怪盗はチョコが欲しい   作:エンピII

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怪盗は運命のチョコが欲しい

 ……順調です!

 

 彼を暗示するカード、それを7つのアルカナが取り囲んでいます。

 恋愛、死神、悪魔、女帝、星、隠者、節制。

 きっとこのアルカナは彼女たち。二月十五日に出会った私が知らない女の人たち。

 私の恋人の、とても大事な人の、その彼がとても大事に思う女性たち。

 アルカナが示すのが誰なのかまではわかりませんが、あのバレンタインの件で少し離れてしまった配置が、今はちゃんと元に戻っています。きっと彼が動いた結果です。

 ふふ、全部占いに出ちゃっているんですからね。

 

 もう一度彼の恋愛を占ってみます。今度は二月十五日に居た彼女たちではなく、私と彼とのこれからについて。

 私を示すアルカナは運命。

 結果は何度占っても一緒です。運命のアルカナが彼を示すカードに寄り添って、まったく離れません。ええ、離れませんとも。

 

 年上ってアリですか? って私の質問にアリだって答えてくれましたけど、年下も同い年もアリだったんですね~。……まさか、何でもアリ?

 

「……ふふ」

 

 あああ、いくらお客さんがいないからって一人で笑い出したのは不味かったでしょうか。私の前を通り過ぎる人たちに見られている気がします。

 でもしょうがないじゃないですか。嬉しいんですから。

 

 最初はやっぱりショックでしたよ? 裏切られたって気持ちで、心がいっぱいになっちゃいました。

 だって私、結構嫉妬深いんです。彼が他の女の人見ていたくらいで、怒っちゃうくらいに。それなのに、あんなにいっぱいの女の人と私に隠れて付き合っていたんですから!

 しかもみんなお洒落な感じで、いかにも都会! って感じの子ばかりじゃないですか! 私の事、田舎者って甘く見てますね! って、そう思いました。

 

 喫茶店のマスターさんに、ノロケはいつも聞かされているよなんて言われたって信じられるはずないじゃないですか。だから私が信じられる方法で占ってやったんです。

 彼の本命が誰なのかって。

 

 そしたら、笑っちゃいました。

 だって彼を示すカードに並び立つアルカナが、占うたびにどんどん変わっていっちゃって、全然定まらないんです。こんな占い結果が出た人なんて今まで一人だっていませんでしたよ。

 

 あれも好き、これも好き、みんな好き。

 

 彼を示すカードがそう言ってるみたいで、怒ったり悲しんだりしている私がバカみたいでした。

 全部丸ごと戴きます。カードがそう言っています。もちろん運命のアルカナもそこに含まれていて、これがきっと彼の運命の形なんだなって思ったら、もう身を任せちゃうしかないじゃないですか!

 運命は変えられる、私は彼と過ごしてそう学びましたけど、この運命はきっと変えられない。だって変えようとする障害は、彼が全部なんとかしちゃうでしょうから。

 

 ああでも、一つだけ気がかりが。

 一枚だけ、何度占っても、逆位置になってしまうアルカナがあります。

 カードから、諦めに悲観。無気力、不安定に疑心暗鬼。そういったことが伝わってきます。

 

 女教皇。

 

 このアルカナだけ彼の両腕から抜け出して、戻ってこようとしません。

 

「う~ん」

 

 どうしたらいいんでしょう。

 逆位置の解釈をそのままするなら、このアルカナが示す女性の心境は、事態についていけなくなり、自分の中に籠っている。不安が膨れ上がって、現実に幻滅している。そんなところでしょうか。

 両腕を組んで考えてみますが対策が思いつきません。このアルカナが示す人がどの人なのか、私はそれも知らないんですから当然と言えば当然なんですけど。

 どうにか力になりたい。

 だって私は―――

 

「……あ、来てくれたんですねー」

 

 あなたの運命を切り開く占い師、御船千早なんですから!

 

 

 

 

 

 

「これ、どうぞ。本当はバレンタインに渡したかったんですけど」

 

 その日のラッキーカラーだの何だの全部当て嵌まるやつだったんですよ? そう続けてチョコレートを彼に差し出します。申し訳なさそうな顔で受け取る彼に、私はフフンと少し偉そうにします。

 

「私に隠し事なんて無駄なんですからね。あの後あなたが他の女の人達に会いに行ってたことなんて、全部お見通しです。……それで、他の人たちからもチョコはもらえたんですか?」

 

 彼が頷きます。当然です。私を後回しにしているんだから、失敗したなんて許しませんからね。まあ、後回しにされたおかげで占う時間がとれたんですけど。もしあの後すぐあなたが私に会いに来てくれていたら、こんな風に素直にはチョコレートを渡せなかったかもしれません。

 

「来年もちゃんと用意しますから、今度はちゃんと当日に受け取ってくださいね?」

 

 もう一回しっかり彼が頷きます。それなら、いいんです。私も頷き返して、じゃあ本題に入りましょうか、と促します。

 

 シャッフルしてカードをカットします。彼の前にカードを展開してそのうちの一枚をめくります。

 女教皇のカード。やっぱり逆位置でした。

 

「このアルカナが誰を示してるのか、わかりますか?」

「……同じ学校の先輩で、怪盗の仲間」

 

 ふんふんと頷いてから、占いによって導き出された結果を見ていきます。

 う~ん、芳しくないです。やっぱり彼一人の力だと難しいみたいです。

 結果をありのまま伝えると、表情の変化が少ない彼でもはっきりと落胆が見て取れました。

 

「何か心当たりありますか?」

「……彼女と付き合うきっかけが、たくさんの女の人を騙していたホストだった」

「な、なんですと!?」

 

 そういうことですか。彼女はあなたとその悪いホストを重ねてしまっているんですね。それは確かに手強いかもしれません。

 

「……その悪いホストの話、聞いても大丈夫ですか?」

 

 ゆっくりと彼が語ってくれます。

 女教皇の子の友人が騙されていた。そのホストは付き合ってる女性の名前も覚えていない。最終的に借金を負わせて、いけないお店に沈めてしまうと。

 確かに酷い話です。だけど私はううん? と思わず唸ります。

 

「……あなたと全然違うじゃないですか」

「みんなと隠れて付き合っていた」

「うう、それはそうなんですが~……でも私たちを騙してはいませんよね?」

 

 騙していたようなものだと続ける彼に、初めてカチンときました。

 立ち上がって思わず、叫んどった。

 

「あんたがそれでどうする! 占いが絶対じゃないんやって、強い信念があれば変えられる! 全員好きなら好きって胸張って生きとりゃいい! 不幸になるかどうかなんてあんたと私たち次第やて!」

 

 あああ、また興奮して地元の言葉が。

 

「す、すみません! 興奮しちゃって……。でも私は騙されてなんていません。だって私に『千早は千早だ』って言ってくれたじゃないですか。初めてバケモノでも巫女でもない私を必要としてくれたあなたが、そんなホストと一緒のはずがありません。……大丈夫、私が保証します」

 

 私は騙されるどころか、あなたに人生を救われているんですよ?

 他の人たちだってたぶん一緒です。きっとあなたに救われています。

 だってそうでしょう?

 そうでも無ければあんな事があったのに、あなたにチョコを渡したりしません。他にもいっぱい女の人がいるってわかったのに、それでもあなたに付いていこうなんて思いません。

 カードがそれを証明してくれています。だから大丈夫なんです。

 

「……女教皇の逆位置の対処法は、相手を信じることです」

 

 あなたなら出来ますよね?

 たぶん彼女も不安なだけ。怖くて飛び込めないだけ。

 その証拠にアルカナの配置が彼から離れてはいるけど、決して離れきってはいません。戻りたいけど戻れない。あなたから少し離れて顔を隠して、それでも見失わない距離で尾行している。そんなイメージです。

 だったら、あなたから迎えに行ってあげるしかないじゃないですか。

 

 占いの最終結果を伝えると彼が少し吹き出しました。

 何か可笑しかったですか?って聞くと、出会い始めの尾行を思い出したなんて笑ってます。なんの事でしょう?

 

「千早の占いは、やっぱりすごい」

「ふふ、そうでしょう?」

 

 じゃあ5000円戴きます~って続けたら、彼がそこは恋人になっても変わらないなってちょっとブツブツ言っています。

 しょうがないんです、私も生活がかかってますから!

 ありがとうございますってお礼を言ってお金を受け取ると、彼が立ち上がりました。

 

 相変わらず行動が早いです。

 もう行っちゃうんですか?

 私としてはもう少しこう、久々に逢った恋人同士の何かがあってもいいんじゃないかって想像したり、期待しちゃったりしていたんですけど……。

 

「全部終わったら、みんなのこと紹介する」

 

 うう、そんないい笑顔されたら、なにも言えないじゃないですか。

 私は少しだけ息を吐いて彼を見送ります。

 

「身体だけは気をつけてくださいね。少し嫌な予感もしますので」

「大丈夫、いい医者を知っている」

 

 自信満々で彼はいいます。怪我をするのは彼の中で確定なんですね。女教皇の方ってどんな人なんでしょうか……?

 数歩行ってから彼が振り返って、またこれからの事で相談してもいいか? なんて聞いてきます。私は笑ってこう答えました。色々不安なんでしょうけど、なにも心配いりません。

 だって―――

 

「大丈夫です。私がついてます!」

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