やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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26話 彼女は涙を流し、二代目は『真実』を知る

「どう、いうことなの?どうして比企谷先輩が?」

 

お母さんから出てきた名前に、私は驚きと悲しみと、怒りが堪えられていなかった。

 

「比企谷さんは『前々から雪ノ下建設には興味があったんです。どうか、私を育ててはくれないでしょうか』そう言ったのよ」

 

それは、間違いなく彼の嘘だ。彼はそんなことを言う人ではない。

 

 

 

私を救うための、優しくて、馬鹿な嘘だ。

 

 

「彼にはこうして気付かされたことがあるものね。それに、聞くところによると彼は『奉仕部』というお悩み相談の部活の部長をしているそうね。だから、私の『依頼』を達成できたら本格的に考えると、そう答えたの」

 

「『依頼』?」

 

お母さんの言う『依頼』とはなんなのだろうか。それに、それを達成できたら比企谷先輩は?達成できなかったら?

 

「達成できなかった場合も比企谷さんにはうちの会社に来てもらうわ。そういう約束だもの」

 

 

 

 

それは、比企谷先輩の人生が決まってしまったという意味だ。

 

 

 

私の身代わりとして、彼は私の歩むはずだったレールに乗ったのだ。

 

 

 

 

「ねぇ陽乃、あなたは比企谷先輩のことをどう想っているの?」

 

「馬鹿な人」

 

それが私の今の彼に対する感想。だけど、それで嬉しくなっている自分が居るのも事実なのだ。

 

「でも、優しくて・・・どうしようもないくらい自分がどうでもよくて、それでもと懸命に真っ直ぐ歩んでいる、かっこいい先輩。私はそう想っている。」

 

「陽乃・・・あなた」

 

「それに、私の『仮面』も一発で見抜くほどだからね」

 

「やっぱり、中々の人なのね。彼は」

 

でも、そんな彼の人生を私が決めてしまった。私の身勝手な依頼のせいで彼は、これから多くのものを失うことになった。

 

 

 

 

 

「陽乃」

 

「ん?」

 

お母さんの呼びかけに答える。

 

 

 

 

 

 

「あなた、比企谷さんのことが好きなのでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

今、お母さんはなんと言ったのだろうか。

 

 

 

す、き?

 

 

 

私が、比企谷先輩を、好き?

 

 

 

 

 

 

 

わたしが

 

 

 

比企谷先輩を?

 

 

 

 

 

 

 

「そんなわけないよ」

 

無意識にそう言っていた。けれど、否定をすればするほど、心の中でそう思うほどに私の心臓の鼓動は多くなっていった。

 

 

 

 

「本当に?」

 

 

お母さんはそう尋ねてくる。

 

 

「そう思いたいだけではなく?」

 

 

それはある意味『核心』であり、確信していた。

 

「・・・一番、好意的には想っているかも、しれない」

 

 

 

 

 

そうだ。これが私の本当の想いだ。

 

 

 

「そう・・・あなたなりに頑張ってみなさい。そうすれば、結果は見えてくるわ。なんたって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは、私の娘なのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お母さんは、今まで見せたことのないような優しい笑みでそう言ってくれた。

 

 

 

 

これが、『母の優しさ』なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日、お母さんから全部聞いた。ねぇ、どうして?どうしてなの?どうして比企谷先輩はいつも、いつも自分を犠牲にするの!?」

 

翌日の放課後、私は奉仕部の部活へ行き、思っていることを或いは想っていることを全て吐き出した。

 

「犠牲なんかじゃない。これが、これが最善なんだ。これしか・・・なかったんだ」

 

比企谷先輩は私の顔を見て、辛そうに言った。

 

「嫌だよ。言ったよ、私言ったよ?絶対に自分のことは切らないでって。そう・・・言った、じゃん」

 

「・・・」

 

「もう嫌だよ。比企谷先輩がそうやって傷付くの、見たくなんてないの!!私が、私がこんなことで救われたと思ってるの!?バカにしないで・・・バカにしないで、よ」

 

「ごめん、ごめんな」

 

比企谷先輩は私に謝る。けれど、私が欲しいのは謝罪なんかじゃないのだ。

 

「分かってるの?自分の人生が決まったんだよ?」

 

「・・・ああ」

 

「分かってない!!何ももう自分では決められない、道だって全部用意されているところしかない。それが、それが・・・どんなに辛いのか。分かってないよ・・・」

 

私は、今まで自分が歩んできた時の思いを言った。そんなことを言っても、もう変えることができないのは知っているのに。それなのに、私は言わずにはいられなかった。

 

「・・・やっぱり、やっぱり」

 

 

 

 

 

 

 

「辛かったんじゃねぇか」

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、雪ノ下は辛かったんだな」

 

 

 

 

 

その声は優しく、どこまでも私の心に響いた。

 

 

 

 

「もう、お前にそんな想いはさせない。お前が来ていたこの数ヶ月で、俺はお前に何かを見出そうとしていた。だから思えた、この方法を使おうと、使うしかないと」

 

 

「せん、ぱい」

 

 

「辛かったな。大変だったな。よく頑張ったな・・・お疲れさん。あとは、あとは、俺に任せろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ああああ」

 

 

 

 

泣いた。私は泣いた。昨日、母の前で見せた時よりも泣いた。彼のその優しさに、彼のその覚悟に、彼のその在り方に、彼の『想い』に私は涙が止まらなかった。止められなかった。

 

 

 

 

 

 

止まらなくて、よかったとさえ思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・八幡先輩」

 

私は、彼を名前で呼ぶ。それは、私の中にある『想い』をもう隠そうとも、偽ろうともしないように生きていこうと思ったから。

 

「ありがとう。私を、私を救ってくれて」

 

だから、まずは感謝を伝えなければならない。そうでなくては、私のこの想いを私は誇れなくなる。

 

「構わねぇよ。『アホ後輩』」

 

「・・・うん」

 

 

だから、私は言う。

 

 

 

 

 

 

「今度は、私があなたを助けるから」

 

 

 

 

 

八幡先輩、私はあなたを救う。あなたが、幸せになるように私が支える。それが、私にできる最大の恩返しだ。私がこの『想い』を伝えるのは、その後だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いつか、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつか、俺を助けて・・・・な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言った彼の顔を、私は生涯忘れることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が、先輩が、比企谷八幡が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて、笑ってくれたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*sideout

 

 

 

「これが、私と八幡先輩の間にあったことだよ」

 

 

姉さんの語りを聞いた。聞き終えた。

 

 

 

それなのに、私は何も言えなかった。何も、言う資格などないと、そう思った。それほどまでに、私の想像を絶するものだった。

 

 

「ねぇ雪乃ちゃん」

 

 

姉さんが語りかけてくる。

 

「なに、かしら」

 

「八幡先輩はさ、本当に馬鹿で、本当に自分がどうでもよくて、本当に人のことばっかりで、本当に優しい人なんだ」

 

知っている。そんなことは知っている。この約一年を通して、そんなことはよく知っている。

 

「そんな八幡先輩の道を、私が絶ってしまった。私が、邪魔しちゃったんだ」

 

そう言う姉さんの顔は、悲しみと後悔に溢れていた。

 

 

初めて見る、顔だった。

 

 

 

けれど、私はその言葉にどこか言いようのない感情が生まれた。

 

「そんなこと、言わないで」

 

私は、無意識に口に出していた。

 

「・・・え?」

 

「それじゃあ、それじゃあ比企谷先生の『想い』を『覚悟』を踏みにじることになるじゃない!だから、だからそんなこと言わないで!姉さんがそんなことを言わないでちょうだい!!」

 

 

その感情は『怒り』だった。私の、姉さんの発言に対する怒りだった。

 

 

「確かに、彼の道は絶たれたのかもしれない。けれど、けれど、それでも比企谷先生はそれを分かったうえでやった。なら、姉さんがそれを否定するような言い方をしてはいけないわ!」

 

「・・・そう、だね。ごめんね、雪乃ちゃん」

 

姉さんは謝る。

 

「ごめんなさい。姉さんも辛いのに、感情的になってしまって」

 

その姿に、私も少しずつだが冷静さを取り戻した。

 

「ううん。確かに、雪乃ちゃんの言う通りだったから」

 

 

 

「んん!陽乃、まだ雪ノ下に言わなければいけないことが残っているだろう」

 

 

 

お互いに黙ってしまった私と姉さんに気を取り直させるように、平塚先生が言った。

 

「そう、だったね。雪乃ちゃん、さっきの話で気になったことってない?」

 

そう姉さんに訊かれても、心当たりがありすぎる。気になったことなどほぼ全てだ。

 

 

けれど、けれどそうだ。どうしても腑に落ちない場所と何よりも気になっている場所がある。

 

 

「あるわ。それも2つ」

 

「聞かせて」

 

「どうして比企谷先生は『先生』でいられているのか。姉さんの話の通りなら、今頃比企谷先生は雪ノ下建設で働いているはず。もう1つ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さんの『依頼』」

 

 

 

 

 

 

 

そう、そこにある。雪ノ下建設での将来を約束したというのなら、今、比企谷先生が先生でいるというのはおかしな話だ。話の通りなら、雪ノ下建設の社員となって母さんに鍛えられているはずなのだ。そして、母さんが比企谷先生に出した条件、或いは『依頼』その2つが気になる。

 

 

 

「そう。その2つが雪乃ちゃんに本当に伝えなければならないこと」

 

そう言い、姉さんは顔を覚悟でいっぱいにした。

 

 

 

 

「お母さんが当時の、いや、比企谷八幡に依頼したこと。それは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪乃ちゃん。『あなたを救うこと』だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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