◆運命の場合
「……後夜祭ですか?」
私の質問に彼は頷きます。
彼と付き合うことになって少したちましたが、今のところはこうして新宿の繁華街で占いをするくらいなんですよね。
ま、まあ、観覧車では色々教えてもらいましたが!
「そ、それってもしかして、デートのお誘いだったりするんでしょうか? ……するといいなー?」
この質問にも彼は頷いてくれます。
おおうと胸が高鳴りました。ドキドキしてしまいました。観覧車をのぞけば初めてのデートです。それも後夜祭という事は彼の学校。
も、もしかしてこれは学内デートというものでしょうか? ほとんど学校に通えていなかった私は、もちろん初めての経験です。
……付き合ったり、デートしたりすること自体彼が初めですけど……。
「でも、どうして後夜祭なんですか?」
高校の学園祭が一般開放されるというのは聞いたことがあります。それでも、もしかしたら違うのかもしれませんが、後夜祭って学生だけで過ごすんじゃないかな? とも思うからです。
私の問に、昼は講演会があって抜け出せない。なんとか時間が取れそうなのが後夜祭との事でした。
たしかに今、彼は窮地に立たされています。なぜなら彼は世間を賑わす怪盗。アルカナの配置もいまだに微妙なところです。油断できません。
そんな中でも彼は、私との時間を作ってくれようとしています。ここで答えなければ彼女とは言えません。
わかりました。任せてください。ドーンと大船に乗った気分で、一緒に後夜祭を過ごしましょう!
「……ところで私、後夜祭に入れるんでしょうか?」
私の質問に、彼は少し悪い顔で微笑んで任せろとだけ言い、一抱えの包みを渡してきました。
うう、この包み。ちょっとだけ不安なんですけど。
◆
私の不安は的中してしまいました。
私は壇上に上げられて、司会の方からマイクを向けられています。
ここに来るまで短い時間でしたが彼と学校を回って、すごい新鮮で楽しかったです。学校なんてほとんど通えませんでしたし、規模だって私の田舎とは全然違います。
それでも、それでもと思います。
なんで私は彼の学校の制服を身に着けたまま壇上に立って、マイクを向けられているんでしょうか?
『お名前は?』
あああ、もう始まっているんですね。私は最前列に並ぶ彼をチラリとみます。
最前列で見守ってくれてくれているのは嬉しんですけど、なんでそんな楽しそうなんですか! 私そもそも秀尽生じゃないんですよ! バレたらどうするんですか!?
とはいえここでバレては私だけでなく、彼にも迷惑が掛かってしまいます。ここはうまくやり過ごすしかありません。そう私は腹をくくりました。
「御船千早です」
ニッコリと微笑んで頷きます。
だ、大丈夫ですよね? 私結構幼く見られますし、一応メイクも、制服に合わせてきましたし。
いえ、決してノリノリで制服に着替えたわけじゃないですよ?
着たことないから実は憧れていた、とかじゃないですよ?
『御船さん! 見た目も可愛いし? なんかミステリアスな感じがしますし? 不平不満なんてなさそうですが。それでは、いってみましょう! 御船さんの主張で~す!』
「えーと、急に主張と言われましても……」
だって先ほども言いましたが、私そもそも秀尽生じゃないですし。
人前に出るのは慣れているんですが、大勢の前で喋る機会はあんまりなかったんですよね。どうしましょうかと悩んでいると、司会の人から質問されます。
『じゃあこっちから質問を……この中に怪盗団はいると思いますか?』
「ええ!?」
どうして急にそんな質問に!
ああ、思い出しました。講演会でそんな話を誰かがしたと彼が言っていました。ど、どうしましょう。だって私知っていますし、怪盗が誰なのかを。
でもそんなことを言ったら彼が捕まっちゃいます。破滅しちゃいます。それは困ります。
うう。こんな事になるなら、事前に自分の事を占っておくべきでした。
でも言葉に詰まる私に、助け船はすぐ来てくれました。急に最前列の彼が立ち上がって叫びだしました。
「ずっと好きでしたー!!」
「な、なんですと!?」
き、きゅうに何を!? いえ、もちろん嬉しいんですけど! スッゴイ嬉しんですけど!
『キタキター! これぞ青春ッ! 告白タイムかー!? 御船さん? 今の、あそこの彼からみたいですけど?』
「そ、そんなん……困るっちゃけど、そういうのココで」
『おおー! ミステリアス少女に新たな属性がー!? 御船さ~ん? 今の彼、どんな関係なんですか?』
「か、かんけいって! そ、そんなん言わんでも……」
『アララー、真っ赤ですね~。でも僕は紳士ですから、女の子をいじめるのは、忍びない! みなさん! 美人の赤面は堪能できましたか? それでは御船さん、ありがとうございましたー』
◆
「……うう。すごい恥ずかしかったです。地元の言葉もでちゃいましたし」
項垂れる私に彼は笑います。
「可愛かった」
「もう、私が興奮すると地元の言葉出ちゃうの知っていますよね? ……でも、嬉しかったです」
そう正直に答えて笑いました。だって好きだと言われて嬉しくない彼女なんて、いませんから。
「この制服もどうしたんですか? まさか私の為に用意したとか?」
「まあ、いろいろとツテがある」
身に着けた秀尽の制服をつまみながら尋ねると彼は笑って誤魔化します。うふふ、私に隠し事なんて通じないんですからね? 帰ったら早速占ってみます。
でも一つだけ気になりました。なんで彼はこんな私をわざわざ、それも制服を用意してまで後夜祭に呼んでくれたんでしょうか?
そう素直に尋ねると、彼は少しだけ言いにくそうにしてましたが、ゆっくりと話し始めてくれました。
「……バケモノって呼ばれていたって言っていただろう?」
私は頷きます。そのせいで閉じ込められて、ろくに外にも出れませんでしたから。
「運命は変えられる。でもだからって、過去が無くなるわけじゃない」
最初は私の事かと思いました。でも少しだけ違うのかも。たぶん彼自身の事も含んでいるんですね。
「だから、少しでも学校の雰囲気とか、そういうの見せてあげられたらなって思った。……余計だったかな?」
私は彼に向かって否定します。そんなこと、あるわけないじゃないですか。
だからいつもみたいに堂々としてていいんですよ? ……その方が格好いいですし。
でも、少しだけ弱気そうなあんたも、よかとよ?
笑って背を伸ばして彼の頭を撫でてあげます。驚いた顔をする彼に微笑みかけました。
私年上なんですよ? 忘れてたでしょう。ほ、ほんとうは胸に抱いてあげるくらいの包容力があればよかったんですが。
「……ありがとう、千早。その、いま色々あるから……。少しだけそうして貰っててもいいかな?」
もちろん。いくらでも甘えてください。泥棒のお仕事も大変な時期でしょうけど、大丈夫です。だって―――
「―――私がついてますから」
◆剛毅の場合
「―――フン! 主張だと? まったく、愚かしいにも程があるなぁ!」
「カロリーヌ? 少し落ち着いてください」
どうしてこうなったと思う。なんでホイホイ壇上に上がるんだよと、マイクを向けられたカロリーヌとジェスティーヌに頭を抱える。
きっかけはそう、些細なものだった。
学校というものを見てみたいと二人に言われ、取引だなと軽く請け負った。幼女を二人も引き連れて歩くのには抵抗があったが、ベルベットルームの前に立つ彼女達を、自分以外の誰かが認識していた様子は無かった。どうせ今回も姿は見えないのだろうとたかをくくっていた。
よりにもよって後夜祭を選んだ俺も俺だが、なんで普段は見えないくせに、お出かけするときはしっかり他の人にも見えるんだ……?
『え、えーと、お二人の格好はなにかのコスプレかな?』
「主より賜った我らの装束をコスプレだと? くく、いい度胸だなお前?」
「ええ、本当に。……いい度胸ですね」
あ、不味い。二人ともブチッの時の顔だ。
いくらなんでも、沸点低すぎるだろう。もうだめだ。俺が立ち上がって流れを変えないといけない。そうしなければ阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
流れを変える一言を俺は持っている。場の流れを強制的に変えてしまう一言。まさしく切り札、ジョーカーだ。
だけどと思う。
このカードを切れば俺は間違いなく、前歴以上の十字架を背負って残りの学園生活を過ごすことになる。
カロリーヌとジェスティーヌ、二人を見たみんなの反応を思い出す。
『……え? これってもしかしてお前の趣味?』
そう言った竜司はカロリーヌの警棒で思いっきり脛を叩かれていた。いい気味だと思った。
祐介は指で作ったフレームに二人を収めて、二度三度頷いていた。ジェスティーヌに酷く冷たい目で見られていて、少しだけ同情した。
『キミって、こういう子が好みだったの?』
『……犯罪とか、そういうのではないわよね?』
杏と真から今まで向けられた事のない目で見詰められ泣きそうだった。とっさに親戚の子だと言えばカロリーヌから背中を蹴られた。無理のある言い訳だったと自覚しているが、他に何て言えばよかったんだ。
双葉は興奮し、モルガナは二人を見るや考え込み始めただけだったからよかった。
だが、春は笑って俺を見ていた。そしてその目は、まったく笑っていなかった。これからのコープ上げに、支障をきたすかもしれない。というかコープが発生しないかもしれない。
仲間内でもこれなのだ。このカードを切れば俺は間違いなく変態扱いをされ、下手をすればアグネスだ。
他に良い言葉は無いか? 短い時間で逡巡する。
付き合っている人いるの? とかはどうだ。いや駄目だ。カロリーヌに「何をいってるんだお前?」と言われて終わりになるだけだ。
見えそうで見えない! はどうだろう。……ジェスティーヌに汚物を見る目で見られて終わりか。
やはり言うしかない。
胸のポケットに入れてある二重細工のしおりを制服の上から握りしめる。
二人に何度救われてきた。レベルの足りないペルソナを合体することが出来たのは二人のおかげ。弱点を持つペルソナを鍛えてくれたのも彼女たちだ。
その二人に報いるのに何の抵抗がある? 俺はどれだけ助けられてきた?
今度は俺が助ける番。それだけの話だ。……助けが必要なのは司会の秀尽生だが。
息を吸い、大きく吐き出す。同時に立ち上がる。
覚悟を決めろ。これは一世一代の舞台。ならば魅せるしかない。
ショータイムだ。
「ずっと好きでしたー!」
会場が静まり返る。
静まり返った分、小さな声がやけにはっきりと聞こえる。
あれってたしか転校生の?
幼女趣味かよ。
あの人の前歴ってもしかして?
あいつ鞄にナイフじゃなくて、LOを常備しているらしいぜ。
予想はしていたが、本気で泣きそうだ。
「なななななななにを言っている、囚人!?」
興奮したカロリーヌが警棒でガシガシと壇上を叩いている。
「……それは私とカロリーヌ、どちらに向けた言葉でしょうか?」
どちらと言っても角が立つ。もうやけくそだ。
「二人ともだ。二人とも、ずっと好きでした」
カロリーヌが何も言えずに口をパクパクさせている。ジェスティーヌは意味深に微笑むだけだ。
「カロリーヌ、いつまでも呆けてないで行きますよ?」
放心状態のカロリーヌの手を引き、ジェスティーヌが壇上から降りる、着いてきなさいと小さく言われ、素直についていく。
足取りが重い。
ゴルゴタの丘を登る気持ちがわかった。背負った十字架があまりにも重かった。
自分たちが居なくなった後の講堂が、ひどく騒がしくなっているのは、たぶん俺の気のせいではないだろうな。
◆
「……囚人、お前の気持ちはわかった」
「ですが私たちは看守。貴方を守る立場でもありますが、それ以上ではありません」
「だからこれまで通り、慣れあいは無しだ」
……これ、俺がフラれる流れになっていないか?
「ですが、貴方が更生を果たした暁には」
「さ、先ほどのお前の言葉、考えてやらないこともない!」
あ、成功してるのか。
「ふふ、正直に嬉しかったと言えばいいのに」
「な、何を言っている!? と、とにかくだ囚人。お前はこれまで以上に、刑務作業に励めばいい!」
「ええ、今回の私たちの課題はこれで達成としましょう」
「……俺はずいぶん重い十字架を背負ったがな」
「十字架? 何のことだ?」
「先ほどの私たちに対する告白でしょう。衆人環視のなかでしたから」
「ああ、そういう事か」
カロリーヌは納得しているが、十字架は告白そのものではなく、
ここまで来たのだ、もはや引き返すつもりは無い。
二人に覚悟しろよと伝える。更生とやらが終われば、遠慮などしない。
散々連れまわして、遊び尽くしてやると宣言した。
「くく、そう簡単に更生が終わるとおもっているのか?」
「カロリーヌ、そこは素直に楽しみにしていますと言ったほうがいいかと」
「ジェスティーヌ!?」
言っておくが、俺は本気だからなと宣言すれば二人は真っ赤になって言葉を失う。
そのまま真っ赤になった二人の手を引いてベルベットルームに送り届けた。
後日、レベルを超えたペルソナの合体費用と全書の引き出し値段が滅茶苦茶安くなっていて色々捗ったのは、まあ、別の話だ。
後夜祭で秀尽生以外にも、ずっと好きでしたを言ってみたかっただけのお話。
ええ、言いたかったですとも。
これも怪盗はチョコが欲しいとちがうものですが、折角ですし。
後夜祭だから時系列的には前だしだし。そもそも設定がifですけど!
なんで後夜祭に秀尽生以外のコープキャラ呼べないの?
そんな状況ではなかった事は理解していますが、選択肢はもっと多くてもよかったはずだというだけの話。
このジョーカーは九股してるのか微妙ですが、私の書くジョーカーは二作品を除いて股掛けはしていると確信しおります。
双葉には怪盗はチョコが欲しいとは違うペルソナシリーズで、ずっと好きでしたを言っていました。