お気に入り件数88、評価10:3、評価9:5、評価8:2、評価7:1、評価6:1、評価0:1、平均評価8.00(評価バー真っ赤)
クローサー「ファッ!?」
クワ・トイネ公国 政治部会。
4日前、 EDF日本支部がロウリア王国海軍を「殲滅」した戦いの模様が、参考人招致した観戦武官のブルーアイによって報告されていた。
この国の政治部会としては異例となる参考人招致であり、クワ・トイネ公国の命運を左右する戦いの報告を、国の代表達は真剣に聞く。その手元には、報告書が配られている。
「以上が、ロデニウス大海戦の戦果報告となります」
「…では、何かね?EDF日本支部はたったの5隻で、ロウリア艦隊4400隻に挑み、全てを海の藻屑とした。更にワイバーン250騎の空襲も、飛行機械5騎で殲滅した。その上5隻と飛行機械には全く被害が無かったというのかね?」
「その通りです」
「幾ら何でも無茶苦茶だ」
その言葉に、ブルーアイは困った表情を浮かべる。確かにとても信じられない事ではあるが、嘘や誇張は一切含まれていない。これ以上に何も書きようが無いし、どうしようもなかったのだ。
「EDF日本支部側の人的被害はゼロと書いてある、死者は無しだと言うのか?我が国の艦隊は出るまでもなかったと?こんな場で君がわざわざ嘘を付くとは思えないのだが、この報告はあまりにも現実離れしていて、信じられないのだよ」
外務卿のリンスイの言葉は、誰もが抱いていた感想を正に代弁する言葉。
本来ならば彼等はロウリア軍の侵攻を防いで貰った事を喜ぶべきなのだ。しかし一会戦の戦果としてはあまりにも度を外した戦果の為、政治部会にはEDF日本支部に対する、ある種の恐怖が宿っていた。
「EDF日本支部に派遣した使節団から、日本人は魔法を使うことが出来ないと聞いた。しかしこの報告書では「大規模爆裂魔法の様なもので、ロウリア王国海軍船が木っ端微塵に粉砕された」と記載がある。一体どちらが本当なんだ?」
「EDF日本支部が行った攻撃は、あくまでも「大規模爆裂魔法の様なもの」です。魔法とは断定出来ず、しかしそれ程の威力を発揮するには、我々の身近な所だと爆裂魔法しか思い浮かばなかった為、そのような表現で記載しました」
「では、EDF日本支部は魔法無しで大規模な爆発を連発し、ロウリア海軍を殲滅したのかね?そんな事不可能に決まってる」
野次が飛ぶが、ブルーアイはこれ以上説明を続けても無駄だと悟る。
様子を見ていた首相のカナタが、慎重に口を開いた。
「いずれにせよ、これで海からの侵入が防げた。ロウリアに最早海軍艦は1隻も残っておらず、再度の海からの侵攻は不可能となった訳だ。軍務卿、陸の方はどうなっている?」
「現在ロウリア地上部隊は、ギム周辺に陣地を構築しております。海からの侵攻作戦が失敗した為、ひとまずギムの守りを固めた後に再度侵攻してくるものと思われます。電撃戦は無くなったと見てよろしいかと。EDF日本支部の動向についてですが、城塞都市エジェイの東側5km先にあるダイダル平原にて、3km四方の土地の貸し出し許可を求めてきています」
軍務卿が大陸共通言語で書かれた申請書をカナタに渡す。その申請書には既に外務卿、軍務卿のサインが書かれており、残る一つのサインは首相のサインである。
「エジェイの後方…陣地を構築するのか?」
「そのようです」
「ダイダル平原は何も無い平野だったな…よし。外務卿、この申請書を返す際に陣地構築の許可書も発行せよ。無制限で好きに使って構わないとな」
後日。土地の貸し出し許可と陣地構築許可を得たEDF日本支部は、ダイダル平原に仮設飛行場兼ロデニウス大陸方面前線基地の建設に着手する。
代わってロウリア王国 王都ハーク城。
その一室でハーク・ロウリア34世は、将軍パタジンの戦闘結果報告を聞いて激怒していた。先日起こったロデニウス大海戦にてEDF日本支部と名乗る新興国が宣戦布告し、ワイバーン250騎と軍艦4400隻が殲滅されるという未曾有の大損害を負ったのだ。しかも此方側の戦果は全く確認出来ていない。完全敗北である。
「此度の海戦、なぜ負けた?」
「海戦の生存者が誰一人としていない為、分かりません…」
「…いずれにせよ、この被害は事実だ。今後このような事があってはならぬぞ」
「ははっ!海戦では想定外の結果で終わりましたが、この戦争の主戦力は陸上部隊である事は変わりありません。そして陸戦では数が物を言います。現にギムは既に陥落済みでございます。以降の作戦はより万全を期す故、陸上部隊だけでも公国を陥落させる事は容易でございましょう。陛下におかれましては、戦勝報告を大いにご期待くだされ」
「パタジンよ、此度の戦はそなたにかかっている。期待を裏切る事のないように頼むぞ」
「ははっ、ありがたき幸せ!!」
そして、第三文明圏 パーパルディア皇国。
薄暗い部屋の中にいる、2人の男は皇国の行く末に関わる話をしていた。
「…EDF日本支部?聞いた事が無い国だな」
「ロデニウス大陸の北東方向にあるという島国です。それと国というより、統治機構らしいです」
「いや、それは報告書を見れば分かるが…今までこのような国はあったか?大体、ロデニウスから1000km程の場所であれば、我々が今までの歴史の中で一度も気付かないとは考えられない」
「あの付近は海流や風が乱れており、航路の難所となっております。無用な被害を防ぐ為に近付かないようにしていたので、調査もしておりませんでした」
「しかし…文明圏から離れた蛮地で、海戦方法が極めて野蛮なロウリア王国とはいえ、せいぜい百何隻で4400隻が撃沈されるなど、些か現実離れしていないか?」
「憶測ですが、EDF日本支部も大砲を作れる技術水準に達していると思われます。そうでなければ4400隻もの数を殲滅するのは考えられません」
「蛮族の分際で大砲か…今までロデニウスや周辺大陸に侵攻しなかったのは、十分な技術水準に達するまで閉じ篭っていたのかもしれんな。漸く大砲が作れるようになって、この機会に顔を出してきたと考えるのが適当か。ところで、まさかロウリアが負けるなんて事は起こるまいな?もしそうなれば国家戦略に支障をきたすぞ」
「陸戦は海と違い、数が物を言います。ロウリアは数だけは兎に角多いので、大砲を持ち始めただけの国に大敗する事はありますまい」
「この報告の真偽を確かめるまで、陛下への報告は保留する。いいな」
「はっ」
クワ・トイネ公国国境付近。
その上空を、EDFの保有する対地攻撃ヘリ「EF31ネレイド」が飛行していた。
何故EDFの攻撃ヘリがそんな場所を飛んでいるのかというと、国境付近の警備とクワ・トイネ公国の避難民の発見の為だ。
クワ・トイネ公国より借り入れたダイダル平原の土地に仮設飛行場付きの前線基地を構築したEDF日本支部は、次々と前線基地に陸戦部隊や航空部隊の輸送を開始した。全ての準備が整うまでは作戦行動は行われないが、ロウリア王国占領地から逃れる為にクワ・トイネ勢力圏内に辿り着こうとしている避難民が現在もいる事を把握し、避難民の安全を確保する為にEDFのヘリ部隊が先立って、国境地域に配備されていた。
(…ん?)
ネレイドのパイロットが、視界の先に人の集団を見かける。
速い、どうやら走っているようだ。すぐに集団の後方に視線を移す。ロウリアの騎馬隊が集団を追いかけていた。
「司令部、此方ウルフ3!クワ・トイネの避難民を発見、ロウリア騎馬隊に追跡されている!これよりロウリア騎馬隊に対して攻撃を開始する!」
『此方司令部、了解した!間違っても避難民に当てるなよ!』
(言われなくても!)
全兵装の安全装置を解除、全速で向かう。少し高度を上げて避難民への誤射の確率を更に下げ、照準を定める。そしてネレイドのハードポイントに搭載されたロケットポッドの発射装置に指を掛ける。
「滅びやがれ!!」
4つのロケットポッドから8発ずつ、計32発のロケットが発射。全弾が避難民を避け、ロウリア騎馬隊へと一直線に向かう。避難民へと突撃していたロウリア騎馬隊は攻撃をかわす事が出来ず、ロケット弾の爆発に巻き込まれ、数秒で殲滅された。
「ふぅ…」
ロウリア騎馬隊の殲滅を確認し、パイロットは大きく息を吐く。あと1、2分発見が遅れていれば、彼が救った避難民は殺されていただろう。そもそももし自分が発見出来なかったと思うと、背筋が震えた。
「此方ウルフ3、ロウリア騎馬隊の殲滅が完了した。避難民の数は…およそ200。主に老人、女性や子供だ。HU04ブルートの輸送の手配を頼む」
『ウルフ3、そちらの現在地を報告せよ』
「了解、現在地は───」
今のEDF日本支部は、こうしてロウリア軍から逃げてくる避難民を保護する事しか出来ないが、それも前線基地に輸送されてくるEDF陸軍空軍の準備が整うまでの僅かな間だけ。
一度準備が整えば、彼等は怒りを乗せて敵を撃滅するだろう。そしてその力の前に、ロウリア軍が敵う事は有り得ない。
今回は少し短め。
次回は、遂にEDF陸軍が動き出します。