黒崎君は助けてくれない。   作:たけぽん

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7. 黒崎君!体育祭実行委員会に参加して!(会議編)

「……お前、なんでこんなところにいる」

 

一星誠也はまるで害虫をみるかのような目つきで俺を睨み、尋ねてくる。だが周りの面々はその理由なんて知らないわけで、不思議そうに俺の方を見てくる。俺はそれに対し言葉が出ないでいた。

 

「やあ、一星君。そして緑川高校生徒会の諸君。今日はわざわざ遠いところありがとう。取りあえず、まだ時間があるから企画書に目を通しておいてくれ」

 

仲谷は笑顔で彼らを迎える。が、一星はそんなことには反応せず、俺の方をまだ睨んでいる。

 

「仲谷君。彼は、何故ここに?」

「ん?ああ、彼は黒崎君。うちの書記の安城からの紹介で今回手伝ってもらうことになった」

「手伝う……ねえ」

「ひょっとして黒崎君とは知り合いかい?」

「いや、知らないな」

 

一星はまるで本当に初対面だと言わんばかりの口調で告げる。そして俺の脇を通り自分の席へ向かう。それに続いて他の連中も席に着く。

 

「あれ、ゆーたろーじゃん!」

 

やかましい声で俺を呼ぶのは矢作だった。一瞬こいつがいる理由が分からなかったが、そう言えばこいつは緑川の生徒だった。

 

「やっぱ来てたんだ~」

「お前、生徒会だったのか?」

「ううん?でも赤羽と合同って聞いてゆーたろーも来るかなって思ってさ」

「手伝いってことか。俺と同じだな」

「え?ゆーたろー生徒会に入ったんじゃないの?」

「なんでそうなる」

「だってあの安城って子が前に生徒会に勧誘がーとか言ってたじゃん」

 

急に指さされた安城には俺たちの会話は聞こえてなかったらしく、『え、なに?』といったジェスチャーをしてくる。

 

「……生徒会に入ってはいないし入るつもりもない。本当にただの手伝いだ」

「ふーん。ま、いいや。そんじゃ今日はヨロシク!」

 

矢作はひらひらと手を振り自分の席へ向かっていく。どうやらコの字の入り口側が赤羽で窓側が緑川の位置らしい。

 

 

「さて、それじゃあ会議を始めよう。今日はよろしく」

 

ホワイトボードの前に座る仲谷と一星が一礼し、参加者たちもそれに続き一礼する。

 

「それじゃあ今日の議題は種目決めと実行委員会の設立について。取りあえず案出しからしていこう」

 

え?もうそんなに進んでるの?人員とか予算の都合で体育祭そのものが危ういんじゃないの?

 

「合同でやるならやっぱり両校混合のリレーなどはどうでしょう」

「あーその発想はいいね。両校混合はいいコンセプトだ」

「両校混合なら騎馬戦なんかかなりチームワークが大事になってくるので、両校の交流にもってこいだと思います」

「いいね、騎馬戦。普段触れ合うことの無い他校の生徒との交流はその後の学校生活もより豊かにしてくれる」

 

え、ちょ、ちょっとどういうことなんだ?ものすごい勢いでブレストしてるけど根本の問題はどうなったの?企画書にも課題だって書いてるんだけど?

 

 

「えーっと、黒崎君。君はどうかな?やっぱり初参加の人のアイデアが聞きたいな」

 

仲谷は唐突に俺に振ってくる。それと同時に会議室全体の意識が俺に向く。

 

「え、えーっと質問なんですけど、予算や人員の都合ってもう解決したんですか?」

「予算や人員に関する問題は種目等を確定させた後に決める予定だ。必要な備品や役割が分かればおのずと答えは見つかる」

 

それに答える一星は得意気だ。

 

「い、いやでもそんな見切り発車だと結局予算案や実行委員での役割振りも不確定で全体が何していいか分からなくなりませんか?」

 

仮に規模が大きくなりすぎて後から予算に合わせて削ったらかなりしょぼい内容になる可能性もあるわけだし、先に予算から逆算するべきではないのだろうか。そう思っての発言だったのだが、仲谷も一星も不思議そうな顔をする。

 

「黒崎君。たしかに予算は大事だ。でもまず優先すべきは俺達生徒の自主性と両校の伝統を守ることだろう?」

「い、いや……そうなんですか?」

 

俺の発言は的外れだったか?だが仲谷は自信満々だ。ま、まああまり会議に水を差しても仕方ないか。俺は取りあえず発言をやめる。

 

「一星会長。発言良いですか」

「ん……なんだ木場」

 

一星が木場と呼ぶ人物は立ちあがる。

 

「えー、緑川高校生徒会会計の木場神威と言います。会議には今日から参加なので皆さんよろしくお願いします」

「で、なんだ木場」

 

一星は少し眉をしかめながら木場の発言を促す。

 

 

「先ほどの、黒……河君でしたっけ。彼の意見に対してです」

 

だれが黒河だ。あれか、こいつもポンコツ次元か?

 

「彼の意見は最もです。せめて先に大体の予算の検討をつけてくれないと会計としても学校に申請できませんし、正直前回の合同体育祭の予算案を見る限り、同じ予算はでないと思います」

 

おお、こいつはかなりまともな事を言ってる。俺の名前を間違えたこと以外はしっかりしてるんじゃないか?

 

「だから、それは内容を決めた後に決めると言っているだろう」

「いや、それだと……」

「木場君。君が会計としての責任感が強いことは分かったよ。でも体育祭は10月だ。まだ慌てるような時間じゃないよ」

 

仲谷は笑顔を絶やさない。周りの連中もそれに異議すら唱えない。

ま、まずくないこれ?安城から煮詰まっていると聞いたが彼らの中ではもう煮詰め過ぎて缶詰が完成してしまっているようだ。

わらにもすがる思いで安城の方を見る。なんとかしろ安城。

が、安城はさっきからパソコンに何かを打ち込んだりホワイトボードに出た意見を書いたりと大忙しだ。見た感じ記録と書記を同時並行で行っているようだ。これでは会議に参加どころではないだろう。

 

「それで、どこまで話したっけ……そうだそうだ、混合競技についてだったね」

 

そんなわけで俺や木場の意見は無かったことの様にされ、競技内容についての話し合いが進んで行った。

 

***

 

 

 

「ふう……」

 

ロビーの一角で自販機で買った綾鷹を一口飲む。それと同時にどっと疲れが湧いてきた。

正直、仲谷たちの進め方が悪いとは思わない。概要を決めてから予算を計算する方式も赤羽単独なら成り立つかもしれない。

だが、問題なのは今回の体育祭が緑川との合同であること。2校で連携する以上、予算も両校から出る訳だし、人員も両校で作られた実行委員で行われる。一見人員も予算も2倍でいろんなことができそうだが、重要なのは人員が2倍という点だ。ここでいう人員というのは運営に携わる者だけでなく体育祭に参加する他の生徒も含まれている。人数が多いという事は必然的に規模が大きくなる。例えば、前回は市のおおきな陸上競技場を借りて行ったらしいし、来場する生徒や保護者にカラー印刷のパンフレットを配ったらしい。それらにも当然かなりの予算が必要だ。つまり、種目決めよりも先に体育祭そのものの規模を確定させ、実行自体を可能にしなければならないのだ。

だが、両校の生徒会は自主性と伝統を守ることにウェイトをおきすぎている。おそらくは自分の代で伝統を途切れさせたくないのだろう。それは十分理解できる。だが、それだと体育祭は上手くいかないのではないだろうか。

 

「こりゃまた随分面倒な……」

 

再び綾鷹を口にする俺の視界には、先ほど仲谷と共に会議を取りまとめていた一星の姿が入ってきた。一星も俺が視界に入ったらしく、ゆっくりとこちらへ向かって歩いてきた。

 

「……」

 

俺は特に何を言うでもなく一星の方を見る。

 

「久しぶり……なんて言葉を交わすような仲でも無かったな」

 

一星はほくそ笑みながら俺に語りかける。

 

「まあ……そっすね」

「変わったなお前は。みんなの為に頑張る黒崎裕太郎はもういないのか?」

「……」

「お前の事だから高校でも生徒会に入っているものだとばかり思っていたぞ」

「理由知ってんのにそれを言うんですか」

「今日お前が会議室にいたのは少々驚いたな」

「まあ、俺もびっくりでしたよ。一星先輩とこんなところで会うなんて」

「もう会長とは呼ばないのか?」

「……」

「まあいい、一つだけ言っておくぞ黒崎」

 

一星は俺に背を向け、ゆっくりと次の言葉を吐きだす。

 

「お前は……目ざわりだ。あの時も、今も」

 

そう言い残して去っていく一星の背中を俺はじっと見送る。それと同時に、一星言うところのあの時について思いだしていた。俺が今も4月の時のまま生活していればあいつに会う事なんて恐らく二度となかっただろう。そのために俺は赤羽を選んだのだから。だが、運命はこうしてまた俺とあいつを引き合わせた。正直うんざりだ。一星がじゃない、その目に映っているあの時の俺自身に対して、本当に嫌気しかしない。

 

「黒崎くん?」

 

そんな俺の横にいつのまにか座っていたのは安城だった。

 

「安城……。記録作業は終わったか?」

「うん。一応。黒崎君は帰らないの?」

「ちょっと休憩してた。これ飲み終わったら帰る」

 

俺は手に持っていた綾鷹を指し示す。

 

「参加して見て、どうだった」

「もう二度と来たくないな」

「……だよね」

 

ここでいつもなら『諦め早っ!』みたいなツッコミが入るのだが、それをしないのは安城も分かっているからだろう。この会議の問題が。

 

「お前も分かってるなら発言しろよ……記録作業なら1年生にでも任せればいいだろ」

「だって……会長たちは自分たちの信念とかプライドをもって話してるでしょ?私がそれを壊したら、生徒会自体が危ういじゃん」

「まあ、仲谷会長がポンコツだってのは前評判の通りだ」

「後、一星さんは目が怖いし……」

「あれはもとからだしなぁ……」

「もとから?」

 

げ。やばい、つい余計なことを……!

 

「黒崎君、一星さんと知り合いなの?」

 

案の定安城はそこに食いついてくる。

 

「い、いやそういうわけじゃ……」

「でも今、もとからって」

「そ、それは……」

 

俺は今まであの時の話題をずっと避けてきた。雪里とあった時も、矢作と会った時も。あいつらが知っていた俺はもうどこにもいなくて、ここにいるのはものぐさで、目立たず、俯瞰した態度をとるだけの抜け殻なのだ。いまさらあの時の俺の話をしてもその抜け殻になにか影響するわけじゃない。無意味。そう思ったから俺はあの時の話はしなかった。でも、そんな俺に新しい自分と言う可能性をくれたのが安城だった。素直で、明るくて、おせっかいなその姿に俺はあの時の俺を重ねていたのかもしれない。

 

なら、こいつには話してもいいんじゃないだろうか。

こいつはきっと、俺の過去を聞いてもいつも通りの安城でいてくれるんじゃないのか?

 

「安城、俺は……」

 

自然と言葉がでてくる。それは今まで出そうとは思いもしなかった言葉だが、そんな心の壁をすり抜けるように俺は次の言葉を発しようとしていた。

 

『みなさん、本日は区民センターをご利用いただき、誠にありがとうございます。まもなく閉館時間となります。帰り道、お気を付けください』

 

が、俺の言葉は館内放送によって見事に遮られてしまった。

 

「えっと……黒崎君?」

 

安城はそれでも俺の次の言葉を待ってくれているようだ。

だが、タイミングを逃したことで出そうとした言葉は奥に引っ込んでしまい、俺は言葉に詰まってしまった。

 

「……すまん。なんでもない。閉館するらしいから帰るわ」

「え?ちょ、ちょっと?」

 

俺は疑問を募らせる安城から逃げるようにロビーを出た。

 

区民センターを出ると、空はもう真っ黒でぽつりぽつりと街灯が道を照らしている。俺はその道をのろのろと歩く。もしかしたら安城が追いかけてくることを期待しているのかもしれない。追いかけてきて、さっきの話の続きを聞いてほしいのかもしれない。

でも、振り返っても安城は追いかけてこない。

 

今まで一人で帰ることなんてざらだったし、なんなら誰かと帰ったことなんて無いに等しい。だからそれに違和感もなかったし、それに孤独を感じることも無かった。

 

 

でも、今日の俺は誰かと一緒にいたいと、そう思っていた。

 

 

***

 

「それじゃあ会議を始めよう。今日もよろしく」

 

俺が会議に参加してから1週間。その間に会議は2回行われ、今日は生徒会が募集した体育祭実行委員会のメンバー区民センターに集まっている。赤羽と緑川あわせて30人はいるだろうか、俺はそんな生徒とたちの中にまるでモブキャラの様にまぎれ座っていた。

 

「本来なら実行委員長や他の役職を決めるところだけど、例年合同体育祭は生徒会がその役割を担うことになってる。だから実行委員長は俺と一星君。書記はうちの生徒会の安城、会計は緑川の木場君に努めてもらう。賛同の方は拍手してほしい」

 

仲谷の言葉に、一瞬にして拍手が巻き起こる。

 

「みんなありがとう。それじゃあこれまで生徒会で出した案をみんなで共有していこう」

 

仲谷は安城にアイコンタクトをとり、安城はこれまで出た案をホワイトボードに記していく。

 

種目案

 

・赤緑混合リレー

・赤緑混合騎馬戦

・赤緑混合玉入れ

・赤緑混合玉ころがし

・赤緑混合棒倒し

・赤緑混合綱引き

・応援合戦

・100メートル走

・200メートル走

・800メートル走

・1500メートル走

・父母生徒混合リレー

・教師生徒混合リレー

 

その他

・地域のダンスサークルによるパフォーマンス

・地域の吹奏楽団による応援ソング

・地域の小学生による応援

・地域のお弁当業者からの昼食提供

・選手宣誓

 

                              』

 

生徒たちは案の多さに感嘆の声を上げる。そりゃあこれだけ案があれば実行委員の会議もスムーズに進むだろうし当然の反応だ。

 

「今回のコンセプトは『両校の生徒によるふれあい、協力、コミュニケーション。また両校の伝統と今後の発展を願って』と言うところです」

 

一星の言葉に再び感嘆の声があがる。まあ、実際間違った事を言っているわけではない。種目案もその他の案も両校の生徒やその関係者までまきこんだ文字通り大きなイベントにはもってこいだ。だが、この案の中には実行不可能だと思われる物もいくつかある。例えば父母生徒混合リレーや地域の吹奏楽団による応援ソングといった学校外の人物に委託するものがそれに該当する。父母混合リレーの父母はどれくらい来場するのか分からない。だから実行するには当日来場する父母のリストを作り、宣伝し、欠員が出た場合の代案を考えなければならず、それをやっても結局どれだけ集まるかが不確定だ。吹奏楽団の応援ソングはアポをとるところから始まり、曲選や練習時間、リハーサルなどの用意をこちらがすること、そして当然要請するにあたって費用がかかる。それらをうまく行うには結局のところ予算案と規模の確定が先決なのだ。

 

「それじゃあ、ここから絞っていこう。……多数決でいいかな。ひとり3つ選んで挙手してくれ」

 

しょ、しょっぱなから多数決だと?

 

「ちょ、ちょっといいですか」

「なんだい?黒崎君」

「まずはこれらの案が可能か不可能か。そして不可能ならどう改善するかについてみんなから意見をきいて、そのうえで多数決にしたほうがいいと思うんですが」

 

仲谷は俺の発言に対し、一星に視線を向ける。一星はと言うと、心底嫌そうな顔をしてからゆっくりと立ち上がる。

 

「黒崎君、君は一週間我々と一緒に会議に参加していたはずだ。なにか不満があったのならその時に言うべきだったのでは?」

「い、いや、俺は不満を言っているわけじゃ……」

「そうかい?君は最初に参加した時も仲谷君の『伝統と生徒の主体性』を重んじる方針に異議を述べていたと思うが?われわれはディベート大会をやっているんじゃなくて、一つのプロジェクトをみんなで達成するために会議をしているんだ。方向性が気に入らないからと言って独りよがりな発言はやめてほしい」

「……」

 

一星の言葉に周りの生徒も俺に対し敵意の視線をむけてくる。俺はそれに反論することもなく、ただ座るしかなかった。

 

「それじゃあ多数決でいいね?みんな、3分間とるからその間に3つ選んでね」

 

俺の発言など無かったように会議は再開する。別に多数決という方式が悪いわけじゃない。ただ、生徒会が用意した案について特に意見も聞かずに多数決をとるという事は実行委員会の存在意義がほとんどないことを意味している。ただ多数決をとるだけなら全校生徒へのアンケートでも変わらないのだから。そう言った意味での発言だったのだが、一星達には伝わらなかったらしい。

 

そのまま会議は進行し、種目やその他の催し物については全てが多数決で決まってしまった。そして予算の話しは先送りにされている。

 

「それじゃあ、今日の会議はここまで。また明日、よろしく」

 

仲谷の言葉に実行委員たちは浅く礼をし、解散した。会議室を出るものの中には、俺に対し舌打ちをする者、鋭い視線を向ける者、憐れむような目を向ける者、とにかく俺の存在を疎ましく思うものばかりだった。

どうやら俺は一人勝手に生徒会に文句をつける反抗的な生徒だと思われてしまったらしい。

なぜこうなったか、その理由は単純だ。俺が異質だから。両校の生徒会は予算問題はおいといて数多くの意見を実行委員会発足前に用意し、さらにはコンセプトまで提示した。本来なら実行委員会で吟味するはずの内容も多数決と言う形で決定させた。以前安城にアンケートの選択肢の内、『どちらでもない』という選択肢は解答者の判断を鈍らせるという旨の話をしたが、今回の場合実行委員への選択肢は『とてもそう思う』、『そう思う』で埋まってしまっている。人と言うのは楽をしたがる生き物だ、というよりは苦を嫌う生き物と言った方が正しいだろうか。つまり実行委員たちは生徒会と言う指導者が敷いたレールを進む方が苦がないと判断してしまったのだ。そしてそれを数十人という集団で許容してしまった。集団と言うのは数が増えれば増えるほど個人としての意志が薄くなっていく性質がある。『チームワーク』と言えば聞こえはいいが『チームワーク』とは本来それぞれの信念をぶつけ合い、それを互いが認め、そのうえで深まっていくもののはずだ。だが今の状況は単に考えることを放棄し、より数の多い勢力に同調しているに他ならない。そんな中、少数派である俺は異質な『反乱分子』と捉えられても何ら不思議はない。

 

俺は仲谷たちと談笑している一星の方へ視線を向ける。

そうだ、一星誠也とはそういう人間だった。自分が属するコミュニティの中で勝手にヒエラルキーを作り出し、自分は頂点にいなければ気が済まない。しかし本人はそれを自覚せず、みんなが自分についてきてくれていると認識しているから性質が悪い。

だから、一星は俺を……。

 

「一星会長!さっきのは無いと思います!」

 

会議室いっぱいに広がる声で一星に訴えかけるのは安城だった。その声に、会議室から去ろうとする生徒たちは振りかえり、安城に注目する。その中には矢作の姿もあった。

 

「ど、どうしたんだい安城?一星君がなにかしたかい?」

「仲谷会長は黙っててください!」

「な、なんだと?黙って聞いていれば先輩に向かってなんて無礼な!」

「まあ、まて仲谷君」

 

不穏な空気になりつつある両者を仲裁したのは安城の呼びかけた一星だった。

 

「し、しかし一星君……」

「安城君には何か意見があるようだし、それを聞こうじゃないか。何も聞かずに事を荒立たせるのはか生徒会長ともあろうものがしていいことじゃない」

 

一星の最もらしい言葉に諭されたのか、仲谷は無言で安城に発言を促す。

 

「では安城君。話を聞こうか」

「さっきの黒崎君への発言は酷いと思います!頭ごなしに彼の意見を否定して、その上彼を孤立させるような発言までして!」

「安城君、君は何か勘違いしていないかい?さっきも言ったように黒崎君はわれわれと一週間共に会議に参加していたんだ。仮にわれわれの進め方が間違っていたとして、それなら彼はもっと早く言うべきだったんじゃないのかい?私が問題視しているのは彼の意識の低さだよ。生徒会の協力者として呼ばれたことへの自覚や責任感がまるで感じられない」

「……一星会長は黒崎君と同じ中学出身ですよね?」

「なに?」

 

そこで一星は今までの余裕のある表情を崩した。まさか安城の奴、また勝手に調べたのか?

 

「それがなにか?」

 

一星はもとの表情へ戻り安城に尋ねる。

 

「黒崎君は、あなたと同じ生徒会のメンバーだったんじゃないんですか?」

「なぜそう思う?」

「あなたと同じ中学だった人から聞きました」

「ほう。誰だねそれは」

「それは……言えません」

「そんな不確定なソースでは話にならないな」

「逃げるんですか?」

「なに?」

「私はあなたと黒崎君が同じ生徒会だったというところまでしか知りません。でも、あなたがさっき黒崎君を否定したのは、中学の時なにかあったからじゃないんですか?」

 

 

よせ、安城。それ以上言うな。やめてくれ……。

俺のその思いは言葉として俺の口から出ることはできなかった。くそ、なにビビってんだ。ここでやめさせないと取り返しのつかないことに……。

 

「……はあ、安城君。君は他人のテリトリーに勝手に踏み込むことに罪悪感は無いのかね?」

「……」

「まあ、このままだとここにいる実行委員のみんなも気になって次の会議に支障をきたすかもしれない。君の質問に答えよう」

 

一星の言葉に、実行委員たちも話を聞く姿勢になる。俺はまだ動けないまま、席に座ったままだ。

 

「君の言うとおり、私と黒崎は同じ中学の出身だ。当時私は生徒会長、黒崎は副会長だった」

 

やめろ、一星……。

 

「当時のうちの生徒会のメンバーは私たちをあわせ5人だった。役員たちは自分たちの仕事に誇りと責任感をもって取り組んでいた。黒崎も最初はそんなメンバーの一人だった。今の彼からは想像もつかないだろうが、明るく、気さくで、友人も多く、かなりの人気者だった」

「黒崎君が……」

「だが、彼はいつからか自分の力量を過信し、他の生徒会役員たちの仕事を自分でやり出した。最初こそ助言程度だったが、日を重ねるごとにその干渉は度を過ぎて行き、いつの間にか、生徒会役員の仕事全てを彼がやっていた。他の役員たちは私に何度も相談してきたよ。『自分たちの存在意義を黒崎に奪われた』『もう自分たちは必要ないんじゃないか』と。中にはそれで不登校になった役員もいた」

 

周囲の俺への敵意がさら増していくのを感じる。

 

「だが黒崎は、自分が他人の存在を貶めていることなど気付かず、ついには予算の都合で廃部になるはずの部活動の存続を学校側に認可させてしまった。教師陣も渋い顔をしていたが、生徒会副会長の提案を受け入れざるを得なかった」

 

一星は言葉を続ける。

 

「黒崎裕太郎という人間は、自分の勝手な正義で人の誇りを踏みにじり、それに自分で気づこうともしない、そんな偽善だらけの男なのだよ。先ほどの私の発言は、彼が以前と同じ過ちを犯そうといているからこその言葉だった。なにか気に障ったなら詫びよう。すまなかった」

「黒崎君……」

 

安城はまるで機械の様にぎこちなく俺の方を向く。その表情は、いつもの明るく元気な彼女からは想像もできないほどひきつっていた。

 

「さて諸君。余計な時間をとらせてしまったな。今日はもう解散だ。明日もよろしく」

 

一星の言葉に生徒たちは会議室を出て行く。仲谷たちも鞄に書類をしまい、会議室の出口へと歩く。

 

「黒崎君、正直君には失望した。明日からの会議にはこないでほしい」

 

仲谷がそんな言葉をかけてきたような気がするが、俺はそれを最後まではっきりと聞きとる事ができなかった。

 

 

―――ほらな、やっぱりこうなるんだ。

 

俺は結局あの時の俺のままだった。安城を助けようなんて、おこがましい俺のエゴだったのだ。俺は誰かに助けてほしいから人を助けるなんてそんな映画の主人公の様な理想を安城に押しつけていただけだったのだ。

 

 

――――誰かを助けようなんて、思わなければよかった。

 

 

 

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