EDF日本支部召喚   作:クローサー

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第6話 攻撃開始

城塞都市 エジェイ。

過日、ロウリア王国との緊張状態が高まりつつあった頃にクワ・トイネ公国は全面衝突に備え、国境から首都に通ずる侵攻ルートを食い止めるべく、要所として城塞都市エジェイを設置した。クワ・トイネ公国の絶対防衛圏に位置するだけの事はあり、高く強固な城壁、また万が一城壁が突破されたとしても、敵の侵攻を防ぐ機構が街中の至る所に隠されている。そして城内に湧き出す泉などの豊富な備蓄量は、兵糧攻めさえも不可能とする。

この城壁都市に、クワ・トイネ公国西部方面師団約3万人が駐屯していた。ワイバーン50騎、騎兵3000人、弓兵7000人、歩兵2万人からなる、クワ・トイネ公国の主力軍である。

そしてその主力軍を束ねる将軍ノウは、今回のロウリアの侵攻を城塞都市エジェイで撥ね返す事が出来ると自信を持っていた。高さ25mの防壁はあらゆる敵地上部隊の侵入を許さず、空からの攻撃に対しても対空用に訓練された精鋭のワイバーンがいる。この防御の前に、如何なる大軍であってもこの城壁都市を陥落させる事は出来ないという、確かな根拠を持つ自信だった。

 

「ノウ将軍、EDF日本支部の方々が来られました」

「来たか…通せ!」

 

政府からEDF日本支部に協力するように通達された為に協力しているが、彼は正直、自国に土足で乗り込んできたEDF日本支部軍が気に入らなかった。EDF日本支部は自国の領空を侵犯し、軍の防衛網を突破可能な力を見せた後に接触してきた。まるで圧力外交だと心証を害していたのだ。更にロデニウス大海戦では、ロウリア王国海軍の4400隻にも及ぶ大艦隊を僅かに5隻で殲滅させたという戦闘結果報告を聞き、脚色するにも程があるだろうと鼻で笑った。陸軍に於いても鵜呑みにする者はごく僅かであり、幾らか情報操作が入っているだろうと冷ややかな反応だ。

そんな中。ロウリア王国兵約2万が、この城壁都市に向かって進行中であると情報が入ってきた。陸戦は何よりも数が物を言う。今回EDF日本支部が送り込んできたのは、EDF日本支部第3師団とかいう3000人弱の兵力で、彼等はエジェイの東側約5kmの所に基地を作って駐屯していた。たったの3000人程度では、虚を突いた戦果こそは挙げられるかもしれないが、戦局に影響を及ぼす程ではないと徹底的に否定的だった。その為、自分達でロウリアを退けるので彼等の出番は無いだろうと予測していた。

 

コンコン、と応接室のドアがノックされる。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

一礼して応接室に入る、3人。

 

「EDF日本支部第3師団長の太田内です」

 

ノウが着る、宝石入りの気品ある服とは違い、三人とも来ている服は緑を基調とした服を着ている。こやつがEDF日本支部の派遣軍の将軍だというのかと、ノウは信じられない思いだった。

兎にも角にも、まずは社交辞令から入る。

 

「これはこれは、よくおいでくださいました。私はクワ・トイネ公国西部方面師団将軍、ノウといいます。この度の援軍に感謝致します」

「EDF日本支部の師団長殿、ロウリア軍はギムを落とし、まもなく此処エジェイへと向かってくるでしょう。しかし、またお分かりかと思いますが、エジェイは鉄壁の城壁都市。これを抜く事は如何なる大軍をもってしても無理でしょう」

 

努めて高圧的に、ノウは話を続ける。

 

「甚だ心外ながら我が国はロウリアに侵略され、彼の国に一矢を報いるべく国の存亡をかけて立ち向かっております。我らの誇りにかけて、ロウリア軍は我らが退けます。EDF日本支部の方々はどうぞご安心して、貴方方が作った基地から出る事無く、後方支援をして頂きたい」

 

「お断りします」

 

ノアの発言と殆ど重なるように、太田内の声が響いた。

その顔からは表情が消え、鋭い視線がノウを貫く。その威圧感に、思わず一歩後退りする。

 

「…大したご自信ですね。この街は鉄壁。この街を落とす事は出来ない。誇りにかけて退ける。貴方がその言葉を口にするだけなら簡単だ。だが実際にそれを行うのは貴方ではない、貴方が率いる兵士達だ。そんな自信や誇りは、戦いに於いて何の意味も持たない。そんな物は、ちょっとした出来事で簡単に崩れ落ち、死を招く。そしてその代償を支払うのは、貴方ではない」

 

淡々と紡がれる言葉。太田内から発せられる威圧感に、クワ・トイネの人間は言葉を発する事は出来ない。

 

「我々はクワ・トイネの人々をロウリア王国から護るべく、今此処にいる。その対象は市民だけでなく、兵士達もだ。貴方の自信や誇りで、無駄な死を生み出させたりはしない。我々EDF日本支部第3師団が最前線に立ち、エジェイに接近するロウリア軍を殲滅します。貴方方はエジェイの城壁内から、決して出る事の無いようにして下さい」

 

こうして、クワ・トイネ公国西部方面師団とEDF日本支部第3師団の代表達による会談は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

ロデニウス大陸方面前線基地。

クワ・トイネ公国西部方面軍との会談を終えた太田内と幹部は、先程の会談について話をしていた。

 

「…宜しかったのですか?あのような強硬的な姿勢で」

「あそこで我々が甘い対応などした時には、クワ・トイネの人々が犠牲になる。我々は第2のギムの惨劇を止めるべく此処にいる。我々が居る場所で、クワ・トイネの人々が1人でも殺されてしまったその瞬間、我々の負けなのだ」

「そうですね。では…」

「ああ、第4機甲部隊を展開させろ。準備は?」

「ギガンテス30両、タイタン5両、重装型ベガルタ10機、プロテウス2機、ネレイド10機の展開準備は完了してきます。待ち伏せ地点の丘の高さはプロテウスの全長より低いですが、脚を屈めて潜んでおけば問題ありません」

 

此処で幹部から発せられた様々な兵器名。まずはそれらを此処で解説しよう。

 

 

まず、「E551ギガンテス」。

140mm砲を装備したEDFの主力戦車であり、フォーリナー大戦の教訓を活かして製造された第5世代戦車だ。140mm砲の火力、戦車ならではの強靭な装甲、強力なエンジンによって生み出される軽快な機動性。全てに於いてバランスが取れた性能であり、EDF機甲部隊の中核を担う、信頼性が極めて高い兵器である。

 

 

次に、「E651タイタン」。

EDFの重戦車であるが…まず言えるのは、何と言ってもその巨体だろう。何と全長は25mもある。何故それだけ大きい車体となっているのか?その理由は、この戦車が搭載する主砲にある。

 

何をトチ狂ったのか、「戦艦砲」を主砲としたのだ。

 

その口径、36cm。セントエルモ級イージス戦艦の主砲と僅か2cmの違いしかない。しかもこれはレールガンではない、炸薬式の主砲だ。そんな代物を僅か25mの陸上兵器に搭載したのだ。これを考えた開発者は一体何を考えていたのだろうか。

当然機動力や砲塔の旋回性能は低い。その為、主砲砲塔の上に更に小型砲塔を2つ設置し、副砲とした。…その副砲口径も、ギガンテスと同等の14cmもあるのだが。

この大火力重装甲の権化に、EDF兵士の間ではタイタンの事を「陸上戦艦」と呼ぶ者もいる。

 

そして、「BM03ベガルタ」。

ギガンテスやタイタンのような戦車と異なり、ベガルタは二足歩行兵器である。当初ベガルタは閉所に於ける機甲戦力として製造されたが、今現在では汎用型、重装型、接近戦闘特化型、対空型の計4つのシリーズに分かれ、其々の運用目的に合わせた武装やスペックとなっている。

その中でも今回出撃する事になった重装型は、武装にリボルバーロケットカノン2門と拡散榴弾砲2門を搭載。それが10機ともなれば、全弾発射時の火力は砲兵隊による支援火力にさえ匹敵する。

 

最後に、「BMX10プロテウス」。

全長25mの巨大人型ロボット、通称ギガンティック・バトルマシンとも呼ばれている。

この巨体の装甲は最早小型要塞にも匹敵する強靭さであり、武装は203mm砲を速射するバスターカノン2門、30連装マルチミサイルランチャー。単純だがそれ故に分かりやすい超火力を持つこのプロテウスは、各EDF機甲部隊の最高火力を担っている。

 

 

…さて、これでお分かりになっただろう。

 

「よし…では第4機甲部隊に出撃を命令する!奴等がエジェイに辿り着く前に、粉砕せよ!!」

「イエッサー!」

 

この機甲部隊に加えて対地攻撃ヘリ10機による航空支援が入り、その全火力が僅か2万の歩兵達に向けられるというのだ。

早いが、最早結論を言ってしまおう。

 

オーバーキルにも程がある。

 

 

 

 

 

 

城塞都市エジェイ 西側5km地点。

其処に、EDF第3師団第4機甲部隊は展開していた。その数、ギガンテス30両、タイタン5両、重装型ベガルタ10機、プロテウス2機、ネレイド10機。その全てが目の前にある丘によって隠れており、向こう側にいるロウリア軍にその姿が見える事は無い。

そしてまもなく悲劇が訪れる事が確定してしまっている憐れなロウリア軍2万は、宇宙を漂う自立衛星ライカからのリアルタイムな衛星偵察を受けており、その位置はEDF日本支部側から丸見えだ。

 

ネレイドを除く第4機甲部隊の全機のエンジンが静かに回り、その時を待つ。まるでその姿は、狩場で待ち伏せる猛獣の群れそのものだ。

 

『此方司令部。敵部隊がキルゾーンに進入、作戦を開始せよ』

「第4機甲部隊、了解!全機、前へ!!」

『イエッサー!!』

 

遂にその瞬間が来た。飛び出すようにギガンテス30両、タイタン5両がスタートダッシュを決めて丘を登り、重装型ベガルタは比較的遅い足取りで、しかし拡散榴弾砲は空に砲口を向ける。ネレイドはエンジンの回転数を急速に伸ばし、ローターが回転を始める。プロテウスはゆっくりと折り曲げていた脚を伸ばし、丘からその巨体を現わせる。

プロテウスに乗るものは、カメラから映し出される画面に、エジェイに向けて進行するロウリア軍2万が見える。これをエジェイに辿り着かせる前に、第4機甲部隊の総火力で以って此処で撃滅する。容赦は無用だ。

そして丘を登り切り、丘を降り始めるギガンテス30両、丘上にその巨体を布陣させたタイタン5両と重装型ベガルタ10機。そして上空に飛び立ったネレイド10機。そのいずれも砲口をロウリア軍に向ける。

 

 

「攻撃開始!!!!」

 

 

その瞬間、破滅の嵐がロウリア軍に降り注いだ。




次回、エジェイ攻防戦。…其処、攻防出来るのかなんて言っちゃいけない。

用語解説&状況説明
EDF日本支部第3師団
クワ・トイネ公国の防衛及びロウリア軍撃滅の為に派遣された。兵士の数こそ3000人だが、その戦力はロデニアス大陸の全戦力を上回る戦力だろう。

第4機甲部隊
第3師団の指揮下にある機甲部隊。ロウリア軍のエジェイ到達を阻止する為に出撃、ロウリア軍を待ち伏せた。明らかにオーバーキルな火力を投射するけど誰も気にしてない。

ロウリア軍(ロウリア王国東部諸侯団)
今回の生贄。果たして何人が五体満足で生き残れるかな?

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