怪盗はチョコが欲しい   作:エンピII

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デートに誘う時、嫌がるところにも行ってみたかったというお話。
時期はジョーカーが出所して、地元に帰るまでの間。

このシリーズの続編では無いけど、それっぽいのを書いてみようと思った奴がまだありましたので、ついでに。



あえてみんなが喜ばないところに、遊びに行こうと思う

「あえてみんなが喜ばないところに、遊びに行こうと思う」

「……いや、それ何で俺が呼ばれたの?」

「期待してるぞ、作戦参謀」

「そういうのは真じゃね?」

「それじゃあ意味がない」

 

 ああ、そういう事かと坂本竜司は思う。

 ルブランに呼び出した礼だと、そう言われ差し出されたコーラーをストローを使って吸い上げる。この寒い時期に炭酸なんてと他の怪盗団連中が眉を顰めることもあるが、暖かい室内で飲む冷たい炭酸というものの魅力をわかっていないなと竜司は思った。

 

「……お前、真とデキてたんだ?」

 

 まあなと答えるコイツに、マスターがため息をついたように見えるが、深くは気にしなかった。

 

「いや、普通に真が喜ぶところでデートすりゃあいいんじゃねーの?」

「……出所してから俺が、昼も夜もなく全力で遊び呆けているのは知っているな?」

 

 ああと頷く。学校に通っている間、寝ている間。それらを除けばこいつが誰かしらと過ごしていることは知っている。こいつと過ごす整理券が必要なくらいだ。

 

「もう皆が喜びそうなところは、全部回ってしまったんだ」

「ああ、そういう事かよ」

 

 お熱いことでと言おうとして、あることに気付いた。

 

「……お前いま、みんなって言った?」

「ああ」

「真と付き合ってるんじゃないの?」

「ああ」

「みんなとも付き合ってるの?」

「そこは曖昧にしておこう。とにかく、そういう事なんだ」

 

 どういうことだよと思う。ちゃんと突っ込んだ方がいいんじゃねえかとも思うが、少し怖くなって黙っていた。

 

「……それで行きたがらないところに連れていきたいってことか……」

 

 こいつは頷き、雑誌か何かをプリントアウトしたのか、マップをテーブルに広げた。

 

「例えば真の場合、平日なら荻窪、原宿、水道橋、月島が喜ばれる。休みの日なら中華街にお台場、埋浜あたりもアリだ」

「……月島ってもんじゃ?」

「ああ、今では俺より巧いぞ」

 

 へーと驚きながら、こいつら普段そんなところに行ってるのかと素直に思う。

 

「それ以外の所はどうなんだ?」

「うーんって、言われるんだ」

「へ?」

「そのままだ。うーんって言われて行きたがらない」

「……んじゃよ、もうここで過ごせばいいんじゃね? 金もかからねーし」

 

 少し面倒になってそう言う。だがこいつは、少し困ったように薄く笑って首を振った。

 

「それも手だが、あまり連日だと俺の身体がもたないからな」

「ん? なんでお前の身体がもたないの?」

「説明がいるか?」

「……いや、いい」

 

 首を振って否定する。正直聞きたくないし、聞かされたくない。知ったら共犯にされそうで怖かった。モルガナが居ない理由にも気づく。

 あの野郎、逃げやがったな。

 

「まあ、行きたがらないところには強引に連れていくとして、問題は誰を何処に連れていくかだ。それの相談をしたい」

 

 こいつまるで隠す気ねーじゃねーかと思うが、だいぶめんどくさくなってきたので何も言わない。早く終わらせて、家に帰ろうと決めた。

 

「まず春。彼女が一番難易度が高い」

「そうなのか?」

「ああ。春は内心では好みではないところでも、嫌な顔一つしないだろうからな。……おそらく、内面と外面を切り離す訓練を積んでいるんだと思う。正直見破れる自信がない」

 

 まあ、本気で嫌なら笑顔で否定する怖さも春にはあるがと続けるこいつに曖昧に頷く。

 

「次に双葉、彼女も難しい」

「人の多い所に連れて行けばいいんじゃねーの?」

「わかっていない。わかっていないな竜司は」

 

 困ったもんだとオーバーリアクションされて、正直イラついた。それでもどうしてだ? と尋ねる自分は、我ながら人のいい奴だと思う。

 

「得手不得手はあっても今の双葉は、人混みにあえてチャレンジする強さを持っている。かといって刺激がないところに連れて行ってもな。退屈させてしまっては意味がない」

「よーするに、絶対行きそうもなくて、行ってみたら案外面白かったって所に連れて行きたいって事か?」

「さすが竜司だ」

「おおよ!」

 

 ぶっちゃけ、声ほど今のテンションは高くない。

 

「次に真だが、彼女もまた難しい。何か学ぶことがあって、尚且つ行きたがらないところとなるとな。……正直行きたがらない所はもう一人で行っていて、勉強済みなんじゃないかと思う」

「……つーことは」

「ああ、最初のターゲットは杏だ」

 

 なるほどなと頷く。たしかにアイツなら好き嫌いハッキリしてそうだし、一発目の相手に丁度いいのかもしれない。

 

「―――元町中華街はどうだ?」

 

 指さす場所を竜司は否定する。

 

「中華系の甘いものが沢山ありそうだし、楽しめなくはないだろうけどよ。あいつ一応モデルだろう? 油っこそうな場所は駄目じゃね?」

「……なるほど、杏の足を引っ張るわけにはいかないか。それじゃあ秋葉原はどう思う? いい刺激になるだろう」

「アイツ同人誌の存在とか知ってるしなー。まあ、悪くねーんじゃね」

「だが、少し無難か。……メイド服もパレスで着てたしな」

「お前ホント、どこからああいうの手に入れてくるの?」

「個人的にはヴィクトリアンメイドも用意したかった」

「完全趣味じゃねーか。……まあ、いいか。んじゃ秋葉原で決定か?」

「いや、出来れば」

「出来れば?」

「思いっきり顔を顰めるくらいに嫌がりそうな所に連れて行きたい」

 

 行ってみたら楽しかったの件はどうなったんだよと思うが、やはり面倒なので何も言わない。

 

「……竜司、お前いつか俺に聞いたな? 結婚願望はあるのかと。その時の事を覚えているか?」

「……ああ、あの女子たちがおかしな反応したときのか。というかお前、あの時点でみんなとそういう関係だったのかよ」

 

 たしか結婚願望はあるって言ってたなと続けた。

 

「俺は彼女たちと喧嘩をしたことが無いんだ」

「いいことじゃね?」

「二月十五日にはあったが、あれも厳密には喧嘩とは違うしな」

「……そういやお前、なんで十四日俺と過ごしたわけ? いや、長くなりそうだし、いいや。それでおまえは喧嘩がしたいの?」

「俺は彼女達との将来について真剣に考えている」

 

 彼女達と真顔で言ってる時点で俺の知る真剣とはだいぶ違うなと思うが、これにも突っ込まない。

 

「将来そういう事になったときのためにも、今から色々経験しておきたいんだ。……これは願望だが、彼女達の色々な顔をもっと見たい。笑ってる顔も見たいけど、怒る顔も見たい。もっと沢山、目に焼き付けておきたいんだ」

 

 少し寂しそうに笑い、もうあまり時間もないからなと言う。

 そこまで言われて竜司はやれやれと頭を掻いた。しゃーねーなと思う、そういう事なら協力してやるかと地図の一点に指を置く。

 

「もうここしかねーだろ、市ヶ谷の釣り堀だ」

「あの空間に放り込むのか。鬼だな」

「鬼とかお前にだけは、言われたくねえ」

「だが、貞代は一人でも行っていたぞ? ほら、いつだったか竜司と初めて釣り堀に行ったときだ。あの頃の貞代はやさぐれてたから怖い目つきしていたが、女性一人でも行けなくはないだろう。実際女性客も見かけるしな」

「……担任を自然に下の名前で呼ぶお前が一番こえーよ。まあ、とにかく。川上はしらねーけど、杏なら絶対に嫌がる。なんつっても黄色いビール瓶ケースが椅子だぞ」

「確かにお洒落さの欠片も無いな」

「だろ? 練り餌なんて絶対さわったことねーってアイツ」

「逆に言えば、俺がここで連れ出してやらないと杏は一生そういう経験をしないかもしれないのか」

 

 スマホを使っていろいろ検索してみると、家族連れとか女性でも楽しみやすい釣り堀もあるみたいだが、市ヶ谷の釣り堀にはそういう要素が無いと断言できた。

 

「……決定だな。流石竜司だ」

「へへ、だろ?」

 

 笑うが、内心ではアイツ怒って帰るんじゃねーかなとも竜司は思っていた。そしてそれでも構わないとも。

 だって怒られるの、俺じゃねーし。

 

 

 

 

 

 

 彼が今日は連れて行きたいところがあると笑って言うのを、私はえへへと破顔して頷いた。

 珍しいなーとも思った。いつもは最初にどこに行こうかと相談してから決めるのに。

 でも、どこに出かけるかわからず、彼にエスコートされるというのも、デートらしくていいなと私は上機嫌だった。

 電車に乗って、市ヶ谷で降りて。ここで少し嫌な予感がした。市ヶ谷になにかスポットがあったかなと必死に記憶をたどるけど、普段私たちが遊びに行くような場所があったとは思えない。

 

「ねえ、ちょっと」

「どうした?」

「……今日は何処行くの?」

「秘密。……杏、よかったら手を繋ごうか」

 

 差し出された手をしぶしぶ握る。こうやって手を繋ぐと埋浜でデートしたときの事を思い出して、少しだけドキドキした。あの時はお城が見えてテンションが上がったのを覚えてる。

 風に乗って何かの匂いが届く。独特な臭い。近くに何かあるんだと知らせてくれる。

 というか目の前にある。目の前に広がる釣り堀に、お城の時とは違ってテンションが下がってきてる。

 

「着いたぞ」

 

 そう彼は笑って私の手を解放する。

 

「……ねえココって」

「杏はこのカジュアルロッドがいいかな?」

 

 有無を言わさず手渡される。

 

「ちょっと」

「その格好じゃ寒いだろう? 防寒着も用意したぞ」

「……ありがと」

 

 まるでパレスで衣装を変えるみたいなノリで渡される。相変わらず、そういうのどこから出してるのと思う。たぶん防水加工されているジャンパーにパンツを服の上から着る。確かに暖かい。だいぶモコモコしたけど。

 

「今日はわりと空いてるな。……ここにするか。ああ、いまクッションを置くからその上から座るといい」

 

 クッションを置かれたビール瓶ケースをポンポンと彼が叩く。ここに座れと言うのだろう。

 

「はい、杏。これが釣り餌だよ」

「なにコレ!? すごい生臭いんだけど!」

「爪の中に入ると後が大変だから気を付けて。一応珈琲の豆殻を持ってきたから、最後にそれで洗えば臭いも取れるから安心していい」

「安心とかじゃなくて! 連れてきたいところって本当にここなの!?」

「ああ」

「……なんで?」

「来たことないだろう? 釣り堀」

「来たこと無ければ何処でもいいの!?」

 

 強めにそう言うと、ロッドを構えた彼が少しだけ寂しそうな顔をした。

 その顔に思わず胸が打たれる。悲しませてしまったと思うと、怒鳴ることは無かったかもと反省する。

 そうだよね、デートって二人が楽しむものだけど、私は少し自分が楽しいとか自分が行きたいとかを優先しすぎてたかもしれない。

 彼が楽しい、彼が行きたい、そういう事を少しだけ忘れていたのかもしれない。

 何より私は、彼と居る時が一番幸せってことを忘れていた。

 

 私はクッションの置かれたビール瓶ケースに腰を下ろして、ロッドを構える。

 

「……ねえ、エサってどうやってつければいいの?」

 

 任せろと彼が笑う。

 嬉しそうにしちゃって。彼の笑顔に思わず私も嬉しくなって微笑んだ。

 

「この後どうすればいいの?」

「魚が居そうな場所にキャストして釣り糸を垂らすんだ。……そうだ、流石ロッドの扱いは手慣れてるな」

「そうかな? 鞭とはだいぶ違うけど、えへへ、それでも嬉しい―っとなんか来たんだけど!」

「ヒットしたな。落ち着いてウキの動きをよく見るんだ」

「こ、これ!すごい重いぃ!」

「……大物だな。いい練り餌を使った甲斐がある」

「そんなこと言ってないで! は、はやく手伝って!」

「がんばれ」

「ちょ、マジ!?」

 

 私は立ち上がって必死に魚と格闘する。掛かった魚が暴れている。必死にロッドを持って魚相手なのに、シバかれ足りねーってか! と思わず叫んでしまう。

 横では彼が、こんな杏の姿を見たことあるのは俺だけだなと、なぜか満足そうに呟いているのが聞こえた。

 足がプルプルと震える。力を込めて歯を食いしばっているせいか、鼻息が荒くなる。額に汗が浮かんでいるのが分かる。

 なんで私こんな必死になってるのと思った。そんな事が頭をよぎったら少しだけ力が抜けて、魚に身体ごと持っていかれそうになる。

 あ、倒れると思った瞬間、彼が左手で私の腰を押さえ、右手でロッドを支えてくれていた。

 

「もう少しだ。頑張れ」

 

 彼の言葉を頼もしく思う。彼の横顔にドキドキする。彼に良い所を見せたい。自然とそう思った。

 そして隣に彼が居る、それだけで私は力が湧いてくるのだ。

 魚相手なんかに無様な姿は見せられない。カッコいい私を見せてあげたい。

 しっかりと踏ん張って、ロッドを握る手に力を込めた。

 

「―――こぉんのぉー!」

 

 そう思いっきり叫んで、私は全力でロッドを引き寄せた。

 

 

 

 

 

 

「それで釣り上げた時の写真がこれだ」

「うお、無双ブナじゃねーか」

「しかも90センチ越えの大物。初めてでこれとは末恐ろしいな」

 

 ルブランのボックス席で向けられたスマホをマジマジと覗き込む。かなりの大物だ。だが本当は魚のサイズよりも、あの杏がこの巨大魚をバス持ちして笑っている事のほうに衝撃を受けた。

 つーかこのサイズの魚をバス持ちって、アイツどんな力しているの? と思ったがそこまでは突っ込まない。

 

「まあ、一応は成功ってことか? 結構楽しめたんだろう? つーかよく杏が釣りを始めたな」

「少し寂しそうにしたら、なんか深読みしてくれたっぽい」

「お前、ほんと酷くね?」

「そうか? ……なあ、竜司。やはり鍋の〆はうどんだと思わないか?」

「お前この後杏と鍋をしやがったのか! 魚で鍋をしたんだな!?」

「ここはポイント制だから流石にこの無双ブナじゃないが、帰りにな。杏の喜びそうなデザートも用意しておいたし。良い思い出になった。ありがとう、竜司」

「……俺は正直お前にキレてもいいと思う」

「一応竜司と会う時はペルソナをヨシツネにしている」

「自覚してるのかよ! つーかそれ俺、何もできなくね!?」

 

 物理無効に雷反射とか、どれだけ俺殺しのペルソナだよと思う。

 はぁと諦めたようにため息をついた。

 まあこれで解放されたのならばいいかと思うが、こいつは思案するように顎に手を添えてからこちらを見ている。猛烈に嫌な予感がした。

 

「……なあ竜司。次は真に、金城のパレスでペルソナを覚醒させたときのように彼女から『ウゼェんだよ!』と、そう罵られるくらいの所に遊びに行きたいんだが……」

「……お前、ホントどんな趣味しているの?」

「雷に怯えていた時があったんだ。ホラー系とかどうだろうか? ……竜司、出来るだけ曰くつきの、冗談でも踏み入っちゃいけない場所とか知らないか? 入ろうとすると近所の老人から思いっきり警告されるレベルの」

 

 ホント勘弁してくれと、そう足を放り出して俺は項垂れた。

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