃなくて……大丈夫」

「そっか。了解」

 

俺は原稿を封筒に戻し、自分の鞄にそっと入れる。

 

「く……黒崎君」

「どうした?パフェもう一口食べたくなったか?」

「ち、違う……。そ、その……ライン……」

「ライン?」

「読み終わったら……連絡……してほしい……」

「え、でもお前俺のメアド知ってるじゃん」

「……」

 

え、なにこの沈黙?俺なんかおかしいこと言った?

……そういえば以前矢作と同じような会話をしたような気がする。あの時矢作はメールは時代遅れだみたいなことを言っていたっけか。てっきり矢作の勝手な価値観だと思っていたが、どうやら女子の間では共通認識らしい。

 

「……分かったよ。」

 

俺はポケットからスマホを取り出し、自分のQRコードを表示する。

 

「……!」

 

雪里はすぐにスマホを取り出しそれを読みとる。すぐに俺の方にも雪里のアカウントが表示される。『雪里茜』とフルネームで登録されており、アイコンには雪里が自分で書いたであろうキャラクターが映っている。

 

「あ……ありがとう……」

「おう。それじゃあ読み終わったらラインするわ」

 

その後は特に内容の無い世間話をしながらパフェを完食し、レジで会計を済ませ、俺たちはミントを出た。

 

「ふう、食った食った」

「黒崎君……」

「ん?どうした?」

「えっと……ううん……なんでもない」

「……?まあ、取りあえず帰り道気をつけてな」

「うん……またね」

 

雪里は小さく手をふると、ゆっくりと駅の方へと歩いて行った。

俺はというと、少し胃が重いので周辺を歩いてから帰ることにした。

 

空はまだ明るい。夏は始まったばかりで、俺の1学期ももう少しだけ続いていく。

まあ、今日みたいにのんびりとした毎日がおくれれば満足かな。

 

 

 

***

 

 

 

 

「黒崎君!お願いがあるの!」

 

翌日。どうやら神は俺のささやかな望みなど聞き入れてくれなかったようで、案の定安城がいつも通りの面倒事を持ってきた。

 

「安城……昼休みは休むためにあるんだ。俺に休息をくれ」

 

昼休み、いつもの空き教室で今朝コンビニで買ったチーズサンドを食べながら俺は異議を唱える。

 

「黒崎君はいっつも休息取ってるじゃん!授業中なんてずっと窓の外見てぼけーっとしてるくせに!」

「え……なんお前俺の授業中そんなに詳しいの?」

 

安城の席から俺の席は視界に入るだろうが、俺が外を見ているのを発見できるほどの距離では無い。

 

「べ、別に!黒崎君の事を見てたわけじゃないんだから!ただ、掃除当番の表を見てただけ!」

「一日中掃除当番確認してたのか?」

「うぐ……。と、とにかくお願いがあるの!」

 

ゴリ押ししてきやがった。さすがドッジボール選手、ラフプレイもお手の物だ。……ドッジボールにラフプレイなんてあるのか?

 

「……その話、昼休み中に片付く用件か?」

「ううん!結構大きな話!」

「……それじゃあ尚の事放課後にしてくれ。俺はいま真剣にチーズサンドを食べているんだ」

「放課後じゃ間に合わないの!今聞いてもらって放課後に手伝ってほしいの!」

「そんな話を当日にもってくるなよ……」

「とにかく聞いて!」

 

ああ、これはもう駄目だ。安城が一度言いだしたらもう俺の運命は安城のしいたレールの上だ。

 

「……取りあえず、言ってみろよ」

「ありがとう黒崎君!」

 

安城は目を輝かせる。

 

「10月に体育祭があるのは知ってるよね?」

「そりゃあ、去年も同じ時期にやったし」

「それじゃあ今年は他校と合同って言うのは」

「それも知ってる」

「じゃあ話は早いね!今日の放課後、区民センターに来て!」

「……はい?」

 

来て、と言われても概要がさっぱりなんだが。

 

「だから、区民センターで相手の学校の生徒会と体育祭の会議があるの!黒崎君にも参加してほしいってこと!」

 

そういえば区民センターには大きな会議室があって、予約すれば使えるんだったか。で、なに?体育祭に向けての会議だって?

 

「それ、俺いらなくない?」

 

両校の生徒会が話しあうのだから、役者はそろってるわけで俺が言ってもせいぜいエキストラくらいしかできないだろう。

 

「それが、その……ちょっと会議が煮詰ってて」

「なにか問題が起きてるのか?」

「うん。近年の少子化で生徒数が昔より格段に減ってるでしょ?」

「そうだな」

 

この空き教室もその証拠だ。

 

「それで、合同で体育祭をやるってなると、予算的にも人員的にも厳しくて」

「それなら合同なんてやめとけよ……」

「でも、合同体育祭は昔からの伝統で……」

「伝統だろうがなんだろうが無理なことは無理だろ」

「そうなんだけど、両校の生徒会長がどうしてもやるって言ってて」

「ええ……」

 

そういえば以前越前がうちの学校の生徒会長はポンコツだと言っていた。話を聞く限り相手側の生徒会長も同じ世界の人間なのだろう。

 

「それで?俺はその無謀な会議に参加して何をすればいいんだよ?」

「会長達をなんとかしてほしいの!」

「無理だ」

「即答!?」

「部外者の俺が無謀だからやめろって言って向こうが聞いてくれると思うか?それならお前が言えばいいだろ」

「うーん……それはそうなんだけど……」

 

安城は表情を曇らせる。安城は生徒会でもかなり尽力しているんだから発言力もあるのかと思ったんだが、ポンコツ会長には通用しないってことなのか?

4月の俺なら、このままグダグダと御託を並べて断り続けるのだろう。

でも、あの時の俺には無かったものが今の俺にはある。

 

「わかったよ。放課後に区民センターな」

 

だからだろうか、そんな言葉が自然に出た。

 

「ありがとう黒崎君!」

「言っとくが、力になれるかは分からんぞ?」

「大丈夫大丈夫!それじゃあ後でね!」

 

安城はスキップしながら教室を出て行く。それを視線で見送った後、俺は再びチーズサンドをかじる。

まあ、安城を助けるのは別に良いんだけど、問題は生徒会の面々がどんな奴らかってことだよな……。

 

 

***

 

 

 

放課後、昨日と同じように教室を出て、昨日と同じように周回する部活の脇を通り抜け

昨日と同じように練習するサッカー部たちを横目に校門を出た俺は昼休み安城に言われた通りに区民センターへ来ていた。区民センターは赤羽高校の生徒がつかう最寄駅とは逆方向にあるため、訪れる者は少ない。俺も今日初めて来た。自動ドアをくぐるとホールが広がっており、その真ん中に受付がある。他にもへんてこな形をしたオブジェが壁側に展示されていたり、近所の小学校の生徒が書いた習字が展示されていたりする。

俺は特にそれらを見る訳でもなくエレベーターに乗る。会議室は3階なので、階段よりエレベーターのほうが楽なのは誰にでもわかることだろう。

それにしても、赤羽高校に入学してもう2年目だが生徒会と実際に関わるのは今日が初めてだ。とはいっても1年の時に生徒会役員選挙はあったわけで、俺も投票したはずなのだが、会長の名前も顔も全く知らない。そういえば若者の選挙離れは最近問題になりつつあり、選挙に行かないもの、行っても適当に選んだり白紙で投じる者も結構多いらしい。俺も正直選挙に関心は無いが、適当に選んでその議員がめちゃくちゃな事したら困るので選挙権を得たらしっかり投票しようとは思っている。今のところはだけど。

その練習として今年の生徒会選挙は多少真面目に投票してみるか。

 

「失礼しまーす」

 

間延びした声で会議室の扉を開ける。室内にはコの字に並べられた机、その席に一人分ずつおかれた飲料水のペットボトルに企画書と思われる書類、そして前の方には何も書かれていないホワイトボードがおかれており、その周辺で会議に参加するであろう生徒たちがにぎやかに話している。

 

「あ、黒崎君!」

 

話していた輪の中から安城が俺に手招きする。それと同時に他の生徒たちもこちらを向く。

うわあ、目立ってるな……おのれ安城、お前には遅刻してきて授業中の教室にこっそりはいってくるような奴への情は無いのか。

なんて文句を言ったら火に油なので、俺は会釈して安城の方へ行く。

 

「会長、彼が黒崎君です。今日は手伝いに来てもらいました」

 

安城が俺を紹介する。それに反応する会長とやらはメガネをかけ、長身のかなり頭のよさそうなイケメンだった。

 

「そうか、君が黒崎君だね。安城から話は聞いてるよ」

 

俺は安城を睨む。余計なことは言うなとあれほど言っていたのに。安城はわざとらしく目をそらし口笛でエーデルワイスを吹いている。 

 

「どうも、よろしくおねがいします」

「よろしく。俺は仲谷明治。赤羽高校生徒会会長だ」

 

にっこりと笑う仲谷会長は見たところさわやかな高青年に見えるが、越前の言う通りなら思想の偏ったポンコツらしい。本当か?

 

「そしてこっちは副会長の光定だ」

「み、光定明日人です。よ、よろしく」

 

副会長は若干詰まらせながら挨拶してくる。俺もそれに対し浅く礼をする。

見たところ後の人物は特に役職の決まっていない生徒会メンバーらしい。俺は彼らにも挨拶をしてからなるべく端の席に座り、飲料水のふたを開け、のどを潤す。相手先の高校もまだ来ていないようなので、企画書らしきものに目を通してみる。伝統について長ったらしく書いてある序文は無視して、予算案や種目、必要な役割なんかに目を通す。

が、ふと目をひく部分があった。それは相手先の高校の紹介文。それを見て俺は背筋がゾクリとするのを感じた。それと同時俺の後ろの扉が勢いよく開かれた。

 

「失礼します。遅くなりました、緑川高校生徒会長、一星誠也です」

 

 

その声、抑揚、身だしなみ、髪型、顔。そのすべてに見覚えがあり、それに見覚えがあることに対し、俺の心の中でなにかがざわつく。とっさにその人物から目をそらそうとする。いや、本当に目をそらしたかったのはその人物からではなく、こちらに気付いたその人物の目にうつる、俺自身の姿からだったのだ。

 

 

 

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