千聖ちゃんが大好きな彩ちゃんと、そんな彩ちゃんが友達としては好きなんだけど、どうしても愛することが出来ない千聖ちゃんが、色々と考える話です。

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pixivの方に投稿したので、こっちにも投稿してみます


LoveでもLikeでもないこの愛に、もし名前をつけるとするならば

 

 

私の名前は白鷺千聖。パステルパレットというアイドルグループのみんなと、バンドをやっている。

 

そんな私には、同じバンド仲間に、少し厄介な女の子がいて...

 

「ねぇ、千聖ちゃん。こっち向いて...?」

 

そう言って、私の後ろに経つ彩ちゃん。

 

「いやよ」

 

「ええーっ!? なんでー?」

 

「なんでって...分からないの?」

 

少し前までは、彼女とは仲のいいバンド仲間。それ以上でも、それ以下でもない関係だった。

だけど、あるドラマの撮影の時に、私は彼女のファーストキスを、奪ってしまったのだ。

私自身、勢いでとんでもないことをしでかしてしまったことはとても後悔してる。

けれど、問題はそこじゃなくて...

 

「彩ちゃん、私の顔を見る度にキスしようとするじゃない!」

 

彩ちゃんが、最近暴走気味なのだ......

 

「私達は、アイドルなのよ!? いくらなんでも、人前でキスしたりしていい立場では無いことくらい分かるでしょ!?」

 

「だって...千聖ちゃんが可愛いから」

 

別に私だって、彩ちゃんが嫌いなわけじゃない。むしろ好きな方だと言っても、過言ではないと思う。でも、私の好きは、あくまでもlikeであって、決してloveでは無いのだ。

最初の頃は、これを言うのをいくらか躊躇い、今の関係を壊したくないと我慢していた私ではあったが、ある時ついに限界に達し、この気持ちを、彩ちゃんに伝えたことがあった。

 

それで、私と彩ちゃんの関係は終わり。寂しくはあるが、彩ちゃんの奇行を少しでも抑えられるなら...と思っていた。

そんなことで、彼女は止まる女じゃなかったのだ。

 

「じゃあ私、千聖ちゃんがLoveになってくれるまで、絶対に愛し続けるから!」

 

正直、嬉しかった。

拒絶して、終わりにする。それでまた、愛だけが無い平和な日常を過ごせるなら、それでいいと思ってた。けど、これほどの愛を感じ取った私は、既に彩ちゃん無しでは生きられないようになっていたのかもしれない。

 

 

「ちーさーとーちゃーん!ちゅー!しようよー!」

 

更衣室の中、いつ他のメンバーが来るかも分からない状況で、彩ちゃんはそうやって私の後ろで駄々をこねる。

こんな、いつ誰が見てるか分からないところでキスをしてしまえば、それこそただのバカップル、ともすれば、変態というレッテルを貼られかねない。

しかし、髪どころか頭の中までピンク1色なのか、彩ちゃんはついに私に抱きつき、無理やりキスをしようとし始めた。タイミングが悪く、私は現在下着姿...というかむしろ、下着姿だから抱きつかれたのかもしれない。まあどちらにせよ、ここは更衣室だから、男の人に見られることは無いのだが、例え見た人が女性だとしても、下着姿で女友達と隠れてキスするなんて、今にもおっぱじめそうな雰囲気だと言われても、正直反論のしようがない。

 

「彩ちゃん...!お願いだから、離して...!」

 

キスをしようと無理やり近づいてくる頭を、ほっぺを押して無理やり遠ざけようとする。だが、身長差と力の差が相まって、どんどん私の腕は押し返され始める。

 

ほんの数センチ、私がもう無理だと確信した時、これから作られるであろうスキャンダル記事、謝罪会見、パスパレ脱退。起こりうる可能性のある全ての災難が、私の頭に浮かんだ時だった。

不意に、彩ちゃんの頭の力が弱まる。そして、彼女は少しずつ私から離れ、青菜に塩をかけたかの如く、シュンとし始めてしまった。

 

「彩...ちゃん...?」

 

急激なテンションの変化についていけず、私がどうすればいいのか、どんな言葉をかけるべきなのか考えていた時、彼女は静かに口を開いた。

 

「千聖ちゃんはさ...そんなに私のことが嫌い...?」

 

そんなわけない

 

そう言いたかった。

だけど、そんな言葉は所詮、まやかしに過ぎない。

キスを拒み、likeだと彼女に言ってるこの状況で、彩ちゃん大好き〜、なんて口で言っても、彩ちゃんはきっと納得してはくれないだろう。

見せなくてはいけないのだ、誠意を。

1人の人間として、愛を与えてくれる彼女に対して。

 

ちゅっ

 

彩ちゃんのほっぺたに、唇を少しだけ触れさせる。なんてことは無い、ほんの少しのスキンシップ。

けれど...たった、それだけの事なのに...

 

き、キスしちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

やばいやばいどうしよ、彩ちゃんのほっぺたに...柔らかくてすべすべで...じゃなくて、あんなに拒否してたのに、ついうっかり自分から...

だ、だって彩ちゃん、怯えてる小動物みたいで可愛くて...

 

そんなふうに私が動揺してた時だった。

 

「いや〜!疲れたぁ〜!」

 

さっきまで、どこかにフラッと放浪していた日菜ちゃんが、更衣室へ飛び込んできた。

 

「さぁって!あたしも着替えよっかな〜!」

 

上に着ているシャツを、大胆にバサッと脱ぐ日菜ちゃんを見て、一時でもさっきのことを忘れられていた私の耳元に、彩ちゃんはそっと近づいてきて...

 

「千聖ちゃん...ほっぺにしてくれた時、すっごく嬉しかったよ...♡

 

 

また...してね?♡」

 

落ち着きかけていた私の心臓は、またもドキンと飛びはねた。

 

 

 

 

 

仕事を終え、帰路についた私達。

だけど今日は、彩ちゃんに誘われて、お泊まりをすることになった。

仕事終わりに、今日はお家に親が居ないんだ〜

...なんて彩ちゃんから言われた時には、流石に動揺を隠せなかったけど、あの彩ちゃんのことだ、多分家に誰もいないから、怖くて寝れなさそうだから私を誘ったとか、まあ、多分その程度だろう。

 

「はい、千聖ちゃん、ホットココアで良かった?」

 

白いティーカップに入ったそれは、春になっても、少し肌寒い夜である今日にピッタリな、少し温かみのある飲み物だった。

何度か息を吹きかけてから飲むそれは、流石にお店で出されるものには程遠い味ではあったが、その温かみが生み出す安堵感は、他のどのココアにも生み出せない、最高の感覚だった。

 

「すっごく美味しいわ、彩ちゃん!」

 

「本当に!? 良かったー!」

 

ホッと胸をなで下ろす彩ちゃん。そんなに私の美味しいの一言が嬉しかったのだろうか。なんにせよ、彩ちゃんが喜んでくれるというのは、こっちにしても嬉しいことだ。

 

彩ちゃんが笑顔になれば、私も笑顔になる。

あとは、彩ちゃんからのLoveを受け取り、私のlikeがLoveになるのを待つだけ。

だけど...私の中のlikeがLoveになるのには、たったひとつ、何かのピースが足りない。

大切な1ピースが欠けた、心のジグソーパズルを、彩ちゃんは埋めてくれるのだろうか。

 

そんな気持ちの悪いポエムみたいなことを、ココア片手に考えていると...

 

「おかわりなら、いくらでもあるからね!」

 

彩ちゃんから、そう声がかかった。

 

「じゃあ、もう一杯貰おうかしら」

 

こうして、私達の夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

私は、千聖ちゃんのことが好きだ。

likeじゃなくて、Love。この愛は、偽りじゃない。

そう思って、まだlikeなままの千聖ちゃんを振り向かせようと、色んなことをしてきた。でも、色んなことが空回りして、千聖ちゃんとの距離は近づいたり離れたり。いつになっても、進展してるとは思えない状況。

だからこそ、今日は一気に仲良くなろうと、お泊まりに誘ったんだけど...

時計の針が10時半を指す。千聖ちゃんは2杯目のコーヒーを飲み干したあと、眠くなってしまい、私のベッドに潜り込んだ瞬間、一瞬で夢の中に行ってしまった。アイドルたるもの、夜更かしが大敵だというのは、耳にたこができるほど聞いたフレーズだが、そのフレーズが形になったかのように、千聖ちゃんの睡眠には、一切の妥協がない。

そうやって、千聖ちゃんの寝ているところを見ている私だけど、正直、眠れる気がしない。

大好きな人が、私のベッドの上で寝ているという事実だけでも、私の眠気を消し飛ばすには充分な破壊力なのに、まるで妖精が、花の上で寝ているような、そんな美しさを備えた千聖ちゃんを見ない訳にはいかないと、私の本能が囁いてくるのだ。

けれど、私の起きる理由はそれだけには留まらない...

 

私の本能は、こうも囁くのだ。

この美しい少女を、今なら穢せる...って

 

いつも頑張ってる千聖ちゃんは、1度寝たら結構長い間寝ていることが多い。だから、多少のことをしたって、バレることは無い。

 

おあずけを喰らっていた唇同士のキスだって、

身体も、なんなら胸だって、今なら自由に触れられる。触ることが出来てしまうのだ。

 

千聖ちゃんは嫌がるだろうか...それとも許容してくれるのだろうか...愛してもいない女に身体を触られるというのは、どれほどの不快さなのか...私にはちっとも分からない。

でも、もし今ほんの少しの勇気を出して、彼女の身体に触れたなら、私は千聖ちゃんの、何かを掴めるかもしれない。そうすれば、もっと仲良くなれるかもしれないし、あわよくば、彼女の気持ちもLoveになってくれるかもしれない。

 

そんな希望的観測を胸に、千聖ちゃんの身体に手を伸ばした瞬間だった。

千聖ちゃんは、寝返りをうった。

起きてしまったのかと驚き、手を引っこめる。

だけど、心地のいい彼女の寝息がまた規則正しいリズムを刻み始めると、私の鼓動も普段のリズムを取り戻し始めた。

 

千聖ちゃんが寝返りをうったことによって、彼女の顔が私に見えるようになった。

とっても心地のいい夢でも見ているのだろうか。彼女は私の前では決してしないような、安らぎのある表情で寝ていた。

心地のいい夢......彼女にとってのそれには、きっと私は入っていない。私という存在は、彼女の安らぎを崩してしまう存在だろうから。

 

私は、千聖ちゃんの寝ているベッドを離れ、自分の布団に戻ることにした。

だけど、最後に一つだけ、やりたいことがある。

 

 

 

 

 

彼女が私にこれをやってくれた時も...こんな気持ちだったのだろうか...

 

 

 

 

それはとっても嬉しいことだけど...同時に、いやそれ以上に悲しく...切ないことでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の訪れを告げる小鳥の囀りによって、私は眠りから目覚めた。

眠りから覚めた身体を起こすと、ベッドの右端には、見慣れたピンクのツインテール。

 

「千聖ちゃん、おはよう」

 

微笑みをもって挨拶をする彩ちゃんに、私は少しの違和感を感じた。

 

「おはよう、彩ちゃん。今日はとっても早いのね」

 

「えっ? そうかな? あはは...」

 

そう言って、苦笑いのような笑い方をする彩ちゃん。その目の下には、大きなクマが出来ていた。

 

「彩ちゃん、さては寝てないわね?」

 

「あ、うん。ちょっとね」

 

「もう、寝不足はお肌の敵って、何回言えばいいのかしら?」

 

「ご、ごめんなさい...」

 

彩ちゃんがそう言って謝った時、私は自分の服が、ほんの少しだけ乱れてることに気づいた。

 

「もしかして彩ちゃん、私が寝ている間に、何かした訳じゃないわよね?」

 

「えっ!?? そ、そ、そんなことないよ!!あははは...」

 

図星だったようで、彩ちゃんは誤魔化せるとでも思っているのか、乾いた笑いを数秒間続けた。

 

「どこに触ったの? 今すぐ言うなら、許してあげないことも無いけど。」

 

彼女は顔を真っ赤にして、俯きがちに答えた。

 

「ほっぺに...ちょっとだけ...キス...」

 

「ほっぺ?」

 

彩ちゃんの反応的に嘘ではなさそう...というか、彩ちゃんはそもそも嘘がつけるような性格をしていないのだが、それにしても...

 

「どうしてほっぺたなの?」

 

「......」

 

彩ちゃんは、俯いたまま答えない。

 

「他の部位は触ってないの? なんにも?」

 

首を少しだけ下に下げて、肯定した。

 

「他のところだって、触ろうと思えば触れたんじゃないの?」

 

そう言った時、彩ちゃんは少しだけ口を開いて...

 

「だって、他のところを私が触ったら、千聖ちゃん、嫌がるでしょ...?」

 

この言葉を聞いたとき、私の中に生まれた感情は、一体なんだっただろうか。

 

愛ではあるけれど、Loveでもlikeでもなく、かつ否定的でもなく、それでいて感情としては最高峰。

私は、この気持ちに対する言葉を思いつかなかった。だからこそもう一度、言葉ではなく、形で表そう、そう決めた。

 

ギューッと、彩ちゃんを抱きしめる。

逃げられないように、腕を後ろに回して、胸に顔が埋まるくらい、それくらい強く抱き締めた。

彩ちゃんから、いちごのような、甘い匂いが溢れ出して、私の周りを取り囲む。どうしてこれほどに、彩ちゃんが愛おしいのか、私には分からなかった。

 

「えっ!? ちょっ、く、苦しいよ!千聖ちゃん!」

 

困惑する彩ちゃん。それでも、私は手を緩めない。1分でも、1秒でも長く、彩ちゃんを抱きしめていたかった。

 

「私はね、彩ちゃん。彩ちゃんのそういう所が大好きなの。自分の欲望よりも、他人を思い、優しくできるところが、その優しいところが、大好きなのよ」

 

 

その時、ふと、あるドラマのセリフを思い出した。

その当時は、愛が何かというのも理解出来ておらず、形だけ整えた、言葉を並べただけで、それでいいと思っていた。

 

でも、今ならハッキリとわかる

 

 

 

 

 

 

 

これが、慈しむ ということなのだ。

 

 

 

 

 

 

「彩ちゃん...大好きよ...」

 

 

私は、彩ちゃんをただひたすらに、慈しんだ。




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